舞園「超高校級のヌケーター?」   作:ゼフィガルド

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 地雷感凄いよね。


92時間目:トイハンターインダくん! アトラクションオリジナルストーリー!!

 仲間達がトラブルに巻き込まれながらクリアしている中、日向達が入ったシアターは6つの中でもかなり特殊であった。勿論、悪い意味で。

 『チャイルドパレス』という名前が付けられている様に、館内はキッズショップをイメージしたようなホビーな作りになっている。この劇場で公開されている映画のパンフレットを罪木は斜め読みしていた。

 

「トイハンターインダくん。地獄へ行く……」

 

 この映画は喋って動く玩具を主人公としており……とある有名作品のパロディであることが直ぐに分かる。

 今までのイルブリードは仮にもホラー映画のアトラクションテーマパークとして、オリジナルの作品を作って来たが、この作品だけは違った。

 

「夢と希望を与える作品で露悪的なパロディをする。やることがネット黎明期にやられていた、暴力的なサザエさんやドラえもんと何ら変わりないわね」

 

 佐藤が鼻で笑っていた。巨大ミミズも死を呼ぶホームランなどはバカらしいが、オリジナリティはあったし楽しめる物ではあった。

 だが、トイハンターインダくんに関しては夢と希望を貰った映画を小ばかにした内容である為、佐藤も嫌悪感を露わにしていた。

 

「アレ? 佐藤さんはイルブリードの内容を知っているんですかぁ?」

「勿論よ。私達のチームはイルブリードの視聴を義務付けられていたからね」

「こんな映画の視聴を義務付けるなんて、未来機関って結構暇なんですね」

 

 態々、踏む必要もない地雷を踏んだので、佐藤が凄んで来た。罪木は直ぐに悲鳴を上げて謝った。怯える彼女の肩を日向が叩いた後、頷いていた。その意見に賛成だ! とでも、言ってそうだ。

 

「アンタビビりかと思っていたけれど、結構言うのね。でも、絶望達と関わる。と言うことは、イルブリードに触れると言うことにも繋がるのよ」

「え? どうしてですか?」

 

 この映画が絶望的に面白くないとか? と言い掛けて、罪木は言葉を呑み込んだ。流石に彼女でも学習はするらしい。

 

「主演女優の江ノ島盾子が、全ての絶望の始まりだからよ。だから、彼女の思想や人物像を調査する為にエージェント達は視聴を義務付けられているの」

 

 罪木が首を傾げている横で、日向はチケットカウンターで入場券を受け取ろうとしていたが、奥からは巨大なスパナを持ったダミーマンが現れた。

 

「ひゃあ!?」

 

 罪木がショック尻餅を着いていると、日向は何時の間にかスケボーにライドしていた。すると、2人の姿が消失した。

 十秒後のことである。日向が着地すると同時に、突然天井から落ちて来たダミーマンは地面に叩き付けられ、バラバラになった。

 

「敵に回すとヤバいけれど、味方にいると本当に凄いわ……」

 

 こんな奴と敵対していたことを思い出して、佐藤は身震いした。

 破砕したダミーマンから入場チケットを奪い取り、シェルターの様な扉を抜けた先は暗い通路が続いていた。佐藤が警戒する様に周囲を見ていたが、日向は首を横に振っていた。

 

「日向さん。何かあるんですか?」

 

 スッと日向が天井を指差した所、3人は天井から伸びて来た怪生物の口に呑まれて、モゴモゴと加工を施されていた。

 吐き出された彼女は、茶色のコートにテンガロハット。ディフォルメされた等身にやたらと光沢のある肌。3人はインダくんへと変わり果てていた。

 

「HEHEHEHE! 気に入ってくれたかい?」

 

 クルリと、3人の前に降りて来たのは瓜二つの容姿をしたインダくんだった。

 チープな人形をイメージしているのか、彼は1つも表情を変えないまま色々と説明を続けていたが、テンションが異常に高かったのでかなりウザかった。

 

「ここに来ているってことはさ。多分、事前に俺達の映画の内容を知っているんだろ? この先にゾニックが出て来るとかさ」

 

 佐藤の心臓が跳ね上がった。今までの施設は事前に情報を知っているとクリアし易くなると言う物だったが、アトラクション側からメタ視点についての言及があると言うことは。

 

「喜びなよ。このアトラクションは6つの中で唯一原作とは違う内容なんだ。まぁ、正直に言うと版権の都合で出来なくなっただけなんだけれどさ」

 

 流石に許されなかったらしい。昨今の厳しくなりつつあるコンプライアンスの影響をもろに受けていたのだろう。

 

「だから、純粋に内容を楽しんでくれよ。とっておきも待ち受けているからさ。じゃあな! 最後まで見てくれよな!」

 

 解説役インダくんは飛び上がって天井の方へと消えて行った。インダ君と化した3人はステージへと足を運んだ。

 すると、入場した彼らを出迎えたのは子供向け玩具とは思えない程に際どい衣装をした、臀部を突き出している女性の人形だった

 

「ハァイ! ダーリン。メキシコでの冒険はどうだった?」

「Oh。愛しのセクシードール! 散々だったぜ、全く……」

 

 インダくん姿の佐藤がそんなことを言っていた。どうやら、この姿になったら自分の意思とは関係なく必要なセリフを喋らされるらしい。

 

「今からでも聞かせて。ベッドの上で、ネ?」

「ゲヘヘ」

 

 会話から絵面まで最悪を極めていた。どうすれば、子供達の夢と希望にここまでの汚濁を塗りたくった物を公開しようと思えるのだろうか。

 映倫とついでに制作会社から訴えられそうな光景が繰り広げられている中、ぶっさいくな少女の人形が飛来して来た。よく見れば、入り口で店員をしていた奴の使い回しでもあった。

 

「セクシードール! お兄ちゃん! 聞いて! 大変なの! ヘンリー少年が!」

「おぉ、マリー! で、ヘンリーって誰だっけ?」

「私達の持ち主の少年よ。確かに最近は、私達のことを忘れがちだし、ずっとスマホばっかり見ているけれど」

 

 出てくる単語から、原作のイルブリードを大きく逸脱していることは分かっていた。罪木がひたすらに流されている一方、佐藤はインダくんになり切って、ことの行く末を見届けようとしている。

 

「あー、そうだっけ? で、ヘンリー少年がどうしたんだ?」

「この間、バーガー屋に置かれているケチャップを直飲みした動画を拡散されちゃったの……」

「致命傷じゃん!!」

 

 インダくんのセリフと佐藤の考えがシンクロした。やたらと、人の目が厳しくなっている昨今において、その手の動画を拡散されたら死ぬまで殴られるのがオチである。

 

「昔のヘンリー君は可愛いかったのよ。私の股に食い込む水着を取ろうとする位には、初心な子だったのに」

「幼少期から性欲イカれてんな」

 

 ひょっとしたら、セクシードールから異臭がする可能性もあるかもしれないと思って、3人のインダくんは距離を取っていた。特に会話で言及されることが無いことから、1人用の台本として進んでいるらしい。

 

「性欲に狂った次は自己承認欲求にも狂って……今となっては、家のポストにケチャップをぶちまけられたり、扉にケチャップを塗りたくられたりしているの」

 

 マリーからの説明を受けて、実に嫌味ったらしい方向で現代的になっていることが分かった。オリジナルでやってくれるなら構わないが、何故態々。パロディでやるのだろうか?

 

「じゃあ、俺達が行って一緒に遊んで慰めてやろうぜ!」

「それが、そうもいかないのよ」

 

 マリーに案内された先にあったのはリビングだった。そこでは、ヘンリー少年を挟んで両親が口論していた。

 

「お前の教育が悪いから、こんなバカなことをするんだ! 会社でも言及されたんだぞ! どうしてくれるんだ!」

「貴方はいつもそう! 会社、会社ばかりで家庭の事なんて顧みやしない! 家に給料を入れて、子供にスマホとゲーム機渡せば面倒見ているとでも!?」

 

 口論は加熱する一方で、ヘンリー少年は竦むばかりで何もできない。只管に居心地の悪い空間に押し込められて、窮屈そうだった。

 

「もう、いや! オスは皆クソよ!!」

 

 口論はヒートアップし、ついに母親が拳銃を取り出した。引き金が引かれる。

 だが、普段銃を撃ったことが無い人間がマトモに狙いを付けられるハズが無く、あらぬ方向へと銃弾が放たれた。――殺すべき夫では無く、息子へと。意図せぬヘッドショットが決まり、ヘンリー少年は倒れた。

 

「…………え?」

 

 あまりの超展開に罪木がポカンとしていた。いや、セクシードールもマリーも唖然としていた。両親達も血の気が引いていた。

 彼らも暫く呆然と立ち尽くしていた。自分達がしたことを反省して、深く後悔しているのか。母親が口を開いた。

 

「ねぇ、貴方。この子、自殺したことにしない?」

「……なんだと?」

「動画が炎上している件。知っているでしょ? 誹謗中傷を受けていることも。これを苦に自殺したことにすれば、私達は加害者の家族から一転、被害者の遺族になるわ。そうしたら、開示請求や訴訟で慰謝料も取れる!」

 

 自分が犯した罪を顧みず、それ所か利用しようとする浅ましさは醜悪と言う外ない。父親も頷いていた。

 

「そうだな。死人が出たとなったら、他の奴らも責めづらくなる。よし、この子の葬儀を営んで、死を悼んでいる雰囲気を出そう。アイツが好きだった玩具は……」

 

 母親が死体に工作をしている間、父親がアリバイ作りの為に部屋へと上がって来ようとしていたので、慌てて全員が玩具のフリをした。

 

「コレか」

 

 すると、父親は真っ先にセクシードールの人形を見つけて持って行った。他の玩具に見向きもしなかったのは、彼が言う程執心してなかった為だろう。

 嵐の様なイベントが過ぎ去った後、原作との違いに佐藤が戸惑っている中、マリーがブルブルと震えていた。

 

「何? ヘンリー少年のことを思っているのは、この家には誰もいなかったってこと? そんなの酷過ぎるわ!」

 

 イルブリードにあるまじき真っ当な訴えだった。マリーの視線がインダくんたちへと向けられた。

 

「お兄ちゃん。ヘンリー少年は連れ戻せないだろうけれど、一緒に埋葬されるセクシードールだけでも助けに行って! あんな奴らのアリバイ作りの為に、これ以上の犠牲を出してはいけないわ!」

「急にヒロイックな話になったわね……」

 

 もしかしたら、制作側もトイハンターのシナリオについては思うことがあったのかもしれない。地獄に行く経緯は大分変わったが、根本的な流れは変わらない為か、結局原作みたいにヘンリー少年が埋葬されるのを見送る外無かった。

 

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