日向達がスケートボードに興じ、西園寺が小泉と歓談を繰り広げている中、それ以外のメンバーの大半は田中のコテージに集まっていた。主である田中は集まったメンバーを確認して、改めて意思確認をした。
「ここに居る者達は外の世界に戻りたい者達。という認識で構わんな?」
「はい。私には帰るべき場所がありますから」
まず、第一に賛同したのはソニアだった。あんな映像を見た直後故に、彼女は母国の様子を一刻も早く知りたいと考えていた。
「オレもだな。弟妹達がどうなっているか知りてぇ」
「アレ? お前、弟妹居たのか?」
「ちょっと色々とな」
左右田が尋ねた所。詳細がはぐらかされたので、これ以上は聞くべきではないと判断して、彼も深堀しようとはしなかった。
「ワシも面倒を見て来た選手やチームの様子が気になる。外に確認しに行きたいんじゃが、田中。お前さんはやはり外に残して来た者達のことを?」
「あぁ。外の世界に残して来た者達がどうなっているか。それに、家に残して来た者のこともな」
2人の才能は他者に働きかける物であった為、やはり彼らも外の世界を一早く知りたいと思うのは自然なことだった。彼らの様な確たる理由がある訳でもなく、左右田は単純に自分の家の様子を知りたいが故にここにいた。
「左右田君。そんなに理由付けを考えなくても良いと思うけれどね。私なんて、新作のゲームがしたいから外に出たいんだし」
「なんか、俺。お前にフォローされてばっかりだな……」
「多少はね?」
彼女の気さくなフォローによって、左右田は何とか気を取り直していた。ここにいるメンバーは6人。全体の約1/3を占めている。他の者達の動きが気になる所だった。
「まず、日向達は一旦置いとこう。アイツらは何を考えとるか分からん」
「うむ。奴らは一足早く別次元へと踏み入れた様だからな。俺が居た魔界とは別所のようだがな」
普段なら一笑に附す戯言ではあるが、本当に彼らは別次元にいるかのような思考や挙動を取る為、彼らの思考は推測するのも困難だった。
「いや。多分、スケボー出来たらどうでも良いと思っているんじゃないかな」
「俺もそんな気はする」
七海と左右田が身も蓋も無いことを言っていた。だが、本心はやはり聞いてみないと分からないので保留にするとして、問題は他のメンバーだ。
「この場にはいないが九頭龍と菜摘も帰還側にいる筈だ。極道とあろう者が、自分の組を気にしない訳が無いからな」
この島にいるメンバーの中で団体への帰属意識が強いとなれば、やはりあの2人だろう。極道と言う集団は、それだけ特殊な物だった。
「ただなぁ。小泉や罪木とか、あの辺りが良く分かんねぇ」
終里も彼女達と同じ女子ではあるが接点は少ない。どうにも彼女達はこじんまりとした関係で完結しがちだった。
「小泉か。どうにも今回のトラブル? って言うか、事件みたいなのにアイツの友人が絡んでいるらしいしな。ここら辺の意見は真相を知ってからじゃないと難しそうだ。俺はどちらかっつーと問題は、アイツの横にいる西園寺の方だと思う」
女子として比較的マトモな小泉と話したりしていた左右田は常々思っていた。自分が会話をしようとすると、ほぼ確実に西園寺のインターセプトを食らう。それだけ彼女の独占欲は強かった。
「この円環の中に閉じこもりたいと考える可能性も無きにしも非ずか。全員の意見が一致しないという状況は、あまり生み出したくはないな」
「うむ。意思決定に関しては個々の選択が尊重されるとは思いたいが、ウサミ先生がどの様に取り扱うかも分からんからな」
何をするにしても。意思決定に関係する情報があまりに少なかった。ここに居る者達も真相次第では、外に出て行かなくなるという可能性もある。
「外に出る集いとして。何か事が起きたり、進展があれば集まる様にしよう。遠からず、似たようなイベントが起きるだろうからな」
「だろうね。相手からすれば、私達がこれだけ揺さぶられているんだから落ち着く前に次の手を打ちたいと思っているんじゃないかな?」
一つの情報が開示されただけで、これだけ議論や行動が起きるのだ。
変化を望むなら落ち着く前に行動するべきだ。また、同じ様な手掛かりや記憶が供給される可能性を考えていた。
~~
「おい、テメーら。ちょっと良いか?」
ホテル前でスケボーを満喫していた日向は突如として九頭龍に呼び止められた。何事かと思い、全員で彼の方を見ていると。付いて来いと、ハンドジェスチャーを送られた。
「九頭龍ちゃん。創ちゃん達に何の用が?」
「ひょっとして、先んじて第3の島に行くとかですか?」
同じ様にスケボーを楽しんでいた澪田と罪木の顔に不安が浮かんだが、彼は首を横に振っていた。
「行かねぇよ。俺達は第2の島は、あのメモリを取っただけで満足していたけれどよ。すっげー、意味ありげな施設があったじゃねぇか。あの遺跡だよ」
第2の島に閉じ込められた時、澪田達も訪れたが入り口が閉ざされていた為、引き返すしかなかった施設だが。
「あそこは創ちゃんが入ろうとしてウサミ先生に怒られていた場所っすよ?」
「逆に言えば、俺達にとって知られたくない情報があるってことだ。そんなモン、現状を鑑みれば分かるよな?」
自分達の隠された記憶に関係すること。取り戻したとしてもプラスに働かないかもしれないが、それでも不安の中で宙ぶらりんになるよりかはマシだと考えていたらしい。
澪田と罪木が渋い顔をして、スケーター達が顔を見合わせている中。モノウサの盛大なゲップが響いた。
「あのね。九頭龍クン。無駄になると思うから止めた方が良いともうよ?」
「あ? テメー、やっぱりアイツと組んでんのか?」
「そう言う訳じゃないんですけれどね。まー、僕が言っても無駄だと思うし。試して来たらどう?」
「言われなくてもやってやる。付いて来い!」
何故か、拒否することも無くホイホイとスケーター達は付いて行った。本当に記憶の有無とかは興味が無いのだろう。澪田と罪木も戸惑いながら彼らに付いて行った。
…………スケートボードによる移動もあった為、比較的早いこと遺跡前に辿り着いた。以前、十神達と調査した時と変わりない様に思えたが、キチンと変わっている場所があった。
「なんだこりゃ?」
入口前には大量のゴミ箱によるバリケードが作られていた。九頭龍からすれば意味不明としか言いようのない光景だが、日向達は恐れ慄いていた。
間違いない。コレを設置した奴らはスケーターのことを十全に把握していると。言葉にしていないので、彼らがビビっている様子しか伝わらなかったが。
邪魔なのでどけようとしたがビックリする位に重くて動かない。ならば、中身を掻きだして移動させようと蓋を開けた所。
「ヴォエ!!」
思わず、九頭龍はえずいてしまった。中には大量の生ごみが入っていたのだから、当たり前の様に臭気が立ち込めていた。体調が悪くなった九頭龍を看病するよう、ひょっこり現れたウサミが彼の背中をさすっていた。
「ごめんなちゃい。やっぱり、生活しているとゴミとかはどうしても出ちゃうものなんでちゅ」
「そう言う量じゃねぇだろ!! おい、コラ! これどけろ!!」
「生ごみはちゃんと然るべき処置をして捨てないと環境によくないんでちゅ。一旦、ここを集積場にしていまちて」
「おかしいだろ!? なんでこんな文化遺産的な物の前に生ごみ集めてんだよ! 教師の癖に文化を冒涜してんじゃねぇよ!!」
余程、生ごみスメルを食らったことにお怒りだったのか、九頭龍は暴言マシンガンを乱射していた。モノウサはわざとらしく鼻を摘まんでいた、
「兎も角。ゴミはちゃ~んと処理をするので、ミナサンは絆を深め合って欲しいんでちゅ。学級目標は一旦お預けにしても、話し合ったり趣味に興じたりと。そう、日向クン達みたいに過ごすのが一番でちゅ!」
「テメー! 嘗めてんのか! もういい! オイ、日向! 行け!!」
ここまで何の拒否感も無く付いて来た彼らだが、物凄く嫌そうな顔をしていた。
だが、やらなければ納得もし無さそうだったので日向はスケボーに乗って遺跡の入り口に向おうとした。
しかし、立ち並ぶゴミ箱にぶつかった瞬間。彼の体はぶっ飛んだ。空高く打ち上げられ、クルクルと回転しながら落ちて来て、地面に刺さった。
「ひ、日向さぁん!?」
「大変っす! 引き抜かないと!!」
慌てて罪木が引き抜こうとするがずっぽりと埋まっている為、中々に引き抜けなかった。澪田が周囲の土を掻き分け掘り起こそうとする光景をモノウサが爆笑しながら見ていた。
「ぶひゃひゃひゃ!」
「コラー! 笑ってないで、助けてあげなちゃい!!」
ウサミがステッキを振るうとズボっと引き上げられた。自らに付いた土を払いながら、彼はジト目で九頭龍の方を見ていた。満足か? と言わんばかりに。
これには彼も舌打ちをするしかなかった。自分の考え程度は見抜かれていた。だが、この遺跡には重要な情報が秘匿されているという予想は確信に変わっていた。
「待ってろよ。俺は直ぐに思い出してやるからな」
「……出来たら、そう言うことじゃなくて。本当にさっき言っていた様に。日向クン達みたいに趣味や才能を通して人と繋がって欲しいんでちゅ」
さっきのは揶揄でも皮肉でもなく本心で言っていたらしい。だが、今の九頭龍に伝わる訳もなく。彼らは渋々と第1の島へと帰って行った。……後に残ったモノウサはチラリとウサミの方を見ていた。
「でも。このままじゃ、真相を知ることに執着して絆を育む所じゃないよ?」
「最初のビデオを見せなければ。と思ったんでちゅが、そんなことをしたら結局疑念が溜まるだけでちゅから。……でも、こういう形でもミナサンが繋がって行くことを信じているんでちゅ」
騙しだましだけではなく、残酷な真実が垣間見える現実の中でも強くあって欲しいという彼女の願いだったが、モノウサはせせら笑っていた。
「どうだかね。ただ、そろそろイベントも起きそうじゃない?」
彼が指差した先。第3の島の方へとカメラを拡大すると、何かしらの異変が起き始めていることが、ウサミにも確認できていた。