例のキャノン砲を運搬してビーチハウスにまでやって来た一同であったが、ここに来て更なる問題にぶち当たった。
「どうやって、あのクソデカいのにブチ当てんだ? 弾は一発しかねーんだろ?」
終里が言う様に、砲弾は例の筐体から入手できた1発しかない。外れる可能性も高いし、命中した所で撃破できるかも分からない。
「じゃあ、一発で決めるしかねぇな」
「どうやって? 半壊はしていたけれど、動きはそこまで鈍っていた様には見えなかったし……」
九頭龍が言っていることを実践出来れば苦労はしない。真昼達の前から去った時を考えるに、半壊状態だったとしても機動性は鈍っている様には思えなかった。そこで、ハタと閃いたのか狛枝が声を上げた。
「そうか。ビーチハウスの入り口に追い立てれば良いのか!」
「察しが良いじゃねぇか。そうだ、アイツはビーチハウス内にいるんだろ? だったら、中に入った奴らがあの入り口まで追い立てた所をぶち込んでやればいい」
そう言って、九頭龍はビーチハウスを指差した。一同が納得しそうになったが、この作戦は欠点があまりに多かった。まずは、七海が声を上げた。
「リスキルとかハメ技みたいな感じだよね。私達の中に超高校級の軍人や砲撃手が居ないことを考えると良いアイデアだと思うんだけれど。問題点は2つあるよ。皆も思い当っているよね?」
「は、はい。あのビーチハウス内にいるとしても、必ずしも入り口から出て来るとは限らないですし、壁とかぶち破って出て来る可能性もあるんじゃないんでしょうか?」
七海に促されて、最初に問題を言ったのは罪木だった。ビーチハウス内に潜伏しているとしても、獣がご丁寧に入り口から出て行くとは考え辛い。自らの質量を持って、壁をぶち破って出て行くことも十分に考えられた。
「仮に追い立てるとして、誰がやる? 戦いの心得がある者はいるにしても、アレを相手に立ち回って無事で居られる者は魔と契約している、ウサミ先生位しか思い浮かばん」
続いて、田中が述べた。追い立てると言っても、あんな化け物を相手取れるのは彼女しかいないだろう。生き延びるだけではなく、ある程度の意図に沿って動かす程の力量を持った人間がこの中にいるのか?
この二つの問題を解決しない限りは、追い込み漁的な方法は使えないのだが、九頭龍も想像していた様に視線を投げかけていた。
「人材は考えている。まず、万全状態のコイツらにぶつけられても怪我の一つもしなかった日向。そんで、コイツらを取り扱っていたモノウサだ」
「は!?」
突然の指名にモノウサが叫んでいた。一方の日向はと言うと嫌そうな顔をしていた。なんで、俺が? と、言いたげそうだった。幾ら、謎の存在でも嫌な物は嫌であるらしい。
「そうか。なら、仕方ねぇな。お前なら得意のスケボーテクニックで何とかしてくれると思ったんだけれどよ。出来ねぇなら仕方ねぇな。お前のお遊びにそんなに期待しちまった俺も悪かったよ」
ポンと肩を叩いた。これに対して日向は真顔になっていた。
自分のやる気の無さをバカにされることに対しては憤りも覚えないが、スケボーが頼りない物と思われることに関してだけは業腹だった。良いだろう、ならば見せてやると言わんばかりに、モノウサを掴んで一歩前に踏み出た。
「おい、やめろ!! お前、易過ぎだろ!! 罪木ちゃん助けて! 愛しの彼が戦地に身を投じようとしているよ!!」
「な、なんで私に振るんですかぁ!?」
幾ら仲が良くても、そう言ったことに関わりたがらない辺りは彼女らしかった。
ただ、流石に1人で行かせる訳にはいかないと思ったのか、彼の同士が同じ様に踏み出した。
小柄な体に滾る奔放な心と性欲。男体も女体も調理してしまうが、今はスケボーに夢中な超高校級の料理人『花村輝々』。
豊満なボディと貫禄。メッキリ喋らなくなったが、代わりにスケボーと言う移動力を手にした、重戦車御曹司『十神白夜』。
剣術と言う古典的な武道にスケボーと言う現代的な機動力も加わり最強に見える、超高校級の剣道家『辺古山ペコ』。以上の3人が日向達に同行した。
「……え? なんで?」
あまりに威風堂々としていたのでポカンとしていたが、一早く正気を取り戻した小泉が疑問符を浮かべていた。弐大や終里みたいな戦闘系の人達じゃなくて、なんでよりによって、この人選なのかと。
引き留めようにも、モノウサを抱えた4人がビーチハウスに突っ込んで行ったので止める間もなかった。一方、残されたメンバーも行動を開始していた。
「よっし、ワシはこの砲台の砲手をする。他の皆はタイミングを見計らって、ワシに合図をくれ。左右田、細かい挙動や動作についてのアドバイスをくれ」
「分かった。じゃあ、俺は弐大のオッサンに付いているからよ。他の皆もサポートに回ってくれ!」
弐大と左右田は早々にポジションに着いたが、他の者達は何も知らされていない状態で来たので、戸惑うばかりだった。ただ、ことが進む中。迷っている時間すら勿体ないと考えたのか、狛枝が両手を叩いた。
「よし。じゃあ、皆の超高校級の才能から役割を考えて行こう。終里さんはビーチハウス付近で中の様子を見て、こっちに合図を出す役割をして欲しい」
「よっしゃ! 任せろ!」
超高校級の体操部である彼女は、持ち前の身体能力を活かしてビーチハウスの屋根へと昇っていた。他の者達も割り振られたポジションについて、内部でことが進むのを待機していた。
~~
ビーチハウス内は奇妙な構造をしていた。遠目には小さく見えたが、内部は入ればかなりの大きさであり、それこそ半壊モノケモノが動き回るだけのスペースがあった。
奥の方で鎮座しており、こちらを睨みつけている。一触即発と言わんばかりに緊張感が走っていた。
「態々、キャノン砲を使わなくてもオマエ達だけで何とか出来ると思うけれどね? ゲーセンの筐体を潰した時みたいにさ」
スケーター達が喋れないことを知っているモノウサはポツリと呟いた。
彼はウサミに並んで、ここに居る者達の事情に詳しい。幾らか予定外のトラブルが発生しているにしても、元々はデスゲームを画策していた位なのだから。……今はゴスロリ衣装に身を包んだマスコットにしか過ぎないが。
スケボーにライドして、床をプッシュして一気に近付いて行く。後ろに付いていた、3人も同じ様に駆け出したのを見て、半壊モノケモノが耳障りな電子音の咆哮を上げた。
『―――!!』
背中のキャノン砲が無いにしても、牙も爪もある。何よりも、この質量こそが最大の武器だった。半壊はしているが動きに支障はないらしく、ビーチハウス内を跳び回る。だが、日向達も同様だった。
ビーチハウス内に設置されていたサーフボードが突如として飛来して、花村を天井付近にまで打ち上げていた。
また、十神がスケボーを掲げて跳ねると、その場で高速回転を始めて、室内を跳ね回った。巨大な質量が砲弾の様になって跳ね回るのは、彼が蓄えて来た贅を用いた攻撃だった。
そして、ペコはと言えば大量の空のペットボトルが入ったゴミ箱に吹っ飛ばされて、半壊モノケモノの頭上を取っていた。これらを見ていた日向は深く頷いていた。モノウサはゲンナリしていた。
「あの、なんスかね。理を無視するの止めて貰っていいスか?」
ポンと日向がモノウサを離した。ようやく解放されたと思っていると、不思議なことにモノウサの両手両足が変形して、ウィールが出現した。
何が起きたかは全く分からなかったが、これから何が起きるかは瞬時に判断した。後頭部のカメラが日向を捉えていた。そして、彼は親指を立てていた。よろしく頼むぜ、アイボー! と言わんばかりに。
「しねーよ! 死ねよ!!」
スケボーと化したモノウサにライドした日向もまた、この超常現象が飛び交うビーチハウスの大ヌケボー乱戦に参戦していた。
半壊モノケモノとしても何が起きているのか理解できなかった為か、とりあえず目に付いた花村を体当たりで吹っ飛ばすと、壁に埋まった。
早速、1人始末したかと思っていたら普通に入り口に湧いていた。CPUに一瞬のエラーが生じた隙に、肉玉砲弾と化した十神の体当たりが炸裂した。スケボーによる加速も乗せた一撃は、半壊したモノケモノには大きなダメージとなった。続く一撃として、高く舞い上がったペコは何時の間にか取り出していた真剣で露出したケーブルや内部基盤を切り裂いていた。
『ォオオオオオオオ!!』
かなり明確なダメージが入ったので、飛び退いて避けようとした着地先。そこには下半身が埋まった日向の姿があった。頭上にはスケボー化したモノウサが、この世の終わりでも見たかのようにゲッソリしていた。
「もうマジムリ」
まるで何かに撃ちだされるように、天井に向って勢いよく射出された日向と言うダンガンがモノケモノに激突していた。
彼の強度は初日に証明されている様に、半壊していた体が更に損傷していた。これ以上は、戦っていられないと。壁をぶち破る余裕もないのか、日向達が入って来た扉から出て行こうとした所で、顔面部分に付いていたセンサーがはるか先にある光景を見てしまった。
「弐大のおっさーん!!!! 出て来やがったぞ!!」
「よっしゃああああああああああああ!!!」
ビーチハウスに割れんばかりの叫びが響く。遠方から放たれた砲弾が、損傷状態のモノケモノへと直撃すると同時に爆発を引き起こした。
~~
「まさか、こんなに上手く行くとは……」
左右田も舌を巻いていた。スケーターの連中は見事にモノケモノを導いて見せたのだ。……いや、それ所か途轍もない程のダメージを与えていた様にも見えたが。
煙を上げているモノケモノが再起動しないか。ビーチハウスから出て来た日向達が確認を取り、やや疲れた感じのモノウサが言った。
「完全に機能停止しているから、調べに来ても大丈夫だよ。何かお宝を持っているみたいだしねー!」
皆が集まり、大破したモノケモノの内部からはカプセルの様な物が取り出された。中を開くと、スイッチの様な物と記録媒体が見つかった。
「このスイッチは、島を封鎖している障壁を解除する為の物かな?」
実際に確認してみないと分からないが、今直ぐ動く。と言うのは無理だった。全員が腰を下ろしていたからだ。
「私達は特に何かをしていた訳でも無いんですけれどね……」
ソニアが申し訳なさそうに日向達を見ていた。今回のMVPは間違いなく彼らであったが、特段疲れた様子も見せずにお互いにハイタッチを繰り返していた。余程、楽しく滑れたらしい。
「オマエらは僕達の献身に感謝すべきです。マジで」
いつもはモノウサの軽口だと思うのだが、彼の声に怨念的な物が籠っていたので何も言えずに頷くしかなかった。……そして、一同は小休止を取った後。島の入り口を目指すのであった。