咲と照のセリフと高校が逆だったら   作:緋色の

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第10話

 後半戦開始。

 

 モニターを見ていた衣は控え室にいたメンバーの中で誰よりもはやく、それを感じとった。

 

「龍が目覚めようとしている」

 

 控え室に透華は戻ってこなかった。前半戦終了間際から透華の様子はおかしかった。遠くを見るように牌を切り、口を開くことはなかった。

 

「龍を目覚めさせるだけの力はある、か」

 

 衣は楽しそうに表情を歪めた。

 

 

 

 

 

 後半戦に入ってから二回の和了を決めた照はボタンを押してサイコロを回す。牌をとり、理牌をしていた時だった。

 

 体の芯まで冷やす、穏やかに流れる河が場を支配した。あまりの冷たさに針が突き刺さっているような錯覚さえ覚え、体が震えてしまう。

 

(目覚めたか)

 

(何なんすか? 龍門渕さんも何かあるって……)

 

(鏡で見た情報が確かなら、普通に手を進めても和了は難しい。私なら三回か四回は連続和了できるとは思うけど……他の人は……)

 

 河を支配する強大な力を持った龍が卓に降り立つ。口を大きく開くと、他のプレイヤーに雄叫びをぶつけた。全身がビリビリと振動し、腰が抜けて座り込んでしまうほどだ。

 

 縦に細い線が入った大きな双眸でプレイヤーを睨み付け、己の領域である河を支配すると共に乱そうとする者がいれば即座に牙を剥く。

 

(龍門渕が目覚めた以上、鳴きとリーチはできなくなった。ロンは完全な遮断ではないけれど、それでもあまりできないように力が及んでる)

 

 凄まじい支配力は河だけに止まらず、手牌にさえ影響を与えている。鳴けない、リーチできない、ロンが難しい。それはつまり相手の手牌がそうなるようにしているのだ。天江衣の一向聴地獄と同じ全体効果系であった。

 

 更に冷たい透華の力はそれだけではなかった。彼女の全体効果系は衣の一向聴地獄に近いものがあり、有効牌を引き入れて素直にテンパイしても、和了は厳しいのだ。あくまでもそのテンパイは冷たい透華の支配下の中でできたものであり、言い換えれば冷たい透華がさせたものでしかない。だから、ツモ順をずらさなければツモあがりはほぼない。しかし、ずらすために必要不可欠の鳴きはこれまた冷たい透華によって封じられている。

 

 まさに圧倒的で、絶対に近いほどの支配力だ。支配から逃れようと無理に手を変えれば和了まで遠のき、冷たい透華が先に和了する可能性が高い。

 

「ツモ。500・1000」

 

『こ、ここで龍門渕選手がチャンピオンの連荘を止めたー! しかも一人でです! 前半戦はなんだったんでしょうか?』

 

『驚いた。前半戦とは全く別人だ。まさか彼女にあんな力があるとは……』

 

(チャンピオンのあがりを!?)

 

(凄い。自力で止めた!)

 

(これはまずい。点数が稼げない……)

 

 対策が思いつかない。鳴けないとツモがずらせないのに、冷たい透華はそれを封じているのだ。つまりツモはずらすことができない。となると残された道はロンあがりで細かく点数を稼ぐのみだ。前半戦のように大きな稼ぎはできない。

 

(しょうがない。鳴けなくてもあがれるならいい)

 

「ロン。1000」

 

 

 

 

 

 モニターを見ていた衣はがっかりした様子であった。どうやら宮永照は冷たい透華を倒すには至らないようだ。素直に言うと、咲の親族でチャンピオンという称号の持ち主であったので多少期待していた。だが、結果は見事に裏切るものだった。

 

(残念だ。あの興奮を再び体験できないとは)

 

 衣は咲が勝利したあの日を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 季節は冬。冬の長期休暇で故郷に帰ってきた咲はついてきた淡と一緒に龍門渕家に来ていた。泊まりということで、衣は大喜びだ。後は当然の流れのように麻雀を打つことになった。

 

 淡としては自身の能力に近いものがあり、強者である衣との麻雀は勉強になるとともに楽しいものであった。そして、咲、衣、淡の三人が集まったその日に透華は覚醒した。

 

(カンができない)

 

(サキがカンできないってヤバすぎでしょ!)

 

(たまにロンはできるが、しかし衣たちの支配を上回る力とは……)

 

(物凄い支配力だけど、ふうん。大体見えてきた。鳴けない、リーチできない、ロンの低下、河と手牌支配、そしてツモあがりできない。衣ちゃんの従姉妹だけあって似てるものもあるね)

 

(サキが無理なら私も無理だよ)

 

(むぅ。楽しいな)

 

 一名だけ心から楽しんでいたが、咲はこの時あることを思いついた。

 

(さて、あがり二番目でやってみますか)

 

 咲はテンパイを崩す。冷たい透華の連荘はあえて止めない。あがれなくてもよかった。咲は冷たい透華の強大で堅固な支配を打ち破るべく、鳴きを目指した。ポンは論外だ。やるのはチーだ。一通に近い形を作り、その色ならどこでも鳴けるようにする。

 

 23478という形なら五枚でも条件を満たせる。

 

 冷たい透華の支配の中で強引に鳴かせようとするとロンされてしまうが、自然な形ならどうか。普通に手を進めて零れた牌を鳴くぐらいならやられないのではないか。もちろん一回では成功しないだろうが、何回かやればチャンスは来る。

 

(って一発で来ちゃったよ)

 

 淡が捨てた牌がチーできるものだった。

 

「透華さんあがらないの?」

 

「ええ」

 

「なら遠慮なく鳴かせてもらうね。チー!」

 

「おおっ!」

 

「マジで!?」

 

「っ!?」

 

 龍が支配した河が乱れる。驚きであたふたする龍を無視して、

 

「それカン。ツモ。嶺上開花のみ」

 

 宮永咲は和了を決めた。冷たい透華の親を流した。次の局で目に見えて変化があった。

 

「あれ、鳴ける?」

 

「やっぱりね」

 

「咲、どういうことだ?」

 

「透華さんの支配は確かに凄い。まともに相手をしても勝てないぐらいに。だけど、支配は強力すぎたんだ。あまりにも、私たち三人に勝てるほどの超絶的なものだけど、それは唯一の弱点にもなった」

 

「弱点? どういうこと?」

 

「いや、そうか、そういうことか!」

 

「コロモも分かったの!?」

 

「うむ。衣や淡の支配は強力だが、やり方によっては破れるものだ。衣の一向聴地獄も他家の協力次第では破れるし、淡のも鳴くことで絶対安全圏内であがれる。しかし、とーかは違う。あまりにも支配が強力すぎた。一度に全てを支配するほどに強い力だ」

 

「うん。鳴けない、リーチできない、ロン和了率の低下、ツモあがり不可、手牌と河の支配。だから私はあがれないのを前提にさっきは手を進めて、一通に近いものを作ったの」

 

「そっか。一通ならその色の牌は何でも鳴けるから」

 

「そう。透華さんの支配は強力すぎた故に……一度でも鳴かれるとバランスが崩れ、それ以降に響いてしまう。氾濫した河が元に戻るには時間が必要なように、透華さんの支配も戻るのに時間がかかるんだよ。そして、私はその間に決めるよ」

 

「サキ」

 

「まさか」

 

 この時咲は既に二回カンを決めていた。勝負を決めるべく、冷たい透華が捨てた牌を鳴いた。

 

「カン、もう一個カン……ツモ。四槓子……32000」

 

「咲の勝ちだ!」

 

「凄い、凄いよ! 流石サキー!」

 

「ぎりぎりだったよ。一通に近いのができなきゃ勝てなかったし」

 

「いや、必然だ。それを呼び寄せたのは紛れもなく咲、お前の力だ」

 

「衣ちゃんまで変に持ち上げないでよ」

 

 その後はタイミングを合わせたように三人で笑いあった。気絶した透華をハギヨシが自室まで運んで。そんな冬の出来事。

 

 

 

 

 

 思い出している内に副将戦は終わった。

 

『誰がこんな展開を予想したでしょうか! チャンピオンが後半戦では点数を伸ばせませんでした。それをさせた龍門渕選手は10000点ほど稼ぎました』

 

『ほんとに予想外な展開だったな。これがあるから面白いんだが』

 

「さて、衣の出番か」

 

 点差は大きい。だが、そんなものは関係ない。邪魔する者がいるならまとめて倒す、それだけの話だ。




次も分けます。はやく全国書きたいです。
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