生徒達が自分達の記憶に関する情報を捜索している間、引率役の2匹もまた尽力していた。
『もうマジカルしている場合じゃありまちぇぇん!!』
最初の内はマジカルステッキを使って魔法少女然とした戦い方をしていたが、次第に敵の湧き方がRPGからタワーディフェンスレベルになって来たので、ウサミは体裁を取り繕うのも止めた。
マシンガンやバズーカを放ち、爆発物を投擲する姿はあまりに暴力的だった。敵と呼べる存在はまるでマスコットキャラの様な見た目をしたロボットだったが、よく見れば刺突物や刃物などが取り付けられており、決して放置できる存在ではない。そもそも、これらを島に通じる大橋に通せば重量で沈む。
『モノクマ!! 何時になったら、そっちの調査は終わりそうなんでちゅか!』
「僕だって必死にやってんの!!」
ウサミが張飛や弁慶もビックリな活躍をしている中、モノウサもまた病院の方で全員の治療をしていた。なおかつ、これらは誰に見せることも手伝わせることも出来ない物だった。……と言うのも。
「(外部のアクセス遮断をしているから、不二咲君が直してくれることもないし一人一人バグチェックしないといけないんだけれどさ!)」
日向達がいるジャバウォック島は現実の物ではない。彼らを更生させるために作られたVR空間である為、生徒達もまたデータとして再構築されている。
運用するに辺り、77期生達を保護する為に彼らのデータには非常に強固なプロテクトが掛けられていたのだが、侵入を許していた。
「(仕方なく手伝うにしても、今動いている皆の様子を見られないのが惜しいね。どうせ、ロクでもない物を見せられているだろうに!)」
病院内の様子は把握できるにしても、外部の様子までは把握できずにいた。彼は未だに生徒の治療を続けていた。
~~
「と言うのが、外回りで見て来た物だ」
病院へと帰還した十神達は日向と罪木に説明をしていた。件の映画は小泉以外にも九頭龍や辺古山も出ていたこと。……一様にして、決して許されないことをしていたこと。
日向は戸惑うことも無く神妙な面持ちで聞いていたが、話が進むごとに罪木の顔は不安で歪んで行く。
「あの、それってつまり。外の世界に私達の居場所は無いと考えても良いんですよね?」
偶々、映像には自分達が出ていなかっただけで似たようなことはやっているのだろう。もしも、そうだとすれば外の世界に行けるはずがない。
「早まるな。映像が捏造の可能性もある」
十神は不安に駆られた彼女を慰める様に言葉を吐きかけて……止めた。罪木の顔は歪んでいた。口角を釣り上げていたからだ。
「だったら、この島にずっといませんか? 私は単純に帰りたくなかったんですけれど、他の皆さんも帰ったら身が危ないかもしれませんし」
自分達の意思だけで残る人間を決めては、以後の生活に不便が生じるかもしれない。だが、状況の悪さから残ることを選んだとしても納得せざるを得ないハズだ。
「断るよ」
だが、狛枝は彼女の提案を突っぱねていた。超高校級の生徒達に対して常に敬愛と親愛の視線を向けていた彼の目付きが鋭くなった。
罪木の体が跳ねる。これは彼女も散々浴びて来た物だけに、直ぐに正体が分かった。敵意である。日向の陰に隠れながら、助けを求める様にして問うた。
「ど、どうしてですか?」
「超高校級の皆は、希望なんだ。予備学科のクズが先に手を出して来て、報復で世界はかなりのダメージを負ったかもしれないけれど、逆に言えば皆の足を引っ張るクズが減ったと言うことじゃないか。今こそ、僕達が皆を導くときじゃないかな?」
狛枝や一部の者達には加害者としての罪悪感が薄いというのは、以前から分かっていたにしても、ここまで言えるのか。
「お前、本気で言ってんのか?」
「暴れんなよ。暴れんなよ……」
左右田が狛枝に突っ掛かっていた。いつもは臆病ながら、ここまで怒りを露わにしていることも珍しく、七海も小声で呟くばかりだった。2人の間に割って入った十神が言った。
「狛枝。お前にしては短絡的すぎるぞ。あの映像で映し出された一般人なんて、特に悪意的な物が取り上げられたに過ぎない。左右田、お前もあんな小細工に踊らされるな」
彼の制動を受けて、2人は一旦距離を取った。元より言葉を吐かない辺古山は兎も角、花村も口を開き難そうにしていた。雰囲気は最悪だった。
こんな状況を導いてしまった罪木が緊張で固まっている中、日向が話題を逸らす様にして尋ねた。
「俺達が過去に犯した所業については、また全員が起きた後に話し合うにしても。もう一つの問題、攫われた小泉の方について手掛かりはあったか?」
「いや、こっちは手掛かりがない。流石に建物全部を調べるのは時間が掛かり過ぎる」
例の映像を見ていて時間が過ぎたと言うこともあったが、この第3の島には建物も多い。1件1件調べるのは時間が掛かり過ぎると言うことで、十神達はこれらを後回しにしていた。
「小泉さん。大丈夫かな……」
今まで、口を開けずにいた花村がポツリと呟いた。自分達の前に度々姿を現す『佐藤』という少女とは知り合いであることも考え、危害を加えられる可能性は低いにしても、いや。むしろ仲が良いからこそ、という可能性も過りはした。
「モノウサには悪いけれど人員を確保したいな。治療の状況についてを……」
と、日向が立ち上がろうとした所で待合室には件の人物(?)が現れた。ヨロヨロになったモノウサだった。
「ち、治療は無事に終えたから……様子見てやって」
待合室に設置された長椅子に横たわり、寝息の様な物を立て始めた。
本当にマスコットかと思う位に有機的ではあったが、彼の尽力を称賛する様にして、十神はスーツを被せた。
モノウサを放置して、全員で病室を巡って行く。すると患者服に着替えた皆が静かに寝息を立てていた。体型から変わっていた弐大や九頭龍も元のサイズに戻っていた。
「明日にでも目を覚ましてくれると良いけれど……」
「何処まで事情を覚えているかだな。そして、映像に出ていた連中にはなんと説明するべきか」
「でも、きっと皆は見ると思うよ。これから先に進む為にも」
当事者にとっては非常に刺激の強い映像になる為、見せるにしても準備は必要だろう。日向と十神は眉間にしわを寄せ、狛枝の表情は自信に満ちていた。
その後も日向、十神、狛枝を中心とした話し合いが続いたが、区切りを見て各々の病室へと戻って行った。
~~
「罪木、良いか?」
クソ不味い病人食を流し込んだ後、超高校級の保健委員として病室にいる同級生達の見回りに行こうとした彼女の部屋に日向が訪れた。
「日向さん? どうしたんですか?」
「病み上がりの罪木だけに夜間の見回りをさせるのもどうかと思って。俺も同行して良いか?」
一瞬、理解するのに時間を要してしまったが罪木はブンブンと頷いていた。
周りの者達の情緒や記憶が大変なことになっていたとしても、罪木にとって大事なのは、今この瞬間だった。
「こうして、誰かに手伝って貰えるって凄く嬉しいです」
「分かる。1人でやる方が楽でも、やっぱりちょっと怠かったりもするよな」
彼は正論を浴びせてきたりはしないし、心地の良い同意と言葉を掛けて貰えるのがとにかく嬉しかった。
夜の病院を見て回る。病室を見て回るが、起きている者はいない。容態にも変化がある訳でもないので、穏やかに時間が過ぎて行く。今の心境なら、昼間に抱えていたわだかまりも吐きだせるかもしれない。と、罪木は恐る恐る尋ねた。
「もしも、もしも。自分が外の世界で許されないことを犯していたら、日向さんの場合はどうしますか?」
罪から目を背けるか、贖罪の為に動くか。だが、罪木はある程度の期待と打算があった上で質問をしていた。
「(日向さん、スケボーが好きと言っていましたし。狛枝さんみたいに贖罪とかそう言うのは、きっと興味が無い筈ですよね)」
だから、きっと自分と同じ意見であるはずだと思っていた。先程、会いに来てくれた時と同様に自分が欲しい答えをくれるはずだと期待していた。
「外がどうなろうと知ったことじゃない。……ただ、狛枝の言うことに興味が無い訳ではない」
「え?」
「才能、希望。自分達が勝手に作ったツマラナイ格差が無くなれば、少しは興味のある世界が湧くかもしれません。そう、人類皆がスケボーに打ち込む世界が来れば、きっと争いは無くなるでしょう」
ひょっとして、自分の部屋に来たのは酒でも飲んだからだったのか、あるいは寝ぼけて部屋に来たんだろうかと思い始めて来た。
罪木としても反応に困る内容であったが、唯一自分に構ってくれる相手を無碍にする訳にもいかないのでコミュ障なりに頑張って返事をした。
「そ、そうですね! 素敵な世界だと思いますよ! 争いもいじめも無く、皆が楽しくスケボーをするって!」
就職活動でもかくやと言わんばかりに盛に盛った発言であったが、日向は満面の笑顔と共に頷いていた。
「リップサービスでも嬉しいぞ。その時は、罪木も一緒に来てくれるか?」
非常に返事に困った。でも、今まで見たいに借金を肩代わりさせようとかそう言うのでもないし、一緒に滑るだけで優しくしてくれるなら……。
「そ、外に出る算段が立ったら、もう少し考えます」
まさか、本気にしているとは思わないし。外に出るめどは当分立たないので、保留と言うことにしておいた。夜間の病院の見回りは多少の驚きはありつつも、罪木にとっては概ね楽しい時間となった。