舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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9時間目:チョリーッス

 皆の夕飯を準備する為に、苗木と別れた舞園は食堂へと向かっていた。

 メンバーがメンバーだけに調理に従事できる者は多くない。その数少ないメンバーの中に彼女も含まれていたのだが、今は石丸と大神しかいない。

 

「あれ? 朝日奈さんと不二咲さんは?」

「朝日奈は泳ぎすぎて、疲れて寝てしまった。不二咲も過集中になっている。ならば、手が空いた我々だけでやろうとな。炊き出しなどには慣れている」

「流石に大神君だけにやらせるのは忍びない! 才能に甘んじ、怠惰を貪っている者達は論外だが、邁進している者達が更に努力できる様な環境を整えるのは僕の役目でもあるからな!」

 

 威圧感を放つ外見に似合わず、友人思いな上、武闘家として大勢の弟子の世話をして来たこともあって面倒見も良い大神に、彼女に負けず劣らず生真面目な石丸が残ることは必然でもあった。

 直ぐに舞園も手伝いに入った。彼女はこの空間を結構気に入っている。大勢がいる中での発言は気を使うが、少数なら多少の愚痴や不満を吐いても許される所はあるからだ。

 

「さっきの探索中もそうでしたけれど、桑田君達。漫画ばっかり読んで殆ど何もしていませんでしたよね。それに、セレスさんも」

「全くだ。オタク……と言う言い方は差別にあたるか。漫画アニメ好きの山田君も自身の知識を活かして、現在の状況を調べようとしてくれていたのに」

「気持ちは分かる。だが、状況が状況だ。少しでも日常に触れたいと思うのは無理からぬこと。ましてや、超高校級と言う事を除けば奴らも普通の男子だ」

 

 舞園も石丸も真面目な人間として、思う所はあったらしい。そんな二人に理解を示しつつ、されど遊んでしまう年頃の男子の気持ちに理解を示す大神は、同い年の人間とは思えない位に大人びていた。

 

「普通の男子。と言えば、最初は苗木君がそうだと思っていたが、いざとなってみれば一番奇想天外な人物だったな」

 

 見た目は背の低い普通の少年なのだが、今となっては全員から関心を集める存在となっていた。なぜか、今は江ノ島まで侍らせているが。

 

「筋肉の付き方はアスリートの様には見えなかったが、競技の性質上、あまりウェイトを増やす訳にはいかないのだろう」

「それ以上にツッコミ所の多い存在ですけれどね」

 

 見た目だけしか普通な部分が無い。少なくとも舞園の記憶にある彼は、普通と言う外ない少年だったが、どうしてこんなことになったのか。

 

「だが、彼は僕達の為に動いてくれている。今は、その善意があるだけで良しとしよう! いずれ、彼からも何かを話してくれるかもしれん!」

「……あの。そのことについてなんですけれど」

 

 舞園は先のことを話した。喋れないと思っていた彼が言葉を発したこと。しかし、明らかに異質な声を放っていたこと。コレが何を意味するのかは分からない。

 

「現実的な解釈に収めるとすれば。苗木は声帯を患っており、医療機器などで代替している為、その様な声が出ている。と言った所だろうか?」

「そう言う事ならば、納得も出来そうなんですけれど」

「多分、違うだろうな」

 

 そんな分かりやすい範囲で収まる気はしなかった。

 結局、彼の正体に疑問を抱きつつも、何かしてくれることに期待してしまう自分達がいることを再確認していた。

 

~~

 

 舞園と分かれた後、苗木は体育館に向おうとして桑田に引き留められていた。その手には、2本のコーラが握られていた。

 

「なぁ、苗木。ちょっと良いか? まぁ、これでも飲めよ」

 

 差し出されたコーラを受け取り、近くの教室に入った。適当な席に腰掛け、コーラを一口飲んでから語り始めた。

 

「俺はよ。モテたいんだ」

 

 軽薄の極みとも言える発言だった。だが、年頃の男子の多くは共感することだろう。苗木は首をかしげるばかりだったが。

 

「まぁ、聞いてくれ。なんで、俺がこんなにもモテたいと思うのか。マイフレンドであるお前にしか話せないことだ」

 

 苗木は頷いたが、傍から見ている者がいたとすればこう思っていただろう。『お前ら、そんなに仲良かったっけ?』と。

 

「小学生の頃はあんまり興味なかったんだけれどよ。中学生になってから、女子にバリバリ興味湧いて来てよ。何とかモテないかと思って色々と調べていたら、まずスポーツに辿り着いた。昔から、足の速い男はモテただろ?」

 

 苗木は頷いた。実際の所はよく分かっていなかった。彼の反応を見て理解を得られたと思ったのか、桑田は続けた。

 

「で、やっぱり知名度的にも野球が一番だと思ったんだ。だって、ニュースで出るのって大概野球だろ? だから、俺は野球を始めた。ってのによぉ。ぜんっぜん!! モテないんだよ!! なんでだと思う!?」

 

 首を傾げた。何故、彼がモテないのかが理解できない。と言う事ではなく、そもそもモテるという状態が分からない故の反応だった。だが、桑田は前者の意味で捉えていたのか大いに頷いていた。

 

「だよな。だって、野球のスター選手なんてモッテモッテだもんよ。いっぺん、従妹にもなんでモテないんだろう? って、聞いたら『私がいるから大丈夫! 他は要らないよね!』とか言われたしよ。従妹が恋人枠とか空しいわ! オママごとかってーの!!」

 

 とりあえず、会話に頷いておけば喜ばれると言う事を学習したのか苗木は意味も分からないまま首を縦に振り続けていた。

 

「でよ。結局、こんな状況になっちまったんだから。野球選手だなんて肩書、もう飾りでしかねぇ。だったらよ、もうアレだろ。スケート、やるしかねぇだろ!!」

 

 ボスっと拳を突き出して来た。動機は不純で不埒でしかないが、その中で見つかる真実もあるに決まっている。苗木が差し出したスケートボードを受け取り、体育館に向かった。

 すると、共に滑るつもりだったのか。江ノ島がスケートボードを脇に抱えたまま、待機していた。これには桑田も気をよくしていた。

 

「おぉ~! やっぱり、スケボーってモテそうな雰囲気バリバリだよな! 俺には分かっていたよ。やっぱ、スタイリッシュだし?」

 

 マジで表層を撫でるだけのあっさい知見であったが、早速体育館に入った彼らはスケートボードに興じ始めた。

 元より、超高校級の野球選手として運動神経が優れていたこともあって、桑田は瞬く間に、スケボーのトリックを吸収していた。

 

「ひょぉ! こりゃ楽しい!!」

 

 基本動作であるプッシュから、180度のスピンを繰り返しながら進むエンドオーバー。先端部分であるノーズを浮かしたまま、テールのウィールだけで進むマニュアル等。彼のパンクな見た目と相まって、非常に絵になっていた。

 彼の上達ぶりに江ノ島と苗木が惜しみの無い拍手を送っていた。非常に気分が良かった。

 

「面倒臭い練習も無いし、やりたいことだけやれて最高だな!!」

 

 走り込み、投げ込み、バッティング、守備練習。そういった面倒臭い物も無く、格好良く見栄えのする技だけをやっていればいいのは非常に楽しかった。

 この学園に来てから溜め込んでいた鬱憤を晴らすようにして、桑田達はスケートボードに興じていた。野球選手としての才能が泣いている気がした。

 

~~

 

「(江ノ島ちゃんとも仲良くなれたし、最高だな!)」

 

 皆で飯を食っていた際、桑田は今日あった出来事を話し、如何に自分がスケーターとしての才能があるかを語った。

 石丸や舞園からは怪訝な視線を向けられ、大神からは憐れむような視線を向けられたことは引っ掛かっていたが、気にしていなかった。

 

「(いや、でも折角野球選手として有名になったのに実績捨てるのは勿体ないよなぁ。つか、なんでモテなかったんだ?)」

 

 未だに疑問だった。モテている野球選手は知っているし、かつて所属していたLL学園にも大勢いた。結局、答えは出ないままこんな状況に身を置く羽目になってしまった訳だが。

 

「(でも、急に野球止めたら何を思われるか分かんねぇな。そうだ、この学園生活の影響で野球が続けられなくなったことにして、スケボーに転向するか。んで、友人からの勧めだってことにして……)」

 

 現在の状況を利用して、新たなる道を見つけようとする強かさは彼が前向きにあった証でもあった。この学園から脱出した後の人生設計を夢想していると、ふと部屋の隅に置かれている野球グラブを手に取った。

 

「(坊主頭になってまでやったけれど、お前ともお別れだな。これからの俺はスケーターとして……)」

 

 確かにモテる為に始めたスポーツであったが、競技の中で楽しいと思ったことは無くも無かった。彼が嫌いなのは練習などの扱きであって、野球その物は嫌いではなかった。

 グラブに手を通そうとして、視界の端にスケートボードが映った。触りたい、乗りたい、滑りたい。数年間の懐古さえ凌駕する魔性の魅力があった。

 

「(ちょっと乗るだけだし。それに、つまんねー扱きでもないし)」

 

 そう思う時点で、既にモテる為にやるという考えで無くなっていることは本人さえも気付いていなかった。彼は部屋内でスケートボードに乗ってバランスを取る練習をしていた。野球グラブが手に取られることはついになかった。

 

~~

 

「おはよう!」

 

 もはや7時ピッタリに起きられるのは一種の才能と言って良い。石丸は誰よりも早くに目覚め、食堂に行って朝食の準備をするのだ。

 そして、昨日と同じく部屋前に人の気配。ちゃんと、毎日報告に来るのは律儀な物だ。ドアを開けると、昨日と同じ2人に加えてもう1人。

 

「く、桑田君?」

 

 昨日までは、やや疎ましく思っていたハズの彼がスケートボードを脇に抱えていた。何処から調達したのか分からないが、サングラスと帽子まで装着していた。そして、3人して同時に体育館の方を指差していた。

 

「う、うむ。分かった……。行って来ると良い。うん」

 

 3人、綺麗に揃ってスケートボードを脇に抱えて体育館に向かった。流石に、3人も居たら昨日みたいに並走する真似は出来ないらしい。

 

「ひょっとして、僕の番も来るのだろうか……」

 

 コロシアイじゃない別の何かが起きているのだが、どうやって止めればいいのだろうか。だが、被害が出ている訳でもないし。石丸は頭を抱えていた。

 

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