舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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48時間目:もふもふ

「記憶を損傷しているって。どういうこと?」

 

 中央の島から1の島へと帰って来た一同は、改めてウサミから事情を聴くことにした。皆を代表して、菜摘が問うた。

 

「実は、修学旅行と銘打っていたんでちゅけど、これは治療の一環なんでちゅ。ミナサンはここに来る前に事故に遭って、治療が必要な体になっていたんでちゅ。希望ヶ峰学園として、ミナサンを好奇の視線にさらす訳にはいかない。として、こうして私有地でリハビリに取り組んで貰う為に招いたんでちゅ」

「その事故って言うのは?」

 

 自分達は一体どんな目に遭っていたのだろうかという疑問が湧くのも当然の話だった。誰もが戸惑う中、菜摘が前のめり気味に質問を繰り返していた。ただ、この問いに対してだけはウサミも首を横に振っていた。

 

「事故の内容を話すとミナサンのトラウマや心理的負担が大きくなり過ぎてしまうので、今は話せないんでちゅ。ゆっくり、心も体もリハビリしてからお教えしまちゅ」

 

 皆も困惑の中にあったが、理屈的には納得できないことは無かった。

 自分達は何かしらの事故に遭って、治療を受けた後。療養の為にジャバウォック島へと送られた。修学旅行と銘打っているが、要するにリハビリの様な物として考えれば、呑み込めない範囲ではない。……が、疑問を呈する人間は他にもいた。狛枝だ。

 

「ウサミ先生。それって本当に偶発的な事故かな?」

「狛枝クン。どういうことでちゅか?」

「モノウサの存在と言い、皆から聞いた話だと結構恣意的な物を感じるんだよね。記憶が消されているって言うのは、ウサミ先生の話で納得できるにせよ。裏切り者とか、真実を知れとかね。その事故、僕達も関わっているんじゃないかな?」

 

 でなければ、自分達に対してここまでの敵愾心を持つ存在が現れるとは思えなかったからだ。彼の発言に反応したのは九頭龍だった。

 

「なるほどな。少なくとも、俺が恨みを買っているのは確実だ。なんたって、超高校級の極道なんだからな」

 

 反社会勢力の人間ともなれば、誰かしらの恨みを買うことも当然だろう。他にも数人が反応していた。超高校級の才能を持つとすれば、各方面から妬みや嫉みを貰いやすい。と言うことも知っていた。

 

「だからこそ、離島に隔離されていたと言うことか。だが、居場所が割れてしまった以上、今後の安全はどうなるんだ?」

 

 辺古山の質問は今後の修学旅行を考える上で非常に重要なことだった。安全が確保できないなら、この島からの脱出も考えねばならない。

 

「つーか! 俺達がいる場所が分かったのも、その『裏切者』が密告したからじゃねぇのか!?」

 

 左右田が喚いていた。自分達の中に、敵対者に情報を流している者がいるとすれば、自分達は増々危険に曝される訳だが。

 だが、ここに居る者達は数人の例外を除いてジャバウォック島で知り合った者達ばかりだ。誰が裏切者かは分かった物じゃない。

 

「ウサミ先生。この事態に対して、僕達はどうするべきなのかな? そして、先生は何をしてくれるのかな?」

 

 狛枝が値踏みする様に彼女を見ていた。ここでの回答次第では、一気に生徒達からの求心力が剥がれてしまうことだろう。彼女としても慎重な言動が求められる所であったが。

 

「あちしは最初から最後までミナサンを守る為に動きまちゅ!」

 

 ポスンとフェルト生地で出来た自らの胸を叩いていた。根拠はないが、下手に取り繕ったりするよりかはマシだったのか、そこまで批判的な空気は出なかった。……ない訳ではなかったが。

 

「で、結局これからどーすんのよ。毎晩、犯人探しでもする訳?」

「人狼ゲームかな?」

 

 西園寺の皮肉に七海が素で返していた。見方によれば、挑発している様に見えなくもない。ウサミは腕組みをして考えていた。

 

「本当は学級目標を通じて、ミナサンに希望のカケラを集めて貰いたかったんでちゅ。……今は、緊急なので本来の用途を言うと、これはミナサンの治療具合を表す指標だったんでちゅ」

「指標を分かりやすい形にするというのは大事なことじゃ。……絆とか概念的な物でやられると、反発心を抱かれると考えてのことじゃったんだろうが」

 

 弐大としても頷く所ではあった。友情とか思い出などをデータ化されることに反発心を抱く者は少なくはない。

 そして、全員の希望のカケラが張り出されていたが、ビックリする位に埋まっていなかった。日向、罪木、十神、花村は少しだけ進んでいた。4人の共通点は言わずもがなだった。

 

「ふふふふ。日向さぁん、やっぱりスケボーは心にも良いんですよね」

 

 そうだろう、そうだろう。罪木が何とも言えない気味の悪い笑顔を浮かべ、日向達が深く頷いていた。スケボーをやっている者同士には通じる何かがあるのかもしれない。

 

「趣味を通じて心の療養を図ることは良いことでちゅよ!」

「いや、何というか。僕には洗脳に見えるんだけれど……」

 

 今まで黙っていたモノウサだったが、これに関してだけは口出ししていた。ウサミからニッコリと微笑まれ、閉口せざるを得なかったが。

 

「創ちゃんは、こんな状況にも関わらず楽しむのが上手なんっすねぇ」

 

 この不安な状況を少しでも振り払おうと、澪田がいつものように振舞おうとしていると、日向がそっとスケボーを差し出していた。

 こんな状況だからこそワクワクを忘れてはならない。滑る地面と板があれば、そこが理想郷(ユートピア)と言わんばかりに、自信満ちた笑顔を浮かべていた。

 

「(ど、どうするべきだ。俺?)」

 

 左右田は選択を迫られていた。この状況を止めるべきか? 

 看過した所で、明日にはスケボーに興じる無口な奴が1人増える位だし、どういったプロセスが起きるかは興味の尽きない所であったが、菜摘が間に入ってスケボーを取り上げていた。

 

「これに乗ってパパっと楽しんじゃえば、治療も終えて外に行けるんでしょ? だったら、さっさと教えてよ」

「あー! 唯吹も行くっすー! 図書館メンバー勢揃いっすよ!!」

 

 実に軽い感じだったが、日向は拒絶したりはしなかった。切っ掛けは何であれ、夢中にさせてやる! という決意に満ちていた。

 

「素晴らしいよ、日向君! こんな状況にも関わらず、自分の為すべきことに一点の曇りもないだなんて!」

「いや。普通におかしいだろ」

 

 狛枝が絶賛していたが、誰も口に出しそうになかったので、代わりにモノウサが常識的な意見を述べていた。

 

「菜摘が行くっつーんなら、俺も見に行くか。少なくとも、あの化け物が現れたとしても、そこの頑丈人間が居れば盾には出来るからな」

「当然、僕も見に行くよ!!」

「ならば、私も行こう。人が多い所に行けば、私の力も何か役立つかもしれない」

 

 九頭龍、狛枝、辺古山と。何故か、菜摘の発言を皮切りに徐々に日向の所に人が集まっていた。これは自分も行くべきかと皆が迷っている中、七海が手を挙げていた。

 

「私はコテージでゲームしているから。何かあったら、呼んで」

「オレもコテージで寝るわ。飯になったら、起こしてくれ」

 

 彼女に引き続き、終里もコテージへと戻って行く。彼女らの発言を聞いて、ようやく左右田も流されること無く、コテージに戻るという選択を取ることが出来た。

 他の者達も概ね同様で、スケボーをするor見に行くかコテージに戻るかの二択だったので、管理し易いと言えば管理し易い状況が作られていた。

 

~~

 

「ひゃーっ! 楽しいー!!」

「うぉおお! このまま一曲、歌えそう!」

 

 菜摘と澪田には適性があったのか。花村や十神の時と違い、瞬く間にスケボーを乗りこなしていた。特に澪田はパンキッシュな見た目も相まって、ビジュアル面でもバリバリに映えていた。

 

「なんつーか、こう! 足りないピースが入った様な! 唯吹に『梓』って妹が出来た様な気がする位のカッチリ感!」

「意味は分からないけれど、ミオミオ凄い似合っている!!」

 

 先程の緊張感漂う出来事の後と言うこともあり、見学していた者達の肩の力を抜くにも一役買っていた。

 

「全く、無邪気にはしゃぎやがってよ。危機感ねーのか」

「むしろ、こういった状況で楽しめているんだから大した物だ」

 

 九頭龍の悪態に辺古山が軽口を叩いていた。既に場は花村と十神を加えて、4枚の板が宙を舞ったりしている中、日向は罪木に付きっ切りで指導していた。

 大分乗れる時間は長くなって来たし、転ぶ回数が減っても絶望的な位に上達速度が遅かった。だが、両者共に悲観することも無く楽しそうだった。

 

「えへへ。ちょっとは乗れるようになってきました」

 

 その笑顔が嬉しいと言わんばかりに。日向もまた満面の笑みを浮かべていた。

 これらの希望とスケ望溢れる光景に狛枝が、後方で超高校級の理解者面をしている中、辺古山は益体の無いことを考えていた。

 

「(皆、スケボーに結構デコレーションやカスタムを加えたりしているのだな)」

 

 十神のは明らかに特別品であるし、花村が使っている物も特殊なペインティングが施されている。性能面的な改造も加えて良さそうだったし、オリジナリティを出す為の装飾的な改造も良さそうだった。

 

「(待てよ? あの、車輪の様な部分に接しない範囲でデッキをモフモフで埋めれば、何時だって合法的にモフモフが出来るんじゃないかな?)」

 

 これは修学旅行中、誰にも明かしていないことなのだが。彼女は大の『モフモフ』好きである。凛々しい佇まいからは想像も出来ないが、彼女も少女である。

 だが、悲し気かな『超高校級の剣道家』として纏った気配が小動物達を遠ざけていた。だからと言って、人工のモフモフなど手慰みの品に過ぎないのだが、人前でハスハスする訳にも行かない。……少し考えた後、彼女は立ち上った。

 

「日向、私にもスケボーを貰えないか? 皆の様子を見る限り、移動手段として便利そうだ」

 

 実利は大事だもんな。と言わんばかりに、一切の言及もなくパッとスケボーを差し出していた。受け取った後、試しに乗ってみる。

 剣道家として優れた運動神経を持つ彼女は直ぐに乗りこなしていた。九頭龍が少しだけ、訝しむような表情をしていた。

 

「ペコもするんだー! お兄ちゃん達も一緒にやろうよー!」

「俺はやらねーぞ!!」

「僕も遠慮しておくよ。流石に、この光景に僕みたいなのが混じる訳にはいかないからね」

 

 九頭龍としては頑としてやりたくない理由があるし、狛枝的にはこの集団に自分が混じるというのがどうにも許せなかったらしい。

 ウィールが地面を舐め上げる音が延々と響く中、昼間の出来事が嘘だったかのように穏やかな夜が過ぎていた。……そんな中、辺古山のコテージでは一世一代のカスタムが行われていた。

 

「ぐぬぬ」

 

 昼間に受け取ったスケボーのデッキに毛皮を縫い付けるという、何処か猟奇的な雰囲気すら感じる何かをしていた。乗る際に安定性も悪くなるだろうに、自分の趣味やそう言った欲望に抗えなかったのだろう。

 スケボーの上に素足を乗せた。思った通り、足裏にモフモフが存分に伝わって来た。人前で存分に堪能するとなれば、背徳感さえ感じる遊びだった。昼間の出来事を見ても、こんなことをしている時点で大分余裕があった。

 

「(そうだ。今からでも)」

 

 誰も止めなかった。止めてくれなかった。彼女の不運であった。実は彼女も既におかしくなっていたのかもしれない。部屋着のまま、素足でスケボーに乗って夜を駆けていた。

 偶然、夜風に当たって涼んでい左右田は、その光景を目の当たりにしていた。あの凛々しく、スケ落ちなんてしそうにない辺古山が部屋着&素足でスケボーにライドして滑っている光景は、昼間の悪夢を思い出すようだった。

 

「夢だ。夢に違いねぇ」

 

 そろそろ、お前も夜間に外出るの止めろよ。という人間は誰もいなかった為、彼は一旦コテージに戻ったが、翌日にはきっとまた出て来るのだろう。

 翌朝のことである。竹刀袋ではなく謎のスケボーに竹刀を括りつけた辺古山が、朝食会に顔を出していた。

 

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