かくして、皆が困惑を抱えたまま素材採取を行うことになったのだが、キャノン砲を修理するとなれば、それなりの量が必要となった。となれば、運搬作業も相応に重労働として圧し掛かって来るハズだったが。
「おぅ。花村、頼んだぜ!」
終里が花村に素材を渡すと、彼はスケボーに乗って迅速に運搬していく。
第2の島で素材採取を分担している者達の中には少なからず1人はスケーターが含まれていた為、物資の運搬は非常にスムーズに行われていた。
運ばれて来た材料を加工しつつ、キャノン砲の修理を担当していた左右田は彼らの存在を頼りにしていた。
「おぅ、サンキューな!」
お安い御用だ。と言わんばかりに親指を立てて、スケーター達は運搬に戻って行く。これらの様子を見ながらモノウサは頷いていた。
「順調だね~。明日にでも使えそうだよ。でも、オマエら。重要なことを忘れていない?」
「あの化け物が何処に潜んでいるかってことか? 素材採取の際に見たって奴らから聞いたけれど、ビーチハウスに陣取っているらしい」
自分達を妨害してくるわけでも無ければ、襲って来る訳でもない。逃げもせずに一か所に留まっているのは不自然だった。
「発見者を始末もしなかったと言うことは、オマエラが来るのを待っているんだろうね。こんなキャノン砲をこれ見よがしに落としている訳だしね」
「何が目的なんだ?」
左右田が作業をしながら考えていた。少なくとも自分達を始末したい訳でないのだろう。もしも、そのつもりならウサミと分断出来た時点で行っていたハズだ。
「例の発言を考えれば、僕達に何かを思い出して欲しいんだろうね。多分、この島に来るまでの間に巻き込まれたって言う『事故』についてじゃないかな?」
左右田の作業をサポートしていた狛枝が述べた。自分達は希望ヶ峰学園に来る直前の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまっている。一体、何が起きたのか?
ウサミの説明によれば、思い出したら心理的にかなりの負荷が掛かるとのことだ。つまり、相当な事故に遭遇したのだろう。
「心理的負担になる程の事故。って、何だと思う?」
左右田は少し考えた。彼の人生には多少のハプニングやトラブルはあったが、トラウマになる程の事故に遭遇したことは無かった。一方、狛枝は覚えがあるのか、考え込む仕草をしていた。
「事故って言うのは、大なり小なり心理的負担になるからね。僕も、未だに飛行機は苦手だしね」
何があったんだ? と聞こうとして、左右田は言葉を呑み込んだ。飛行機の事故ともなれば、高確率で悲惨な物になるからだ。
「悪い。変なこと聞いた」
「大丈夫、気にしないでよ。今はこうして居られる訳だからさ。こんな状況で、皆が輝く手伝いが出来ているんだからさ!」
「お前が良いなら、良いけれどよ」
「でも、そんな狛枝君も連れて来られる程の事故があったってことは、相当な物だったんだろうね」
綺麗に〆たかと思っていたが、モノウサからの言葉で引き戻された気がした。
時間が経って、色々と整えばウサミも教えてくれはするのだろうが、今直ぐ知りたいという欲求が、内側からジリジリと自分を焦がすような気がしていた。
~~
「はぁ~。疲れた~」
西園寺がタップリと溜息を吐いた。夜は危ないと言うことで、本日の採取を終えた一同はダイナーで休憩を取っていた。奥の冷蔵庫には食料もあったのか、花村が軽い料理を作ってくれていた。
初日の花飾りの採取は労働とも呼べない程度の作業量だっただけに、動き慣れていない者達はヘロヘロになっていた。
「日寄子ちゃん。口元汚れているよ」
「わぁ。小泉おねえありがとう!」
小泉がポケットから取り出したハンカチで彼女の口元を拭っていた。
夜は自由時間と言うことで、食事を取ったり、休憩をしたりする者もいれば、外に出て体を動かしたりする者達も居た。
ダイナーに残った者達は雑談に興じたりしている中、菜摘が憂鬱な顔をしていた。何かを考え込んでいる様だった。小泉が声を掛けた。
「菜摘ちゃん。やっぱり、佐藤ちゃんのことが気になる?」
「……うん」
菜摘の方を気に掛けたのを見て、西園寺は頬を膨らませていた。
彼女達は中学生の頃から知り合いであるようで、2人だけの世界に入られるのは癪だった。
「おねえ。その、佐藤って奴は一体何者なの?」
「……中学生の頃。菜摘ちゃんと一緒に写真部に所属していた友達。私が撮った写真をよく褒めてくれたの」
懐かしむように、小泉はそっと自分のカメラを撫でていた。そんな彼女を見て菜摘はそっと目を逸らした。それを見逃す西園寺では無かった。
「菜摘おねえと何かあったの?」
「日寄子ちゃん。それは」
「大丈夫。……私ね。真昼に嫌がらせしていたの。アンタの写真家としての才能が羨ましくてね。それで、佐藤ともよくケンカしていたの」
「は?」
西園寺の視線が一気に敵意を帯びた。ダイナー全体に不穏さが漂い始めた所で、携帯ゲーム機で遊んでいた七海が声を上げた。
「西園寺さん。2人の話をもう少し聞いてみよう?」
「うん。七海ちゃんの意見に賛成かな。正直に言うと、私もどうして菜摘ちゃんが丸くなっていたか知りたいし」
きっと、この島に来た時点で2人の間には見えないわだかまりがあったのだろうが、場の空気を悪くしない為に敢えて話題に出していなかったのだろう。
だが、一度引っ張り出されてしまえば整理を付けなければずっと引きずる羽目になる。状況が状況だけに不安の種を抱えたままにはしておきたくはなかった。西園寺は渋々と言った感じで引き下がっていた。
「……私ね。才能がないことがコンプレックスで、周りに当たり散らしていた。お兄ちゃんは超高校級の極道なのに、私は何もないんだって」
「当たり散らした所で、アンタが輝く訳でもないのにね」
西園寺の言葉が突き刺さった。優れた誰かを引き摺り下ろした所で、自分が成長する訳でもない。だが、行わずにはいられない愚かさを十分に知っている西園寺としては、許す気にもなれなかった。
「その通りだよ。そんで、卒業した後にちょっとした出会いがあってさ。ソイツ、ちょっと変わっていたんだよ。周りからどう思われようと関係ないって感じでさ、好きなことを好きなだけやり続けて……才能とか関係なく、打ち込んでいる姿を見ていたら。なんだか、そんな物に拘っている自分が馬鹿らしくなって。ソイツと同じ様に好きなことをする様になっていたら、いつの間にか『超高校級の妹』って呼ばれるようになっていたの」
「超高校級の妹ってなに?」
何か良い話っぽく〆たが、最終的な着地点が超高校級の妹に落ち着くのが良く分からなかった。好きなことをしたら妹になる。とはどういうことなのだろうか? 話の過程で膨れた敵愾心の行方が分からなくなった西園寺が、チラリと小泉を見れば、彼女は良い笑顔を浮かべていた。
「良い出会いがあったんだね」
「うん。……だから、ずっと言いたかったことがあるの。真昼、本当にごめんなさい」
菜摘は真昼に頭を下げていた。嫌がらせの内容がどの様な物であったかを推しはかる術はないが、女子同士で行われる物であったら尾を引く物であった可能性も高い。
だが、周りに許すべきだということを言う人間はいなかった。どう感じるかというのは、あくまで当事者に委ねるべきだというスタンスは全員が一致していた。その中で、真昼は彼女に近付くと……まん丸な両頬をつねった。
「いたたたたたた!!」
「フィルムが感光されたりとか、色々と恨みはあるからね!! カメラ隠されたりとか、下らないことばっかりして!! 私だって怒るときは怒るんだからね!」
普段は真面目で大人しい彼女が声を荒げていたので、周囲は戸惑うばかりだった。先程まで敵愾心を向けていた西園寺ですら狼狽えていた。
強くつねられたまん丸ほっぺがグニグニと動かされ、抓られた跡がハッキリと残った。そして、小泉は溜息を吐いた。
「でも、アンタがそんなにマトモになるほどの相手だったなんて。ちょっと、気になるかな。ソイツの話も含めて聞かせてくれる?」
「無理。ほっぺ痛い!」
「はい、水」
赤くなった頬をさすっている菜摘に、七海が水を差しだしていた。
2人の間にあった他所他所しさが取り払われ、彼女達を中心にしてダイナーは姦しくなっていた。
~~
では、外に居た連中が何をしているかと言うと。スケボーに乗った面々にプラスして九頭龍が彼らの面倒を見ていた。
「夜の散歩っつーか、滑走って感じだけれどよ」
こんな一団について行くんだから、超高校級の極道として集団を生き延びさせる能力は、面倒見の良さも含んだ物であるかもしれない。
すると、辺古山が近付いて来て、彼にスケボーを差し出していた。きっと、一緒に滑れば楽しいだろうと言わんばかりに。
「下らねぇ。極道ってのはな、メンツで勝負するモンなんだ。スケボーなんてチャラチャラした物に乗っていたら嘗められちまう」
辺古山は先を行く日向達を指差していた。果たして、アイツラを嘗められるか? と言わんばかりに。確かに馬鹿にしたりはできないが、どちらかと言うと関わりたくない存在ではあった。
夜の島にウィール音だけが響く。昼間の間にドラッグストアや図書館なども調べたが、状況の打破に役立ちそうな物は無かった。
「こんな状況でも暢気なモンだ」
半壊モノケモノがビーチハウスに陣取っていると言うことは昼間の調査でも分かっていたが、いつ動きだしたりするかも分からないのだ。
何かあっても直ぐに対応できるように。と、この一団に付いて来た彼は、危機管理能力という点で、やはり超高校級の極道として相応しい存在であった。
「……?」
どうやら彼は危機管理能力だけではなく、観察眼も優秀だったらしい。道路から少し外れた、茂みの中。不自然な明かりがあった。
辺古山と共に近付いてみれば、ゲームセンターなどに置かれている様なアーケードの筐体があった。画面にはノイズが走っており、マトモに稼働するかも分からないような状態だった。いつの間にか、九頭龍の背後にはスケーター達が集まっていた。
「丁度良い。こういった形をしたトラップかもしれねぇしな。おい、日向。ちょっと確かめてみろ。お前、頑丈だろ?」
任せろ。と言わんばかりに、日向が筐体に触れた直後のことである。
筐体から凄まじい程のエラー音が鳴り、ズブズブと地面に埋まったかと思ったら画面がブラックアウトして、二度と動かなくなった。この光景を見た九頭龍は冷や汗を流していた。
「意味が分からねぇ……」
何が起きたか分からないが、非常に恐ろしい力が働いたのは確かだった。
もしも、自分が行っていたら何かしらの被害に巻き込まれたかもしれない。彼らは直ぐに、この場を後にした。