舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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62時間目:笑顔

 長時間の視聴は人間の脳を疲弊させる。イルブリード2は前作ほどではなかったが、一般の映画よりも尺が長いのは事実だった。

 加えて、1作目の様に刺激的な展開は少なく、説明パートが多めに盛り込まれていたこともあって、イルブリ2組の判断能力はかなり落ちていた。今回はモノウサも含めて全員が着席していた。

 

「弐大さぁあああああああん! 無理そうだと思ったら即目を伏せてくださぁああああああああい!」

「うん……」

 

 一方、推しの子を見ていた者達は映画に対する期待。また、視聴者を引き込む程の構成がなされていたこともあって、集中力は高いままだった。

 照明が消える。CMなんかは用意されておらず、オープニングの挿入も無い。映し出されたのは、希望ヶ峰学園だった。

 ただし、マスメディアなどで映し出される煌びやかな姿はなく、周囲にはセントリーガンを始めとした大量の兵器が設置され、要塞化されていた。

 

『生田。早春と一式が殺された。前生徒会長は無能共の味方をするらしい』

 

 前回に見た映像では殺されたハズの斑井が映し出されていた。報告を受けていた、生田と呼ばれた女子生徒は爪を噛みながら言った。

 

『二式。今、動ける奴はどれ位いる?』

『如月と西澤からは報告が無い。恐らく、突っ込み過ぎて返り討ちに遭っている。豪力もグレート・ゴズに捕縛された。まぁ、生きて帰って来ることは無いだろうな』

『結局、才能は寄生虫共に殺されるしかないのか』

 

 彼女の唇の端からは血が溢れていた。現状、ほぼ全ての人類に反旗を翻した超高校級の才能の持ち主達は、確実に追い詰められつつあった。

 各分野に秀でた能力があれど、所詮は少年少女。経験も物量も足らず、凡才共に磨り潰されるのは時間の問題と言えた。彼女が髪を掻き毟っていると、不意に扉が開いた。

 

『ですが、このまま磨り潰されるのは面白くありませんよね?』

『アンタは、78期生の』

『はぁい。超高校級のギャル! 江ノ島っでーす!』

 

 このイルブリード3は間違いなく、続編であった。1,2と主役を務めていた彼女がこうしてスクリーンに登場していたのだから。戸惑う他のメンバーに対して、モノウサは張り裂けんばかりの笑みを浮かべていた。

 

「何が起こるんだろうねぇ」

 

 今までの様にグロッキーになることは無く、心の底から鑑賞を楽しんでいる様に見えた。左右田は先日まで同情のような物を覚えていたが、そんな親近感が掻き消える程だった。

 部屋内にあった端末を操作してモニタに大量のデータを映し出した。日本だけではなく、アメリカやヨーロッパなど各所の物だ。

 

『私の分析によりますと、超高校級という希望の反撃は間もなく始まります。そう、私達希望ヶ峰学園は深~~~い絆で繋がっているのです』

 

 一見すると美辞麗句の様に聞こえるが、彼女は何処からか入手した動画データを一面に再生していた。数人の男に囲まれる女性が映し出されていた。

 

『コイツは希望ヶ峰学園のOBだ! 俺達を殺そうとしているんだ!』

『違っ……』

 

 女性の弁解は聞き入れて貰えず、暴力を始めとしたありとあらゆる欲望の捌け口として使われ、未来に羽ばたくべき才能は無残にも圧し折られていた。

 時間を前後して、視点が一人称へと切り替わった。彼らの暴行中に幾度もシャッターが切られていた。助けることも無く、逃げることも無く、ただジィっと一連の行為を撮り続けていた。

 

「おい」

 

 左右田の心臓が早鐘を打っていた。自分達の同級生とあまりに符合する箇所が多かった。そんなハズは無い。彼女が取る写真には笑顔が溢れているハズで、それを確認するかのようにスクリーン内には写真が映し出されていた。

 笑顔が沢山映っていた。鈍器を振り下ろし、抵抗のできない相手を打ち据え、醜い欲望を吐き出している彼らが浮かべていた表情は間違いなく笑顔だった。

 暫くすると、男達は次の獲物を求めて狂笑を上げながら走って行った。撮影者は物言わぬ遺体に近付き、自撮りする様にしてカメラの向きを変えていた。

 

『はい』

「チーズっ」

 

 スクリーン内の声が直ぐ傍から聞こえて来た。一部始終を撮影録画していたのは、超高校級の写真家『小泉真昼』に他ならなかった。

 

『もう、超高校級や希望ヶ峰学園のOB達は一蓮托生なんですよ。どちらが生存(いき)るか絶滅(くたば)るか。生田先輩、生き残るべきは優秀な人間です。物量に任せて予定調和を望む連中なんて跳ね返してやりましょう』

 

 限界状態にあった生田の瞳が煌々と輝いていた。既に戦いは巻き起こった。日和見など許すつもりも無い。望みは絶たれた。

 昨日までの隣人が全て敵に変わり果てたなら戦うしかない。彼女はマイクを掴んで叫んでいた。屈するべき膝は持たぬと、戦って死ねと。次々に各地方での状況が映し出されようとした時、異変は起きた。

 まず、虚弱になっていた弐大の意識が落ちた。こんな映像を見て寝れる程の肝っ玉を持っていない彼が眠りに落ちるのはおかしい。

 

「あんにゃろ」

 

 モノウサが何かに気付いたように空調の方へと駆け寄った。何かを流し込まれていると、察しの付いたメンバーは直ぐに外へと向かった。……殆どの者が館内で倒れる羽目になった。

 粗い呼吸を繰り返しながら、左右田は自らの幸運に感謝していた。彼が座っていた席が入り口に近かったこと。また、隣の席に座っていた日向と狛枝の動きに気が付いて、咄嗟に動けたこと。

 

「ほぼ全員があそこで倒れる羽目になった訳か」

 

 十神が舌打ちをしながら呟いた。脱出できた生徒は僅か数名だった。いずれも変調を来してからもマトモな精神を保っていた者ばかりだった。

 

「お、大丈夫か大丈夫か」

 

 マトモな人間の1人。七海が汚い男性のボイスで皆の心配をしていた。語録しか喋れなくなっても思考自体はマトモなままであるらしい。

 

「流し込まれたのは催眠ガスか何かは分からんが……」

 

 辺古山もまた脱出に成功した人間の1人だった。こんなことをするのは、半壊モノケモノを動かしていた連中だとしたら、疑問が生じる。

 

「例の半壊モノケモノは僕達に思い出すべき。だと言っていた。だったら、あんな介入はせずに僕達に最後まで映画を見せるべきだと思うんだよね」

 

 狛枝の推論通り、あの映画には間違いなく自分達の失われた記憶に関係する物が入っているのだろう。……恐らく、到底受け入れられる物では無いだろうが。

 

「と言うことは、あの介入はむしろ。僕達に映画を見させない為の物だった?」

 

 運動神経のよくない花村が脱出できていたのも思考のマトモさ故だった。

 彼の言う通り、あの介入はむしろ自分達が記憶を取り戻すことを阻止するかのような動きだった。

 

「本当だよねー。余計なことをしてくれたよ。折角、あの後に小泉さんの糾弾会が待ち受けていたのにさ」

 

 モノウサもヒョコヒョコ歩いて来た。皆としては彼に尋ねたいことは大量にあったが、まず聞くことがあるとすれば。

 

「モノウサ。あの薬剤散布はお前がしたのか?」

「する訳無いじゃん! あんな面白い瞬間に! でもまぁ、こんなことをする奴なんてほぼ限られているでしょ?」

 

 日向の疑問に隠し立てすることなく答えた。そして、モノウサの言い方からして、心当たりのある人物は多くはない。ガチャンと映画館の扉が開いた。入って来たのは長身の少女、佐藤だった。

 

「驚いた。起きている人は結構いるのね」

「てことは、やっぱりお前が」

 

 左右田の疑問には一切答えない。彼女の下半身が機械仕掛けの蛇の様にだらりと垂れ下がり、信じられない程の速度で日向達の脇を擦り抜けて映画館内に入って行った。

 唯一反応できた辺古山が竹刀で佐藤の胴体を打ち据えたが、まるで効果は無かった。そして、佐藤の腕には小泉が抱えられていた。

 

「こんな状態で見られても困るの。大丈夫、真昼は私が治すから。アンタらは倒れた連中の面倒でも見ておいてよ」

「待て!」

 

 日向が追いかけようとするが、あまりの速度に見失ってしまった。左右田が叫んだ。

 

「おい! 日向、追いかけろ! いつもみたいに!」

 

 スケボーを使えばあの速度にも追い付けるのではないかと思ったが、ハタと気付いた。日向の手にはスケボーなど握られていないことに。

 必死に追いかけようとしたが人間の脚力で追いつくはずもなく、直ぐに見失ってしまった。どうするべきか途方に暮れる中、モノウサが言った。

 

「とりあえず、部屋を換気して変な薬成分を表に出そうよ。ね?」

 

 倒れた者達の安否も気になる、暫く外へと繋がる扉も解放して、空気の換気を行った後、彼らの安否を調べることにした。

 

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