舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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7時間目:ハマル

 モノクマは約束を反故にすることは無かった。校舎の方のシャッターは開かれ、2階へと進むことが出来るようになっていた。

 

「寄宿舎の方のシャッターは開かれないの?」

「うん。オマエらにはまだ早いってことだよ」

 

 霧切だけではなく、十神やセレスも不服そうな表情を浮かべていた。あんな訳の分からない映像を見せられたというのに、新たに開かれたのは校舎の2階だけなのかと。

 

「また、困ったら苗木っちに頼めばいいべ!」

「そんな軽々に頼んで良い物でしょうか?」

 

 困ったときには苗木頼りになる葉隠へ、セレスが釘を刺した。これは彼に負担が掛かり過ぎることへの気遣い。と言うだけではなかった。

 

「お前が見た映像については知らんが、あんなものを見せられた手前、気軽に頼もうとは思わんな」

 

 十神の言うことに何人かが反応した。きっと、苗木が全体公開したビデオの様な前衛的な映像を目にしてしまったのだろう。ひょっとしたら、自分もあんな風になってしまうのではないのかと。

 

「(酷い。苗木君のお陰で、ここまで来れたのに!)」

 

 先日までは英雄扱いしておいて、いざ危険が自分にも及ぶかもしれないとなった時の掌返しについて、舞園は声を上げようとしたが途中で止まってしまった。

 自分も恐れている。と言うのは建前で、ここで彼を庇い立てるような真似をすれば、この異常な学園生活で不利に働いてしまうかもしれない。そんな、打算的で妥協的な考えが言葉を呑み込ませていた。

 

「いやぁ、僕はそこまで悪いとは思わないですな。だって、スケートボードのことだけを考えていれば良いだなんて、こんな状況においては凄く楽だとは思いませんか? ほら、江ノ島殿もすっかり大人しくなっていますし……」

 

 彼女の代わりに、山田が消極的な擁護をしていた。

 苗木が情報を収集し、霧切が引き出したおかげで今直ぐ外に出ることの危険性が分かったので、誰かを殺してまで外に出ようという考えは引っ込んだが、いつ外に出られるのか。

 そもそも、外の世界はどうなっているのかと言う、また別の不安に駆られることになっていた。

 終わりの見えない生活に精神がすり減って行くのは想像に容易い。故に、山田は羨んでいたのだ。どんな恐怖や不安も気にせず滑り続ける苗木の姿に。

 

「うぷぷぷ。山田クンってさ、ゾンビものとかで真っ先にゾンビになりがたるタイプだよね!」

「基本的にオタクはネガティブなので!!」

 

 陰キャの代表格みたいな物である。そんな山田を励ますように江ノ島が無言で彼の背中を叩き、苗木が大きめのスケートボードを差し出していた。弱った心に付け込んで勧誘を始めた2人に、石丸が渇を入れた。

 

「苗木君! 江ノ島君! 趣味に興じたいのは分かる! だが、折角新しい探索範囲が広がったんだ! 皆で協力して探そう!」

 

 何故か、彼の言うことはよく聞くのか、2人共勧誘を止めていた。あまりにシンクロした動きが不気味だった。

 

「苗木君。いつの間に、江ノ島さんとそんなに仲良く?」

 

 先程、擁護に踏み出せなかったこともあって、何とかして彼と話さねばと気が急いていた舞園から出た質問に対して、苗木と江ノ島はスケートボードを掲げるだけだった。先程、注意されたばかりだから勧める真似はしなかった。

 モヤモヤを抱えたまま2階へと上がると、朝日奈が歩を早めていた。何かに導かれるように進んで行く。

 

「ねぇ! 皆! こっちにプールがあるよ!」

 

 超高校級のスイマーとして慣れ親しんだ環境は直ぐに分かったらしい。

 塩素の匂いが漂う、男女に分かれた更衣室が目の前にあった。入り口には物騒な火器がぶら下がっており、壁にはカードリーダーが設置されていた。桑田が恐る恐る、指差した。

 

「アレって、やっぱり覗き防止用か?」

「当たり前でしょ。昔は漫画やアニメで覗きとかあったかもしれないから、見られる側の気持ちを考えなよ。キャー! エッチー! じゃすまないんだよ?」

「やらねぇよ。ガキじゃねぇんだから」

 

 かなりガチトーンで説教を食らった。幾ら、チャラけていても分別はちゃんと着いているらしい。

 

「じゃあ、使い方ですけれど。入場の際は壁のカードリーダーに電子生徒手帳を翳して下さい。中の更衣室には、オマエ達に合わせた水着が用意されています。使ったら、ランドリーでちゃんと洗濯してね」

「うんうん!!」

 

 スケートボードを手にしている苗木並に、朝日奈は浮かれていた。

 何ならもう、カードリーダーに電子生徒手帳を翳している。ピッと許可が出たので、彼女は早速更衣室に入って行った。

 

「朝日奈君も気が早い」

「石丸よ。朝日奈もこの生活に不安を感じているのだ。打ち込める物があるなら、暫く打ち込ませてやれんか? 1人にするのは不安故、我も付かせて欲しい。良いか?」

 

 探索を提案した石丸としては思う所もあったが、詰めてばかりでは持たないということも理解していた。彼女と仲のいい大神が付いていてくれるなら、変なことも起きないだろうと考え、頷いた。

 

「分かった、朝日奈君のことをお願いする。他の皆は探索を続けよう」

 

 一旦、プールから離れて2階の探索を始めたが、初日と違って探索範囲が校舎の2階のみに絞られていた為、あまり時間を要することも無かった。

 トイレにも大したものは無かったし、教室にもこれと言った物は無かった。唯一、興味を引くものがあるとすれば、大量の書物が並んだ図書室位だろうか。

 

「おぉ。難しそうな本が多く並んでいますが、ちゃんと漫画もラノベもありますな。いやぁ、眼福眼福」

 

 山田が真っ先に反応していた。オタクにとってサブカルチャーとは心の栄養なのだ。これに対して、憤りを見せたのは腐川だった。

 

「アンタらが読む小説ってのはアレでしょ? どっかで見たような展開を切り貼りして、設定ですらどっかからパクって来たような、他者の創作物に相乗りするだけの低俗な奴でしょ?」

「うーん、清々しい位のアンチ。まぁ、ここは新しい時代の小説ってことで一つ」

「アンタらが読んでいるのはポルノよ。ポルノ」

 

 超高校級の文学少女としては思うことが色々とあるらしい。だが、悲しいことにここにいるメンバーの大半は小説に興味が無いらしい。

 山田が肯定されないだけマシだったかもしれないが、自身の意見が肯定されないのもまた腹立たしいことだった。この中で、そういった話題が通じそうな人間はと視界を彷徨わせた結果。

 

「い、石丸。アンタも何か小説とか読んだりしているでしょ? 国語の教科書の奴とか。アレはプロの目をキチンと通したものだから、良いラインナップが揃っているのよ」

「そうだな。山月記は何度か読んだりもした。色々と身に染みる話だったよ」

「ほ、ほら。小説ってのはそうあるべきなのよ。筆者の体験や情動から織りなされる文字の調に、読み手も共感し感覚を想起させる物があるのよ。書いてある文字列を舐める程度の情報しか載っていないなら、ピンナップと何も変わりないってことよ」

 

 珍しい位に早口でまくし立てていたが、当の山田はと言えば途中で飽きていたのか、不二咲と漫画の話で盛り上がっていた。

 

「僕もこの漫画好きなんだ。小学生の雑誌に載っている漫画だけれど、どれだけ辛い運命に何度も巻き戻しながら立ち向かう、主人公の男の子が凄く格好良くてね」

「ほほほ、お目が高い。ループ物特有のハードさを失わせないまま、主人公の優しさと熱さで見事に少年誌向けの内容となっていますな。僕はこの敵方の発明家の先生が好きで……」

 

 態々、自分に攻撃して来る奴の意見なんて聞いていられるか。と言う、オタク特有のネットリテラシーを発揮していたが、放置された腐川からすれば憤慨ものだった。

 

「私がアホみたいじゃない!!」

「図書室では静かにしたまえ!」

「うるさいぞ」

「おっほ↑ハァ↓イ」

 

 石丸と十神から同時に注意され、腐川の行き場を失った感情がややバグった感じに表現されていた。各々が蔵書を確認したり、あるいは趣味を引く物であった為に読み込んでいたりする中、苗木と江ノ島は一か所に固まってジィっとしていた。彼らの手にはスケートボード……ではなく、分厚い図鑑が握られていた。

 

「スケートボード最新カタログ……ですか」

 

 気になって舞園も覗き込んでみたが、あまりに想像通りだった。

 ハッキリ言って、興味の無い人間にとってみればスケボーなんてどれも同じ様に見えるのだが、苗木にとっては幾らでも眺めていられる程興味深い物なのだろう。江ノ島もジィっと眺めているのは不思議だったが。

 

「あの。江ノ島さんもスケートボードに興味が?」

 

 ゆっくり頷いた。やはり、昨日までの彼女とは明らかに違っていた。

 舞園の中に浮かんだのは、視聴覚室で見た映像だ。あやかと呼ばれていたグループメンバーがスケートボードを手にして豹変したこと。苗木の両親がスケートボードを手にして、奇妙なことになっていたこと。どう考えても、これら全部が繋がっている気がしてならない。

 

「(いや、でも別に死んだりする訳ではないですし。そもそも、何が起きているのでしょうか?)」

 

 苗木のことは気になるが、少し距離が開けてしまったような気がした。

 当の本人が気にした風もないのが、なんだか無性に寂しい。最初から自分はその程度の存在でしかなかったのかと。しょげそうになっていると、肩を叩かれた。霧切だった。

 

「舞園さん。奥の書庫に来てくれる?」

 

 誘われるままに書庫へと向かった。図書室に並べられている物と違い、専門的な資料が多数並べられており、一般的な読書には適さない物が多かった。

 霧切はその中から1冊を取り出して、舞園に渡していた。表紙には『超高校級の幸運とは?』と言う表題が書かれていた。

 

「超高校級の幸運って。多数いる一般生徒の中から、抽選で希望ヶ峰学園に入学してくる人達のことですよね?」

 

 特に何の才能がある訳でもなく、一般的な少年少女から選ばれる枠と聞いている。確かに、そんな枠に当選することは幸運と言うしかなさそうだが。

 

「色々と噂はあったけれどね。超高校級の才能を持つ者達と一般人を同じ空間に存在させた場合、何が起きるかとかのね。でも、実際の所は少し違うみたい」

 

 社会実験の一つとして選ばれているという説はあり得そうだったが、実際はどうなのか。舞園は資料に目を通した。

 

「超高校級の幸運とは因果を司る才能である」

 

 全国の生徒から選ぶという抽選のプロセスにも意味があるらしく、歴代の超高校級の幸運の生徒達は、誰しもが数奇な人生を送ったらしい。

 決して、1回限りの当選ではない。自分達より一つ上の77期生に居たとされる『超高校級の幸運』の生徒の周辺では常に怪現象が起きていたという。

 

「きっと、私達の目には見えないし感じ取ることも出来ないのだろうけれど。超高校級の幸運の持ち主には何かがあるのでしょうね」

「苗木君のことですか? でも、彼は超高校級の……」

 

 ヌケーター。スケーターではなく、ヌケーターである。どういう意味か分からなかったので、霧切にも話してみた所。彼女は笑わずに真剣に話を聞いていた。

 

「彼にはスケーターとしての才能もあり、同時に超高校級の幸運の持ち主でもある。と言う事なんでしょうね」

「でも、なんでヌケーターなんでしょうね?」

 

 両方の呼び方としても別の物があっただろう。こんな間抜けな言い方じゃなくて。ただ、リスポンしたり壁抜けは才能でどうにか出来る領域じゃない気がする。

 

「突き抜けた才能。とか?」

「まぁ、色々と物理的にも突き抜けていますが」

 

 暫く、資料に目を通していたが、これ以上有益そうな情報は無かった為、彼女達は一旦書庫を出て、石丸達に合流することにした。

 

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