舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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74時間目:モノウサ「ま、また映画館か……」

 日向達は映画館を訪れていた。館内に入ると同時に、モノウサの左目が赤色から緑色に変わっていた。頻りに周囲を見渡しており、何かを確認している。恐らくスキャン的な何かをしているのだろうと、弐大は察した。

 

「モノウサさんよ。この島に来てから、お前さんは随分と協力的じゃな?」

「人にもクマにも触れてはならない覚悟があるのです。愉悦をするだけなら黙って見ていたんスけれど、あんな物上映されたら復讐するしかないじゃん?」

 

 弐大の記憶には無いが、余程イルブリードの映画が気に入らなかったらしい。ひょっとして、スタッフとして参加していたのだろうかと考えたが、トラウマ的な部分を刺激するべきは無いと思い、口を噤んだ。

 館内を迷うことなく進んで行くと、とあるスクリーンに入った。今は映画も上映されておらず、空席が広がっているばかりだ。

 

『アレ? この流れってまさか』

 

 中継器から左右田の声が聞こえて来た。どうやら、彼には何かの覚えがあるらしかったが、同時にモノウサも心当たりがあったのか『行くぞー!』と猛々しい声で掻き消していた。

 

『あ、そっか。イルブリードの『キラーマン』の話だ。映画館からバックステージに向って進んで行くんだよね?』

 

 そんなマスコットの健気な努力を無碍にするかのように、中継器から狛枝の解説が流れていた。

 大半の人間は映画を視聴した記憶を失っている為、首を傾げていた。事態を把握しやすくする為に、彼が映画の説明を始めようとした所でモノウサがブチギレた。

 

「おめぇええ! 説明したら、案内を途中でやめるからな!! 要点だけにしとけよ!!!」

『ハハッ。余程苦い思い出があるのかな? 簡潔に言うと、映画館の控室に物語の舞台が広がっているんだよ』

 

 あまりに抽象的な説明で容量は得なかったが、とりあえず映画館のバックステージに行けば何かしらがあるということ位は分かった。

 映画の様な入り組んだ構造にはなっておらず、一見では気付かないような場所にスタッフルームと書かれた扉があったので開けてみれば、異様な光景が広がっていた。

 

「コイツは……」

 

 弐大が息を呑んだ。館内の状況を映し出したモニタに何かしらの端末。モノウサが試しに操作をしてみれば、モニタに映し出されていたスクリーンの一つに大量の煙が噴出された。ここが使われていたことは疑いようもない。

 

「皆の様子を見て、ここで操作をした後に出て来た。って考えれば、自然だよね」

『だけどよ。ここで何かが居るってのが分かれば、お前も無理矢理上映を中止させることも出来たんじゃねぇの?』

 

 イルブリードを見ていたモノウサの苦悶を知っていた左右田からの疑問は最もだが、当の本人は首を横に振っていた。

 

「僕はどっちに対してもフラットで居たいんだよね。あくまで、今回協力しているのもオマエらの行動力を見込んだのと私怨込みだし」

 

 妙な所で誠実だった。スタッフルームを奥へと進んで行くと通路に出た。道なりに進んで行くと、やがて地下へと降りる階段を見つけた。

 

『弐大君。階段の所に中継器を近付けて』

 

 狛枝の指示に従い、中継器を階段へと向けた所。弐大もとあることに気付いた。

 

「埃が積もっておらん。つい、最近。誰かがここを通ったんじゃろうな」

『増々、怪しいね』

 

 階段を下りて行く。ヌケーター達は誰も喋らないので、代わりに中継器越しに声が響いてきた。

 

『もしかして、私達が来たことを察して逃げ出した可能性もあるのでは?』

『ソニアさん。ロガーの反応からして、多分逃げ出したりはしていないハズだ。気づかれて無ければ、ですが』

 

 ソニアの不安を左右田が払拭する様にして言った。

 もしも、GPSロガーの反応がバレていれば、拠点を移動させていた可能性もあるが、今の所大きな動きは見当たらない。

 

『だとしたら、あのビチグソ蛇女はおにぃ達を待ち受けている訳だよね? 逃げるか、返り討ちにする自信でもあるのかな?』

『あるいは、小泉を取り戻そうとする執念があるかどうかを確認する為に待ち受けているのやもしれんな』

 

 西園寺が吐き捨てる様に言い、田中が大仰に言ってみせた。彼らの不安や想像を他所に階段は終わった。蛍光灯が設置されている間隔は大きく、辺りは薄暗く照らされている。だというのに、ネズミの1匹さえも見当たらない。

 中継器越しの声も無くなり、全員が息をひそめて進んで行った先には鉄製の扉があった。何があっても大丈夫なように、全員を下げた後に日向が扉を開けた。すると、開けた空間に出た。部屋の中央には佐藤の姿があった。

 

「ねぇ、なんでこんな所に来たの?」

 

 開口一番に飛び出して来たのは疑問だった。怒りでも拒絶でもなく、純粋な疑問だ。日向達が口を開かない代わりに、弐大が一歩踏み出した。

 

「決まっておるだろう。小泉を返して貰う為じゃぁ!」

「本当に? 正直に言いなよ。自分達の失われた記憶が欲しいとか。外の世界に帰りたいとか。そう言うことなら取引しない?」

 

 スッと、佐藤は胸ポケットからUSBメモリを取り出した。丁度、第2の島でモノケモノを倒した時に入手した物と同型だった。

 

『これをやるから、私達は見逃せ。って所かな?』

「そう言うこと。アンタらはその映像を見て、好きなだけ絶望して、さっさと次に進めば良い。でも、真昼は巻き込んで欲しくないの。これ以上、アンタらの破滅に付き合わせるつもりは無いんだから」

 

 狛枝の推測通りであったが、佐藤の表情には侮蔑が滲み出ていた。彼女にとっての特別は小泉だけであるらしい。

 

『好き勝手に言ってくれるじゃん、ビチグソ蛇女。おねぇは、そんなこと言ったの? それとも、お前の願望押し付けているだけ? お人形が欲しけりゃ、フィギュアでも飾ってろよ』

 

 売り言葉に買い言葉。西園寺もまた敵意剥き出しの返事をした所で、スーッと佐藤の目が細くなった。さながら、爬虫類の如き眼光だった。

 

「へぇ、お人形遊びを『されて来た』側だからよく分かる訳? だったら、心配無用よ。アンタの周りに居たクズ共と違って、私は真昼を悪い様にはしないから」

『いーや、変わらないね。相手のことを何も思っていない。でも、手元でずっと眺めておきたいって考え方がソックリ。アンタもクズよ』

 

 繰り広げられる舌戦に皆が言葉を失う中、モノウサだけが場を盛り上げるかのように奇妙な舞を繰り広げていた。

 

「嬉々として、そのクズ共を殺していたアンタには言われたくないわ」

 

 ビタっと西園寺の言葉が止まった。それは懸念していた可能性だった。

 九頭龍の様に暴力の世界に身を置いている人間でなくとも、誰かを手に掛けている。畳み掛ける様に佐藤が言った。

 

「アンタのやり口本当にえぐかったのよね。恨みを晴らしたい人間を如何にも『大事な人達だ』って風に喧伝してさ、絶望達を誘導して殺させていたんだからさ。アイツらが笑っていた以上に、アンタも笑っていたんでしょうね」

『待て。どういうことだ?』

 

 言葉を失った西園寺の代りに左右田が声を上げた。佐藤は特に驚いた様子もなく、聞き返していた。

 

「どういうことだって。アンタら、まさか。自分達がやって来たことに対して何の報復も無いと思っていた?」

 

 当然のことではある。本人に対して復讐が出来ないなら関係者に矛先が向かうのは、順当な流れだ。

 それは同時に、外の世界に帰りたいと思っている者達の動機を揺るがしかねない程でもあった。佐藤は彼らに走った動揺を見逃さなかった。

 

「このUSBメモリに、アンタらの知りたい答えが入っているかもね。でも、もしも取引に応じない場合は……壊しちゃおうかな」

 

 USBメモリを掴んでいる指に力を籠める。ミシミシと音を立て、直ぐにでも壊れてしまいそうだ。すると、日向が一歩前に出た。

 

「なによ。私がやらないとでも思っているの? 自分にとって大事な人がどうなったか知りたくないの?」

 

 彼は首を横に振ったまま、スケートボードを突き出していた。さながら、佐藤を指差しているかの様だった。あっ。と、中継器から菜摘の声が漏れた。

 

『いや、無事かも。だって、小泉にとって大事なアンタがここにいるじゃない!』

 

 今までの映像を見るに、この混乱を収めようとしている組織が居ることは確認できていた。彼らによって佐藤も救出されているのだから、関係者も救助されている可能性はあることに思い当っていた。

 自分と言う存在と行動原理が彼らの思考を回復させる原因となったことを不覚に思いながら、何か別の考えが過ったのか。佐藤は隙を晒してしまった。

 

「だったら、アンタらはなおのこと――」

 

 このUSBメモリが欲しいんじゃないかと言い掛けた時、既に日向はスケボーにライドしていた。尋常じゃない程の速度で接近して、佐藤の手からUSBメモリを奪い取って、弐大に渡していた。

 

「よっしゃあ! ワシらに任せろ!」

 

 弐大とモノウサは直ぐに部屋の外へと出て行き、USBメモリを確保していた。

 残された4人のヌケーターが立ちはだかる。佐藤の額に血管が浮かび上がっていた。

 

「どきなさい。アンタらを叩きのめして、あのUSBメモリを奪い返してやるんだから!!」

 

 4人がデッキに足を置いて、地面を蹴る。この島に来てから長らく忘れていた、スケートボードと共に縦横無尽に舞う感覚に満たされていた。

 

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