「中で何が起きとるんじゃあ……」
受け取ったUSBメモリを確保する為に、部屋の外に出た弐大も中の様子は気になっていた。あの怪物の様な存在に日向達はどう対抗しているのかと。
「左右田クン。この中継機って、そっちにデータを送れたりしないの?」
『悪ぃ。そんな物を搭載する時間は無かった。モノウサこそUSBメモリのデータを見れねぇのか? 高性能なんだろ?』
「機能的に出来なくはないんだけれどさ。……そもそも、オマエら。コレが本物だって確証はあるの?」
モノウサからの言葉を受けて、皆は暫し考えた。取引材料に使うにしては、あまりにぞんざいでは無かったかと。実際に、こうして奪い取られている。
『ダミーの可能性やバックドアが仕込まれたデータと言う可能性もあるね。確かに、迂闊に中身を見る訳にはいかないか』
「狛枝君の言う通り。もしも、これがウィルスぎっしりだったら、ボクがジャックされる可能性があるんだよ。そっちの方が怖くない?」
第3の島において、多方面に活躍して来た所を見ているだけに生徒達にとってもモノウサは粗雑に扱うことのできない存在となっていた。
ならば、このまま弐大に持ち帰って来て貰えば良いのだが、その場合は佐藤たちの様子を確認できなくなる。
『なら、こうしよう。僕達の内の誰かが映画館まで行く。中継機のお陰で、どういったルートを辿って来たかは知っているからね』
『じゃあ、オレに任せろ! 多分、ここにいる奴らの中で一番早いと思うからよ!』
すると、終里は一目散に駆け出した。モーテルを出て映画館へと向かった様子が中継器から伝わって来る。ならば、自分達はここで待機している間に何をすべきかと考えた時、モノウサは扉を少しだけ開いて覗き込んでいた。弐大も同じ様に中継機のカメラを伴って、中を覗き込む。
~~
第2の島で遭遇したモノケモノと違い、佐藤は人間的な理性も備えていた。
スケートボードを用いて、部屋内を縦横無尽に駆け回り、それ所か世界の理すら無視する勢いで跳ね回り、壁にめり込み、天井に吹っ飛んでいる連中を見ても毅然としていられるのだから、大した物だった。
「アンタらの弱点は知っているのよ!!」
すると、彼女は部屋の隅へと向かった。そこには館内のゴミを貯めるゴミ箱が大量に用意されていた。その内の一つを無造作に掴み取ると、彼女はヒットボックスの大きい十神に向けて投擲した。
宙でゴミが散乱し、ゴミ箱の直撃を食らった十神は吹っ飛んだ。豊満な体はさながらゴムボールの様に良く跳ねた後、壁にぶっ刺さっていた。
すると、今度は花村がミサイルの様に突っ込んで来たので、また近くにあったゴミ箱をバットの様に用いて痛打を決めた。天井へとめり込み、下半身がだらりとぶら下がっていた。
だが、休む暇はない。今度は通常の戦闘能力をも併せ持った辺古山が竹刀を構えて、突っ込んで来た。スケボー侍だ。
「キェエエエエエエ!!」
すると、蛇型の機動力を活かした彼女は3つのゴミ箱を並列に並べ、前方へと突き出しながら突っ込んで来た。
もしも、これがただ力任せに突っ込んで来ただけなら瞬く間に切り裂かれていただろう。しかし、明確な弱点を3つも構えて突っ込んで来られては、どうしようもない。歴戦の猛者とも言える彼女でさえ、跳ね飛ばされて地面にめり込み、足をバタバタさせる羽目になっていた。
「どんな奴らかと思ったら、意外と大したことないのね」
第2の島において、モノケモノと言う脅威を翻弄していたヌケーター達が瞬く間に撃破されていた。残された日向はめり込んでいる3人の方を見たが、復帰には時間が掛かりそうだった。
「アンタら、自分のことを無敵の存在だと思っているんだろうけれど、今まで運よく対策されて来なかっただけだからね」
日向1人に狙いを定め、長い胴体に巻き込めるだけのゴミ箱を抱えて、両手にもゴミ箱を抱える完全武装だった。彼女の敵意に満ちた眼光に、日向も蛙の如く身を竦める外無かった。
――
「モノウサぁ! コイツを任せたぞ!!」
「え?」
弐大は中継器を床に置くと、扉を蹴破った。今、この状況を打破できるのは自分に他ならない。
超高校級のマネージャーとしての判断力が彼を突き動かしていた。彼の考えに呼応するようにして、日向も一旦下がって弐大の後ろに付いた。
「今更、アンタ1人が増えた所で何が出来んのよ!」
佐藤の蛇状の胴体に巻き込んだゴミ箱が一斉に投擲された。食べかす、空になった容器、様々なゴミが宙を舞うがいずれも日向には当たらない。何故なら、彼は弐大を前面へと突き出して突っ込んでいたからだ。
文字通り。肉の壁としての運用であったが、弐大は両腕を広げていた。さながら、弁慶の立ち往生の如く堂々としており攻撃しているハズの佐藤が怯むほどだった。
「やれぇえええええ!!」
部屋内に咆哮が木霊する。弐大が屈強と言えど、中身の入ったゴミ箱の質量は凶器として機能するには十分な物であり、徐々に身体が傷ついて行く。だが、日向の加速は止まる気配がない。
「クソ!!」
手にしたゴミ箱で殴打しようとしたが、弐大の膂力で弾き飛ばされた。後ろに控えていた日向が万全の状態で突っ込んで来た。
もしも、命中すれば何が起きるか分からないが、少なくとも戦闘の続行は不可能となることだろう。
「うぉおおおおお!!」
彼女は最終手段を使った。転がっているゴミ箱を取って、頭から被ったのだ。
汚物が降り注ぎ、自尊心やら何やらも吹っ飛ぶがヌケーターに対しては最強の護身とも言える方法だった。実際に突っ込んで来た日向も弾き飛ばされた。
「こ、こんな。なんで、私が……!」
「うぉおおおお!」
弐大が佐藤の上半身に覆い被さっているゴミ箱を脱がそうとするが、彼女は空いた蛇状の下半身を用いて弐大を吹っ飛ばしていた。全ての脅威を撃退した。正に、彼女がそう思っていた時である。
「うぉおおおおおおおおお!!!」
女性の掛け声が響いて来た。部屋に誰かが侵入してくると同時に、猛烈な勢いで駆けて来て、佐藤の被ろうとしていたゴミ箱を蹴り飛ばしていた。開けた視界の先に居たのは、超高校級の体操部。終里赤音だった。
「お、ま、えぇええええええ!!」
佐藤が彼女に掴み掛ろうとした時、視界の端に映っていたのは。空中で受け身を取り、既に再滑走の状態に入っていた日向の姿だった。
それだけではない。天井に、壁に、地面に埋まっていた者達も入り口前にリスポンしており、同じ様に滑り始めていた。決着をつけるのに時間を掛け過ぎたのだ。再びゴミ箱を構えようとしたが、両の腕には弐大と終里がぶら下がっていた。
「クソ!! 離せ!!!」
「話せじゃと? これが終わったら、ゆっくり聞いてやらんでもないわ」
振りほどこうとするにも既に時は遅く。4人が一斉に突っこんで来た。
世界が反転する。部屋内を跳び跳ね回り、床にめり込み、ガクガクと全身が震えたかと思いきや、映画館を飛び抜けて外へと打ち上げられたと思えば、まるでダイビングの様に建物を通過して、この地下部屋へと戻って来たかと思うと、転がっていたゴミ箱にぶつかって再びピンポールの様に跳ねていた。
「意味、わかんない」
無軌道物理に弄ばれた彼女は精神的にも身体的にも極度の疲労に襲われ、そのまま意識を手放す羽目になった。
~~
『……なにこれ?』
第2の島でのモノケモノ戦は観察されることは無かったが、今回は皆で超常現象を観察する羽目になった。誰しもが呆気にとられ、西園寺だけが辛うじて声を絞り出していた。
「これがヌケーターだね。でも、佐藤さんも善戦したんじゃない? メタガン積みだったし、弐大君や終里さんの乱入が無かったら勝っていたッぽいしね」
『やっぱりヤベーよアイツら』
左右田の脳内には宙を飛ぶベッドやら何やらが思い浮かんでいた。やっぱり、ヌケーターを野放しにすると常識と言うのが悉く揺さぶられてしまうのだと。
『でも、彼らのお陰で僕達は佐藤さんを撃破できた。とりあえず、小泉さんを救出して、彼女からも話を聞いて……。USBメモリについては少し後回しにしよう』
狛枝に促され、一同はとりあえずの行動指針を再確認した。戦いを終えた日向達は奥の部屋へと続く扉を開けた。すると、同じ様にして様子を伺っていた小泉が居た。
『おねぇ!!』
「日寄子ちゃん。皆……」
「ふむ。顔色も悪くはない。無事で何より!」
中継機越しに日寄子の安堵した様子を見て、小泉は溜息を吐き出していた。彼女の無事を確認した後、一同は拘束した佐藤を連れて拠点へと戻って行った。