舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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5時間目:君ニナル

「メモとか黒板が無いから伝えるのは不便だけれど、分かったことを幾つか」

 

 苗木への質疑応答を終えた霧切は、改めて分かったことを整理した。

 外の世界は通常の状態ではなく、紛争に近しい事態が起きていること。学園内にいる方が安全であるということ。

 

「この男が言っていることが本当かどうかは判断し難いが、もしも事実なら。焦って外に出ようものなら、野垂れ死ぬ可能性は高いということか」

 

 十神が出した結論は、コロシアイ学園生活において、誰しもが持つ外に出たいという思いに対する牽制になった。外では何が起きているのか? 

 

「だとすれば、私達が外に出るメリットがありません。学園内の方が安全なのですから」

 

 誰もが外に出たいという気持ちがあったが、そんな状況を話されたら一考せざるを得なかった。

 

「苗木が嘘付いている可能性とかってのはねぇのか? 俺達に殺し合いを起こさせないで、自分だけが脱出する為……みたいな」

「だったら、彼の場合は黙って出て行けばいいだけよ。それこそ、帰って来なくても良かった。モノクマにとっても外の状況が『出るべきでない』と知らされるのも邪魔なハズだし」

 

 霧切は桑田の疑念をバッサリと切り捨てた。彼が持ち帰って来た情報はモノクマにとって目障りな物でしかない。

 

「じゃあ、私達が出来ることは救助が来るまで学園内で生活してろってこと?」

 

 コロシアイをしてまで外に出るメリットはほぼなく、かと言って能動的に脱出できる状況かと言われたら難しい。朝日奈の言う通り、精神的身体的に健常を保つ為に日常を送るというアイデアは悪い物では無かった。

 

「日常生活を送るにしても目的意識が無ければ、堕落してしまう。この学園内を探索して、外で何が起きているかと言う手掛かりを探す。と言うのはどうだろう?」

「賛成ね。ただ、モノクマが何処まで解放してくれるかだけど」

 

 石丸の意見に霧切が賛成したが、問題はモノクマが何処まで協力してくれるかだ。現状でも1階しか調べることが出来ない状況であり、これでは碌に調べることも出来ない

 

「そんなことしなくても。また、苗木に行って貰えば良いんじゃね? 上階の様子も。外の世界も見に行けるんだろ?」

「桑田っちの言う通りだべ。んで、安全が確保された頃に俺達も外に出る。で良いと思うべ!」

 

 1日目でここまで捜査が進展しているのも、苗木の働きによるものが多い。故に、彼に任せておけばいいという発想が出るのは自然なことでもあった。

 誰かに頼りっぱなしになることはよくないにしても、彼にしか出来ないことが多すぎた。だが、こういった状況をよく思わない人間も当然いる。

 

「何だよ、アンタら何かあったら苗木頼り? 少しは自分で出来ることを考えろよ」

「先程から、江ノ島殿と苗木氏の距離が近くありませんか?」

 

 上階から帰還した後、江ノ島と苗木の距離は妙に縮まっていた。見方によれば守っている様に見えるし、彼の力を独占しようとしている様にも見えた。

 

「僕も江ノ島さんと同じ意見かな。何もしないでいる方が、むしろ窮屈と言うか」

「江ノ島君、不二咲君。よくぞ、言ってくれた。苗木君が先陣を切って活動してくれているのは事実だが、彼ばかりに負担を回すのはよろしくない。僕達でも出来ることを探した方が良いと思う」

 

 少しでも状況の解決に向かって進んでいるという感覚を得ることが出来なければ、不安に蝕まれてしまうのを避けるという狙いもあった。

 当の本人はと言えば、質問攻めが終わって暇なのかずっとスケートボードを弄っていた。乗りたいが、話が終わるまでは我慢していよう。と言う、彼なりの協調が見える仕草であった。

 そんな彼を見て、舞園が何かを話しかけようと悩んでいると。江ノ島が持ち前のフランクさで彼に話しかけていた。

 

「苗木は本当スケボー好きなんだね」

 

 今後の方針にはあまり興味が無いが、スケートボードに興味を持ってくれる存在にはシッカリと反応した。君もどうだい? と言わんばかりにスケボーを差し出した。

 

「へぇ、面白そうじゃん。実は私、結構運動神経も良いんだよね。後で教えてよ」

 

 パァっと。表情の起伏が少ない彼に笑顔と言える物が浮かんだ。舞園の胸がチクリと痛んだ気がした。

 

「(苗木君。やっぱり、一緒にスケボーして欲しかったんだ……)」

 

 アレだけアピールしているんだから当然だった。だが、こんな状況の中でスケボーに興じるほどの胆力は一般の少女に備わっている訳もない。

 すると、今すぐにでも行きたいのか。石丸の取り決めも碌に聞かずして、メッチャソワソワしていた。単身外の世界を見て来た勇士とは思えない位に子供っぽかった。

 

「探索は明日から。夜時間は出歩かない。朝8時に食堂に集合する。以上が今日の取り決めだ。後は自由行動を」

 

 居ても立っても居られず、苗木は速攻で食堂を出て行った。ビックリする位に早かったが、彼を追いかける江ノ島の脚も非常に早かった。

 

~~

 

「(苗木君は何処まで知ったんだろう? ひょっとしたら、全部思い出したのかな)」

 

 彼と一緒に体育館へとやって来た江ノ島には、あまりに考えることが多かった。

 彼がピースをした時から内心、生きた心地がしなかった。恐らく彼は『江ノ島盾子が2人いる』と言うことを伝えていたのだろう。勘の良い連中なら気付いているかもしれない。特に霧切辺り。

 

「(殺す。のは多分、無駄だよね。盾子ちゃんがあった時点で、やっているハズだし)」

 

 そもそも、学園内とは比べ物にならない程に殺意が蔓延っている外に出て生還しているのだから、個人で殺せる相手だとは思えない。

 自分が出来ることは好意を装って、彼を監視する位だがムーヴとしても怪しすぎる。だが、対象は特に気にした風もなくスケボーを差し出して来た。

 

「(これ位なら)」

 

 江ノ島と名乗っている彼女の運動神経は大変優れていた。

 スケボーに乗っても体幹は非常に安定していたし、見様見真似であったが苗木が行っていたテクニックを繰り出すことにも成功していた。

 苗木も満面の笑みを浮かべて拍手を送っていた。これには彼女も思わず素で笑ってしまった。

 

「どう? 中々やるっしょ? ギャルにスケボーって見映え的にもかなりイケているしね!」

 

 機嫌取りとしてはあまりに楽だ。こうして、彼を独占すれば周囲に情報が広がるのも少しは遅らせられるかもしれない。

 苗木もまたスケボーのテクニックを見せたりするので、張り合って彼女もまた同じ様に振舞っていた。演技とか腹芸を抜きにして楽しい。

 

「いや、嘗めていた。スケボーって面白いね。なんだか、メッチャ気持ちいいし!」

 

 彼女の抱いた所感に苗木も大いに頷いていた。どうだ、スケボーは楽しいだろう? なら、存分に滑ろうと。体育館の床がバキバキに痛み、モノクマの操縦室から様子を見ていた、もう1人の江ノ島は中指を立てていた。

 

「ファッキュー。もう、フォローから篭絡まで全部裏目を引くとか、もはや才能です。超高校級の残念です……。そこで永遠に滑ってろって思いましたね」

 

 むしろ、余計なことをしなくなる分マシとさえ思っていた。

 コロシアイ学園生活と言う異常な状況の中。趣味に興じて笑い合う二人は、恐怖と理不尽を乗り切った様に思えたし、狂気に染まり切ってしまった様にも思えた。

 

「(苗木君との仲も近付いている気がするし。盾子ちゃん! 私、頑張るよ!)」

 

 努力の方向が明後日なんてモンではなく、むしろ面の皮が厚いとさえ思える戯言を抜かしながら、苗木と2人スケボーに興じていた。

 

~~

 

 その晩のことである。苗木と一緒にスケボーをしていたことを桑田から茶化されたりしつつ、今後の展望を相談する必要もあると考えていた。

 ウィッグを脱ぐと黒髪が現れた。彼女こそ江ノ島盾子の姉であり、超高校級の軍人でもある戦刃むくろだった。

 

「(このままだと状況が硬直することは必至だろうし、私かもう1人が事態を動かさないと行けなくなる。狙うとしたら、霧切か石丸辺りかな)」

 

 制服の内側には鋭利な軍用ナイフが収納されていた。あまり悠長にもしていられないが、自分で行動しても碌なことにならないとは想定しているのか、勝手に動き出さない辺りは兵士として、訓練された証でもあった。

 中々に指令が来ない。普段は筋トレなどして時間を潰しているが、今の彼女の脳内を占めているのは苗木と……スケートボードだった。

 

「(何処から取り出したか分からないけれど、私の分も用意してくれていたし)」

 

 それは不思議なほどに肌に馴染む物だった。これに体重を預け、颯爽と駆けていた快感が蘇る。戦場で偶に味わう様な中毒性のある高揚感だった。

 

「(夜時間だから出歩けないけれど、中で乗る位なら)」

 

 何も滑る訳ではない。体幹を慣らしたり、イメージトレーニングも兼ねた行動だ。

 翌日には変わらず苗木に張り付いて、何時でも指令を受けて動くだけだ。だから、これは日常に馴染む為の練習で……。

 

~~

 

「ふぁああ。苗木の野郎、舞園ちゃんだけでなく江ノ島ちゃんとまで。俺もスケボーやった方がモテるのかな」

 

 なんだかんだで慣れない環境だったこともあり、桑田はかなり早い時間に目を覚ましていた。もう一度寝る気にもなれなかったので、廊下に出た所。昨日から聞き続けている音が聞こえて来た。

 

「お。苗木かぁ?」

 

 アイツも早起きだなと思っていたが、違った。スケボーに乗って廊下を爆走していたのは、江ノ島だった。

 昨日まではコロコロと表情を変えていたが、今の彼女は真顔だった。ガチで真剣にスケボーに打ち込んでいることが伝わる位に無表情だった。そして、少し後に苗木も同じ様に滑って来た。

 

「……え? え???」

 

 何が起きてんの? もしくは、自分はまだ夢の中にいるかもしれないと思い、桑田は一旦自室に戻って二度寝することにした。

 

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