舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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69時間目:道具

 翌朝のことである。誰かが目を覚まさないという事態が起きることも無かった。一様にして、記憶の時系列が第2の島を攻略した前後で留まっていたので、日向と十神が事情を説明しようとしていたが。

 

「日向さんが喋っている!?」

 

 ソニアがビックリしていた。驚愕していたのは彼女だけではなく、正気に戻ったメンバーほぼ全員が驚いていた。

 

「お、お前さん。喋れたのか!?」

「秘められし呪言を解放したか、これは俺も封印を解くべきかもしれんな」

 

 弐大も巨体を揺らす程に驚き、田中はいつもの調子に戻って腕に巻いた包帯を解こうとする仕草を見せていた。彼の周りにいる4匹の小動物達は心なしかテンションが高そうだった。

 

「おめ……十神!! どうしたんだ!?」

「俺だって困惑している。体が浮きそうなんだ」

 

 終里もいつも通りちょっとデリカシーが無い状態に戻っていた。十神の腹を掴もうとしたが、殆ど贅肉が付いていないので抓る様な形になっていた。

 面白がって澪田も真似していた所、彼女の興味は隣にいた日向の方にも注がれていた。病み上がりとは思えない位のテンションの高さで尋ねた。

 

「創ちゃん! 澪田のこと、呼んで欲しいっす!」

「……澪田」

 

 名前を呼ばれたことが嬉しかったのか、彼女はウヒャー! ヘドバンしていた。少し前までの無機質な真面目さが嘘の様に、従来の奔放な明るさが戻っていた。

 

「でもよ、お前らとマトモにコミュニケーションが取れるなら、そっちの方が便利だし、このふざけた修学旅行中はこのままで良いんじゃねぇか?」

「お兄ちゃん。大切なのは創がどうしたいかでしょ。どうなの?」

 

 九頭龍の提案を菜摘が遮った。この遣り取りに数人が違和感を覚えていた。

 彼女は決して気遣いが出来ない人物ではないが、この状況において自分達が有利に働く都合より、彼個人の思惑を尊重する程に懇意であったか? と。

 

「喋るのは疲れるから、早めに治して欲しい。何よりスケボーをやる気が湧かないって言うのが致命的だ」

「そっか。良い声していると思ったんだけれど」

「そうだよ」

 

 日向の声に感じる物があったのか、名残惜しそうにしていた菜摘の感傷を洗い流す様にして、七海の口からクッソ汚い語録ボイスが放たれた。これには西園寺も眉をしかめていた。

 

「え? なに? 七海おねぇどうなってんの?」

「どうやら、七海さんは特定のセリフを特定の音声でしか喋れなくなるって状態にあるらしいよ?」

 

 狛枝が補足を入れてくれた。彼の意見を肯定する様にして、七海の口から再び『そうだよ』という野太い男性の声が発されていた。

 

「う~ん。千秋ちゃんが特定のセリフしか喋れないなら、特定のセリフだけで止めて文章にしてみるとかどうっすか? ボカロの調教とかと似たような感じで」

「やっていることは暴歌ロイドとかそっち方面だけどな……」

 

 澪田の提案は悪くない物だったが、左右田の脳内に浮かび上がったのは動画サイトなどに投稿されている、無理矢理ワードやボイスを切り抜いて調教して謳わせるタイプのMADめいた物だった。ただ、七海は首を横に振っていた。

 

「で、出ますよ……」

「え? 何が?」

「行きますよ~。イクイク」

 

 特定の語録しか喋れないので意思疎通が非常に困難だった。菜摘が聞き返していたが、これまた語録で返されただけなので会話のドッチボールですらない。まるで意味が分からない中、日向が何かに気付いた様だった。

 

「七海。もしかして、語録は語録単体としてしか使えないのか?」

「そうだよ」

 

 文章を成り立たせる為に切り貼りすると言うことすら許されないらしい。素材の味100%を強要された彼女の境遇を思い、皆が同情していた。

 

「七海さん。気を強く持って下さい。私達は仲間ですから!」

「まるで、語録を使う奴は仲間から外れるのが常識みたいな言い方だね」

 

 花村の冷静な指摘が飛んで来た。淫夢ごっこは恥ずかしいことなんだぞ。

 誰もが無意識下で彼女と距離を取っていた罪の重さを分かろうとした所で、ヨタヨタと歩いて来た者がいた。モノウサである。

 

「あれ? どうしたの? 何か、シンとしていたけれど」

「気にするな。モノウサも居るなら丁度良い。事情の方を話すとしようか」

 

 改めて、十神達から第3の島で起きたことを話された。自分達はこの島に来る前に異常が起きていたこと。自分達の所業が映し出された映画のついでにクソ映画も見せられたこと。そして。

 

「小泉おねえが、攫われた?」

 

 西園寺の顔に動揺が走った。親しい人物が連れ去られたとなれば、胸中も穏やかでは居られない。彼女の責めるような視線が日向達に向けられた。

 

「攫う前、佐藤は小泉のことを直すとは言っていたが」

「そんなの信じられる訳ないでしょ!? 日向おにぃが居たのに見逃したの? 第2の島では化け物相手に立ち回っていたのに?」

「止せ、西園寺。あの状況で対応できる奴はいない」

 

 咄嗟に十神が日向を庇ったが、それで彼女の気が鎮まることも無かった。

 もしも、日向がただの学生だったら彼女もここまで食い下がってきたりはしない。だが、ここにいる者達は知っている。

 

「スケボー使って、怪物退治とかもしているんでしょ? なんで、その時にやってくれなかったの?」

 

 日向はここにいる者達とは一線を画していた。本来なら一競技でしかないスケボーを用いた超常的な現象を引き起こせることを知っているだけに、必然的に彼に期待が寄せられていた。

 当の本人はと言えば少しだけ申し訳なさそうな顔をした次の瞬間、ゾッとする程冷たい声色で言った。

 

「貴方も言うんですね」

「え……」

 

 周囲の空気が凍てついたような気がした。皆に緊張が走る中、モノウサだけはニンマリと笑っていた。いつもなら憎まれ口を叩いて、口を出し易い空気を作ってくれるが、この状況を楽しむかのように黙っていた。

 

「(どうした物か)」

 

 この口論を無理矢理止めることはできるが、そうすれば確実に遺恨が残る。今後の展開を考え、どの様に軟着させるべきかと十神が考えていると、今まで黙っていた罪木が西園寺に歩み寄って来た。

 

「西園寺さん。スケボーは便利な解決アイテムじゃなくて、日向さんにとって大切な物なんです。……今、滑れなくて苦しい思いをしているのは一緒なんです」

 

 まさか、彼女が弁護に回るとは思ってもおらず西園寺は目を白黒させていた。

 自分達の中で最も消極的で、自分の才能と言う領分以外で誰かに意見することなんてないと思っていた罪木が、自分に説いている。逆に言えば、彼女から言われる程の言動をしたのかと自覚せざるを得なかった。

 

「……ごめん」

「いや、良い。俺もキツイ言い方をした」

 

 普段は少しひねくれた所もある彼女の素直な謝罪を日向は受け止めていた。

 一同が安堵の溜息を吐いている中、モノウサだけが詰まらなさそうにしていた。話の軌道が戻ったのを見計らって、十神が続けた。

 

「まずは、小泉を奪還する為に第3の島を探索する。そして、全員が揃った所で件の映像を見るかどうかを決めよう」

 

 内容が内容だけに安定した状況を確保してからという提案に反対する者は誰もいなかった。

 島の探索に出る前に、病院にストックされている病人食を朝食代わりに取っている中、日向を挟んで菜摘は罪木と談笑していた。

 

「罪木ちゃん。意外と言うときは言うんだね」

「えっと、その。才能を便利な道具みたいに使っている人はいると思うし、それも悪くないとは思うんですけれど……」

 

 罪木は終里の方を一瞥して、直ぐに視線を逸らした。自分だって望んで超高校級の保健委員と言われるようになった訳ではない。

 

「日向さんが本当にスケボー好きなのは、練習に付き合って貰ったり、この島で色々とお話して分かりました。だからこそ、自分の好きなことや思い入れがあることが道具みたいに扱われるのは……嫌ですから」

「ふぅん……」

 

 菜摘は目を細め、日向の方を睨みつけていた。当の本人はと言えば、特に気にした様子もなく菜摘の方を見据えていたが。

 

「なんか思うことでもあるのか?」

「べーつーにー? 随分と仲良くなったなーって」

「いや、でも菜摘さんも妙に距離が近くないですか……?」

 

 普段はドジな罪木でも女性としての勘はしっかりと備わっているのか。

 今までのことを考えたら、日向との距離が近すぎる。そんなに仲良くなる切っ掛けがあったのか。それとも、陽キャ特有のコミュ力がなせる業か。

 

「私はコレがデフォルトだから。なんたって、超高校級の妹だからね!」

「そ、そうですか……」

「おー! 何か楽しそうな雰囲気っすー!」

 

 菜摘の明るさに惹かれたのか、これまた陽キャの澪田もやって来た。

 こうなったら陰キャである自分は霞む外なくなる。サラサラサラ……と砂になり掛けていると、澪田に肩を組まれた。

 

「罪木ちゃーん! さっきの言葉、超良かったす! 澪田も感激っすよ!」

「え、あ。どうも……」

 

 しかし、真の陽キャは陰キャすらも巻き込むのだ。これから同級生の救出に向かうとは思えない位の雰囲気の中、一同は朝食を取っていた。

 

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