トイ刑務所を破壊して日向インダ達が脱獄したことにより、ダウンタウンには大量の犯罪者が解き放たれることになった。
「わぁ! ママ! 見て、沢山の玩具が歩いているよ! 僕も欲しいな!」
「駄目よ! アイツらは凶悪犯達なんだからね!」
子供達が道を行く玩具達を物欲しそうに見ていたが、親達は扉を閉めて犯罪者共が入って来ない様に厳重態勢を敷いていた。
そして、街中には脱獄した凶悪犯達を捕らえる為にトイアーミー達が投入され、街の各所で戦闘が勃発していた。
「不味いぜ、インダ。このままじゃ、俺達は現行犯で即処分されちまう」
「でしょうね」
ポテドンが憂いていたが、罪木インダとしては何を当たり前のことを言っているんだ。としか、思えなかった。
「とりあえず捕まるまでに死に掛けの子か、テキトーな子を捕まえて死んでもらって、私達はトイ地獄に行くって算段ね」
相変わらず佐藤インダは覚悟と狂気をキメてしまっているが、そんなに上手くいくとは思わなかった。順当に行けばトイアーミーに見つかって射殺されるのがオチだろうが、それは困る。
「よし。ポテさん。じゃあ、僕達でトイアーミー達の足止めをしよう。その間に、インダ君には地獄へ行ってもらおう」
「だな。一度、助けて貰った恩はここで返さないとな。ヘンリー少年を止めて来いよ。相棒!」
「ポテドン。ガスさん!」
「まず、止まるべきは貴方達だと思うんですが……」
場の空気に流されて目尻に涙を浮かべる佐藤インダに対して、罪木インダは冷ややかな視線を向けていた。
が、こんな物で気後れする連中がここまで事態を発展させている訳もないので、ポテドンはロケットと言うかミサイルめいた役割と共にトイアーミー達に突っ込んで行った。トイタンクへと着弾し、爆破炎上を引き起こしていた。
「彼らの死を無駄にしてはいけないわ!」
「どうせ、直近の地獄で再会できると思うんですよ」
まぁ、トイ地獄を目指している自分達とは会うことも無さそうだが。早速、死んでくれる子供を探す為に、子供部屋と思しき窓辺によって存在をアピールして見る物の。昨今の子供は玩具よりもタブレットやゲーム機の方を優先するばかりで、インダ達には見向きもしなかった。
「クソッ! 夢と希望を忘れた子供達ばかり! 更新される数字にしか興味が無いってこと!?」
「夢も希望もない私達が言って良いことではないですよね?」
一体、どの面下げて言っているんだろうかコイツ。と思いつつも、数軒練り歩いていると、普通でない家と言うのも見つかる。
子供部屋ではあったがゲーム機も玩具も無かった。代わりに本棚には大量の参考書などが詰め込まれており、学習机前に座っている青髪の男子はけだるそうにしていた。ふと、首を傾けた先。窓辺にいる3人のインダを見つけた男子は周りを見回して、急いで駆け寄って来た。
「これはインダくんかな。凄い! カッコいいや!」
よく見れば、子供の目の下にはクマがあり、腕には何かを刺した後があった。こんな他愛のない玩具にここまで感激する様子から、普段。どれだけ抑圧されているか。と言うのも、罪木インダには直ぐに分かった。
彼は急いでインダ君達を部屋の中に入れて、ベッドの下に隠した。間もなくして、彼の部屋の扉が開いた。
「ちゃんと勉強はしているか。今度のテストは、前みたいに下らないミスをするなよ。有名な学校に行って、有名な企業に就職して父さん達を楽にして貰う為に育ててやっているんだからな」
「も、もちろんだよ。パパ……」
用件だけを告げるとバタンと扉が閉じられた。あまりに酷薄な親子関係を前に罪木インダとしては思うことが大量にあった。そして、同時に分かってしまうこともあった。
「あの子。顔色の悪さや体の調子から相当に具合が悪いと思います。このまま、何もしなかったら倒れちゃうと」
正に、今の自分達にとっては打って付けの存在だった。疑いなく招き入れてくれて、なおかつ棺に入る可能性がある。非常に都合がいい存在だ。
「だったら、このまま一緒に居たらアトラクションは進める訳ね」
佐藤インダはノリノリな様に見えて、根底には冷たい物があった。
ヘンリー少年にせよ、この少年にせよ。アトラクション内に配置された存在にしか過ぎないだろうが、罪木インダには割り切ることが出来ない物があった。
超高校級の保健委員として。親から見放された子供として……救いを求めて来た、少年の思いを無碍にすることが出来なかった。罪木インダは独りでに動き出し、少年の前に姿を現した。
「わ!?」
「ハーイ! ボーイ。俺の名はインダ! なんだか暗い顔をしているじゃないかどうしたんだい?」
本来の自分はこんなに陽気には喋れないが、インダ君と言う殻のお陰で普段ではありえないキャラ付けで話せていた。すると、男の子は大いに喜んでいた。
「すごい! インダくんだ! 僕は新月って言うんだ。友達になってよ!」
「勿論だ! 俺と君は友達だ。何をして遊ぼうか? それとも、俺がサボテン人間を倒して、世界を救った話でもしてやろうか?」
「聞きたい。聞きたい!」
鉛筆を握る手を置いて、新月少年は罪木インダの話に耳を傾けていた。
娯楽が溢れる世の中では鼻で笑われる様な下らない話だったが、彼は逐一反応を示しながら喜んで聞いていた。
「そして、帰ってセクシードールと熱い一夜を過ごしてエンド。ってね。スタッフロールが流れる訳だよ」
「インダ君って大人なんだね~」
自身の体験を語っている訳ではないが、罪木インダとしてもなんだか面はゆい気分になった。一頻り楽しんだ後、新月少年の顔は諦観が混じった物に変わった。
「インダ君。僕も、そんな風に自由になれるかな?」
「なれるさ。……いえ、なれますよ」
脳裏には幾つもの選択が過った。この少年に死を与えて自由にするべきか。所詮はアトラクションの装置にしか過ぎないと割り切れば簡単だし、彼の両親に一泡吹かせてやれるかもしれない。お前達が追いこんだのだと。
「違う」
それは、かつての自分が考えた道だ。自分が死にでもしたら、悲しむだろうかと。だが、そんなことも望めないと分かってから生きて来た。将来的には世界に対する怪物になったのも希死念慮の裏返しだった。
でも、今の自分は違う。スッと今まで黙ったままの日向インダを見た。彼は深く頷き、手を掲げていた。その手にはスケートボードが握られていた。罪木インダは、それを受け取り新月少年に渡した。
「コイツを使いな。トぶぞ」
インダ君が手に持つ玩具サイズのスケボーは、新月少年の手に渡った瞬間に巨大化して、彼がライドできる規格の物へと変貌していた。
「どういうことなの……」
佐藤インダも呆然とする中、新月少年は恐る恐るスケボーに足を乗せていた。勉強ばかりで運動神経もあまり良くはないのだろうという様子が見えた。
しかし、スケボーはまるで最初から彼の足元にあったかの様に自然と部屋内で滑ることが出来た。
「楽しい。楽しいよ! インダ君。何もかもが透明になって行くようだよ!」
「楽しいだろう? そうだろう?」
ヌケーターが不死なる存在であることは間違いなく、新月少年から失われていた活力が急速に充電されて行き、体の各所に出来ていた注射痕も塞がって行く。最初の内は喜びを口にしていたが、次第に真顔になって行く。彼も境地に入ったのだ。
口数は少なくなり、3人のインダ君を抱えた。すると、スケボーに乗った彼は部屋の壁を抜け、地面を抜け、ありとあらゆる法則を無視して突き抜けて行く。
「もしや、これは本来少年が最終ステージに行くはずだったフラグの内包者であったことを利用して……」
佐藤インダがブツブツと呟いているが、そんなロジック的な物ではない何かで自分達を導いてくれていると信じたい気持ちが罪木インダの中にはあった。チラリと日向インダを見ると、微笑んでいる様に見えた。
「(日向さん……)」
今回、彼が殆ど自分で動かないのは自分達の振る舞いを見たかったからではないかとか。実際にどうだったかは分からないが、罪木は初めて自分の選択に充実感を抱いていた。
混迷と暴力が支配する玩具のダウンタウンを抜けて、新月少年は床をも抜けて全く別の場所へと壁抜けしていた。
~~
淀んだ空。彷徨う亡者。重苦しい雰囲気が漂う場所に出た。目の前には並んでいるのは、先のトイ刑務所の中で見た残骸となったロボミネ―ターやジャスティスウォーリアの戦士達。いずれも体の一部をモノクマ化されていた。そして、奥に聳えるのはモノクマと化したヘンリー少年だった。
「インダ君、地上の様子は見ていたよ。あそこまでやらかすなら、今更僕と手を組んでも変わりなくない?」
「いえ。悪党になるのは私だけで充分よ」
佐藤インダが白々しく言い、拳銃を構えた。モノクマと化したデストーイ軍団が一斉に襲い掛かるが、日向インダが罪木の拳銃を奪い取り、見事なガンスリンガーぶりを見せて次々と撃ち抜いていた。
ロボミネーターのコアを撃ち抜き、ジャスティスウォーリアの頭部や心臓を正確に撃ち抜き、次々とデストーイ軍団を廃棄品に変えていた。
「流石だよ、インダ君。でも、君にコイツが殺せるかな」
「い、インダくん……」
嗜虐に満ちたヘンリー少年が取り出したのはモノクマ化したセクシードールだった。ただ、本人の未練もあるのか強調された臀部だけは元のままだった。
「セクシードール!」
「こ、ロ、して……」
佐藤インダが悲痛な声を上げた。モノクマヘッドの目から涙を流しながら、セクシードールはインダ君達へと襲い掛かって来た。
だが、日向インダの動きは神速だった。彼は拳銃をホルスターに収めると、直ぐにスケボーを取り出し、セクシードールの足元へと滑りこませた。すると、彼女を乗せたスケートボードは奇怪な挙動を取って、上空へとぶっ飛んでいった。ひょっとしたら、地獄から突き抜けたかもしれない。
「うぷぷぷ。流石だね、インダ君。サボテン人間を倒した能力は伊達じゃないや。……羨ましいよ。恨みにもしがらみにも囚われない君が!!」
後を無くしたのか、今度はついにヘンリー少年が打って出た。巨体を揺らして、日向インダに詰め寄るが、罪木インダにも佐藤インダにも確信があった。これはもう勝確だと。
スケボーに乗った日向インダはまるでモノクマヘンリーの体を縦横無尽に滑り周り、体の各所を破損させていく。
振りほどこうにもピッタリとくっ付いて離れず、やがてモノクマのボディが剥がれると、中からはヘンリー少年の姿が現れた。
「い、インダ君。僕、苦しかったんだ。本当は、ゲーム機とかSNSも無くて、君達と遊んでいた時が一番幸せで……」
自己承認欲求の果てにヘンリー少年は死んでしまった。誰が彼を追い詰めたかと言えば、社会と言う外ない。玩具を使って、自分の中の世界を無限に広げられていたあの頃が一番幸せだったかもしれない。
「安心して。アレだけのことをやったんですもの。私達も地獄行きは確定よ。ヘンリー君、これから沢山遊びましょう」
「インダ君……」
佐藤インダが良い感じに〆て、ヘンリー少年の目に涙があふれた。ブシュルルルルと音が聞こえて来たので空を見上げれば、ガスさんを抱えたポテドンが降りて来ていた。
「よー。俺達も地獄に落ちちまったよ。トイ地獄の方に来れたのは意外だったけれど、俺なら飛んで帰れるからモーマンタイだな」
「おや。人間の少年もいるね」
ガスさんが新月少年に反応していた。ヘンリー少年は安らかに眠っており、デストーイ軍団も壊滅している。セクシードールも助けたし、自分達がやるべきことはやったのだが。
「でも、ヘンリー少年を殺した両親や誹謗中傷した連中は何のお咎めも受けないんですよね?」
罪木インダの中では、それが引っ掛かり続けていた。復讐をしようとした者達は粛清され、最初の加害者達は無事に過ごす。やりきれなかった。
「でも、きっとここが分水嶺なのよ。私達の手で罰を下そうとすれば、きっと現実で起きた悲劇の再生産になる」
法が誰かが裁いてくれないから、自分達で手を下した果てに世界を巻き込む大惨事があった。この後味の悪さを抱えたまま、アトラクションが終えるのは一種の訓告の様にも思えた。
ポテドンに掴まり、新月少年達と一緒にトイ地獄から脱して行く。アトラクションはコレで終わりだが、この世界はまだまだ続いて行く。荒れ狂ったダウンタウン、ヘンリー少年の両親とその後。
元に戻った罪木は最後に無口になった新月少年と握手を交わして、クリア後の控室に向った。すると、アナウンスが響いた。
『おめでとう。君達は全員で力を合わせて、アトラクションをクリアした。これより、第5ノ島に繋がる道を開けよう』
モニタに映像が映し出され、第4ノ島から第5ノ島へと続く橋が掛けられていた。ここまで来たら、ジャバウォック島を巡る話も大詰めまで来ているのだろうか。だが、佐藤と罪木は一先ずソファに横たわることにした。