「ダメだ。爆弾の位置はやっぱり特定できない」
シミュレーター内で77期生達が爆弾を探っている中、外部からモニタリングしていた不二咲達も対処に当たっていたが、やはりシミュレーター内の権限などは切り離されている為か、出来ることは少なかった。
「不二咲さん。プログラムのことはあまり詳しくないのだけれど、そもそも爆弾なんて物が設置されていない可能性だってあるんじゃ?」
「その可能性はあるかもしれないけれど、本当に爆発する訳じゃなくて例えかもしれないし。例えば、強制的にプログラムをクラッシュさせるとか。そうしたら、プログラム内の人格データが破損する可能性だってある」
プログラム内で再現された爆発ではなく、参加者達の命を刈り取るアクションを『爆弾』と言い換えているだけなら、自分達の干渉が却って不測の事態を招きかねない。
霧切も歯痒く思う中、戦刃は不味そうなチョコレートを摘まみながらコーヒー片手に詰まらなさそうに画面を見ていた。
「さっきのイルブリード園の方が面白かった……」
画面的には単調な破壊光景が続くのがイマイチ面白くなかったらしい。どうやら、彼らの生死については本気で興味が無いらしい。
「確かにね。そのね。本人達が危機に晒されていたのはあったけれどね、イルブリ園は面白かったかもしれないけれど」
「不二咲さん……?」
普段は心優しく常識的である少年さえも狂わす瘴気かあるいは力場の様なものが発生しているのがイルブリードかもしれない。霧切が戸惑う中、戦刃はパァっと表情を明るくした。
「だよね!!! キラーマンは正直クソクソクソクソクソクソクソ改変だったし、女王ミミズの復讐は出来の悪い二次創作だったけれど、他のは良かったよね! 特にインダ君と殺人デパートは凄い良かった!!」
興味のある話題についてはクッソ早口になる、コミュ障仕草が残姉と呼ばれる彼女に備わっていない訳が無い。怒涛の熱量に霧切もドン引きしていたが、彼女の熱量を不二咲はがっしりと受け止めていた。
「うん! 殺人デパートの肉撃退シーンとか地獄ケーキ君のキャラ立ちが良かったよね! でも、やっぱりトイハンターインダ君が格別だったよ! バイオレンスとバイオレンス! 現代の社会に警鐘を鳴らすように見せかけて唾を吐くだけのストーリー! 中途半端にパロディ元の要素を取り入れた不快感に味があるよね!」
「分かる! 材木人間も期待していたんだけれど、素材の味が良過ぎて無難な範囲に収まっちゃったよね」
もはや、爆発回避のために尽力している先輩達からは興味が逸れたのか、2人は延々とイルブリードについて語っていた。
果たして、褒めているんだか唾を吐いているのか微妙な所だが、楽しそうにしている2人に水を差す程、霧切も無粋では無かった。
「(生田ことみ。彼女はどうしてここに?)」
77期生、生徒会メンバーは全員捕縛されている。彼らの末路についても調べたからこそ、霧切は『生田ことみ』の存在に疑問を抱かざるを得なかった。
~~
「ちょっと待って。私達が真面目に捜索している間、アンタらはビル群潰しながら調べていたってこと?」
佐藤は頭を抱えていた。自分達が慎重に調査を進めている中、他グループがあまりに滅茶苦茶な方法を取っていたからだ。
「時間があるんなら、もっと丁寧にやるけれどよ。相手が24時間って指定してんだ。だったら、こっちも手っ取り早くやるしかねぇだろ」
嘗められたら終わる。という、メンツを第一に考える九頭龍らしい考えだった。実際、残り時間の1/6は使ってしまっているのだから。
『そうよね。やっぱり、分からない物は潰しちゃった方が早いからね』
九頭龍の言葉に同意したのは、この場に居た誰でもない。街中の巨大モニタに映し出された生田ことみだった。
「随分余裕だな。生き埋めになることを心配してねェってのは地下にでもいるってことか?」
『さぁ。どうでしょう? 別にビルを潰すことはルール違反でもないし、でも詰むような状態になることだけは避けて上げる。何も出来なくなるのは面白くないからね。それじゃあ、引き続き捜査の方を頑張ってね』
実に楽しそうに言いながら、生田は放送を終えた。彼女の余裕綽々な態度は、九頭龍達の神経を逆撫でした。
「ふざけやがって!」
「だけど、あんな風に言うからには遠慮なくビルを破壊しても良いってことだろうね。それが解決に繋がるかどうかは微妙だとして……」
狛枝が先程の言葉を反芻していた。ビルを破壊しても構わないと言うことは、件の爆弾はビル内に無いと考えても良さそうか。あるいはヌケーター達の破壊にも耐えられる程の物かと。
「あ、あの。モノウサさん。この街って、地下みたいな所って結構いっぱいあったりします?」
「あるよ。従来からある奴と改造で追加された分も含めて、どれだけあるのかは想像も付かないよね」
罪木が恐る恐る吐き出した予想を、モノウサはあっさりと同意していた。これだけのビル群に加えて、地下が存在しているとしたら無理ゲーが過ぎる。
全員に緊張が走る中、七海だけが考えこむような表情をしていたので、ソニアが声を掛けた。
「七海さん。何か心当たりが?」
「いや、さっき。生田さんが言っていた『詰むような状態になることは避ける』って言うのが気になって」
これはゲーム的な観点を持っている七海だからこそ受け入れやすい言葉だった。ただ、パッと来ないのか澪田が手を上げて質問していた。
「どう言うことっすか?」
「ゲームとかってさ。シナリオとかが進まなくなる状況を避けるために、イベントに必要な物は殺せなかったり、壊せなかったりするんだよね。デルフィンは殺されたけれど」
後半のデルフィンが誰かは分からないが、彼女の言っていることは理解できた。つまり、破壊できたものは重要な物では無いのだと。問題は無いのだと。
普通に考えれば、一笑に付す話だ。不思議な力が働いて、特定の物だけが壊れない。なんて言うのは、それこそゲームなどの話であって、リアルでは全く関係がないのだから。
「リアルならね。ここがそう言う場所じゃないってのは、皆も薄々気付いているんじゃないの?」
チラリと九頭龍や菜摘の方を見ながら、モノウサが言った。皆に説明を促す様に、狛枝も続いた。
「九頭龍クン。さっきのイルブリードで、君達は何を知ったの?」
「……その前に。俺達は自分自身が何者だったか、そろそろ腹括って呑み込んでおかねぇか?」
七海や菜摘、あるいはヌケーター化した一部の者を除いて、既に自分達が何者であったかは誤魔化しきれなくなっていた。口火を切ったのは、狛枝だった。
「『超高校級の絶望』。僕達は世界に破滅と混迷を招いた、世界の敵だった」
ここに来るまでの間、自分達がどれだけ非道に手を染めて来たかは見せつけられて来た。無実な者は菜摘と七海の2人位だ。
「そんなお兄ちゃん達を更生させるべく、今の私達は特殊な措置を受けているの。VR空間って言えば分かるかな?」
「ちょっと、菜摘。そこまで話して大丈夫なの?」
佐藤が止めに入ったが、ここまで来たら明かさずに終われる物でもないと判断したのだろう。元より、勘付いていた者達も多そうだったが。
「ちょっと待って。VRってゲームみたいなモンでしょ? だったら、セーブとか中断とかはできないの?」
西園寺と同じ考えを持っていた者も頷いていたが、菜摘は首を横に振った。そして、モノウサが代わりに説明をした。
「あのね。ゲームみたいな物かもしれないけれど、歴とした処置なの。かなり高度な演算が働いているんだよ? 君達の生態活動も含めてね。電源を切るみたいに活動を停止する。なんてことは出来ないでしょ?」
寝たりしている間も体は活動を続けているし、それを止めたらどうなるかというのは想像に容易い。受け入れ難いことではあるが、態々。こういった前提を説明した意味を求める様に、皆は問答の発端となった七海の方を見た。
「つまり、彼女が言う様に詰みを回避してくれるって言うんなら、私達が次のステップに進むうえで必要な場所やオブジェクトは破壊されないようになっていると思うの」
「なるほど。……うん? 七海ちゃん。それってつまり?」
「全部破壊して残った奴だけ調べたら良いと思う」
彼女の回答に小泉が絶句していた。合理的ではあるが、この不気味な世界と思惑の知れない相手の言葉を信用しての行為だとしたら、あまりに危険すぎないかと思ったが。
「よっし。チマチマ調べるのは合わねぇと思っていたし、ちょうどいい。頼むぜ、お前ら!!」
九頭龍はヌケーター達の肩をバシバシと叩いていた。当の本人達は、スケートボードを抱えたまま首を縦に振るばかりだった。これが、第5ノ島に本格的な破壊の暴風が吹き荒れる前の会話だった。