「ウッキャー!!!」
田中達が攻略した『シネパニック』から放逐されたモンキラーと巨大ミミズ達によって、園内に蔓延っていたゾンビ達は掃討されていた。
彼らが勝利の雄叫びを上げていると、地面の一部が隆起して、田中を咥えたレイチェル(巨大ミミズ)が現れ、皆が平伏した。
「よくやった。我が眷属共。これで、この魔の施設は我が支配下に置かれたと言うことだ」
仰々しい言い方だが、安全は確保できたと言うことである。これで、他のアトラクションをクリアした者達も遠慮なく出て来られる。真っ先に出て来たのは、ソニアと花村だった。
「田中さん。無事だったんですね!」
「俺を誰だと思っている」
花村も頷いていた。レイチェルがソニアにも懐いている様子を見るに、同じ女王同士、ウマの合う所はあるかもしれない。次に出て来たのは『ミネソタヘルシネマ』に突入していた左右田達だったが、彼らの表情は暗い。
「お前さん達も無事じゃったか」
「すげぇな。コイツらに言うこと聞かせてんのか?」
弐大と終里の顔には色濃く疲れが浮かんでいた。残った左右田はと言えば、小脇にスケートボードを抱えて、チューインガムを噛んでいる。どうやら、スケ落ちしたらしい。
「お前も闇に呑まれたか……」
「どちらかというと、ワシらが呑まれそうになった代償なんじゃがな」
弐大はバツが悪そうに言った。自分達と違って、アトラクションの攻略にはかなり苦労した様子が伺えた。
花村と左右田がモンキラーの跋扈する園内をスケボーで滑り回っていると、今度は『ブギーズファンムービー』から、モノウサを含めた最多パーティが出て来た。
「おや。皆も無事……まぁ、左右田君が無事じゃなさそうだけれど、生きているのでヨシとするよ!」
「流石は超高校級の皆だ。この程度の絶望に負けるわけが無いって、僕は信じていたよ!」
「生きて、皆と再会できる。イルブリードとは思えない最高の展開だね」
余程、攻略が上手くいったのか。あるいは心の底から楽しめたのか、モノウサ、狛枝、七海は晴れやかな笑顔を浮かべていた。澪田だけがゲッソリしていたので、心配になったソニアが駆け寄った。
「あの。澪田さん? 大丈夫ですか?」
「い、今まで澪田が思っていた地獄は水風呂レベルでしかなかったっす。本物はもっとヤバかったんっすよ……」
余程な物を見て来たらしい。あまりのテンション差に困惑していると、今度は『ショックショックシアター』から一様にしてテンションの低い十神達が出て来た。何故か、小泉はホールケーキに線香を立てた物を手にしていた。途中でレイチェルと共に介入した田中が、彼らに駆け寄った。
「小泉。無事だったのか? 一緒にいたあのケーキは?」
「死んだよ。私達を庇って……。コレ、アイツを弔いケーキ」
一緒にいたケーキが死ぬ。という意味の分からないフレーズだったが、田中と小泉の悲痛な面持ちを見て、茶化すことも意味を問うことも出来なかった
「どうにも難易度にはかなりの差があったみたいですね。七海さん、ゲーム的な難易度は材木人間が一番高いんですよね?」
「あくまで私の感想だけれどね。プレイ人数が多くないから、共通の認識は出しづらいけれど」
ソニアの質問に対する七海の答えは客観性を欠いた物だった。と言うのも、イルブリードは発売年数やプレイ環境の関係からユーザー数が多くない故の弊害だった。……プレイ環境が整っていたとしても、どれほどの人間が遊んでいるかは疑問だが。
「その割には、七海おねぇ達は苦労した様には見えないけれど。モノウサ、そこら辺。どうだったの?」
「うぷぷぷぷぷ」
マスコットキャラの癖に口の端から泡が溢れ、今にも誰かを噛み殺しそうな笑いを上げていたので、西園寺も一歩引いていた。多分、七海と狛枝が異常者と言うだけなのだろう。
「後は日向くんと九頭龍くん達だけど」
男子達の中でも先陣を切りがちな2人の事だから、絶対に攻略して帰って来るだろうという共通の認識があった。
実際に、ほぼ同タイミングで両グループは皆の前に姿を現したのだが、九頭龍が腕に包帯を巻いているのを見て、澪田が駆け寄って来た。
「冬彦ちゃん!? 大丈夫っすか?」
「傷よりも、別の方面のダメージがデケぇな。ゾンビ達も居なくなってサッパリしたし、もう少し休みてぇ」
「お兄ちゃんを休めたいし、一旦。そこの売店に入って、話をしない? 皆、多分だけれど重要な情報を手に入れたりもしたよね?」
菜摘の言葉には覚えがあったのか、数人が頷いていた。
売店に入ると、店員は何時の間にか居なくなっていたし、壁には『FREE!(持ち出し自由!)』と書かれた紙が張り出されていた。言葉に甘えて、罪木が棚にあった包帯やら消毒液やらで、改めて九頭龍に処置を施していた。
「まさか、誰一人脱落しなかったなんてね。正直、真昼と左右田の所は心配だったんだけれど」
佐藤は驚いていた。小泉達が行った殺人デパートは難易度が高く、左右田達のグループはヌケーターが居ないので攻略が難しいと思っていただけに、ちゃんとクリアして来ていることには驚いていた。
「左右田がヌケーターになってくれんだら、きっとワシらの所は攻略に失敗しとった。感謝してもしきれんが」
当の本人はと言えば、頭の中がスケボー一色になっている為か、棚に並ぶコスチュームに目移りするばかりで、説明会に参加しようという様子は見当たらなかった。助け出された、弐大と終里は咎めづらかった。
「心強い仲間が増えたと思おうよ。じゃあ、早速だけれど皆の手に入れた情報を共有しておこう」
ご丁寧に売店内には映像を見る為の媒体も用意されており、予めこういった使われ方をすると想定されていたのだろう。
今回の情報はかなり直接的な物が多く、自分達の過去や敵側の核心に迫る物があったが、一番大きかった情報はと言えば。
「モノウサちゃんが、イルブリードの主演女優だったんっすか!?」
「言うなぁあああああああああああああああ!!!!!!!!!」
怒りを露わにしていたが、ちゃんとセーフティが再び機能している為か皆を傷つける真似はしなかった。
何を思って、あんな映画の撮影に協力したのかとか色々と聞きたいことはあったが、そんな物は後回しにして。
「お前のせいで、希望ヶ峰学園から事件が始まったんだよな?」
九頭龍が核心を突いた質問をした。自分達を世界の敵へと仕立て上げ、社会の破滅を招いた元凶。決して看過できる罪ではない。周囲の空気が一気に冷え込む中で、モノウサは憎たらし気な表情を崩さずにいた。
「そうなるね。でも、その選択を選んだのは君達だよ? 僕が皆を洗脳して破滅と殺戮を招いた! なんて、話は絶望的にツマラナイですからね。私は、ちょっとした切っ掛けを与えただけです」
モノウサの体からコネクタが出現し、モニタへと接続された。すると、モノウサこと、江ノ島盾子の記憶が映し出された。希望ヶ峰学園で行われていた予備学科の生徒に才能を埋め込む施術を施している。佐藤が目を背けた。
「僕がしたのは、才能の無い予備学科の生徒共に才能を植え付けた事。でも、これって悪いことしている? 才能の無い子は、オマエ達みたいな才能を手にして新しい自分を発見できるようにしたこと。才能の研究機関である希望ヶ峰学園で、どうしてやってなかったのかが不思議だよね」
実際に、モノウサが予備学科の生徒にしたことは殺したり、苦痛を与えたりという訳ではない。むしろ、予備学科の生徒達が夢にまで見ていた才能を与えることだった。……だが、菜摘は知っている。
「あくまで植え付けられたのは他人の才能でしかない。そんな物、土壌がない人間に育てられる訳が無い」
「だよね~。例えるならさ、ゲームのセーブデータと一緒だよ。強い武器、アイテム、ステータスが揃ってもさ。そこに至るまでの『経験』が無いんだから、使いこなせる訳ないじゃん?」
「だろうね。それらを揃えた上で、強敵が現れたりしても勝てるわけがないよ」
ゲーマーである七海には、今の例えはしっくりと来たらしい。強い武器やアイテムが揃っても、効果的な使い方が分からなければ持ち腐れにしかならない。
「後は腐らせる位かな。いや、むしろなまじ分かってしまうだけ、本物に対してより大きな恨みを抱くかもね?」
「うぷぷぷぷ。流石、狛枝君。察しが良いね。まぁ、今までに見て来たイルブリード関係の映像を見れば、想像も出来るだろうけれどさ」
吐き捨てる様に狛枝が言った。偽りの才能では、本物には勝てはしない。なまじ、才能を持つ世界の片鱗を見た後で持たざる者の世界に戻れるか。
「お前さんは分かっておったんじゃな?」
こと、こういった領分に関しては『超高校級のマネージャー』である、弐大にとっての分野でもあった。基礎となる体作りが無ければ、才能も伸ばせないことを彼はよく知っている。
「まぁね。でも、欲しいと思った物を上げただけじゃん? 恨みを抱いたのも、オマエ達に逆恨みをしたのも、世界を巻き込んだのも。ぜ~んぶ、妬みと嫉妬に駆られた連中です。だよね! 佐藤さん?」
佐藤の顔が青褪めていた。小泉が信じられないような物を見る目で、彼女の方へと視線を送った。
皆は忘れていた。間の抜けた言動、コメディチックな立ち振る舞いも多いが、このマスコットは邪悪側の存在である。そんな彼を咎めるようにして、日向が彼の脳天にチョップを打ち込んでいた。
「いててて」
「今更、お前を血祭りにしてもどうしようもねぇ。で、なんでお前は俺達を使ってデスゲームをしようなんて考えたんだ?」
「お前達が抱えたバックボーンを煽れば楽しいことになると思っていたんですけれどね。アバターのウサミが強すぎて、失敗した訳ですよ。とほほ」
どうやら、冗談抜きで引率のウサミは自分達の命を守ってくれていたらしい。もしも、戻ることがあれば感謝しようと全員が心に決めていた。
モノウサの正体と思考も重要だが、次に重要な情報があるとすれば、キラーマンに扮していた生徒会メンバーの事だ。
「生徒会メンバー。って、第2の島で七海さんがプレイしていたゲームに出ていた人達。と思っても良いんですよね?」
「そうだね。でも、僕はあんまり接点無いんだよね。どうなったかもあんまり知らないしけれど、碌なことにはなってないと思うよ」
九頭龍は映像に出ていた生徒会メンバーの末路を思い出していた。死ぬか、廃人になるか。保護された自分達が如何に幸運だったか。
「生田ことみ。だったか? なんで、アイツはこの島にいる?」
「……末路は知らないけれどね。推測することはできるよ。そして、答えは第5ノ島にあると睨んでいるよ」
映像を切り替えると、今度はいつもの様に中央の島からではなく、第4ノ島から続くようにして第5ノ島に橋が架かっていた。
「答え。知りたいでしょ? いよいよ、君達を巡るお話は終盤へと入ったんだ。ここまで来たら、最後まで見て行こうよ。誰も欠けてないしね」
ここに至るまで、誰かが欠ける可能性は十分にあった。しかし、こうして皆は生きている。何かしらの運命を感じた。
「そうだね。希望は前に進むんだ。他の皆は……って、今回に関しては留まるって選択肢は無さそうだし」
第1の島にあるコテージに戻ることも出来ないのだから、実質進むしかない。納得していない者もいたが、あと少し。という考えが、全員に覚悟を決めさせていた。
「よし。じゃあ、皆で第5ノ島に行こう。でも、その前にさ。この施設燃やして行かない? イルブリなんて消毒するべきだよ」
「何を言うか! モンキラーとレイチェル達の住処を焼くな!」
モノウサがイルブリードを焼こうとしたので、田中が必死に止めていた。
彼女からすればイルブリードは黒歴史でしかなく、ひょっとして島全体にコレ関連の物が設置されていたのは単なる嫌がらせではないか? という考えが、一同に過っていた。