予想通り。島の入り口に戻ってみれば、障壁は消失していた。これで、自分達はコテージなどのある第一の島へと戻れる訳だが……。
「九頭龍君。僕達がいない間に何かが起きているかもしれないし、まずは様子見で数人を送り出してから。ってことにしてみない?」
相手側が何をして来るか分からない以上、一斉に戻ったら一網打尽と言う可能性もある。早くコテージに帰りたいと思っていた者達は顔を歪めていたが、狛枝が言ったような可能性がある以上、直ぐに戻るにも勇気が要った。
「よっし。じゃあ、引き続き日向とモノウサ達を先行させるか」
「ちょっと、冬彦ちゃん。創ちゃん達を働かせすぎじゃないっすか?」
先程、半壊モノケモノと交戦したばかりである。澪田としても彼らの酷使ぶりは引っ掛かる物があったのか、注意が入ったが。
「現状、コイツらが一番頑丈だから使わざるを得ないんだよ。代わりに俺やお前が行って、同じ様なバケモンが居たらどうするんだ?」
そう言われたら、澪田としても黙るしかない。言っていることは合理的なのだが、彼らにばかり負担させる体制は気が進まなかった。
そんな彼女のいたわりは十分に伝わったのか、日向が彼女の肩を叩いた。いつもは真顔みたいな表情をしているが、柔らかく微笑んでいた。お前の気遣いと優しさ。確かに受け取ったぞ。と、言わんばかりに。
「あの。僕への労わりは?」
「モノウサさんの活躍にも期待しています!」
誰からも心配されることの無かったモノウサが抗議の声を上げた所、ソニアだけが労わりらしきものを見せてくれた。
日向達に抱えられて、中央の島に戻った日向達が見たのはウサミ先生と付近に散らばる何かの残骸だった。
「ミナサン、ご無事でしたか!?」
「ちょっと待って。何があったの?」
夥しい量の残骸が散らばっているのでモノウサが説明を求めた所、ウサミは魔砲のステッキを掲げていた。
「ミナサンが閉じ込められてから、この橋を落とそうとして変な物が一杯やって来たんでちゅ。その防衛の為にずっとここで戦っていたら……」
「張飛みたいだね」
長坂のアレである。ずっとウサミから何のアクションも無いと思っていたが、彼女は彼女でかなり大変な戦いをしていたらしい。ペコが彼女の健闘を称えるようにして、全身を撫でまわしていた。
「あー! いけまちぇん! 先生と生徒のイケナイ関係はいけまちぇん!」
「何言ってんだコイツ」
モノウサが冷淡に吐き捨てると、付き合っていられんとばかりに日向達は第一の島へと向かった。スケートボードを用いていることもあって、移動自体は非常に快適な物だった。
スーパーを始めとして生活をしていく上で必要なインフラ部分が破壊されたりしていないかを確認しつつ、念の為に食料などに毒物が混入されていないかも調べつつだったが、そう言ったことは特になかった。
「コテージ内に爆発物とかが無いかも調べたけれど、そう言った者は特になかったね。まぁ、連中が僕のセンサー感度を上回るレベルの物を仕掛けていたら発見できないけれど、そんな物はないと思うよ」
自分達の住処に戻って来たらデストラップが発動と言うことはないらしい。最後にホテルの方に入ると、一つ大きな変化があった。ロビーの中央にプロジェクターらしき物が設置されていた。こんな物は存在していなかったハズだ。
「そして、おあつらえ向きに。例のモノケモノを撃破した時に入手したメモリを差し込む端子も用意されているね」
つまり、これを使って獲得した記録を見ろ。という、相手側のメッセージも含まれているのだろう。その他にもホテル内を探索したが変わった所はなかった。
直ぐに、皆が待っている第2の島へと向かい、安全が確保されたこと。そして、例のメモリを再生できそうな装置が設置されていたことを説明した。
「……あのよ。それって、見る必要あるのか?」
ここに来て左右田が声を上げた。自分達の記憶に関係する重要な手掛かりであるが、敢えて見る必要があるのかと。彼は提案していた。
「左右田の言うことは分からんでもない。俺達の中に記憶が封印されている、と言うことは相応の理由があるに違いないからな。解放されてしまっては、何かしらの力が漏れだしてしまうかもしれん」
田中も言う様に、自分達の記憶が戻ったことを切っ掛けに何かしらのトラブルに繋がる可能性と言うのも否定できない。だが、記憶をなくしたままでいることを良しとしない者もいる。
「それでも僕は知りたいかな。仮に、知って不味いことがあったとしても。超高校級の才能を持つ皆となら、一緒に乗り越えていけると思うからね」
狛枝の発言には一切の疑問が含まれていなかった。彼は本気で信じている様だった。ならばと、九頭龍が提案した。
「だったら、見たい奴だけ見りゃいい。ただ、今後も似たようなことは起きると思うし、知っておかないと対応できない事態も増えるとは思うがな」
第2の島で起きた事件は今後も起きるだろうという予感は皆の中にあった。第1の島にずっと引き籠っていれば安全と言う確証はない。不安に駆られる彼らの視線が向かった先に居たのは、日向達スケーターの面々だった。
「わ、私は日向さん達に付いて行きます。今の所、一番安全ですしね……」
罪木が控え目に彼らの傍に付いた。日向も既に自分達側と認めているのか、快く彼女を迎え入れていた。今回の出来事を通して、彼らの傍が一番安全であるという印象が皆の中に植え付けられていた。
「よし、オメーら。さっさと見に行くぞ」
何時の間にスケーター達を配下に収めるような形に九頭龍が動いていた。
こうなってしまっては自分だけが見に行かないという選択肢は存在していないも同じで、渋々と言った様子をした者達も一緒にホテルのロビーへと向かった。
~~
設置されていたプロジェクターの端子にメモリを差し込んだ。ご丁寧にスクリーンも用意されていたので、自動的に映像が再生された。
映し出されたのは希望ヶ峰学園だった。ただし、マスメディアなどが取り上げる超高校級の才能を持つ者達が在籍する校舎では無かった。映像が切り替わる。
「ひっ」
西園寺が悲鳴を上げ、他の者達も口元を覆っていた。映し出された校舎内は床、壁、天井が血で真っ赤に染まっていた。
『た、たすけて』
廊下の曲がり角から出て来た男子生徒が助けを求める様に撮影者と思しき相手に視線を投げかけた瞬間、スラリと伸びて来た腕に彼の頭が握り潰された。
撮影者は息を殺して逃げていた。先程の存在に追いつかれたら殺される。偶然見つけた、掃除用具入れに入り込んだ。ロッカーの僅かな隙間から、先程男子生徒を殺害したと思しき者の姿が見えた。
全身の筋肉が膨張した巨漢は長い舌を出し、周囲をキョロキョロと見回している。すると、彼は用具入れの対面にあった教室へと押し入った。僅かな隙間から見える教室内もやはり血まみれだったが、押し入った男は教室内に設置されていた掃除用具入れの扉を勢いよく開いた。
『いや』
小柄な女子生徒が隠れていたのだ。彼女は悲鳴を上げる間もなく、頭部を握り潰されていた。カメラは撮影者の粗い呼吸まで拾い上げていた。この時の撮影者の気持ちは痛い程に理解できた。
目の前で殺された彼女には悪いと思うが、これで何処かに行ってくれと。だが、男は周囲をキョロキョロと見回している。そして、僅かな隙間から目が合った。ズカズカと歩み寄って来て、扉に手が掛けられた直後である。
『斑井。制圧部隊がそこまで来ている。引くぞ』
『村雨。もう、遅いようだ』
ヒュンと風切り音が聞こえた。斑井と呼ばれた男が腕を振るうと、何かが宙を舞った。そして、直ぐに誰かが駆けて来た。
白いスーツを着た青年だった。彼の手には刀が握られており、易々と斑井の腕を切り飛ばしていた。
『これは宗方先輩。お久しぶりです』
『斑井、早春。どういったつもりだ?』
『決まっているでしょう。才能を妬む連中を全員潰すんですよ。まずは予備学科のゴミ共から。次は連中を焚きつけた外の奴らを……』
『ふざけるな。この世界を破壊し尽くすつもりか』
斑井は隻腕で対抗していたが、宗方と呼ばれた男の攻撃を凌ぎ切れず。最後には首を刎ね飛ばされていた。だが、残された村雨と言う男子生徒には動揺が見当たらなかった。
『そうですよ。この世は才能も無く、妬むだけしかないゴミ共に支配されている。挙句、連中は努力すらしないで恩恵を貪ろうとした。俺達がコロシアイに巻き込まれた時、連中は嬉々として殺そうとして来た。これはもう超高校級と凡人共の戦争ですよ。既に俺達のシンパは世界に散っている。宗方さん、また一緒に仕事をしませんか?』
手を差し伸べて来た。握り返してくれることを信じて疑わない様子だったが、宗方は返答代わりに刀を振るっていた。村雨の首がずれ落ちた。彼の体も崩れ落ちた。彼は暫く呆然としていたが、やがて動き出すと掃除用具入れの扉に手を掛けた。
『こちら宗方。絶望関係者2名を討伐。また、保護対象を発見。彼女を連れて帰る。名前は?』
『き、希望ヶ峰学園予備学科。佐藤……です』
安心して力が抜け落ちたのか。手にしていたカメラを落とした。すると、撮影者である佐藤の姿が映し出された。
それは、半壊モノケモノが出現する前に姿を現した少女と瓜二つの物だった。丁度、バッテリーが切れたのか。映像はそこで終わっていた。
~~
「………え?」
皆がポカンとしていた。何が起きているか全くわからなかった。何故、希望ヶ峰学園があのようなことになっているのか。まるで事情が呑み込めない。予備学科と言う言葉も初めて聞いた。
「いや、何だよ。なんで希望ヶ峰学園があんなことになってんだ? どういうことなんだよ! ウサミ先生! 説明してくれよ!!?」
左右田が絞る様に叫んでいた。無視することも出来たが、却って不信感を招くということだったのだろう。彼女は姿を現した。
「そのメモリ。そんな映像が納められていたんでちゅね……」
「なぁ、希望ヶ峰学園に何が起きたんだ? 俺達は何に巻き込まれたんだ?」
事故と聞いていたから、何処か他人事のように思っていた所はあったが、事態は思ったよりも人為的な物で、かなり不味い状況だったように思えた。
「ミナサンは戦争に巻き込まれたんでちゅ。才能を持つ者と持たざる者に分かたれた人類史上最大最悪の絶望的事件に」
分かたれた時。自分達はどちら側に居たのか? 知りたい気持ちと同時に理解したくないという気持ちも存在していた。だが、腑に落ちることが多かった。
どうして自分達がこんな孤島に連れて来られているのか、危害を加えられようとしているのか。その答えは自ずと導き出されようとしていた。