「ねぇ! 皆、見て!」
石丸に召集を掛けられ、図書室で何か発見が無かったかと言う報告をしていると、不二咲が実に嬉しそうに発見した物を見せて来た。少し型落ちしている感じは否めないが、しっかりと電源も入るノートPCだった。
「おぉ! 流石、ちーたん! ネットの方には繋がりますかな?」
「それは流石に無理かな。でも、プログラムを組んだりも出来るし、これで僕も出来ることが増えると思う!」
「素晴らしい報告だ! 他の皆は!」
流石に蔵書の全てを調べるのは無理だとしても、自分達がここに来るまでの間に何があったのかと言う近況を知る手掛かり位はあるだろうと期待してのことだったが。
「悪ぃ! 大和田と一緒に漫画読んでた!」
「ジョジョもGTOも置いてあったからよ!」
「結構盛り上がったべ!」
「うむ、まぁ。そうか……」
出来るだけ学友に偏見を持たないように努めている石丸でさえ眉をしかめていた。彼らの気質に対する苦手意識もあったのだろう。気にせず、他の報告を求めていた。山田が手を挙げた。
「僕は漫画などが第何版かを調べ、現在を推測できないかを試みていました。残念ながらこれらは全て初版であり、現在も続いている漫画は敢えて置かれていない様でした」
「僕らに正確な時間を把握させない為にと言った所だろう。だが、逆に言えば、時間の経過を知られたくない。と言ったことは推測できるな。山田君、これは重要な情報だ」
見た目は入学した時と変わりないにしても、それなりの年数が経過していると思っても良さそうだった。
「私もソイツと同じよ。結果も含めてね。私が希望ヶ峰学園に来るまでに書いた物しか置いていなかった」
「となると、近況の情報は意図的に隠されていると言う事か。僕も新聞などが無いかを探したが、置いていなかった」
図書室に新聞が置いていないのはかなり不自然だった。徹底的に現在に関する情報が隠匿されている。
普通に思いつくアプローチ程度では満足いく情報は得られない。故に、石丸が期待したのは特に勘や思考能力に優れた3人に対してである。
「残念ながら私は特に何もしていません。こう言うのはガラではないので。霧切さんや十神君なら何かを見つけているのでは?」
「書庫の方に整理されていない情報が大量にあった。あそこからまだ情報は入手できるとは思うけれど」
「俺とコイツ以外では碌に読み解けないだろうな」
霧切も頷いていた。十神の物言いは傲慢な物であったが、実際に専門的な知識が相当に求められるのだろうと言う事は予想できた。このメンバーの中でも2人の知識量や経験は頭一つ抜けていた。
「そうか。では、そちらの方をお願いしたい」
「頼まれなくてもやる。……所で、報告を聞き忘れている人間がいないか?」
十神が誰を指して言っているかは分かる。スケートボードを片手に、スケボーのカタログをもう片手に持っている苗木と。同じ様に真顔で棒立ちしている江ノ島に何を見つけたかと聞く意味を見つけられなかった。
「えっと、苗木君達は何を見つけたんですか?」
あまりに言い辛そうにしていたので、代わりに舞園が尋ねた。
スッとスケボーカタログを差し出された。特に気に入ったページをパッと開いて、写真を指差ししていたが、だから何だと言わんばかりの反応だった。
「よし、かなり有意義な探索だったな。調べるので少し疲れもしただろうから、休憩を挟もう」
相手にされなかった苗木が多少拗ねた所で、江ノ島が彼の肩を叩いていた。
十神と霧切が書庫に閉じこもり、他のメンバーが部屋を出て行く中。江ノ島と共に体育館へと向かおうとした苗木の肩を叩く人間がいた。舞園だ。
「あの、苗木君。今、お時間の方は大丈夫ですか? ちょっと、一緒に学園内を見て回りたいなって」
江ノ島の方を見ながら言った。苗木は頷くと同時にスケートボードを差し出していた。流石に乗る気にはなれなかった。
「出来たらゆっくりお願いしたいんです。良いですか?」
スッとスケボーを引っ込めた。構わないらしい。ただ、問題があるとすれば言外に席を外してくれと言っているのに、まるで江ノ島に離れる気が無かったことだ。流石に言わねば分からぬか。
「江ノ島さん? 出来たら、苗木君と二人でお話したいんですけれど……」
少し考え込むような素振りを見せた後、彼女は体育館に向かってスケボーを走らせて行った。意外と聞き分けは良かった。
そうして、2人きりになった訳だが、何を話すか考えていなかった。気になることは大量にあるが、いずれも彼を詮索するような話ばかりで交流を育むと言ったことからは程遠い様に思えた。……だが、避けては通れない。
「昨日、江ノ島さんと何があったんですか?」
1日にしてあの交流の深め方と変貌っぷりも気になっていた。すると、彼はスケートボードを掲げた。全てはコイツのお陰であると。
「なんで、スケートボードを滑っただけで?」
少なくとも彼女の常識にあるスケートボードにそんな強力な催眠効果の様な物は無かったハズだ。だが、現実に起きている。
苗木はスケートボードを指差した後、親指と人差し指で丸を作った。コイツにはそれだけの魅力があるんだ。OK? と言わんばかりだった。
「全然分からないです……」
誰だって初めは分からない物さ。滑ってみたら分かるかもしれない。と言いたげな感じでスケボーを差し出して来た。どうあっても勧めるつもりでいるらしい。
マジで断れば今度こそ近付いて来なくなるかもしれないし、乗ってしまったら何が起きるか分からない。そう判断した舞園が取った方法はと言えば。
「図書室以外にも3階に続くシャッターもありましたよね。やっぱり、また何か交換条件を出されるんでしょうか?」
話題を逸らすことだった。実際に悩ましい問題でもあった。
探索範囲が2階に広がり、書庫に色々と情報源が眠っているにしても、自分達が出来ることは限られている。
今度はどんな条件を提示されるのか。ひょっとしたら、コロシアイに発展するだけの何かがあるかもしれない。そう考えると、舞園は自分の体が震えていることに気付いていた。自分達は異常から逃げきれた訳ではないのだと。
「あ……」
朝日奈を始めとして、2階に上がった直後から皆は打ち込める物を見つけている。才能を磨き鍛え上げることで、まとわりつく不安を消し飛ばしているのだ。
だというのに、自分はどうだろうか。誰にも見られていないアイドルに何の価値がある。皆に元気を与えられないアイドルに意味があるのか。
一度、浮かんでしまった考えは拭い難く。不安と緊張で全身が硬直する中、苗木はいつもの様にスケボーを差し出して来たりはしなかった。
「ぁ……ぃ、…ぅ…ぶ」
「え?」
気のせいでなければ、彼の口から言葉らしきものが出て来た。だが、彼の声は酷く霞んで、エコーしている様に何重にも重なって聞こえた。
「今、なんて?」
彼は親指を立ててサムズアップをしていた。大丈夫だ。と言っているのだろうか。それよりも、彼が言葉を発せると言う事に驚いていた。
だが、絞り出された声は明らかに普通の物では無かった。喉に酷く負担をかけているというか、かなり無理をしている印象は受けた。同時に、こちらを労わってくれている気持ちも伝わって来た。
「……苗木君。私、正直に言うと貴方のことがよく分からないし、ちょっと怖いと思っていたんです」
普通の人間は壁を抜けたりもしなければ、爆風を受けて無事でいられるはずがない。今は自分達に有利な様に動いてくれているが、どうしてそこまでしてくれるか分からない以上、不気味だった。
「でも、今は心配してくれているんだなって思って、ちょっとだけ安心しました。酷い話ですよね。散々、頼りにしておいた挙句、気味悪がって……」
そんな物。お互いの無理解が原因さ。相手の趣味を始めてみれば分かることも沢山あるよと言わんばかりに、いつもの様にスケボーを差し出して来た。
「それは嫌です」
幾ら反省したとしても譲れないラインはあるらしい。
だが、苗木も彼女に興味を示したのか、相槌を打つ回数を増やしていた。そんな彼らを柱の影からジィ~っと見つめている男が1人。
「苗木の野郎。舞園ちゃんとも距離を近づけやがって」
桑田怜恩。超高校級の野球選手であるが、本人の才能とやりたいことがイマイチ嚙み合っていなかった為、自らの才能を磨くことに没頭することも出来ずにいた彼は、ここ数日の間に女子とお近づきになった苗木の動向を観察していた。彼の視線は、スケートボードに向けられていた。