目を覚ました佐藤は自らが拘束されていることに気付いた。それと同時に、ここに至るまでの経緯も速やかに思い出していた。
「(尋問は基本だろうしね)」
目の前には、カメラが取り付けられたモニタが設置されていた。ならば、自分が目を覚ましたことは伝わっており、何かしらの接触があるはずだ。
彼女の予想は見事に的中した。モニタには真昼を始めとした男女が映し出され、こちらの様子を確認している様だった。
『佐藤ちゃん、大丈夫? 痛い所とかない?』
「私は大丈夫よ。……その様子だと私が持っていたUSBメモリの中身は見たんでしょ? 何が聞きたいの?」
単刀直入に聞いた。自分がそこまで頭がいい方でないことは分かっている。だとすれば、少しでも話を分かりやすい方向に持って行くだけだ。
真昼を傍らに座らせて、交渉の卓に着いたのは癖毛が特徴的な高身長の少年――狛枝だった。
『どうして僕達に対してちょっかいを仕掛けて来るの? 未来機関員として、僕達を抹殺したい。……って訳じゃなさそうだしね』
本当に彼女が危害を加えるつもりであるならば、日向達の様なヌケーター達を介入させない方法など幾らでもあったはずだ。だが、彼女は態々待ち構えるなどと言う悠長なことをしていた。
「別にアンタらのことなんてどうでもいいのよ。私が心配しているのは最初から真昼だけなんだから」
『と言うことは、僕達を襲ってきているモノケモノと君は関係ない?』
「ちゃんと使えるならもっと上手いこと使っているし。じゃあ、誰が? なんて質問は無意味だからね。アンタらのことを殺してやりたいって思っている人間がどれほどいると思ってんの? ――超高校級の絶望共が」
超高校級の絶望。国を支えて、人々をリードする希望として巣立っていくはずだった彼らの成れの果て。未だに実感は湧かないが、残された記録は淡々と事実だけが記されていた。
『そこが気になるんだよね。僕達が超高校級の絶望だとしたら、どうして生かして更生させるなんて悠長なことをしているんだろうって』
情報のアドバンテージで相手を威嚇できると思っていた佐藤だったが、狛枝の冷たい声に身震いせざるを得なかった。
『世界を絶望に叩き落した連中を排除して、希望として崇め奉られる。こんなに分かりやすいサクセスロードがあるのにね? 佐藤さんだっけ? もしも、君が僕らの生殺与奪を握っているなら、遠慮なく奪ってくれても構わないんだよ? それで、世界中に希望が花開くならお安い御用だよ』
強がりでも何でもない。この男は、本気で言っている。希望が輝けるというなら、喜んで踏み台になろうとしている。
だが、他の者達は到底そんな気が無いらしく、狛枝を引き摺り下ろしていた。代わりに座ったのは、九頭龍だった。
『極道の世界じゃケジメを付けるのは当然のことだけれどよ。テメーらがそれを選ばない理由が分かるぜ。恐らく、意味が無いってことに気付いたんだろ?』
「へぇ。菜摘のお兄さんの方は察しが良いのね」
『何よ。まるで、私が察しの悪いみたいに』
画面の端で見切れた菜摘がブースカ文句を垂れていたが、真顔の辺古山に引きずられて消えて行った。
『捕まった所で排除されるとなれば、全員が鉄砲玉にならざるを得ねぇ。そうなったら、本格的に破滅し合うまでやり合うしかなくなる。そんな状況になったら、どっちが勝ったとしても再起が難しくなる。ある程度の落とし所として、俺達みたいな連中でも更生のチャンスがあるって例を作りたいって所か?』
お互いを滅ぼし合うまでやり合ったら、殲滅戦争にまで行きつく。そうなれば、世界の復興が難しくなる。故に、何処かで手を打たねばならない。
故に、保護・更生のテストケースとして自分達が選ばれたのではないかと、九頭龍は考えていた。
「つまり、このジャバウォック島は絶望達の流刑地って風に考えたのね。あながち間違いでもないでしょうけれどね」
『なるほどな。……これが更生プログラムならウサミが言っていたことも納得するが、じゃあお前はなんの為に来たんだ?』
「私だって何が起きているか分からないから調査で来ているのよ。ただ、今起きている事態を考えるに、恐らくだけれど黒幕? が居るとしたら、アンタらが絶望に戻って欲しいんじゃない?」
そもそもの話。本当に更生させたいなら初期のプログラムを遂行すればいいだけだ。何も分からないまま南の島に修学旅行に来た一同は、同級生と課題を通じて中を深めて……と言った風に出来たはずだ。
しかし、襲撃者によって自分達が恨まれている存在だと知り、そこから芋づる式に記憶が失われていると言うことに気づかされてしまった。更に記憶を掘り起こして行けば、自分達の罪にぶち当たる。
彼らが絶望に陥ったことにはロジックがある。今まで起きて来た事態を思い返して行けば、悪性がぶり返すことは想像に容易い。
『だけど、それならどっち側の仕業か分かんねぇな。俺らと敵対している側だとすれば『ノコノコ平穏に戻るな』って意図があるだろうし、俺らと同じ側だったら『今更元に戻るな』って考えでもあるだろうし』
「ハッ。つまり、元のアンタらの居場所は最初から何処にもないのよ。あ、真昼だけは別だけれどね」
挑発する様にして、佐藤はチラチラと舌を見せつけていた。画面の隅に映っていた西園寺が嫌悪感に顔を歪め『きっしょ』と呟いていた。
『よし、じゃあ一番重要なことを聞くぜ。お前、どうやってここに来たんだ?』
ここに来るまでの経緯や記憶なども知りたい事ではあったが、最も知りたいことは交通手段だった。自分達は気付いた時からここに居たが、佐藤ならばアクセス手段も知っているのではないか。外に出られる方法を知っているのではないかと。すると、彼女は笑っていた。
「残念ね。実は私も覚えていないの。向かう様に手配されただけでね。知っていたら、脱出される可能性も考えてのことだろうけれど」
『使えねーな。じゃあ、お前。これからどうするんだ?』
「……私は真昼さえ守れたら、他はどうでもいいと思っている」
『そうか。小泉、テメーはどうしたい?』
今まで、ずっと傾聴に回っていた彼女だったが、ここに来てようやく話題を振られた。すると、彼女は戸惑うこと無く言った。
『佐藤ちゃんが良かったら、一緒に付いて来て欲しい』
「…………………真昼のお願いならね」
『あら^~』
今まで、貝のように口を閉じていた七海が画面端で汚い声を上げていたので、ソニアと左右田に拘束されて、姿を消していた。
そして、通話が終了してから少し経った後、彼女が拘束されていた部屋の扉が開かれた。入って来たのは九頭龍、小泉、日向の3人だった。
「まだまだ、聞きたいことは大量にある。けど、一旦来て貰うぜ?」
「分かった」
蛇状の胴体を引きずりながら、佐藤は渋々と言った様子で彼らの後を付いて行った。……そして、全員と鉢合わせをするのだが。
「「「………………」」」
佐藤は色々と縁のある相手らしく、菜摘は気まずそうにしていたし、西園寺は親の仇の如く敵意を剥き出していたし、売り言葉に買い言葉と言わんばかりに佐藤も眉間にしわを寄せていた。
「暴れんなよ。暴れんなよ…・…」
そんな場の空気を鎮めるために七海が諫める一言を述べていたが、火に油。夏にアイスティーばりに効果が無かった。だが、彼女のいじらしい仕草に罪木は微笑んでいた。
「(凄いです。七海さん! こんなに空気を読めていないなんて、私みたい! 今なら、とっても仲良く出来そうです!)」
ポンと日向に肩を叩かれた。間違っても口にするなよ。と言わんばかりに、心配そうな顔をしていたが、当の本人は構って貰えて嬉しそうにしているだけだった。
さて、場の空気の悪さを何とかしなければ話が始まらない。ここは1つ、自分の友人を紹介するかと意気込んだ、小泉が両手を叩いた。
「えっとね。改めて紹介するよ。彼女は佐藤ちゃん。私と菜摘の同級生で、同じ写真部に所属していた子なんだ」
「へぇ~! 2人は希望ヶ峰学園に行けたのに、置いて行かれたんだね!」
早速西園寺の先制パンチが放たれた。小泉が言葉に詰まり、菜摘も微妙な顔をする中、佐藤は鼻で笑っていた。
「そう。だから、希望ヶ峰学園に来るまでの私は真昼とずっと一緒だったの。この島に来てからの記憶しかない誰かさんと違って、よぅく知っているんだから」
「死〇よ、蛇女」
人のことを煽る奴に限って煽り耐性はゲロ低だった。一触即発の空気になり掛けたが、頑張って小泉が進めた。
「それで、私を追って予備学科に来てくれたから、色々と事情に詳しいんだとか」
「高い学費を親に払って貰って、やることストーカー?」
流石に西園寺の暴言を見かねたのか、日向が彼女の頭にチョップを入れていた。暴力を前にしては口も減らざるを得なかった。
「まぁ、アンタらとあんまり仲良くするつもりはないから。精々真昼にちょっかいを掛けないでね」
「おそるべき 百合女 が 仲間に なった!」
バァン! と、このナレーションを言う為だけに準備をしていたのか、モノウサが天井から降って来た。佐藤の眉間に血管が浮き出た。
「なんで、ここにクソグマがいるのよ!!」
「あー! お客様! ウサ虐待はよくありません! 今の僕は暴力教師に力を奪い取られた哀れなエンジェル!!」
「おい、モノウサに酷いことするなよ」
この島で八面六臂な活躍をしたおかげで、左右田を始めとしたモノウサを仲間と認めた者達のインターセプトが入った。これを見た、西園寺は笑っていた。
「やーい、お前の人望モノウサ以下―!」
ド。ド。と、日向に2連発でチョップをぶち込まれた。気のせいでなければ、当りが強い気がする。病院での件を根に持っているのかもしれない。
「佐藤。アンタ、そんなにべたべたしていたっけ?」
「人は変わるのよ」
たまりかねた菜摘が尋ねた所、佐藤は意味ありげに日向と彼女の方を交互に見ていた。数人は、この視線の動きに気付いていたが何の意味があるかは理解できなかった。