咲と照のセリフと高校が逆だったら   作:緋色の

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本当に遅くなってごめんなさい。言い訳をさせてください。仕事で忙しくなり、放置気味になってました。落ち着いた頃になっても、書こうとは思っても、書かなかったり。本当にごめんなさい。


第38話

「衣ちゃんも負けたのか……」

 

 咲は自分しかいない部屋で呟いた。

 

 テレビを消して、ベッドに寝転がった。

 

 姉である宮永照は全て一位通過したことになる。それは咲とて同じだが、彼女は照の一位通過は予想していなかった。淡はともかくとして、衣には勝てないと踏んででいたからだ。最高潮で、感覚に溺れていない衣なら照に勝つと考えていた。

 

「本気で私に勝つつもりか……」

 

 最後の和了は偶然でもなんでもなく、あがるべくしてあがったものだ。牌に愛され、味方につけたからこその和了だ。

 

 彼女の唇が緩やかな曲線を描いた。

 

「アレなしじゃ苦戦したかもね」

 

 本当なら優勝を阻もうとする者が出てきたと警戒すべきなのだろうが、むしろ楽しみだ。本音を言えば、アレを使わずに戦いたい。きっと苦戦するだろう。

 

 いくら咲でも、通常の方法で照を一方的に倒すのは無理である。連続和了。これは予想以上のもので、和了を引き寄せる力は凄まじい。まさに勝つための力と言えよう。単純明快、故に強力無比であった。

 

「決勝以外でも当たりたかったな」

 

 プロでも最初を止めるのは苦労する。なるほど、確かにその通りだ。単なる噂でなかったことに彼女は喜び、しかし残念そうにした。

 

 勝つための力は彼女も持っている。決勝で勝つのは確定的だ。ある意味でつまらない麻雀になるが、それは仕方ないことだ。インターハイでも伝説をつくるために、そして麻雀を教えてくれた多くの人たちのためにも負けられない。

 

 

 

 

 

 決勝戦当日。

 

 宮永照は一番に起床した。

 

 寝不足とかはない。

 

 自然と目が覚めた。この感じは睡眠時間が最高にちょうどいいものと変わりない。

 

 昨夜はみんなにお祝いされた。決勝戦に到達するのは当然と言うか、すべきものだったのでそんな大袈裟にしなくてもと思いながらも、言葉を飲んで、照なりにその場の雰囲気を楽しんだ。

 

 決勝戦が気になって、集中しきれていないのは否めなかったが、そこはしょうがない。気にならないわけがない。やっと咲と戦えるのだ。

 

 仲直りだなんだの前に、出てくるのは『咲と最高の舞台で麻雀を打てる』だった。麻雀への想いと妹への想いが絶妙に絡み合い、不安とかそういうマイナスなものが欠片も出てこない。

 

「咲」

 

 咲を相手にどう立ち回るか。

 

 どれだけ考えても、これだと思えるものは出てこなかった。

 

 鏡を使えば、確実に咲の性質を見抜ける。あまりにも卑怯な力だが、毎回のように使っている本人はそうは思っておらず、わりと便利な力程度の認識だ。

 

(今ぐだぐだ考えても駄目。それならいつものように過ごそう)

 

 この照の行動、いや考えは決勝に進出した選手全員が抱いたものだ。不思議なことに、決勝だと緊張するでもなく、普段と同じように過ごした。不安を無理に隠そうとしているわけでもなく、更には気持ちが高ぶっているわけでもなかった。

 

 だが、彼女らは気づいていなかった。

 

 時計の針が決勝開始の時間に近づく度、彼女たちの雰囲気は練り上げられ、重く、怖く、話しかけ辛くなった。その人が纏う空気が、明らかに他と異なっていて、周りのやわい空気を弾いていた。

 

 話しかけて、その人の集中を崩すかもしれないと思うと、どんなに親しい友人であっても声をかけにくい。むしろ、距離を置いて、気持ちが乱れないようにと気をつかうぐらいだ。

 

 そういう空気の中でも時間は変わらずに進んでいく。

 

 その時は来た。

 

 ぱたんと照は本を閉じた。本を脇に置いて、すっと立ち上がる。本を閉じてから立ち上がるまでの動作は綺麗そのもので、文句のつけようがない。同性異性関係なく、視線を集めるほどのものだ。

 

「照、存分に楽しんでね」

 

 久の一言、それはみんなの気持ちを見事に表したものだ。とても簡潔で、照が自分らしい麻雀を打ってくれることを望んだものだ。

 

「うん」

 

 照の返事はそれだけだ。それ以上は余計なもので、必要ない。たった二文字の返事が最高の返事であるから照は何も言わなかった。

 

 仲間の顔は見なくてもわかる。頭の中にはっきりと浮かび上がる。そして、最後に浮かんだのはやっぱり咲の顔だった。

 

(負けないよ)

 

 照は微かな笑みをつくった。

 

 

 

 

 

『さあ、はじまりました! あ、はじまりますか。個人戦決勝!

 

 まず最初に紹介しますは、姫松高校の愛宕選手です! 抜群というか並外れた防御の持ち主で、欠点と言えばスタイルが防御寄りというところでしょうか』

 

『そうですね。決勝に出る選手は愛宕選手以外完全な攻撃特化ですので、その中でどれだけ和了を重ねられるかが勝負を左右するでしょう』

 

『お次は天江選手! 準決勝では照選手ととんでもない勝負を繰り広げました。無我夢中で見ていた方も多いのではないでしょうか』

 

『インターハイの中でも数えるほどの名勝負でしたね。ただ……気になる点もありますが、今は置いておきましょう』

 

『気になりますが、次にいきましょうか。次は、咲選手! 語る必要もないほどの選手です。そのぐらいのインパクトを団体戦で出したとんでもない一年生です!』

 

『無双。その言葉が彼女には似合いますね』

 

『最後はやっぱりインターハイチャンピオン! その驚異的な連続和了で他の選手を蹴散らすのか!? それとも咲選手にやられてしまうのか! 誰もが気になるところです!』

 

『彼女も彼女でとんでもない選手ですからね。プロに来たらすぐに活躍するでしょうね』

 

 選手紹介も終わったところで、決勝戦は開始した。

 

 東家・愛宕洋榎。南家・天江衣。西家・宮永咲。北家・宮永照。

 

 照は一つ安心した。

 

 咲が下家にいて、鳴かれて飛ばされる心配はなくなった。だからといって、勝率が大幅に上がるわけではない。どちらかといえば、負ける可能性が低くなった。

 

 それでも負ける要素が一つでも減ったのは、幸先のいいスタートとなった。後は準決勝の時のように最後まで勝利を追い求めるのみだ。

 

 いつものように打つ。はじめは鏡を使わずに攻めるというのを考えていた。しかし、そうしたら弱気になっているだけに思えた。咲を警戒して、ではなく恐れて鏡を使わない。そんな風にしか見えないため、照は使わない方向を捨てた。

 

 つまりこの時点ではじめは様子見をする傾向にある咲と重なった。東一局は二人が最初から和了を目指していないということになり、他の二人にチャンスがいきなりやって来た。

 

 ここで大きく稼ぎ、後半に備えることができたのなら、優勝もあり得なくはない。

 

(そんなドラマはあり得へんけど)

 

 役満なんか来る気配もない。もっと言えば、満貫すら困難だ。まあこれが現実だ。そんなぽんぽんと役満が来るなら、団体戦で苦労なんかせずに逆転できている。世の中そんなに甘くないし、優しくない。

 

(かと思えば変なのが三人もおるし。世の中甘くない、優しくない、酷い、おかしいの三拍子やな)

 

 手強い二人が様子見しているおかげもあって、最初の和了は洋榎が決めた。決めたのだが、

 

「ロンや。5800」

 

「はい」

 

『あーっと! なんと咲選手が振り込んだー!』

 

『リーチなしでは今回がはじめてになりますね』

 

 本来ならあり得ない人からだ。

 

 もちろん、洋榎は咲が本命牌を捨てた瞬間に強烈な違和感を覚えたが、見逃すことはしなかった。きっちり和了して、点数を奪った。

 

 照魔鏡が三人の背後に出現した。

 

(これが淡ちゃんの言ってた鏡か。確かに全てを見透かされるような感じだね)

 

 聞いていた通りのものだ。もう自分の全てを見透かされたのだろう。

 

 たった一局で全てを把握できる。なんと卑怯で強力な能力だ。これで咲がやろうとしている能力も見抜かれてしまった。

 

(まあでも、それだけじゃ勝てないよ)

 

 おそらくそれは誰にもわからないほどの、微かな笑みだ。本人さえ気づかぬほどのものだ。その笑みにつられるようにして、恐ろしい雰囲気が漏れ出た。三人の強者は敏感にその雰囲気を感じとった。

 

 ここで咲と戦っているのが、並みの打ち手ならば、次から本番だと勘違いしたことだろう。しかし、ここにいるのは正真正銘の強者たち。本能的に、咲はまだ動かないと察した。

 

 その咲に代わってと、照が和了を決める。

 

「ロン。1300」

 

「ロン。2000」

 

「ロン。3900」

 

「ロン。5800」

 

(何や。何をしとるんや。さっきから連続振り込み。何を考えとる)

 

(これで咲はダントツの最下位。というよりもここまでで点数を減らしたのは咲だけだ。やはりアレが来るのか)

 

『いったいどうしたというのか、インターミドルチャンピオン! まるでやる気なしのような打ち方。これはどういうことなんでしょうかね!?』

 

『確かにここまでを見ると、今までの試合に比べて精彩を欠いているように見えますが、果たしてそうでしょうか? 例えば、咲選手は自分以外の選手の点数が減るのを嫌っていた可能性もあります』

 

『へっ?』

 

『後から追い上げる時に、誰かの点数が大きく減っていたら逆転が難しくなります。それを避けるためにあえて全て振り込んでいたのだとしたら…………来ますね』

 

 画面を通して見ていた小鍛治よりも近くにいた三人もわかった。

 

 宮永咲の足下から、いくつもの黒い雷が天井に向かって伸びていった。

 

宮永照 38000

愛宕洋榎 30800

天江衣 25000

宮永咲 6200




次回は今年中にやれるようにがんばります。
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