「佐藤って奴は拘束して、部屋に閉じ込めておいた。監視用のカメラも設置してあるし、アイツが目を覚ましたらまた話を聞くことにして」
モーテルへと戻って来た一同は、佐藤の持ち物を検査した後。目ぼしい物を取り上げてから、拘束して部屋へと放り込んでいた。
左右田の手に握られていたのはUSBメモリだ。日向達が奪い取った物とは別に用意されていた所を見るに、見せびらかしていた物は偽物である可能性が高かった。
「まず、日向君が先に奪い取った物の中身から見て行こう」
電気街に行った際、狛枝は壊れても良いPCを幾らか見繕っていたらしい。立ち上げたノートPCに件のUSBメモリを差し込んだ瞬間。PCがフリーズした。
すると、画面がブルースクリーンに切り替わり、凄まじいビープ音を立てた後にブラックアウトした。……二度とPCの電源が着くことは無かった。
「本当にトラップじゃったんか……」
「ね? 僕の言ったとおりだったでしょ?」
弐大は冷や汗を流していた。もしも、早まってUSBメモリの中身を見ようとしたら、モノウサが二度と起動しなくなっていたかもしれないのだ。日向が罰の悪そうな顔をしていたが、一同は彼の肩を叩いていた。
「お前のせいじゃねぇよ。結果的にトラップには引っ掛からなかったし、アイツも捕まえたんだからオーライだよ」
九頭龍からのフォローが入ったのだが、それでも日向は何とも言えなさそうな顔をしていた。そして、別のPCで佐藤が持っていたUSBメモリを読み込むと、幾らか動画ファイルが入っていることが確認できた。
PCの画面で見るには小さい為、これまた電気街から取って来ていたプロジェクターを用いて、映像を投射した。
~~
「やっぱり、才能の有る奴らだけが特別なのかよ!!」
とある、建物の前に民衆が集まっていた。彼らの手にはバットなどを始めとした凶器が握られており、中にはベッタリと血液が付着した物もあった。
スーツを着た構成員達が彼らを押しとどめているが、ほんの些細な切っ掛けで爆発しかねない危険な状況だった。この状況を見ていた初老の男性は、撮影者の方を振り向いて言った。
「佐藤君。皆を避難させようか」
「は、はい。天願さん」
建物へと入り、エレベーターを起動させて地下へと下って行く。薄く照らされた階層は、さながら牢獄を彷彿とさせた。幾つもの部屋が並んでいた。
部屋の扉を次々と開けて行くと、老若男女。様々な者達が出て来た。いずれも憔悴しており、顔には疲労が色濃く浮かんでいた。その内の1人、中年の女性が覚束ない足取りで近付いて来た。
「輝々は、輝々はあんなことをする子じゃないんです。これは何かの間違いなんです。あの子は親思いの良い子で……」
「黄桜君からも話は聞いています。今、起きていることは何かの間違いなのです。大丈夫ですよ、花村さん。ちゃんと、彼のことは保護をいたしますのです」
彼女は何度も頭を下げて謝辞を述べていた。他の者達も不安を滲ませながら、スーツを着た構成員達に従って、何処かへと移動していく。彼らの姿を見送りながら、佐藤が問うた。
「天願さん。彼らの拠点を移すの、これで何度目ですか?」
「仕方あるまい。彼らは超高校級の絶望と同じ位に憎まれているのだから。だが、彼らこそ。絶望を唯一希望に引き戻せる存在なのだ。何としてでも守り切らねばならん。……相応の苦労は背負わせるが」
この牢獄とも言える場所に収監されていた者達は、現在世界を混迷に叩き落している者達の肉親だった。身内が誰かを害し、不幸を撒き散らす存在となった今、彼らもまた世界から憎まれる存在となっていた。
故に、彼らを殺させる訳にはいかなかった。もしも、死なせてしまったら絶望達はいよいよ歯止めが利かなくなる。彼らを引き戻す、唯一の手掛かりなのだから。だが、不安は残る。
「逆に考えたら、絶望側が煮え切らない身内を焚きつけるには、この上ない存在ってことですよね?」
「そうだ。だから、我々が守らねばならない」
天願達の移動した先には地下鉄が秘密裏に運行されていた。縁者達が互いに励まし合いながら、電車に乗り込み終えた時である。
反対側のホームから電車がやって来た。白と黒のツートンカラーで先頭部分には、モノクマの顔が取り付けられていた。停車すると、ゾロゾロとモノクマのマスクを被った者達が降りて来た。手にはバットやチェーンソーなど、殺意に満ちた得物をぶら下げながら。
「発車を急げ!」
天願が叫ぶ。急いで電車を発振させようとするが、モノクマ暴徒達の動きは早く、その内の1人が滑り込もうとした時である。
下から何かがニュッと生えって来た。モノクマ暴徒が見下ろした先に、まるで海藻が生えて来たかのようだった。だが、徐々に全身が現れて行くにつれて、これが人間であることが分かった。
「下らない」
海藻の様に見えたのは、伸び放題に生やした髪の毛だった。髪の隙間から見える相貌は血の様に真っ赤だった。彼か彼女かも分からない毛玉の様な人間が髪の毛に手を突っ込むと、中から出て来たのは……スケボーだった。
モノクマ暴徒の足元にスケボーを滑り込ませた瞬間、その体は天井を突き抜けて地上へと射出された。
「出せ!!」
誰もが呆然とする事態の中、重要人物達を乗せた電車は進んで行く。
残されたモノクマ暴徒達はレールの上に降りて電車を追いかけようとするが、先程の毛玉が前に立ちはだかっていた。そして、彼はスッと1枚のスケートボードを取り出して差し出していた。
このままでは興奮したモノクマ暴徒達により暴行され、襤褸クズの様になってしまうだろう。誰もが抱いた予想はあっけなく裏切られた。
「詰まらない。と言うことは、滑ることに最適であるということです」
深く沈んだ声で何言ってんだコイツ。と、皆が思ったがモノクマ暴徒はスケートボードを受け取った。すると、瞬く間に乗りこなしてモノクマ列車がやってきた方向へと消えて行った。
他の者達も同じ様にスケートボードを受け取り、モノクマ列車が消えた方向へと滑って消えて行く。誰もが凶器を捨てて、スケートボードを選んでいた。
「何。コレ。なに?」
まるで訳の分からない事態が起こっていたので混乱していると、件の毛玉は天願へと歩みよって来た。護衛達も殺気立つ中、天願は毛玉を見据えて行った。
「私を恨んでいるのか?」
「下らないと思っただけです」
近くで声を聴けば、男性の物であることが分かった。彼は佐藤を一瞥すると、自らもスケートボードへと乗って、モノクマ暴徒達が消えた方向へと去って行った。
~~
「………………」
モーテル内を沈黙が包んでいた。全員の視線が日向へと注がれていた。こんな映像を見た後で関心が湧かない訳もない。しかし、何と問えば良いのかと遠慮している中、真っ先に尋ねて来たのは狛枝だった。
「もしかして、アレ。日向君?」
すると、彼は首を傾げた。横に振る訳ではないと言うことは、否定はしないが、自分であるかも分からないと言った所だろう。
「俺達の記憶も消えているんだから、日向の奴も消えているんだろ。それに、この能力って感染するみたいだしな」
左右田がチラリと辺古山や花村達を見ていた。自分の母親と思しき人物が出ていたこともあり花村は難しい顔をしていたが、辺古山と十神は真顔だった。
「でも、声は日向さんソックリでしたよね。喋り方は違っていましたが」
第3の島に来てから、日向の声を一番よく聞いていた罪木が率直な感想を述べた。声質は似ているが、喋り方などは違うとなれば同定はし辛い。
「でもよ、あのメンバーの中にオレの弟達もいたし、もしもアレがオメーだって言うんなら、助かったぜ」
先の映像に関係者が映っていた者達を代表して、終里が感謝を述べていた。
そんなに感謝しているなら、一緒に滑ってみないかと言わんばかりに日向はスケートボードを差し出していた。彼女も快く受け取ろうとした所で、弐大が止めた。
「日向よ。色々と活躍してくれたことはありがたく思っとる。じゃが、終里はキチンと方向を決めて伸ばしたいんじゃ。だから、ちっと待ってくれんか?」
超高校級のマネージャーとして、選手を特定の方向に伸ばす為にも予定にない負荷は掛けたくないらしい。日向はスケボーをしまった。
「全員が無事とは限らんが、俺達の関係者は保護されている可能性が高いとなった訳だ。なら、尚更。この島から出て行く理由は出来た訳だが」
田中が全員を見た。外に出る動機が補強されたと言うことは、残りたいと思っている者達との溝が深まることに他ならない。
西園寺は小泉の方を不安そうに見ていたし、罪木もまた縋る様な視線を日向に投げかけていた。
「佐藤ちゃんにも話を聞いてみようよ」
意を決した様に小泉が言った。丁度、佐藤を監視しているビデオカメラには、彼女が目を覚まして周囲を見渡す様子が映し出されていた。