「おい、モノウサ」
お前がマスコットを務めるテーマパークがこれなのか? と、尋ねようとした左右田であったが、モノウサの苦悶顔を見れば違うことは直ぐに分かった。
楽しみにしていた遠足が雨天で中止になった様な、期待していたシリーズの続編がソシャゲになっていた様な。この世の絶望を一身に引き受けた様な壮絶な表情だった。
「んぉおおおおおおおお。絶望的ィいいいいいい!!!」
「モノウサさん! 気を確かに!!」
可愛らしい声の中に女性みたいな悲鳴が混じったのを心配して、ソニアが介抱していた。七海や左右田からも案じられていたが、他の者達はあまりの事態に脳内の処理が追い付いていないようだった。
「えっと。モノウサ? そのテーマパークが丁度、イルブリードとコラボ中とかってことはないよね?」
「する訳ねーだろ!!! 一体、どれだけの罪業を重ねればそんな懲罰を食らうんだよ!!!」
狛枝が念の為にモノウサに尋ねてみたが、烈火の如き怒り様で否定していた。
もしも、このテーマパークの経営部門が正常に機能していればイルブリードとのコラボ等、真っ先に否定されていたハズだろうに。だが、現実は絶望的だった。
「でも、ゲーム内のテーマパークがリアルで再現されているってなったらさ、ゲーマーとしてワクワクしちゃうよね」
「殺人テーマパークがですか?」
七海のテンションが上がっているのを見て、ソニアが少し距離を取っていた。
他のメンバーもようやく正気を取り戻して来た所で、九頭龍が何かを思い出している様だった。
「考えてみればよ。第2の島の時から、やたらとこの『イルブリード』ってのが付いて回って来るんだけれど、なんか関係あるのか?」
第2の島ではゲームとして実装され、第3の島では映画として上映され、そして今回はテーマパークとして姿を現した。ここまで擦られていることには、何かしらの意図を感じずにはいられなかった。
「分かったっす! きっと、この黒幕はイルブリードが大好きなんっすよ!!」
もしも、澪田が言う通りならば黒幕には絶望的な位にプロデュースの才能が無い。こんなことをされたら、イルブリードが好きになる所か関係者を呪い、場合によっては地獄に叩き落すことも厭わない位に嫌われるだろう。
「は? 殺す」
モノウサの両手から鉤爪の様な物が出現するかと思われたが、JKもかくたるやと言わんばかりのデコされたネイルアートが出て来る位で、彼の殺意に応えてくれそうな凶器は出て来なかった。
「えぇっと、狛枝さん。映画の内容通りに行くなら、この施設ってただのテーマパークじゃないですよね?」
「そうだね。設置されたアトラクションはB級映画をモチーフにしているから、参加者を殺しに掛かっているんだけれど」
罪木の質問に対するアンサーを聞いた皆は思った。誰がそんな物に挑むんだ。
精々、調子に乗ったパリピか己の全能感を信じている大学生位しか行かんだろ。と、全員が思った。
「映画じゃ賞金は1億ドルだったけれど、ここにある賞品の記憶は1億ドル相当ってことか?」
左右田がB級映画の登場人物の如く軽口を叩いた。普段は臆病者な彼がこんな風に調子に乗る理由に、真っ先に気付いたのは九頭龍だった。
「だったら、1億ドルをポンと出して貰おうじゃねぇか。なぁ、日向!!」
バシっと日向の背中を叩いた。そうだ、死のアトラクション程度でヌケーター達が止められる訳が無い。パパっと攻略して、終わりっ。
自分達は外で待機していればいい。と、全員の表情に安堵が浮かんだ。だが、そんな甘えを許してくれるテーマパークでは無かった。
『イルブリードは、この島全体がテーマパークだ。傍観者は許されない』
ドボォと言う音と共に地面がせり上がり、現れたのは皮膚が腐り落ちた、動く死者達。ホラー映画のお友達とも言えるゾンビだった。
そして、不自然な位にテーマパーク内には湧いていない。自分達を招き入れる為の罠だ。傍観するならゾンビのお友達になって貰うぞ、と。
如何にヌケーター達が超人めいた挙動と現象を引き起こすにしても多勢に無勢だった。一同は慌ててイルブリード内に駆け込まざるを得なかった。
「ア”ァ”ア”ア”-! ァオ”ォ”ォー!!」
閉じられたゲートの先ではゾンビ達が呻き声を上げている。何時、ゲートが破られるか分からない不安の中、園内には幾つもの建物が並んでいた。入り口の近くにはドラッグストアなんていう、テーマパークには似つかわしくない物が建っている。。
そんな彼らの不安を煽る様にして、テーマパーク内に設置されたスピーカーから恐ろしい声が響いて来た。
『あのゲートは頑強に作られている訳ではない。長くは持たないだろう。早急にアトラクションをクリアしなければ、君達はイルブリードのスタッフとして迎え入れられる』
「ふざけんなよ! こんなクソみてぇなテーマパークで死んでたまるか!」
「センス無し! ゲロブタ! 中古屋での買取拒否! サブスク未配信! 動画サイトで割られてろ!!」
九頭龍が中指を立てて捲し立て、西園寺からは制作者に対する罵詈雑言マシンガンが放たれていた。前者の暴言に対しては嘲笑で返していたが、後者の方は無言だった。
すると、ドラッグストアから何かが出て来た。子供ほどの身長しかないが、頭部と胴体が同じ位の大きさを持つ、可愛らしさの欠片も無い女の子の人形だった。彼女の手にはホースが握られていていた。
「いらっしゃいませぇ!!!」
ホースの口からは黄色い液体が勢いよく発射された。西園寺の顔面にヒットした所で、慌てた日向が店員をスケボーで殴り倒していた。
「オ”ェ”エ”エ”!」
「日寄子ちゃん!?」
急いで小泉が駆け寄って来た。何か危険な薬品をぶっかけられたのかと思い、そっと手で仰いで臭いを確認した所、爽やかな柑橘の香りがした。解放されている西園寺に、佐藤がタオルを投げた。
「ただのレモンジュースじゃない。大袈裟なのよ」
「すっぱぃいい!!」
アトラクション外で始末する気は無いと言うことらしい。未だにゲートはガタガタと震えており、ゾンビ達の侵入を防ぐには心許ない。
今までの様にヌケーター達が攻略して来るのを座して待つ。という選択は、今回ばかりは取れそうになかった。……ならば、どうするか。
「皆、聞いて。私に考えがあるの」
神妙な空気の中、七海が切り出した。イルブリードは映画であると同時に同タイトルのゲームの実写化作品でもある。つまり、攻略と言う面ではこの中の誰よりも詳しい。
「もしも、設定に忠実なら6つのアトラクションをクリアする必要があるんだけれど、私達は18人+1。つまり、丁度3人ずつで分けられる」
「同時攻略。ってことですか?」
「うん。それに、もしも原作の空気を守りたいなら、各アトラクションに外のエネミーを引っ張って来るような真似はしないと思う」
つまり。6つのアトラクションの内のどれかに入れば、気にするのはアトラクション内の脅威だけで済むと言うことだ。雑に大量のゾンビを相手にさせられると言うことはない……という可能性に賭けていた。
だが、ソニアの顔は不安に染まっていた。均等に割り振れば3人ずつと言うことになるが、問題は組み合わせである。
「出来るだけ、各班に1人はヌケーターを入れる様にするにしても」
日向、十神、花村、辺古山。が該当者ではあるが、後2人足りない。終里が日向の方を見た。
「なぁ、スケボーさえ使えばヌケーターって奴になれるんだろ? だったら、オレにもくれよ。多分、乗りこなすのにそんなに時間は掛からねぇからよ!」
このメンバーの中でも運動神経の良い彼女ならば、スケボーを乗りこなすにも時間は掛からないだろう。だが、日向達は首を振った。
「あ? なんでだよ。こんな状況だから、四の五の言ってられないだろ?」
「いや、多分。その、必要に応じてなるとか。そう言うのじゃなくて、身も心もしっかりと堪能しないとなれない。とか?」
恐る恐る罪木が推論を述べた所で、日向達は同様に頷いていた。なれば便利なジョブや異能と言う訳ではなく、彼らは純粋にスケートボードを楽しんでいるだけらしい。
いざとなれば、スケーターになればいいと思っていたメンツの幾らかはショックを受けていた。都合よく安全切符を引き出せたりはしないのだ。
「足りない所は弐大君か私とモノウサを入れることにしよう」
ゲームという形ではあるが、イルブリードの世界を知っている七海の知識は頼りになるだろうし、第2の島と第3の島でも活躍した弐大の身体能力があれば、ヌケーターの様な超常現象に頼らずとも順当に活躍してくれることだろう。
チームの割り振りを行うにもあまり時間は掛けられない。各施設の内容を知る七海が難易度に合わせた人選が行われて行く中、ゲートからミシリと言う嫌な音が聞こえて来た。
「なぁ、本当にこのメンバーで行くのか?」
「ごめん。熟考している余裕はなかったから。じゃあ、生きて会おう」
「その時は、皆で黒幕を八つ裂きにしよう!」
モノウサが殺意を滲ませながら言った。いよいよゲートが崩壊寸前に陥り、皆が決められたチームを組んで、該当のアトラクションに突入した。僅かに前後して、イルブリードの園内には大量のゾンビが流れ込んで来た。