精肉コーナーを抜けた先に並んでいるのは勿論、野菜・果物コーナーだ。肉に野菜は欠かせない。キャッシュデパートも新鮮な野菜を売りにしていたが。
「くっさ!! ボクに臭いが移っちゃう!!」
肉とは違い、こちらは管理が行き届いていないのか。陳列している商品は全部腐っていた。シンプルに不快なコーナーとなっていた。
ただ、先程ジャイアントGや戦う肉達を見た後だとショックは薄いのか、十神達は普通に先に進んでいた。もしや、心がやられてしまったのかもしれない。
「新鮮な果物が並んでいたらデコして欲しかったんだよねぇ。ほら、今の所。ボクのトッピングって生首だけでしょ?」
臭いだけで実害がないことに加えて、先程の栄養補給で脂と活力に満ちた十神がホラーモニターを覗きながら次々と罠を解除して行く。
「嫌だねぇ。こんなに野菜が腐っていたら虫も湧いちゃうよ。そしたら、ボクの体が食べられちゃうよ」
経営者の頭も湧いていたのだから、野菜・果物に虫が湧くのも無理はないことだった。だが、そこでハタと小泉が違和感に気付いた。
「(アレ? なんで、虫が湧いていないんだろう?)」
食料が腐ればハエなどが湧くはずなのだが、先程からそう言った存在は確認できない。かと言って、陳列棚の商品が腐敗しているのは確かだ。
未だに気絶している西園寺を背負いながら進んでいると、床のタイルが剥がれて地面が剥き出しになっている個所に出くわした。
「うわ。このデパート、こんな簡単に土がむき出しになるのかよ。建築どんだけケチっているんだ」
地獄のケーキとしてはクリームに土が着くのが御免だと思ったのか、陳列棚の上に飛び移った。そっちはそっちで腐敗した商品が大量に並んでいるが、土が着くよりはマシなのだろうか。
態々、そんな不安定な場所を歩くなら土の上を歩く位……とは思ったが、土中なんて何が潜んでいるか分からない。先程、ジャイアントGを見たばかりと言うこともあって、十神達も陳列棚の上を歩くことにした。
「うぇ……」
グチャリ。と、腐敗した商品が靴裏に付着する不快感はあったが、危険な目に遭うことに比べれば安い物だ。
道中にも腐敗してゲル状になった物が転がったりもしていたが、精肉コーナーに比べれば平和その物であった。特段、何のイベントも無く通過した先に出たのは、商品などを置いておくバックルームだった。
ただ、こちらも奇妙なことに土がむき出しになっていた。地面の中には砕けたタイルの欠片が混じっている。
「ねぇ、十神。コレ、何かいるよね?」
「うーん。モグラさんとか?」
喋らない十神の代りに地獄のケーキが答えていた。ジャイアントGが居るなら、ジャイアントモールが居ても不思議じゃない。部屋の奥には『エレベーターホール』と書かれたプレートがあるが……。
向かうしかない。一歩、一歩踏みしめる度に変化は起きた。足元がガタガタと揺れている。まるで、地中を何かが進んでいる様だった。
「なんか来る!!」
小泉が叫んだと同時に地面からせり上がって来たのは、棘を生やした長い胴と凶悪な頭部を持つ巨大な殺人ミミズだった。まるで、地獄の門を守るケルベロスの様に3匹セットで現れた。
先のジャイアントGと違い、自分達を捕食する気が満々なのか。頭部からはみ出した牙をカチカチと打ち鳴らしていた。十神がスケートボードを取り出し、小泉が腰を抜かし、地獄のケーキが真っ先に逃げ出そうとした瞬間。更に大きな揺れが彼らを襲った。
「なんだぁ!?」
狂乱状態に陥った地獄のケーキが叫び声を上げると、地中から更に巨大なミミズが這い上がって来た。さながら、王とでも形容できそうな巨大なミミズであった。その頭部には、小泉達も見慣れた人物が乗っていた。
「田中!?」
「ほぅ。我が眷属の言うことを聞いてみれば、この様な場所に繋がっていたとは」
別のシアターの攻略に向っていたハズの田中だった。しかも、こんな凶悪そうなミミズを従えている姿には、普段冗談めいて口にしている破壊神を司るに相応しい威容があった。
「シャーッ。ギギシシシッ! ギャー!(まぁ、可愛い我が子達!)」
「ギャー!!(うわーん! お母さーん!)」
互いに牙を剥き出して威嚇し合っている様に見えるが、田中だけは理解者面をして頷いていた。とりあえず、激闘を避けることが出来たので、小泉は胸をなでおろしていた。そして、聞きたいこともあった。
「田中。そっちはどうだったの? ソニアちゃんは? 花村は?」
「ソニアは置いて来た。戦いについて来れそうにないからな。花村も護衛の為に置いて来ている」
それはそれで危険な気がするが、今の花村はスケートボードの方に夢中だし、護衛としては心強いから大丈夫だと言うことにしておいた。
そして、彼の口から女王ミミズの復讐の顛末を聞いた。殺人猿であるモンキラー達を魅了したこと、女王ミミズからも惚れられたこと。亡霊になったおじいさんから彼女を任されたこと。
「ゴメン。意味わかんない」
「言うな。俺も自らの正気を疑っているんだ」
事実を話しただけなのにトチ狂ったとしか思えない言葉ばかりが並んだ。兎も角、彼らは最速でクリアしたと思って間違いないだろう。
女王ミミズが子供達の説得に成功したのか、素直にエレベーターホールへと続く道を開けてくれた。ただ、小泉的にはどうでもよかった。
「ねぇ、田中。この子と一緒に安全な場所に移動できるって言うならさ。私達を外に連れ出してくれない?」
あまりに切実な頼みだった。こんな所に居たら、頭もおかしくなる。さっさと外に出たいと考えていたが、田中は難しい顔をしていた。
「レイチェルは気難しくてな。俺以外に乗せることが出来ないのだ。食われて、消化される覚悟があるならば構わんが……」
「え? 女の子なの?」
凄くどうでもいい情報だった。ただ、外に出ることが出来ないと言うことにガッカリするばかりだった。では、何をしに来たのだろうか?
「レイチェルがお前達に危険が迫っていると聞いたんだ。何でも、大量の虫に追われていると聞いたんだが」
「え?」
ここで、小泉は先程の腐ったコーナーを思い出していた。どうして、あんなに無視の湧きやすい場所に1匹たりともいなかったのか。
……例えば、それは既にいる虫が他者を捕食し尽くして生態系を独占していたからではないか。そんな奴らが息を潜めて付けていたとしたら。
「来るぞ! レイチェル! さぁ、地獄の開幕だ!!」
バックルームの扉がギィっと開いた。地面をカサカサと這って来る奴らが居た。
例のアイツは1匹見たら30匹いるとは思え。昔ながらの格言はサイズが変わっても適用されるらしい。精肉コーナー前で見たアイツと同規格の奴らが大量に入って来た。あまりの事態に脳が処理しきれずパンク仕掛けていた。
「ノォオオオオオオ!!! どうしてぇえええええええ!」
地獄のケーキが叫んでいたが、ジャイアントG達は一斉に彼を目掛けて殺到していた。
「……そんなに糖分をぶら下げていたら、やって来るに決まっているだろう。ここは俺達に任せて先を行け!!」
ジャイアントG VS ジャイアントミミズと言う、もはやホラーではない状況に十神達が一斉にエレベーターに乗り込み、地獄のケーキも乗り込もうとしたが。
「入って来ないで!!」
「いやっ。見捨てないで!!」
お前のせいで大量のジャイアントGに追われる羽目になっていたと言わんばかりに、小泉が地獄のケーキをエレベーターから蹴り出そうとしていたが、恐るべきは生の執念か。結局、無理矢理押し入っていた。
扉が閉まった先では、グロテスクな巨大昆虫乱舞が行われており、色々と飛び散っていた。しかも、レイチェルも手勢を引き連れていたのかバックルームは世界一不衛生な状態になっていた。
「か、帰って寝かせて……」
西園寺が未だに目を覚まさないのは幸いだったかもしれない。ただ、この事態を受け止めなければならない小泉の限界は間近まで来ていた。
「まぁまぁ、甘い物食べて元気出そうよ」
地獄のケーキが自分の体を差し出して来たが、腐敗したコーナーでまとわりついた臭いもアレだったし、コレのせいで大量のGに殺到されたことも考えたら、もう目を背けるしかなかった。
エレベーターが随分長いこと降りて行く。周りを見れば、掘削したばかりの様な跡があり、本来とは違うルートに入っている様な気がした。
「さっきのレイチェルちゃんが通った後かな? 本来とは違うルートを使ったらエレベーターも途中で停まりそうな気がするけれど」
このケーキ。さっきから、碌なことをしない。人の不安を煽り、恐怖を呼び寄せてばかりなので小泉もキレ掛けていた。だが、予想に反してエレベーターはキチンと止まってくれた。 降りた先は一本道で、奥には金庫の扉の様な物があった。
ここまで来たら、臨戦態勢と言わんばかりに十神もスケートボードを取り出していた。ゆっくりと、ハンドルを回して重たい扉を開く……。
「いらっしゃいませぇえええええええええ!!!」
部屋には大量の金庫が設置されていた。叫び声と共に降りて来たのは、生前のドナルド・キャッシュと思しき人物の顔面を背中の模様にした巨大な……蜘蛛だった。
「何だ、蜘蛛かぁ」
「そばかす君!? 何処に安心する要素が!!?」
ジャイアントGに比べたら、随分と可愛い物だと思ってしまった小泉はイルブリードに調教され尽くされていた。しかし、相手がただの巨大な生物ともなればヌケーターの敵ではない。
しかも、どうやら相手は単なるロボットだったらしく、十神が突撃して体当たりしただけで、その場でグルグルと回転をして吹っ飛んで、天井や壁にぶつかりまくって大破していた。あまりに呆気なかった。
「終わった……」
「大丈夫かい?」
安堵のあまり、小泉は崩れ落ちてしまった。地獄のケーキが彼女に駆け寄った瞬間、機能停止に追い込まれたハズのキャッシュマンロボの口が大きく開いた。
「お帰りは地獄です!!!!!!!!」
射殺された彼の最後の恨みとも言える一撃か。硬貨で作られた弾丸が西園寺を背負っている小泉に目掛けて放たれた。
崩れ落ちたばかりの彼女は動けない。これまでの思い出が走馬灯のように駆け巡る。中学、高校……。そして、治療して封じられていたハズの記憶が一斉に開かれて行く。
「あ……」
「危ない!!」
地獄ケーキが身を挺した。柔らかいケーキの部分を突き抜けて、中心部にあった機械部分に命中したが、貫通することはなかった。だが、システムに致命的なダメージを受けたのか崩れ落ちた。
「なんで……」
戻って来た記憶と今が混濁して小泉は自らの考えを定まらずにいた。倒れたケーキはノイズの混じった音声で言う。
「美味しいケーキ、を、よろしくね」
システム音声として組み込まれたPR文に過ぎなかったのか、彼の最期の頼みなのか。飛び散ったクリームを集めて塗りつけてみたが復元される訳もなかった。
「うぅん……」
丁度、全てが終わったころ。本当にタイミングよく西園寺が目を覚ますと、倒れたケーキにクリームを塗りつけている小泉と、傍で痛ましい表情をしている十神。そして、奥には化け物が死んでいるというよく分からない構図が広がっていた。
「お、おねぇ……」
とりあえず、何があったかは後で聞くとして。奥の方では、金庫の扉が開いて『GOAL』というプレートが掲げられた扉が出現したので、十神と西園寺はうなだれている小泉を支えながら、GOALを潜った。