「やっぱりスケ落ちしているじゃねぇか!!」
朝食会で開口一番に左右田が叫んでいた。昨日は何となく別れたが、やっぱりスケ落ちする人間が増えていた。
このメンバーの中で特に堅物と思われていた、辺古山が落ちたのはあまりに意外だった。
「いや、逆かもよ? こう言うのって、普段遊び慣れていない人間の方が駄々ハマりするってパターンもあるし……」
「そうっすね。何となく分かる気がするっす」
昨日、日向達とスケボーを楽しんでいた菜摘と澪田には特に異常はなく、朝食に舌鼓を打っていた。法則性が分からなかった。
当の感染源はと言うと、いつも通り朝食が盛り付けられたチェーフィングを運んでいた。毎朝、配膳を手伝う姿勢自体は感心する物だった。
「自らの才能を広め、他者の手伝いを率先して行う。超高校級とはかくあるべしと言わんばかりの姿だね。そう思わない?」
狛枝が朝から感じ入っている中、チラリと視線を投げていた。この朝食会でちょろちょろ動き回っている奴がいた。白黒の耳をピンと立てたゴスロリマスコットのモノウサに対してである。
「そうだね。基本的に才能のある奴って、自分のことを理解して貰おうって思う奴の方が少ないしね。だって、誰も付いて来れないんだから」
バターと蜂蜜をたっぷりと塗りつけたホットケーキを頬張りながら、この場にいる者達の多くに突き刺さることを言っていた。
超高校級と称される程の能力は一般人からは崇拝こそ集めるが、理解されることは殆ど無かった。そんなことを吐いた為か、何処からともなく現れたウサミに頭を小突かれていた。
「コラー! なんてことを言うんでちゅか!」
「無責任に分かり合えるとか言うより、こっちの方がよっぽどコイツらに寄り添った発言だと思わない?」
「ネガティブにシニカルに〆るだけじゃ、発展性がないんでちゅよ!」
実際、諦観するだけで終わったら気が滅入るだけなのでウサミの言うことも分からないまでも無かったが、理想を吐かれても虫唾が走る場合がある。
「じゃあ、ウサミセンセイはどうすればいいと思ってんの?」
特に癇に障った部分があったのか、西園寺が意地悪く尋ねた。朝から若干空気が悪くなる中、ウサミは笑顔で答えた。
「皆に認められようとか、そう言う考えで居たら辛くなるだけでちゅ。自分のことを理解してくれる人だけに理解して貰えたら、それでいいんでちゅよ」
「希望ヶ峰学園の担任にあるまじき発言」
これにはモノウサもちょっと引いていた。希望ヶ峰学園は才能を伸ばす研究機関としての一面もある為、世間や大衆に認められずとも良いという考えを持ち出して来るとは思わなかった。
……あるいは、本当に才能だけを見る場合は誰にも理解される必要はないと考えていたかもしれないが。
「なるほどね~! 才能に対する責任感も何もない、その考え方。マジでないんですけれど」
「あぅ……」
ただ、西園寺の考え方的には真っ向から対立する物であったらしく、吐き捨てる様に言われた。その後、直ぐに元の笑顔になった。
「ま! 今は関係ないけれどね! それよりも。わたし達の前に現れたってことは、何か用があるんじゃないの?」
「そうでちた。えっとでちゅね。第2の島に続く大橋を修復は出来たんでちゅけれどね。どうも、変な感じになっているんでちゅ」
「魔界とでも繋がったのか?」
田中がいつもの様に訳の分からないことを言っているがウサミは訂正しようという姿勢は無かった、むしろ頷いている様子すらあった。
「田中クンが言うことはあながち間違いではないかもしれまちぇん。島の様子が何処となく不穏な感じになっているんでちゅ」
「例の連中が何か残して行ったってことか?」
九頭龍だけではなく、皆が思い当った。自分達を襲撃して来た謎の勢力。容易く撃破されたらしいが、何も残していないとは思えなかった。
「あちしも一通り見て回ったんでちゅけど、異常は発見できなかったんでちゅ。ひょっとしたら、あちし達には気付けない何かが隠されているのかもしれまちぇん」
「だから、オマエらが探索しろってコトだよ! そろそろ、やること無くて暇になって来たでしょ?」
ウサミが口にし辛いことを、代わりにモノウサが口にしていた。
ひょっとしたら自分達に危害を加えかねない何かが眠っているかもしれないというのに、探索しろ。と言うのは、修学旅行の目的からはあまりに逸脱していた。だが、九頭龍を始め数人の生徒は笑っていた。
「面白ェ。そっちが喧嘩売って来るなら、買ってやるよ」
「待つしかねぇ。って言う状況には飽き飽きしてたんだよ!」
「そうじゃな。こっちから動けるなら、やりようもあるからの」
「奴らがこちらを覗き込んだ。その時点で、我らも奴らを覗き込む機会を得たという訳だ……」
終里、弐大、田中も挑戦的な姿勢を見せる中、出来ればジッとしておいて欲しいウサミは冷や汗をかいていた。一方。モノウサはノリノリで焚きつけていた。
「いいぞー! 本当は僕達も随伴したいんだけれどさ。多分、一緒に居たら向こう側も仕掛けづらくなると思うから、皆に囮をやって貰う気分で行きたいよね!」
「囮って……。冗談じゃねーぞ!! もしも、何かあったらどーすんだよ!」
左右田の抗議は当然の物だった。口にこそしないが、同じ不満を持った者は他にもいるのか小さく頷いていた。これに対して、九頭龍が鼻で笑っていた。
「だったら、コテージに籠ってりゃいい。俺達で解決するからよ。……まぁ、もしも俺が連中なら、そんな所にいる奴らを狙うけどな」
「むしろ、付いて来る方が安全かもね」
九頭龍の角が立つ物言いを和らげるように、菜摘も提言をした。左右田が渋る中、彼の肩を叩きながらモノウサが言う。
「今の話ってさ。要するに『こんな所に居られるか! 俺は部屋に閉じこもるぞ!』と同じだよね~」
モロ死亡フラグのアレである。何故、態々自分から危険に飛び込む必要があるのかまるで理解できない。同意を求めて、周囲を見渡した。
「こんな予想も出来ない状況だからこそ、希望は前に進むんだよね。九頭龍君! 僕にも協力させてよ!」
超高校級の幸運。という、技能的には何も持っていないのと同じハズの狛枝はノリノリだったし、比較的マトモそうな小泉の方を見れば。
「何かあったり、共有したいことがあったら、私の才能が何かの役に立つかもしれないし、付いて行くよ。……本当は気は進まないけれど」
「お姉が行くなら、わたしも行く!」
実に真っ当な理由で同伴しようとしていた。ついでに西園寺も付いて行くとなったら、いよいよ籠ろうとしている自分の方が輪を乱す存在になろうとしていた。
ならば、自分と同じ位に消極的な者達へと視線を向けてみたら、罪木は日向の方をチラチラ見ていた。
「日向さんが行くなら、私も行こうかなー……」
じゃあ、俺も行くか。と、スケボーを手にした者達が同様に頷いていたので、罪木もヘラヘラと笑いながら頷いていた。残すはゲーマーの七海位だが。ここまで賛同者が居たら、選択権は無いと言っても良かった。
「流石にほぼ全員が行くなら、私も行くよ。そっちの方が安全だろうし。だよね、左右田君?」
「お、おぅ」
七海が出してくれた助け舟に相乗りする形で左右田も頷いた。大体の人間の意思確認が取れたと思っていると、澪田がぴょんぴょん跳ねていた。
「アレ? 唯吹とソニアちゃんには聞かないんっすか? まぁ、私は行くんっすけれど! ソニアちゃんはどうするっす?」
「勿論、私も行きます」
全員の参加が決まった。こうなってしまったらウサミとしても断る訳にはいかなかった。
「……分かりまちた。なら、あたしもミナサンに付いて行きます。そして、帰って来る為の橋を落とさせない為にお守りをしまちゅ! 島での探索は、モノウサを付けまちゅ」
「は? コイツ、最初にわたし達を殺そうとしていたじゃん。途中で何して来るか分からないし」
西園寺が物凄く嫌そうな顔をしていた。彼女の言う通り、モノウサを信用できる要素は殆ど無かった。だが、彼はうぷぷぷと笑っていた。
「いいや、お助けしますとも。何が起きるか分からなくて面白そうだからね! 第一、僕が皆を殺すつもりなら裏切りとか回りくどい真似はしないよ。それに、何度も言うけれど。僕の権限はソイツに掌握されているから、危害は加えられないんだよね。残念だけど!」
嗜虐的な笑みを浮かべながらも悔しさを滲ませている所から、ある程度は本音を語っている様に思えた。ここで、彼の意見に賛同したのは七海だった。
「ある程度は信じて良いと思う。それに、本当に危害を加えるつもりなら今朝の朝食会とかで毒を盛ったりとか、そう言うことも出来ただろうしね」
あの時、モノウサは狛枝に声を掛けられるまで誰にも気配を悟られていなかった。何処からともなく現れる彼が本当に害意を盛っていたとしたら、自分達は今も無事ではいられないだろう。
不承不承と言った者も少なからずいたが、全員の意思が一つに固まった所で、朝食を取り終えた後、向かうことが決定した。
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多少の休憩を挟んだ後、一同は中央の島に集まっていた。第1と第2の島に繋がる大橋以外は、依然として落ちたままだ。
「島を渡る途中で落とされたりする可能性もあるし、向こうに付いた瞬間にボン! ってやられる可能性もある。全員が一気に渡るのは止めて、幾らかグループを作って時間差で渡ろうぜ」
九頭龍の提案に全員が賛同した。幾らかグループを作って、時間差で出発したが、特段襲撃もトラブルも何もなかった。杞憂だったらしい。
辿り着いた第2の島は、以前に素材採取や探索に来た時と変わりない様に見えた。ただ、上手くは言えないが何かは違っている様に思えた。
「以前、菜摘ちゃん達と来た時と何かが違う気がするっす」
「だよね。何が違うんだろう?」
日向と十神も頷いていた。何が違うのかと考えていると、ふらりと彼らの前に1人の少女が現れた。彼女を見た小泉と菜摘の目が見開かれた。
「佐藤。ちゃん?」
「なんで、アンタが……」
2人の知り合いと思しき少女は、陰気な空気を放っていた。皆が呆気にとられる中、モノウサは嬉々として疑問を口にしていた。
「おかしいな~? この島、僕達以外は来れないハズなんだけれどなぁ。サトウさん? 君はどうやって来たのかな? なんかの『才能』の持ち主?」
菜摘がキッとモノウサの方を睨んだが、佐藤と呼ばれた少女は卑屈に笑うだけだった。
「真昼。私のこと、覚えている?」
「勿論だよ! 菜摘ちゃんと一緒に同じ中学で写真部に所属していた佐藤ちゃんだよね? 高校で別れちゃったけれど」
「うん、よかった」
頷いていた。他にも色々と事情を聴きたいのか、小泉が彼女に近付こうとした所で、佐藤が叫んでいた。
「来ないで!!」
すると、彼女の周囲が歪んで巨大な質量が出現した。現れたのは四足歩行の巨大メカ、虎型のモノケモノであったが装甲の各所が剥がれて、内部パーツが露出されたグロテスクな姿だった。
虎型のモノケモノの背中に取り付けられていた大型のキャノンが外れ、地面にゴトリと落ちた。暫く、その場で地団駄を踏んでいたので何事かと思っていると、皆が渡って来た橋の周辺に突如として障壁が出現した。
「は!?」
橋が落とされることは無いにしても、これでは帰還することが出来ない。虎型のモノケモノはノイズの混じった咆哮を上げると、島内の何処かに去って行った。大型のキャノンだけが残されていた。
「佐藤ちゃんが、どうしてここに……?」
小泉は突如として浮いた疑問が堂々巡りしている様で、同じ様に知り合いであった菜摘も困惑している中、狛枝が一歩前に出た。
「ゲーム的に言えば、あのボスを倒さないとこの島から出れないって所だろうね。ご丁寧に武器まで置いて行ってくれている」
狛枝がキャノンを指差した後、左右田に視線を送った。これを修理できる人物がいるとすれば、超高校級のメカニックである彼に他ならない。
「あんまり、誰かを傷つける目的の物を修理したくねぇんだけれど……」
だが、状況を打破できる品物になるかもしれない。先程現れた、モノケモノを倒すのに使えるかもしれないし、立ち上った障壁を破壊するのに使えるかもしれない。……ツナギに収納されている工具を用いて瞬く間に解析していく彼は、紛れもない超高校級のメカニックであった。
「うっし。大体わかった。このキャノン砲は損傷していて使えないんだ。修理できないこともねぇが、材料が必要だ」
「それって、ひょっとしてウサミ先生がやっていた学級目標って奴っすか?」
澪田に言われて、ハタと気付いた。正に、その通りだ。左右田は必要な材料を書き出していく。何とかして、この島で集められそうな物だった。
「よし、じゃあ。早速、集めんぞ。そんで、あの化け物をぶっ潰す! グループには最低一人、荒事に慣れている奴を入れるとしてだ」
九頭龍の指示に従い、数人のグループに分かれた。万が一に備えて、各グループに荒事が得意な人間を含ませた上で、島の探索が始まった。