超高校級のゲーマーによるプレイでは何も分からないまま終わる最速クリアだった為、視聴者達の希望によって正規ルートでのプレイが行われていた。
「ゲーム自体はTPS、3人称視点のよくある物だね。冒頭のシナリオで分かる通り、このゲームは如何に皆を生存させた上で脱出できるかと言う物だよ」
中腰も辛くなって来たのか、七海は寝そべりながらプレイしていた。ゲーム内容の陰鬱さに反して、あまりにカジュアルスタイルじゃないだろうか。
BGMは敢えて無音であり、何時敵が出て来るか分からない恐怖に曝され続けることになる。女子陣が固唾を飲んで見守る中、男子陣の反応は違った。
「さっきも言ったけれど、武器とかはねぇのか?」
九頭龍としてはゲーム内としても十分にやる気であり、和解ルートなどは考えていないようだった。すると、七海は校内に設置されているロッカーを調べた。中からは掃除用具が出て来た。
「御覧の通り、通常ではこの糞貧弱装備で戦わされるから犠牲は必須なんだよね」
モップや掃除道具も使い方次第では相手を殺傷する武器にはなり得るだろう。だが、冒頭のシナリオで出て来た相手側の武器は銃器など、いずれも殺意の高い物ばかりだった。
「ですが、このロッカーを調べた後に特定のコマンドを入力すると」
主人公と思しき女子高生がロッカー内を弄り出すと、奥の壁が開かれてドスや拳銃がゴトゴトと落ちて来た。あまりに脈絡のないイベントに一同が呆然としているが、ゲームは進められていく。
「はい。初期時点でかなり戦闘能力が整いました。このゲーム、敵の配置はランダムに見せかけて、数種のパターンから選ばれます。実は冒頭のムービーに映し出された相手側の映像で決定されるので、今回のパターンですと」
複雑そうなステージを何の迷いもなく進んで行く。すると、見事な位に敵との遭遇を避けて、1階のまで降りた後。通信機を持った生徒2名と遭遇した。すると、彼らに近付いて瞬く間に組み伏せた。
「このゲーム。戦力差が一定以上あると、相手を殺さずに無力化することが出来ます。だから、全員生存させる必要があったんですね」
『クソッたれ! どうしてバレたんだ!?』
ゲーム内では、主人公と同じくローポリの敵が喚き散らしていたが直ぐに沈黙させた。通信機を入れる余裕も無かったのか、発見状態にもなってなかった。
そして、入り口を見ると簡易のバリケードが作られていたが、16人もいれば撤去は直ぐに済んだ。そして、気絶した敵を放置して悠々と主人公達は脱出していった……。
「はい。屋上ルート以外に手早くクリアするサイレント・ランルートです。殺傷数0で、このままエンディングに……」
「だから!! ちゃんと内容に踏み込むルートに行けっつってんだろ!!」
何回もクソ長オープニングを見せられるのは嫌なのか、九頭龍が声を荒げていた。スケーター達も暇になって来たのか、後ろの方で滑り始めていた。
「えー。でも、このゲーム。シナリオに踏み込む為には相手を全員殺さないといけないんだよね。ゲーム内だからと言って、暴力的な手段を取るのはよくないと思うよ?」
「いや、ゲームだし。気にする必要はないんじゃね?」
ゲーマーらしからぬ発言に左右田も思わずツッコミを入れてしまった。七海がクソデカ溜息を吐くと、再び寝そべってオープニングの視聴を始めた。
そして、先程と同じく。ドスと拳銃を取り出すルートまで入ったが、ここから彼女の動きはまるで違った。
「1人目。教室内で無線と定期報告係をしている」
ガラリと扉を開けた先に女子生徒が居た。突入すると同時に一斉に襲い掛かると、一瞬で相手は倒された。通信機を奪うと、仲間内の1人が喋り出した。
『私、超高校級の役者なんだ。さっきの子の真似して呼び出すから』
ここに来て馴染みの深いワードが出て来たので、全員が固まった。超高校級。と言うことは、このゲームは希望ヶ峰学園をモチーフにしているのだろうかと。
演劇部員の女子が行った声真似により、釣られてやって来た2名の男子生徒が餌食になった。
彼らが持っている武器を奪い取った後、超高校級の役者によって敵側の位置や出現ヵ所をコントロールして、次々に撃破していく。
「ここまで来たら後は流れです。彼らのガバガバ連携なんか……カスが。効かねぇんだよ!」
そして、最後の1人も撃破した。すると、主人公達が全員無事であることを確認すると、血を吐きながら呪詛を残した。
『じ、地獄に落ちろ……』
自分から襲い掛かって来て、何を言っているのかと思ったが、主人公達は瀕死の敵に痛罵を投げかけた後、ステージから脱出した。
今までのプレイではこれで終わりだったが、今回のプレイでは次のステージに移っていた。
『先輩達。生き延びたのか』
『君のお陰でね。奴らは敵だ。遠慮する必要はない』
画面内では主人公が背の小さい男子生徒に話しかけていた。後ろに率いている者達は皆、刀や銃などの物騒な装備をしていた。
建物の外へと画面を切り替えると、先程の敵と同じ様な衣装をしたモブが叫んでいた。
『才能の平等化を望まない特権階級によって、同志達は殺された! この校舎にいる連中は悪魔だ! 今こそ、天誅を!!』
ゾロゾロと校舎に敵と思しき存在が侵入して来る。先程とはゲームの経路が違い、主人公は好きな武器を選択できるようだった。
「ここまで来たら別ルートは選べないので、効率的にやれる武器を選択して進んで行くだけです。代わり映えの無い光景が続くのでぇ……皆様の為にぃ。こんな動画を……って、普段はクッキー☆を流すんだけれどね」
画面内は急に雑な流れになり、校舎に侵入して来た敵を次々に倒すだけだった。ローポリの死体が次々に積み重なり、画面はカックカックになっていた。
「なんか、急に安っぽいゲームになったっすね」
「安っぽくない瞬間、あった?」
澪田が代わり映えの無い画面にケチを付けたが、そもそも最初からチープじゃなかったか? という西園寺の疑問に頷く外なった。
そして、このステージをもクリアした時、画面は更に変わった。テレビの画面が映し出され、ニュースキャスターが原稿を読み上げていた。
『続いてのニュースです。市内某所で起きた大量殺人に関して、犯行声明が出ており……』
バンという音が数回響き、ニュースキャスターが倒れた。すると、主人公が死体を退かして、代わりに電波を使って宣言をした。
『俺達を排除しようとした凡人共に告ぐ。お前達が、その気ならば考えがある。俺達はただでは死なない。覚えておけ』
と、不吉な発言をした所でゲームはぶつりと終わった。暗転した後『To be continued……』とロゴが出て来たが、何も分からなかった。
エンドロールが流れる中、画面内に知った名前が出てこないかを注視していたが、誰も出てこなかった。暫くすると、タイトル画面に戻らずに筐体はガタガタと揺れて、画面を叩き割ってゴロゴロと何かが転がって来た。
全員が身の危険を感じて距離を取った後、特に何もないので遠方から眺めていた皆をじれったく思ったのか、モノウサが代わりに近付いて調べていた。
「砲弾だね。左右田君が修理していたキャノン砲に使える奴じゃないの?」
「……あ」
ここに来て、彼も気付いたらしい。幾らキャノン砲を修理しても撃ちだす物がなければ、邪魔なだけの代物に過ぎない。モノウサでは持てないので、代わりに弐大が慎重に持ち上げた。
どうやら、先程のゲームはこの砲弾を入手する為のギミックであったらしいが、内容についての話し合いが行われていた。まずは、小泉が尋ねた。
「七海ちゃんに質問だけれど、妙にプレイし慣れていた感じだったけれど、あのゲームは市販の物なの?」
これは七海がプレイしている様子を見て誰もが思ったことだった。あまり慣れていたので、何かしらの事情を知っていると考えたのだ。だが、彼女は首を横に振った。
「ううん。私がホテルでプレイしている『イルブリード』ってゲームがあるでしょ? アレとステージ構成や流れがよく似ていたから真似しただけ。グラだけを変えた『コンパチ』って言うんだけれど」
compatible(コンパチブル)。互換性のある……という英単語の略である。パッと言われても分からないので、澪田が例を挙げた。
「『旅立ちの日に』と『明日への扉』みたいなことっすか?」
全員が疑問符を浮かべていた。澪田が言葉に詰まったのを見て、仕方なくモノウサが助け舟を出していた。
「その二つ。曲名は違うし、歌詞も違うんだけれど、メロディが同じなんだよね」
「あ、そう言うこと。うん、その考えで良いと思う」
とりあえず、全員に『ガワだけを変えた』ということが伝わったのであれば良しとして、だとしたら次に話すべきは内容だ。
「あまりシナリオらしいシナリオが無かったけれど、要するにあの話って。何者か分からないけれど、黒幕が才能の無い人間と超高校級の人間を争わせたんだよね。それで、対立が激化していった……みたいな内容だったよね」
狛枝がザックリとまとめた。ゲームのシナリオはないに等しい物だったが、少ないテキストから読み解くに、概ねそう言う内容だった。
「だったら、私達を閉じ込めたのは、あの敵として出て来たボンクラ達って訳?」
「俺達は超高校級なんだから、そうなるよな」
西園寺が嫌悪感を隠さずに述べ、左右田も苦虫を噛み潰した様に頷いていた。更に付け加えるべきことがあるとすれば。
「いえ、ちょっと待って下さい。私達はそんなことをした覚えはありませんよ!?」
ソニアが叫んだ。自分達はこんな恐ろしいことをした記憶はない。全員が安堵しかけた一瞬、ある程度の理解力がある人間は眉間に皺を寄せることになった。
「ソニアさん。ウサミ先生の説明を忘れた? 僕達は事故に巻き込まれて、記憶を一部失っているって」
狛枝の説明にソニアを始めとした、皆が息を呑んだ。もしや、自分達が巻き込まれた事故と言うのが、件の殺人ゲームだったとしたら?
「バカげている。第一、ゲーム内でも宣言があったじゃない。この中に超高校級の役者なんている?」
菜摘が否定する様にして言った。確かに該当する人間はおらず、全員が安堵の溜息を洩らした、そのまま都合の良い様に考えが紡いでいかれる。
「き、きっと。私達じゃない超高校級の別グループに返り討ちにされた人達が、同じ超高校級ってことで、私達に狙いを付けたんですよ……」
罪木が言った考えには根拠がないのだが、皆が頷いていた。自分達は加害者側ではないと信じたいようだった。
直ぐに数人はある程度可能性に気付いていたが、態々口に出す程でもないと言うことで黙っていた。自分達は被害者である、という認識が共有されていた。
「で。砲弾を入手した訳じゃが、どうする?」
砲弾を抱えた弐大が問うた。ゲームをする為に中腰になっていた七海以外は特に疲れている様子もないし、このまま行動できる。
先延ばしにしてもいいことは無いし、何よりざわつく気分を早く鎮めたいということもあって、全員の意見は討伐側に傾いていた。
「じゃあ、ビーチハウスの方に向かうとするとか」
九頭龍が先んじて踵を返した所で、スケーター達も『ようやく終わったか』と言わんばかりに、ガロロロロとスケボーで進んでいた。皆もダイナーに向かう中、狛枝は菜摘に話しかけていた。
「さっきのフォローは上手かったね。君も分かっていたんじゃないかな。あくまで、イルブリードの経過はゲーム内のシナリオでしかないってこと位」
「は? 知らねーし。あんなの考える奴の思考とか興味ないし」
切り捨てる様に吐いたが、菜摘の中にも懸念はあった。過程は幾らでも捏造できるし、あのゲームが全て真実と言う訳でもないという可能性は十分にあった。
経過は兎も角、結果が同じになってしまえば自分達が加害者側であった。という可能性は、十分にあり得るのだ。
「まぁ、どっちでもいいんだけれどね。才能を妬むクズどもを排除して、皆が生き延びていたら、僕はそれで満足だから」
全く悪びれた様子の無い狛枝を軽蔑……する訳ではなく、憐憫の視線を向けながら、自らの視線を悟られないようにして菜摘は先頭を行く九頭龍に追いつくべく、歩を早めた。