「ってぇ、ことがあったんだ。お前らも怪しいもん見つけたら、不用意に触らないようにな」
コテージではなくダイナーで一夜を明かした一同は、寝ぼけた頭で九頭龍の話を聞いていた。昨晩、スケーター達と一緒に夜の散歩をしていたと言うことは理解できた。
「実は九頭竜さんもダイナーでいつの間にか寝ていて、夢を見ていたとかそう言うオチじゃありませんよね?」
「テメェ、嘗めてんのか!?」
「ヒャア。すいません!!」
普段は気弱な罪木も寝起きと言うことで、かなり無礼になっていた。
ただ、彼女が言ったことに同意していた者も少なくはなく、彼が遭遇したという事態は信じ難い物だった。
「日向君。九頭龍君が言っていることは本当かい?」
狛枝が問うた所、日向も頷いていた。ちょっと触っただけで壊れたぞ。と言わんばかりの真顔だった。他のスケーター達も頷いていることから、彼らが結託している訳でも無ければ事実なのだろう。
「でもよ。なんで、そんなモンが設置されていたんだ?」
左右田の疑問は最もだった。屋外に放り出された筐体、なんて物は不自然でしかない。投棄された訳でも無ければ、何かしらの意図があってのことだろう。
誰が? 何の為に? 真っ先に思い浮かんだのは、例の半壊モノケモノを操っている者達だが、そんな物を設置してどうするつもりだったのだろう。
「九頭龍君の話が気になるし、皆で行ってみない?」
反応したのは、予想通りとでもいうべきか。超高校級のゲーマーである七海だった。これには九頭龍も声を上げた。
「話聞いてなかったのか? そんな怪しいモン、罠に決まってんだろ!?」
「罠にしても。相手の思惑を知る為には、飛び込んでみるしかないと思う。ひょっとしたら何か手掛かりがあるかもしれないしね」
九頭龍も眉間に皺を寄せていた。相手の思惑を知る為に、敢えて懐に飛び込むのはあまりに危険だ。だが、得られる物もあるかもしれない。
「だけどよ。俺が見る限り壊れちまっていたぞ? 修理できる奴がいるとすれば左右田位じゃねぇか?」
「俺も行くのかよ……。でもよ、俺はハードウェアの修理は行けるけれど、ソフトウェアの方がイカれていたら、どうしようもないぞ?」
それでも良いよ。と頷いた後、七海を先頭として結局皆が付いて来ることになった。そして、件の場所へと向かうと昨晩と同じ状態だった。即ち、半分地面に埋まっていた。
誰もが思った。どう見ても動く奴じゃないだろ。左右田も首を横に振って諦めが付くかと思った所で、狛枝がパンと手を叩いた。
「モーノーウーサ。アレ、どうにか出来ない?」
「はぇ?」
当たり前の様に一同に混じっていたモノウサは困惑の声を上げた。まさか、自分が頼られることになるとは思わなかったのだ。
「君って、僕達にデスゲームをさせようとしている位には色々と出来るんでしょ? だったら、アレもどうにか出来ない?」
「うーん。なんで僕が? と言いたいけれど、しゃーないっすね。アレの代りに働くのは癪だけれど」
筐体に近付くと、モノウサは色々と弄っていた。やがて、真っ暗だった画面に光が灯った。これには一同も驚いていた。
「意外といけました。ただ、半分埋まっているから中腰でプレイして貰う必要があるけれど」
「どれ。ワシが引き抜いてやるか」
弐大が筐体を持ち上げようとしたが、ガクンとなった。彼ほどの膂力の持ち主でも引き上げられない程に根深く埋まっているというのか。終里が駆け寄って来た。
「おっさん。大丈夫か?」
「ゲームセンターの筐体位は持ち上げられるモンじゃと思っていたんじゃが、えらい重いな。中に基盤以外の物でも入っとるのか?」
どうやら中腰でプレイする外ないらしい。仕方なく、七海が皆を代表して筐体に近付いた所、画面には『ILLBLEED K』というロゴが表示されていた。
「あの、七海さん。コレ、貴方がホテルでよくプレイしている、グロいだけで面白くも何ともないゲームでは?」
唯一、七海のゲームプレイを真面目に見ていたソニアから酷評が飛んで来た。
ここに設置されているのも意味があるとかじゃなくて、単純にクソゲーだから放棄されていたのではないかと言う気もしたが、七海は目を輝かせていた。
「やらなきゃ……」
謎の使命感に駆られた彼女がスタートボタンを押すと、いきなりゲームは始まった。主人公と思しき少女が目を覚ますと、周囲には同じ様な年恰好の生徒が沢山いた……のだが、ここで口を挟む者が居た。
「きったねぇゲーム画面だな。何年前のゲームだ?」
「ローポリって奴か?」
そう。ゲームがオトモダチな男子勢である。七海ほどのゲーマーでなくても、九頭龍も左右田もゲームで遊んだことはあり、向上し続けるクオリティに目が肥えすぎてしまった為か、現在筐体で動いているゲームのローポリがどうにも引っ掛かるらしかった。
「マァマァ。九頭龍も左右田君も見ていてよ。ローポリはレトロゲー特有の味わいなんだよ。OPも無い、低予算感が私のセンサーをビシバシ刺激してくれるよ」
「さっきまでの危機感何処行ったんスか?」
今朝の神妙な空気が何処かに行ってしまった為、思わずモノウサが注意喚起するレベルだった。こうなってしまっては、視聴している者達の緊張感も保たれる訳もなく、七海のゲームプレイが始まった。
ゲーム画面ではちょっとテクスチャは荒いがギリギリ見れるレベルの女子高生が、教室内の生徒やオブジェにタッチしまくるという、製作者側の『全部見ろ』という都合をたっぷり押し付けられていた。
「かったりぃーなー! 外に出れないのか?」
「まぁまぁ、そう焦んないで」
堪りかねた終里が先を催促していたが、七海はこういったコメントにも慣れていたのか、流暢に語録で対応していた。
全てのイベントを消化すると、教室と思しき場所の前方のモニタが点灯した。恐らく、ここを調べることでイベントが進むのだろう。
「このモニタを調べることでムービーが始まりますが、ここはスルーして教室を出ます。すると、ホラゲー特有不注意デストラップが発動しますが、先の会話順と行動により延々と説明をしている状態に入るので、即死イベント発生しません」
ガラリと教室を出ると。教室の横には恐ろしいトラップが仕掛けられていたが、オブジェクトが作動することなく、主人公はステージ内を歩き回っていた。
「お。開いてんじゃ~ん!」
特段敵もトラップも出ることは無く、入り口と思しき場所に辿り着いて扉を開けると、そのままエンドロールへと入って行った。……何も分からなかった。
「凄いよ! これが超高校級のゲーマーなんだね!」
初見にも関わらず、いきなり変なルートを辿ってクリアできる能力はゲーマーと言うよりも、プログラマ側の能力ではないか。そんなことは気にせず、狛枝は甚く感心していたが、何も知らない者達は困惑しかない。
「七海さん! 普通にプレイして下さい!!」
ソニアが皆を代表して言った。七海はクソデカ溜息を吐きながら、最初のシーンへと戻った。そして、再びクソ長オープニングを見せられる羽目になった。
ようやく、モニタイベントまで辿り着いて調べると如何にもな電子音交じりのボイスでの説明が始まった。
『貴様らは選ばれた人間だ。お前達の持つ能力を羨む人間は大量にいる。これはゲームだ。貴様らの能力が本物なら殺されまい』
すると、モニタの映像が切り替わり主人公たちがいる部屋とよく似た場所が映し出された。同じ様な年恰好の生徒達が武器を持って不敵に笑って、教室を出て行く。主人公や生徒達も教室を調べるが、自分達には武器が用意されていなかった。圧倒的不利な状況でのスタートである。
「はい。よーい、スタート」
シナリオらしい物も無く、ユーザーフレンドリーさもない。一昔前のゲーム特有の理不尽とも言える難易度ではあるが、七海は燃え上がっていた。
今となっては、ゲームは動画などでも視聴できるが、古式ゆかしく皆で同じゲーム画面を注視していた。
「武器がねぇっつうんなら、やっぱり敵から奪い取るしかねぇのか?」
「いや。ひょっとして、ロッカーとか他の教室に武器が落ちているかも」
九頭龍や西園寺が外野から色々と意見を述べている中、先程のプレイ光景を思い出していたのか。澪田が意見を述べた。
「そうだ! 七海ちゃん! さっきのプレイでステージ内を見て回ったし! 入口の方に逃げたら良いんじゃないんっすか!?」
「いや、駄目。この手のゲームは入り口前とかにデストラップとか待ち伏せが滅茶苦茶設置されていると思う。作り手側としたら、簡単にクリアされたら悔しいからね」
「ゲームってクリアして貰う為にあるんじゃないのか?」
左右田のツッコミも他所に仲間を引き連れた七海達が向かったのは、入り口側ではなく屋上だった。
「まず、うちさぁ。屋上あるんだけど……」
「外から脱出するってパターンかな?」
狛枝の脳内屋上から助けを求める系のホラゲーのシチュエーションが思い浮かんでいた。大抵は失敗するのだが。
「ヘリコプターが飛んでいたら出来たかもね。いや、ゴメン。飛んでいたら逆に無理だね」
七海にも思い当る節があったらしい。屋上の入り口は一つだけで、柵に囲われていた。飛び降りたら無事ではいられない高さだ。
「屋上からの脱出も無理そうだな。やはり、翼を持たぬ者達は何時までも重力に縛られる定めか」
田中も興が乗って来たのか、それっぽいセリフを吐いていた。
直ぐに七海はベンチを入口へと持って来てバリケードを作った後、仲間達を用いて屋上を調べさせた。すると、とあるものが見つかった。
「よっし。それじゃあ、全員。救助袋にぶち込んでやるぜ!!」
「さっきから七海ちゃんの変な喋り方は何なんっすか?」
澪田の疑問も他所に。避難器具として用いられる救助袋を見つけたのか、屋上から展開して一気に地上へとの脱出ルートを作った。数人が通って降りて行く中、屋上の扉がガンガンと叩かれていた。
「無駄だよ。その扉は、私のどうぞ。という言葉にしか反応しないのだ」
「今、どうぞ。って言わなかった?」
終里の疑問も馬耳東風。もはや言葉の形をした鳴き声を上げながら、七海の快適プレイは進んで行く。最後の1人も救助袋から降りて、学校から脱出した後。再びエンドロールが流れていた。
「はい。バグを用いない最も早い屋上脱出ルートです。真相は……んにゃぴ、良く分からなかったです……」
いきなりコロシアイに放り込まれて、さっさと脱出して終わる。というゲームとしてはザマァ見ろと言わんばかりに破綻させるルートではあるが、傍観者からすれば何をしているか一つも分からないまま終わっていた。
「あの。七海ちゃん? 出来たら、このゲームを用意したと思われる相手の意図に沿ったルートでクリアして貰えたら、嬉しいかな?」
堪りかねたのか小泉まで苦言を呈していた。言われた通りに普通にクリアしたのに、更なる注文が来たので七海は頬を膨らませていた。
「レギュレーションはちゃんと決めて欲しいよね。Any%なのかとか」
すると、ゲームタイトルへと戻り再び最初のクソ長OPを見せられる羽目になった。七海以外に、こんな物に付き合う一同も大層なモノ好きという外なかった。