舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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だからよ……こんなんになるんじゃねぇぞ……。


85時間目:小説は自由! やりたい放題なんだ!

 イルブリードの大トロとも言える材木人間のシーンであったが、中身がモノウサであるとすれば手放しで喜ぶわけにもいかない。

 幾ら、最初にデスゲームを仕掛けて来ようとした奴でも被害が無い内に改心させられて(強制)、それなりに皆に貢献してくれているのだから見捨てる訳にも行かなかった。

 

「でも、今後の展開を考えると確かにモノウサが誘拐された方が自然だったかも」

「なんでっすか?」

「えっとだね」

 

 狛枝の説明によれば、映画では先程の材木人間と化したランディの脳みそが取り除かれてしまっている為、バカになっているというが。普通の人間はそんなことされたら無事では居られない。

 だが、モノウサは最初から人造物として作られている。脳みそに当たるCPU的な物を取り除かれても直ぐに死んだりはしないだろう。

 

「き、聞いているだけで澪田の頭が痛くなってくるっす。なんっすか? 製作者はちょっといけないお薬でも?」

「開発インタビューを見たけれど素面だったらしいよ」

 

 ゾッとした。世に絶望した訳でもないというのに、こんな狂気の産物を普通に生み出せる存在と同じ時代に生きていることに寒気がした。

 ベルトコンベアのある部屋を抜けて進んで行くと、更に地下へと続く階段が見つかった。……その奥には、巨大な植物の根が手招きする様に前後に動いた後、引っ込んで行った。

 

「あの、七海ちゃん? 奥地にまで行ったら、アレの大本と戦う必要があるんっすよね? 勝てるんっすか?」

 

 このチーム。ブレイン面においては非常に強いが、フィジカル面では少し頼りない。唯一の男性である狛枝の体格が比較的良い物だとしても、こんなトンチキ施設の脅威を相手にしては心許ない。

 

「一応、入り口で武器は持って来たんだけれど」

 

 あの資料ブースを閲覧していた時にくすねていたらしく、ピンク色の可愛いリュックから、キャンプとかで使いそうな両手斧が出て来た。

 凶器としては十分だが、このアトラクションに蔓延る狂気に対する者としては物足りない。そう言えば、チェーンソーなども置いていたが。

 

「流石に僕達にはチェーンソーの扱いは分からないねから。下手に持って来たら、却って自分達を危険に曝しちゃうかもしれないし」

 

 楽しんでいた様に見えて、あの時。七海と狛枝はしっかりと攻略の為に武器の品定めをしていたらしい。決して、遊んでいた訳では無かった。

 階段を降りて進んだ先にある部屋へと入る。加工されるための材木がストックされていたが、いずれも不気味な造詣をしていた。

 

「なんか。中に人が入っていそうな……」

「澪田さん。触っちゃ駄目」

 

 七海に注意され、澪田は伸ばした手を引っ込めた。彼女が先導してくれているとはいえ、何処に何があるかは分かった物ではないからだ。

 上階よりも床や壁に飛び散った血の量は増えている。この先には更に凄惨な現場が待ち受けているのかと思うと、ゴゥンゴゥンと音が聞こえて来た。

 

『B2ライン、解答確認』

 

 無機質な機械音声と共にベルトコンベアに何かが落ちて来た。全身はツルツルで正体は分からないが、澪田の脳は警鐘を鳴らしていた。アレが何かを理解してはいけないと。気づけば七海と狛枝が澪田の目と耳を覆っていた。

 

『タービン全開。皮剥ぎ入ります』

 

 不幸なことがあるとすれば、澪田は超高校級の軽音楽部だった。音感だけではなく通常の聴覚も常人より優れている彼女は、ベルトコンベアに運ばれていった物が受けている処理を音で聞き取っていた。

 

「あ……」

 

 自分はこれとよく似た音を知っている。閉じられていた記憶の蓋が開かれようとした所で額に痛みを感じた。見れば、七海からデコピンをされていた。

 

「モノウサ。助けるんでしょ?」

「……そうっすね」

 

 皮はぎの工程を終えたベルトコンベアには赤黒い何かが流れて行ったような気がしたが、澪田達が正視することは無かった。

 コンベアに従って進んで行くと、入り口でも見た木こりの人形が寝こけていた。無機物にあるまじき人間っぽさに澪田は思わず声を掛けそうになったが、七海リュックから取り出したアックスで頭を叩き割っていた。

 

「オイラーラオララララ」

 

 あまりの咄嗟の行動に澪田も声を上げられなかったが、幾ら人間っぽいと言っても人形であることには変わらず。ブスブスと煙を上げて壊れた。懐からはカランと奇妙な木片が零れ落ちた。

 

「あの、七海ちゃん。これ、人間じゃないって分かってやったんっすよね?」

「そうだよ?」

 

 もしも、黒幕によって全く無関係の市民に置き換えられていたらと言う場合などを考えなかったのだろうか? 

 木片を拾い上げて進んで行くと、先程までは加工所然としていた室内が赤黒く染まっていた。ベルトコンベアに乗っていた赤黒い人型の何かがあちらこちらにぶら下がっていて、まるで奇妙な果実の様だった。

 

『ボディアセンブリー・ラインオープン・・・』

 

 再び新しい処置を受けるのか、コンベアから流れて来た赤黒い人形が装置の中に入り、再び出て来た時にはデッサンで使う様な木偶人形へと仕上がっていた。そのまま木偶人形は何処かへと流れて行く……。

 コンベアで並走できるのはここまでだ。後はスタッフが使う通路を用いて先に進んで行くと、右手にコンソールが見えた。七海と狛枝が大きく息を吸い込んで、澪田を見た。

 

「な、何っすか?」

「澪田さん。ここからは覚悟を決めて。私達が戦う番だよ」

 

 七海の言うことが分からず戸惑っている中、狛枝が人形から奪い取った木片をコンソールへと挿入してパスコードを打ち込んで行く。

 

「どういうことっすか?」

「ここから先、私達はさっきの殺人木こりと戦うんだよ。不意打ち無しで」

「は?」

 

 言っている意味がまるで分からない。しかし、彼女の疑問が完全に解消されることのない中、目の前に設置されていたふたが開いた。内側に液晶が取り付けられており、オーナーと思しき男のメッセージが残されていた。

 

『忠実なる木こりの諸君。人間を放り込む時は注意してください。一緒に落ちてしまうことがあります。落ちると諸君も木人になってしまいます。じゅうぶん注意してください』

「????」

 

 木人って何? と聞こうとしたのだが、2人は躊躇うこと無く穴へと飛び込んでいた。こうなったら澪田も飛び込む外ない。

 もしも、これが罠だったり殺人トラップだったりしたらどうするんだろうと考えていると……いつの間にか、自分の体はベルトコンベアにあった。カコンカコンと言う音がしたので、自分の体を見れば……先程見た木偶人形と化していた。

 

「は!?!?!」

 

 ノリの良い澪田の適応力すら貫通する超展開であるが、彼女を迎えに来たが如き2体の木偶人形が居た。

 

「澪田さん。行くよー」

「これで、あのベルトコンベアの先へと進めた訳だね」

 

 見た目では男か女かすら分からないが、声のお陰で2人だと言うことが分かったにしても、何の動揺も無い超人的な適応力は却って澪田の正気を削るばかりだった。

 カポカポカポと木偶人形が3体並んで歩く姿は童話テイストな雰囲気が漂っていたが、場所がイルブリードなので和やかさは1つも存在していなかった。

 この状態でもホラーモニターが使えるのか、先頭を行く七海は次々と罠を解除しながら進んでいた。

 

「(ベルトコンベアの先に行く為に、わざと落ちたってことなんっすかね?)」

 

 なんで、こんな体になる必要があったかは疑問だったが、澪田はこの世界観について何も知らないので2人に付いて行くしかない。押し寄せる疑問を解決しようとしても無駄なので、そっと見てみぬフリをすることにした。

 

「来たよ」

 

 狛枝が緊張感に満ちた声で言った。開けた部屋に出た。部屋の左半分には、七海が破壊した木こりロボが列を作っており、部屋の奥へと進んで行く。

 中央には案内所の様な物が存在しており、上部の壁には『WOOD MAN HANTING』と赤いペンキで書かれていた。直訳すれば木人狩である。

 

「……あのー、七海ちゃん? もしや、これって。澪田達がハンティングされる側の奴っすよね?」

「うん。さっきの木こりロボが殺しに来るよ」

 

 どうして、自分はこのチームに編入されてしまったのだろうか。澪田は己の天運を呪っていたが、七海達は特に気にすることも無く案内所で説明を受けていた。

 

『お前達がこのハンティングエリアを超えることが出来たら、人間に戻してやる。抵抗は自由だ。木こりロボはお前達を殺したら賞品が出るから、皆やる気だ。ちなみにお前らに賞品は無い』

「理不尽!!!!」

 

 なんで、人間に戻して貰う為だけにキルゾーンに入らなきゃならないのか。引き返せるなら引き返したいが、出来る訳もない。先へと続くゲートが開かれたので進むことはできるが。

 渋々、2人に付いて行った先には木箱が並ぶだけの無機質な空間だった。これらによって死角が幾つも産まれ、不意打ちされるのではないかと言う恐怖が澪田にあった。

 

「ブーーーーーーーーーーーン」

 

 扇風機の回転音を口で表現するかのような間抜けな声を上げながら、先頭を切って走り出した七海は独楽の様に回転を始めた。そして、木箱に近寄ると潜伏していた木こりロボへと接近した。

 すると、どうだろうか? 木人の強度による独楽アタックにより木こりの頭部に高速で打撃が加えられ、瞬く間に木こりロボの頭がちぎれ飛んだ。

 

「澪田さん! 僕達もやろう!」

「こ、狛枝ちゃん……?」

 

 一体、どんな発想をしていたらアレを真似しようと言う考えになるのだろうか。

 だが、狛枝の行動に一切の躊躇が無かった。回転を終えて疲弊している七海を狙って飛び出して来た、新たな木こりロボに対して狛枝は見様見真似で狛アタックを繰り出していた。

 見た目は変わりない木人なのだが、素体となった筋力がしっかりと参照にされているのか、七海よりも強い回転力と威力で木こりロボの頭を叩き潰していた。だが、二度あることは三度ある。2人の疲弊を狙って更に3人目が飛び出して来た。

 

「!!」

 

 この隙を突かれては2人が木屑にされてしまう。幾らこんなイカレポンチな施設を突き進む狂気塗れな連中だとしても外では友達なのだ。だから、見捨てる訳には行かない。

 澪田は恥も外聞も常識も正気も捨てて、狛枝や七海達と同じ様に独楽アタックを使いながら突っ込んで行く。だが、流石に3体目にもなれば学習しているらしく、澪田の攻撃は防御された。このまま態勢を立て直されたら3人まとめてオダブツだ!

 

「いや、まだっす!!」

 

 彼女は超高校級の軽音部である。必要かどうかと言われたら微妙ではあるが、ヘッドバンキングも得意としていたので木人になったことによる頸椎部の強化を用いた、高速ヘッドバンキングを用いて木こりロボの頭部をクラッシュしていた。

 いきなり3体もの木こりロボに襲われたが、誰一人欠けることはなかった。新たな追撃が来ない間に進んで行った先、自分達とは違うルートを使っていたのか、高台には例のモノクマヘッズ木偶人形が奇行を繰り広げていた。

 

「あっぷぷーぷりぷりーちょんわーちょんわーちょんわーあぷぷあぷぷ。ぷりぷりーぷりぷりー」

 

 腕を360度回転させ、その場でプロペラの様に回っている。口にしている言葉も鳴き声の様な物となっており、モノウサの尊厳がかつてない程に凌辱されている様子を見て、澪田は自分が木人状態であることに感謝していた。

 きっと、生身の肉体であればこんな変わり果てた姿に滂沱の如く涙を流すに違いないという確信があったからだ。

 

「美しい。これ以上の芸術は存在しえないよ……」

 

 逆に七海は感動しているのか深く頷いていた。一体、知り合いの人権が侵害されることの何がそんなに楽しいのだろうか? と思ったが、男優の音声などを切り貼りしている彼女は根源的にはサディストなのだろうと言うことで納得した。

 材木人間のアトラクションも後半へと差し掛かり、イルブリード最難関と呼ばれるステージの攻略も間近に迫りつつあった。

 

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