非業の死を遂げたヘンリー少年の葬式の準備は進んでいた。彼の死は悼まれることもなく、両親の罪と非難を回避する為に利用されていた。
彼が好んでいた玩具などが埋葬品として一緒に入れられていたが、高価な品であるゲーム機やスマホなどが入れられることは無かった。
「オリジナルストーリーとか言うけれど、ただ胸糞になる様にしただけって本当に芸が足りない。オリジナルのインダくんはね、頭がおかしかったけれどテンポよく視聴できるのがウリだったのに」
未来機関に洗脳されてしまった可哀想なエージェントである佐藤が物申していた。この様子ならば、同機関所属の者達の趣味はよろしくないのだろう。
ヘンリー少年の葬式が行われる中、両親がしていたことはと言えば開示請求の準備や、彼が如何にネットの誹謗中傷で傷付いていたかと言う証拠を集める位だった。
「……ヘンリー君」
トイハンターインダと言う映画に興味はないが、罪木はヘンリーの境遇に同情していた。親に何とも思われず、死んでも悲しまれることもない。自分もそうだったのかと考えると、胸が締め付けられるような思いがした。
そんな彼女の様子を見た、インダくん達と化した3人の妹分であるマリーがそっと傍に寄って来た。
「お兄ちゃん、ヘンリー少年に同情してくれているの?」
罪木は戸惑っていた。こういったアクションは狂言回しと化した佐藤に行われることが多かったので、まさか自分に声を掛けられるとは思ってもいなかったのだ。特にセリフが制限される様子もないので、好きに喋って良いようだ。
「はい。だって、誰かを殺した訳でもないのにここまで罰せられ非難されて、殺されなきゃいけなかったのかなって」
ヘンリー少年が無実だとは言わない。実際に彼が行った行為で店の信頼は著しく損ねられることだろうし、経済的な損耗も発生するだろう。
法律などに詳しくない罪木ではあるが、それでも適した罰があるようには思えたのだ。
「ヤクをやっていたとは思えない位に優しいのね。恐らくはね、本当の所。皆して、ヘンリー少年のことを憎んでいるとは思わないのよ。ただ、攻撃しても良い奴がいたから殴ったってだけなの。貴女には分かるんじゃない?」
お兄ちゃん。ではなく、貴女。と、問うてきたことから中に居る彼女に対する質問なのだろう。罪木はそう言った手合いに関しては、この島にいる誰よりも関わって来た。
「……そうですね」
思えば、全ての元凶はそこにあった様に思えた。自分が超高校級の生徒になるまでに受けて来た仕打ち、件の事件が起きた後の大衆の反応。……皆、叩いて良い何かを探していた。
「失われた命は帰って来ないけれど、取り戻せる物もあるはずよ。……だから、お兄ちゃん。セクシードールを助けて来てね!」
「は、はい!」
お兄ちゃん。に戻ったと言うことは、インダくんとしての役割を期待されているのだろう。葬式の様子を見届けた後、棺にも入ることが出来なかったので、ヘンリー少年が埋葬された墓地へと向かうことにした。
先頭を行くインダくんは日向だ。間に罪木を挟んで、最後尾に佐藤が着くという形になっている。
「ホラー物の鉄則として余計なことはしない。だから、この墓地も真っすぐに行くのが良いんでしょうけれどね」
現実的に言えば佐藤の提案は正しいが、この施設は黒幕側からの挑戦だ。即ち、危険を冒してでも探索を行わねば何も手に入れることが出来ない。
多数の墓石が並び、人魂も浮かんでいる。見るからに危ない物に関しては、ホラーモニターを装着した日向が手で制し、トラップを解除していた。
「トラップを解除して……。墓石の方は」
刻まれている名前に目を通していく内に、佐藤の眉間に皺が寄って行く。そして、チラリと罪木の方を見た。
「この名前、見覚えは?」
佐藤に言われたので墓石に刻まれている名前を見た。見覚えが……あった。
「私をイジメていた女子グループの人です」
「多分だけれど、ここの墓石に刻まれている名前は」
佐藤の予想は当たっていた。刻まれている名前には見覚えが無い物もあったが、罪木には心当たりのある名前が多数並んでいた。
だが、この推測を言葉にしてしまえば、やはり自らの行いを肯定せざるを得なくなる。そして、とある名前を見て彼女は立ち止った。
「罪木……」
珍しい苗字なので間違うはずもない。見慣れた名前が並んでいた。予感めいた物はあった。学校は転校すればどうにでもなるが、子供が両親から逃れることは難しい。行い次第では、真っ先に報復対象となり得る相手だ。
「佐藤さん。私の両親は……」
「残念だけど」
以前の映像では関係者が大量に保護されている物もあったが、助からなかった者達もいただろう。……自分の様に直接手に掛けた者達などは。
やがて、墓地の一番奥に立ち入ると一際立派な墓石があった。ヘンリー少年の死を悼んでいるというポーズを出す為にも特別豪壮な物にしたらしい。彼の両親の打算が前面に打ち出された物だった。
ボッと、青い人魂が浮かび上がると形を変えて行き、やがてセクシードールの形をとって行った。
『インダくん。ヘンリー君を……止めて!!』
「なんだって!?」
さっきまでの陰気さを吹き飛ばす位に、佐藤インダがノリノリで返事をしていた。すると、墓石の下から何かが飛び出して来た。
白と黒のツートンカラー、手には真っ赤な爪。まぁるい耳と円らな瞳も合わせてマスコットめいた見た目。ぶっちゃけ言うとモノクマだった。ただし、全長はインダくん達の何倍もあった。
「インダくーん! 嬉しいよ! 僕のことを心配しに来てくれたんだね! でも、安心して! 僕は生き返ったんだ!」
「そっか」
インダくんとしてはセクシードールさえ取り戻せればヘンリー少年のことはどうでも良かったのだが、中に入っている佐藤達はそこまで薄情にもなれなかった。
「僕ね。地獄で悪魔の力を手に入れたんだ! この力で、僕のことを誹謗中傷した連中と僕を殺したママ。全員を始末しに行くんだ! インダくんも手伝ってよ! そうしたら、セクシードールも生き返して貰うからさ!」
「なんだ「出来る訳無いでしょ!!」」
このままインダくんのセリフを発すれば『なんだ、そんなことで』と言い掛ける所だったが、佐藤は常識人だった。故に、彼の言葉を遮ってヘンリー少年の提案を断った。すると、彼は悲壮な表情をしてみせた。
「そっか。インダくんは死んだ僕なんかに興味がないんだね。いっぱい遊んだ僕よりも、社会の方が大事なんだね」
これまでに抱いていた親愛が怒りへと変わり、モノクマヘンリーの顔面に変化が起きた。円らな瞳は見開かれ、充血したギョロ目へと変わり、赤い稲妻の様なマークの左目は真っ赤な瞳へと変わった。
「じゃあ、セクシードールも渡さない。折角、僕のデストーイ軍団に加えて上げようと思ったのに」
「デストーイ軍団!?」
「そうだよ。皆を殺す為の軍団だ。僕みたいにイカした見た目にしてくれるんだぜ。止めたければ、地獄まで追って来なよ」
ズボボボとヘンリーモノクマは墓石の下へと帰って行った。慌てて、佐藤インダ達が覗き込んで見れば、何処かへと続いている様だった。
「2人共! 追うわよ!!」
「あの。別にここの世界の人らがどうなっても私達は関係ないのでは?」
セクシードールを取り戻せば良いだけなら、とりあえず頷いておけば良かったんじゃ。という、打算的な発想が出て来たが、佐藤インダは首を振っていた。
「罪木。こう言うのはね、大概近道をしようとして相手の提案を呑んだ瞬間に生殺与奪を握られるパターンなのよ。私は詳しいのよ」
もしかして、コイツ。このアトラクションを楽しんでいるんじゃないかと言う嫌疑が罪木の中に過った。
先程から反応が薄い日向の方を見てみれば、実に退屈そうにしていた。さながら、興味のないデートに付き合っているが如く。
「じゃあ、日向。お願い!」
まず、日向が穴の中に飛び込んだ。暫くして、ガンと言う音が鳴った。上手く着地したのだろうかと考えていると、地上部へとスケボーに乗ったインダくんが跳ね上がって来た。
「行けるってことね。じゃあ、私も!」
「あの……」
あくまで飛び込めたのは日向だからであって、常人も飛び込んでいけるのかという疑問が浮かんだが、佐藤は勇敢にも飛び降りていた。
罪木インダが立ち尽くしていると日向インダがそっと手を差し伸べていた。彼の手を取ると、直ぐにお姫様抱っこへと切り替わり、そのままスケボーと一緒に墓石の下へと降下した。
「お、遅かったじゃない……」
着地した先には、多少のダメージを受けている佐藤インダの姿があった。結構な降下時間だったことを考えるに、この程度のダメージで済んでいる彼女は頑丈なのかもしれない。
降りた先に広がっていたのは夕暮れのダウンタウンの様な場所だった。人の気配は見当たらないが、何かはあると予想できる陰気さが渦巻いていた。
「まず、地獄への行き方を知らないとね。こればっかりは、アンタのグリッチでも無理でしょ?」
日向インダが頷いた。このアトラクションの構造が把握できない以上、上へ下へと言う縦横無尽探索は難しい。ならば、真っ当に攻略する為にも歩を進めるしかない。
ダウンタウンには多数のトラップ以外にも、建物の中で静かに佇む玩具達がいた。いずれも、モノクマの様な姿をしており、モノウサが言っていた様にグッズ生産するつもりもあったのかもしれない。
「憎たらしいぬいぐるみね」
佐藤インダが悪態を付きながらも進んだ先には『エッグバー』という酒場があった。情報収集で酒場は定番と言うか、あまりにゲームチックな展開ではあるが、ここに来るまで碌に情報を得られて無いのだから入るしかない。
「「「いらっしゃいませ~」」」
彼らを迎えたのは3匹の卵。中心に顔面が描かれ、両腕が生えた奇妙な造詣をしていた。すると、3匹は歌い出した。
「情けないインダ~! セクシードールの為に魂を売ることも出来ない~!」
「友情よりも常識と世間体~! お前は醜い両親と何も変わりない~!」
「腰抜け、腰抜け。愚かな腰抜け。貴様の優先、セクシードールの臀部。ヘンリー少年、悪魔の力を手に勇壮に信念貫け、オマエはマヌケ」
「なんで、最後の人だけラップ調なんですか?」
罪木インダは疑問を浮かべるばかりだったが、痛罵を飛ばされた佐藤インダは怒りのあまり、ホルスターから拳銃を抜き取っていた。
「黙れ!!!!!!」
ドンッ!! という音と共に弾丸が発射され、1匹の卵が撃ち抜かれて地面に落ちて、殻と中身を撒き散らして死んだ。
「そ、そんなに怒ることだったんですか……?」
「暴力でしか訴えられないクズ野郎~! 今、死ね、ここで!」
2匹の卵もビール瓶を持って襲い掛かって来たので、佐藤達との交戦が始まった。罪木インダが逃げ惑い、佐藤インダが弾を込めている間。日向インダはポケットに片手を突っ込んだまま、2度引き金を引いていた。
放たれた弾丸は2匹の頭部を見事に捉え、殻と中身を撒き散らして死んだ。あまりにあっさりと片付いたので呆然としていると、サイレンの音が鳴った。トイパトカーだ。
「ここにいるのか! 殺卵犯共は!」
「逮捕だ! 死刑だ! 地獄に行け!!」
大量のトイポリスが現れて3人を捕らえてパトカーに乗せた。そして、連行された3人は間もなく裁判に掛けられることになる……。