舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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55時間目:防衛機制

「ウサミ先生。多分だけれど、僕達が加害者側なんだよね?」

 

 誰もが口にし辛いことを、狛枝は平然と言ってのけた。彼の顔に曇りはない。むしろ笑みすら見えた。彼はクルリと振り返り、皆を奨励するようにしていった。

 

「もし、自分が加害者になっているかもしれないと思っても気にする必要なんてないよ。才能もない予備学科の連中が僕達を妬んで始めたことなんだ。殴ったら、殴り返される。当たり前じゃないか。最も、彼らは殴ることさえ満足に出来なかったみたいだけれどね」

 

 そこには露骨とさえ言える蔑視と軽蔑があった。罪悪感など一欠けらも見当たらない様子に戸惑う者もいたが、彼に同調するようにして九頭龍も低く笑っていた。

 

「言われてみりゃ、狛枝の言う通りだ。なんで、俺達が気を病む必要があるんだ? 俺達が被害者なら問題はねぇ。仮に加害者でも先にやって来たのは予備学科や脳の無ぇ連中だ。殺しに来たんなら、殺されても文句はねぇよな?」

 

 極道と言う暴力の世界に身を置いて来た彼は、速やかに受け入れていた。

 なんてことはない。九頭龍組が予備学科や妬んで来た連中と抗争になっただけだと、考えていた。兄に続いて菜摘も賛同するかと思いきや、彼女は眉間に皺を寄せるばかりだった。

 

「正直。何言っているか分からないし、本当かどうかも怪しい。ちょっと考える時間が欲しいかも……」

「考えるも何も聞けば良いじゃねぇか。なぁ、ウサミ先生! 俺達はどっち側に居たんだ!?」

 

 九頭龍がバンと壁を叩いて問うた。誰もが固唾を飲んで見守り、モノウサだけがニタニタと笑みを浮かべている中、ウサミは口を開いた。

 

「自分達でそれを調べて貰う。と言うのが次の治療プロセスだったんでちゅよ」

「……は?」

 

 YESかNOの答えを期待していたので、こんなはぐらされ方をするとは思っても居なかった。ウサミは説明を続けた。

 

「ミナサンが絆を育み、自分達の記憶を受け止められるようになったと判断したら、人類史上最大最悪の事件を調べて貰い、自分達もどんな風に関わって来たのかを理解した上で、どうしたいかというのを問うつもりだったんでちゅ」

「無関係。ではないことは確実なんだよね」

 

 小泉がポツリと呟いた。先程の映像を撮影していた佐藤を手に掛けようとしていたのかもしれない。と思うと、未だに震えが止まらない。積み上げて来た友情が才能と妬みで簡単に覆ってしまう物だと信じたくはなかった。

 

「はい。でも、正直今の状態で記憶を見せられたとしても受け止められないか、狛枝クンや九頭龍クンみたいに心の防衛の為に正当化しちゃって終わっちゃいますから……」

「ンだと? 俺達が悪ィってのか!?」

「やめんか!」

 

 九頭龍がウサミに掴み掛ろうとした所で弐大が止めに入った。流石に彼の膂力には敵わないらしく、不機嫌そうに腕を下ろしていた。

 

「今後のことを考えると。多分、第3の島に行ったら同じ様なギミックが待ち受けているんだろうね。……皆はどうしたい?」

 

 七海が改めて皆に問うた。今までは、元の生活に帰りたいと言うことから、協力していたが、戻った所で無事でいられる保障がない。となれば、留まるという選択肢を取る者も出て来るだろう。

 だが、いきなりこんな情報を開示されて呑み込めるハズがない。誰もが答えを出せないまま戸惑っていた。

 

「ひとまず、考える時間を設けようよ。進むにせよ留まるにせよ。僕は皆の意見を尊重するよ!」

 

 狛枝が場違いな位に明るい声で言っていた。全員が作業して疲れていたこともあったのか、皆はコテージの方へと戻って行った。

 

~~

 

 ……と言うことも無く、スケーター達はホテル前で滑り続けていた。多分世界がどうなっていようが本当に興味が無い位の集中力だった。

 人が集まっていると、人も寄って来るのか。コテージに居ても休まらなかった者達が再びホテル前へと足を運んでいた。

 

「日向さ~ん」

「創ちゃ~ん。皆~!」

 

 罪木と澪田の手にはスケボーが握られていた。日向達は満足そうに頷きながら、スケボーに乗って風を感じていた。

 戦闘や作戦も出来るが基本が大事。ウィールが地面を舐め上げ、足元に伝わる振動がとても心地が良い。上手、下手。才能の有る無しではなく、誰もが楽しむべきなのだと。彼の所作が物語っていた。

 

「そうですよね。外の世界とかどーでもいいですよね。私はずぅ~っと、この島に居ても良いと思っています」

 

 初日に比べたら素早さや爽快感は程遠いにしても転ばずに滑れる様になっただけで非常に大きな進歩だった。流石に応用的なトリックは難しいにしても、彼女がめげたり諦めずについて来てくれたことが何よりも嬉しいらいし。

 そんな日向の陽気さに釣られたのか。普段は自発的に他者に声を掛けることの少ない罪木が澪田へと質問をしていた。

 

「澪田さんはどうですか?」

「唯吹は……どうっすかねぇ。難しいっす」

 

 言った後で気付いた。日向や自分の様に自分の中で完結する才能ではなく、軽音楽部と言えば観客がいてこその才能なのだ。となれば、外への世界の未練は自分達よりも強い物ではないかと。

 

「やっぱり。皆に聞いて欲しい、とかですか?」

「それもまた難しい所なんっすよ。音楽だけじゃなくて、小説とか映画とか。大衆に受ける物と、表現したい物って違うことが往々にしてある物なんっすよ」

 

 少しだけ意外だった。こういった才能の持ち主は自分の世界をバリバリに発揮して、世間からも高評価を得て認められている。とばかり思っていた。

 

「澪田さんは違うんですか?」

「そうなんっすよ。だから、唯吹だけが脱退しちゃったんっすけどね。放課後ボヨヨンアワーって聞いたこと無いっす?」

「すいません。あまりテレビとか見たことが無いので……」

 

 よく見れば、罪木の全身は傷痕の様な物が多いし、髪型も不揃いなことからマトモに散髪をしたように思えなかった。何よりも彼女の卑屈さから、どういった境遇にいたかは薄っすらと察していた。

 

「まぁ。ここじゃ、そう言う常識とか当たり前とかを気にしなくていいんっすよ。創ちゃんは皆と遊んで、ちょっと飽きて来たら真面目に考えてみるっす!」

「は、はい!」

 

 2人の会話を聞きながら日向達は頻りに頷いていた。他に見る者もないのか、モノウサもスーパーから取って来た、ドデカボトルに入ったコーラを飲みながら寛いでいる。

 

「もしも、皆がずっとここに居たいと思ってもアイツは否定しないと思うよ? 何でもかんでも前を見て進め! なんて結論は、部外者が思うだけの退屈な予定調和にしか過ぎないからね。終わらないゆるふわ日常系。超高校級のけいおん!楽部の彼女に相応しいと思わない?」

 

 モノウサの言葉には反応せずに。日向は何処から取り出したか氷の入ったコップを差し出していた。お前ばっかり飲んでいないで、入れてくれよ。

 この程度のワガママには慣れたのか、モノウサも嫌がる素振りも見せずに注いでやっていた。グイッと一杯あおった後、彼は再び皆と一緒にスケボーを再開していた。

 

~~

 

 小泉のコテージ。一旦、皆と別れた後。彼女は考えていた。このまま真実を知るべきか否か? 知らないという選択はなかった。事態を知りたいというよりも友人がどうなったかを知りたいという面の方が強かったが。

 

「お姉。いる?」

「あ。日寄子ちゃん」

 

 何の警戒も無く扉を開けると西園寺が居た。彼女の腕にはスーパーから持って来たと思しき、外国産のよく分からない甘味菓子が抱えられていた。どうやら長話をするつもりでいるらしい。

 快く彼女を招き入れると、コテージ内のテーブルの上に菓子をドサッと置いた。見たこともない物だし、食おうとも思っていなかったがこんな物しかないので食べてみた所。

 

「うわ。味付け雑っぅ」

「コクとかそう言うのがちっともないね」

 

 花村の料理が恋しくなるレベルで美味しくなかった。しかし、こんなのでも摘まむ物が無いよりはマシだった。口火を切ったのは西園寺からだった。

 

「お姉は当然知りたいよね。私達の記憶について」

「うん。佐藤ちゃんが何に巻き込まれているか知りたいしね。そして、……私達がやって来たことも」

 

 自分達が加害者側であるというのはあくまで予想だ。かなり黒に近いがグレーではある。だとしたら、自分達が何を犯して来たのかを知るべきだ。と思う程度には、彼女は常識的だった。

 

「お姉は真面目だよね。ホテル前でスケートしている奴らみたいに、もっと気楽になればいいのに」

「いや、流石にアレは……」

「アホだよね。アホ!!」

 

 折角、言葉を濁していたのに西園寺は遠慮も無く言ってのけた。ただ、小泉も少なからず思っていたのか噴き出してしまった。

 

「確かに。あそこまで行くと。ちょっと笑えるよね」

「そうそう。アレ位気楽にしていて良いと思うんだよねー。責任? 記憶? 知らなーい! って感じでさ!」

 

 もしも。もしも記憶を取り戻したとしたら。自分は何を思うのか? どういった行動を起こすのだろうか? 心の安寧を図るという意味では、西園寺が言ったような考えで居ることも必要になって来るのだろう。

 ただ、その場合。小泉は自分で自分を許せる気はしなかった。今の自分が未来の自分を殺すような気さえした。

 

「私もそんな風で居れたらなぁ」

「居ても良いんだって。少なくとも、私は色々と知った後でもここに残りたいとは思うね。外に戻っても碌なこと無いしね。でも、ここにはお姉がいるもん」

 

 もしも、彼女が本来通りに常識的で良識的なら懇々と正しさを説いていたことだろう。だが、今の彼女は寄る辺の無い不安に支配されている。だから、こうして頼って貰えることが嬉しく思えた。

 

「……そうだね」

「明日も明後日も誰かが馬鹿やって、同じ様な日々を繰り返すだけって言うのも良いと思うんだよね。あー、でも。外の娯楽とかが入って来ないのはちょっと辛いかも。ウサミ先生かモノウサに何か言えば仕入れてくれるかもね」

 

 彼女が謳う甘い誘惑が、不安に揺れる心を溶かそうとしていた。

 そんな小泉の様子を察しながら、西園寺は楽しく語らっていた。それこそ、美味しくもない甘味菓子や酸味の入った菓子すらも咀嚼できるレベルで。

 

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