舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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67時間目:ファインダー

 日向達が病院内の探索をしている頃、十神達は第3の島を探索していた。

 この島に来てから間もない頃に一度自由探索をしたことがあったが、あの時は隈なく調べる程のモチベーションは無かった。

 

「モーテル、ライブハウス、映画館、家電量販店がある位で大した物は無いんだよな。それでも、一般的な娯楽が集まっているイメージはあるんだけれどよ」

 

 この島は、第1、第2の島の様に生活必需品がある訳ではない。いずれも、自分達が才能を伸ばし研鑽する為の場所と言う印象が強かった

 

「左右田君なら家電量販店の品での製造を、ライブハウスとかは澪田さんや西園寺さんに何かしらの出番があったかもしれないね」

「今は2人共、病院だけれどな」

 

 狛枝の言うことに付け加えるなら、病院も罪木が才能を発揮する場所であった。ライブハウスも家電量販店でも大した情報は得られなかったので、彼らは映画館に足を運んでいた。理由は一つ。

 

「まずは、俺達だけであの映画の続きを見てみないか?」

 

 十神の発言に皆が頷いていた。あの騒ぎで中止になってしまったが、映画の続きは誰もが気になっていた。

 アレが外の世界の状況だとは信じたくはないが、何が起きているかは知りたい。……そして、小泉の様に自分達も何かしらの事件に加担しているとすれば、やはり知らないままでは居られない。

 

「でもよ。誰か映写機の使い方分かるのか? 俺達の時はモノウサがやってくれたけれどよ」

「いや。そもそも、この映画館事態が僕らの修学旅行先の施設として使われていた訳でしょ? なら、僕達だけで再生できるようにマニュアルとかもあるんじゃないかな?」

 

 本来ならば、自分達は修学旅行を通して絆を深めて……。という予定だったので、保護者を呼び出さなければ使用できない施設などはあまりに不便だ。

 映画館に入った一同はスタッフルームなどを探して、やがて映写室と思しき場所が見つかり、中にはプロジェクターや再生機なども設置されていた。

 

「えっと、左右田君。僕には全然分からないんだけれど、分かる?」

 

 花村としては殆ど縁の無い機器の数々に目が点になっていたが、一方の左右田と言えばマニュアルらしきものを取って来て目を通していた。

 普段は落ち着きのない男であるが、機器に接するときの集中力はメンバーの中でも頭一つ抜けている。見たことも無い再生機に色々と触っている内に、ある程度の確信が生まれたのだろう。

 

「おい、皆。スクリーン1に入ってくれ。多分、再生できる。あ、モノウサにも言われていたけれど館内の飲食物は口にするなよ。それと、何があっても脱出し易い様に入り口側の席に座ってくれ」

 

 機器に使っていた集中力の余剰が現れたのか、普段の彼からは想像も付かないような意見が出されていた。これには十神も深く頷き、狛枝も震えていた。

 

「凄いよ、左右田君。まるで別人だ。イルブリードを見て涎を垂らしていた君と同一人物とは思えない!」

「うるせぇ。さっさと、イルブリ3見るぞ」

「おかのした」

 

 口を挟むのも野暮だと思っていた七海が鳴き声の様な同意をしていた。

 館内にはドリンクやポップコーンなどがセルフで置かれていたが、誰も手に取らないまま該当のスクリーンへと入った。すると、既に映像が少し再生されていたのか、以前に自分達が見たシーンが映し出されていた。狛枝はピンと来た様で、七海の方を向いて言った。

 

「この赤毛の女子生徒。確か、七海さんがプレイしていたイルブリードのゲームで主人公の隣にいた子だよね?」

「そうだよ」

 

 あの時は映像を見ることに注力していたが、一度見たシーンであれば自分の中の記憶と合わせて考証することも出来た。

 映像は進む。何かしらの才能を持っていた少女が暴漢達に暴行された後、小泉がセルフィーをした……続きである。

 

『ギャアアアアアアア!!!!!!』

 

 先程の男性達と思しき悲鳴が響き渡っていた。画面の端から逃げて来た男が一瞬映し出されたが、飛び出して来た2人の男に拘束されていた。

 彼らはいずれも頭部にモノクマを模した被り物をしており、身なりをスーツで固めていたので組織めいた統一感があった。彼らの襟元には『九頭龍』と書かれた代紋が付けられていた。

 

『俺達に手ェ出したんだ。ケジメは付けて貰う』

 

 同じ様なモノクマヤクザを率いて現れたのは、眼帯を付けた九頭龍だった。隣にはグレーのスーツを着た辺古山の姿もあった。

 先程の男達はモノクマヤクザに捕らえられていた。そして、処置は速やかに行われた。1人の男はズボンを脱がされると同時に露わになったブツを切り飛ばされた、別の者は睾丸を踏み砕かれた。ある者は鈴口に折れた割り箸を突っ込まれていた。

 

『畜生! 死ね! お前ら皆、死んじまえ!!』

 

 残された男が呪詛を吐くが、何の意味も持たない。最後の男に下されたのは至ってシンプルな暴力だった。顔面が変形するまで殴られ、体中の骨と言う骨が折られ、やがて水っぽい音に変わって行く。

 だが、彼らは死には至らない。全身を駆け巡る苦痛と絶望の中で、満足に治療も受けられぬ中、野晒しにされている。

 

『おい、何見てんだ』

 

 既に制裁を加えた相手には興味が無いのか、九頭龍はこれら一部始終を撮影していた小泉の方へと視線を向けた、彼女は悪びれることも無く駆け寄った。

 

『良い画が撮れたよ!』

 

 無邪気に朗らかに写真を見せていた。醜悪に歪んだ男達の笑み、それが一転して苦悶と苦痛に塗れた絶望へと転じる写真に彼女は、言いようのない興奮を覚えていたのか、笑いながら泣いているという器用な表情をしていた。

 

『下らねぇ』

『これをネットにアップロードしたら、凄い数のいいねが付くんだよね』

 

 九頭龍の凍り付いた表情に浮かんだのは侮蔑ではなく憐憫だった。

 皆の笑顔をフレームに収めて沢山の思い出を作って来た彼女が、今となれば衝撃的で、憎悪を煽るだけの低俗な写真家になっていたことに思うことがあったのだろう。だが、腐っても超高校級だった。彼女が納めて来た物はいずれもセンセーショナルな物で、才能と凡人の争いを加速させていた。

 

『九頭龍達も1枚どう? ほら、ピー……』

 

 瞬間、辺古山が小泉を蹴り飛ばしていた。瞬間、彼女達がいた場所にカランと何かが落ち、大量の破片を撒き散らしながら爆発した。辺古山はこれら全てを弾き飛ばしていたが、モノクマヤクザは全身をズタズタに引き裂かれていた。九頭龍はと言えば、近くにいた者を身代わりにしていた。

 交戦の気配を感じたのか、小泉は迷うことなく場を脱していた。戦場カメラマンめいた危機管理能力で迷うことなく、生存への選択を取っている中。彼女の逃走経路の先には、見知った顔があった。

 

『真昼……』

 

 スーツに身を包んだ長身の女性は、小泉に対して縋る様な視線を向けていた。一方、彼女はと言えば旧知の友人に再会した気安さで挨拶を交わしていた。

 

『あー! 佐藤ちゃん! 久しぶりー! よく、生き残っていたね! 死んでなくて本当に良かった!』

 

 小泉はピョンピョンと飛び跳ねて笑っていた。一方で佐藤は震えていた。

 このまま何気ない会話をすれば、終わってしまった日常が帰って来るのではないかと淡い期待を抱いて、直ぐに捨てた。手にはテイザーガンが握られている。

 

『もう、やめて』

『なんで? 私は今も昔もずっと写真家だよ。私の写真、見てくれた? 沢山の笑顔が溢れているでしょ?』

 

 恐らく、これは皮肉でも何でもない。小泉は友人との再会を本当に喜んでいるんだろう。だからこそ、佐藤は涙を流していた。彼女が何を撮っているかを知っていたからだ。

 こんな緊張状態の中でやるべきことではないと分かっているが、佐藤は支給された専用のスマホを使って、小泉の取った写真を表示していた。

 

『笑顔は撮れているよ』

 

 今までの彼女の写真に映っていた笑顔は自然と零れていた物で、見る者達を幸せにする物ばかりだった。彼女の眩いばかりの才能に惹かれていた。

 そして、今も小泉が撮影した写真には笑顔が溢れている。少女を暴行する男性達の歪んだ笑み、大量の凡人達がまとめて殺される様子を見て高らかに笑っている同級生、復讐のウロボロスが嗜虐癖を満たし続ける地獄には笑顔が咲き続けていた。裂き続けていた。

 

『さぁ、佐藤ちゃんも笑って! 久しぶりの再会なんだから!』

 

 小泉は笑っている。笑いながら泣いている。彼女が切り取って来た日常と幸せは、暴力と怨嗟に塗れて完全に壊れていた。悍ましきは、壊れた状態でも才能は働き続けていた。

 彼女を捕縛する為に、佐藤は後詰めの構成員達をも使って確保に回るつもりだった。しかし、割って入って来た存在によって蹴散らされていた。

 

『おっせぇーぞ! 小泉!!』

 

 殆ど布切れを纏っているだけの終里が蹴り飛ばした構成員の頭は叩き割られていた。見れば、彼女が履いているシューズの踵には鋭利な刃の様な物が装着されていた。

 確保を諦め排除に映ろうとした構成員達が実銃を取り出したが、瞬く間に小泉の身柄は終里に攫われていた。佐藤が叫んだ。

 

『待って!!』

『じゃあね~』

 

 状況が状況であるにも関わらず、間の抜けた声と共に彼女達の姿は遠ざかって行く。佐藤は掲げた手をだらりと下げた。

 

~~

 

「んん……」

 

 小泉が目を覚ました時、辺りは全く知らない場所だった。他のメンバーもおらず、自分の記憶も飛んでいる。一体何があったのだろうかと周囲の状況を確認すると、ノックの音がした。

 

「起きた?」

「佐藤ちゃん?」

 

 入室して来たのは佐藤だった。あまりに聞きたいことが多すぎた。何故、貴女がここにいるのか。ここは何処なのか? この島で何が起きているのか?

 色々な疑問が殺到したが、入室して来た佐藤は小泉にあんパンと牛乳を差し出していた。直後、ぎゅぅと腹の音が鳴った。

 

「何も食べていないでしょ?」

「あ、うん。ありがとう……」

 

 受け取ったあんパンと牛乳を流し込みながら、小泉が話すべきことを整理していると、先に佐藤の方が話しかけて来た。

 

「ねぇ、真昼。このジャバウォック島でさ。私達だけで暮らさない?」

「え?」

 

 あまりに突拍子の無いことを言われたので、彼女も受け止めるのに暫く時間が掛かった。だが、彼女の理解も置き去りにして佐藤は続ける。

 

「最初はさ、真昼の才能を傍で見られるなら。って思っていたんだけれど、やっぱり大事な物は傍に置いとかないと、簡単に無くなっちゃうんだよ」

「……佐藤ちゃん。何があったの?」

 

 彼女の話しぶりからして、小泉は第2の島で持ち帰って来た映像などに関する記憶を彼女が持っていると推測していた。

 

「教えない」

「なんで!? 私、自分に何があったのか知りたいの。どんなことでも良いから」

「どんなことでも?」

 

 瞬間、佐藤は蛇の様に這いながら小泉に近付いて来た。あまりの気迫に彼女は動けずにいた。至近距離へと近付かれ、肩を掴まれた。

 

「真昼はね。そんなこと知らなくていいの。何も知らないままで、ずっと私の希望で居て欲しいの」

「痛っ……」

「あ、ごめん」

 

 パッと小泉の肩を掴む手を離した。小泉は考え方を変えた。きっと、自分のことを聞いても教えてくれないというのなら……。

 

「分かった。私のことを教えてくれないなら……佐藤ちゃんのこと。教えて欲しいな。ほら、菜摘ちゃんとも色々とあったし、どうなったのかなって」

「なんで、私のことを聞くのに菜摘の名前が出て来るの?」

 

 何が彼女の琴線に触れたのか分からないが、佐藤が急に不機嫌になったので小泉も慌てた。私、何か地雷を踏んだかなと。

 

「いや、ちょっと色々とあったから。菜摘ちゃんとはよく話し合って、和解できたからさ。佐藤ちゃんとも仲良くして貰えたらなって……」

「は?」

 

 断固拒否と言わんばかりの姿勢だった。だが、先程までの得体のしれない彼女よりも親近感を感じる態度に、小泉は何処か嬉しく思っている自分に気が付いていた。

 

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