団体戦に出る上で、順番は非常に重要なものとなる。
先鋒で大量に稼いで大将まで通すか、副将か大将で巻き返すか。
基本的に先鋒に置かれるのは部で最強とされる人だ。これはもう伝統的なもので、先鋒はエース同士のぶつかり合いとなるので場は荒れ、弱者は一瞬の内に餌となって食われる。
先鋒は軽いものではない。後に控える仲間の士気を上げるという役目よりも、高校の代表として他校の生徒に勝つという役目の方に重点が置かれている。
いわば高校の看板そのものの役目が先鋒にはあるのだ。もちろん中にはそんなの知るか、と他のポジションにエースを置く高校もある。
ここ清澄でエースと言えば宮永照その人に他ならない。
合宿を終え、ポジション発表の時に久が出したのはセオリーを無視したものであった。
「先鋒は優希、次鋒はまこ、中堅に私、副将に照、大将に和にしたわ」
「副将に宮永先輩? どうしてですか?」
「照なら立て直せるからよ。先鋒から中堅まで結果を出せなくても照にやってもらうの。先鋒はあなたたちも見たけれど、あの宮永咲がいるポジションよ。白糸台では過去初かもしれないわ。それだけの力を持った人と照をぶつからせたら、どうなるかわからないわ」
「先鋒に優希なのは点数計算が苦手だから何も考えずに突っ走ってもらうため。咲と戦えないのは残念だけれど、個人戦があるからいい」
「そうですか」
照の言葉に和は引き下がった。
彼女としては照に先鋒に立ってもらい、咲と戦ってほしかった。この先鋒に咲が立つというのは、雑誌から得た情報だ。元々三年連続インターミドルチャンピオンとして有名だった咲は取材が多く、監督の立ち会いの下で記者に先鋒の話を提供した。
インターハイ出場をかけた県予選がはじまる前には、麻雀をやる人には知ってて当然の話として出回っていた。
そうなるとインターハイチャンピオン宮永照との関係も勘繰られる。咲が記者に出した答えは短い。
『私に姉はいません』
顔立ちも、角のような特徴的な髪型など、似ている部分が多いというのに咲はあっさりと否定してみせた。他人の空似だと言い張り、関係について肯定することはなかった。
インターハイチャンピオン宮永照の所にも本来なら取材が来るものだが、あらゆる取材は拒否するとチャンピオンになって間もなく公言したので来ることはない。
最初に咲の発言を見た和は誰よりも怒った。
麻雀が強く、優しく、尊敬できる先輩を否定した咲に怒りを抱かぬはずもなかった。
過去にどんなことがあったのかを聞いたことがあれど、それはやはり昔の話だ。今の先輩ならそんなことはしないと強く言い切れる。過去に執着して今を見ようともしない咲の態度が和は気に入らなかった。
昔は咲の方が強かったのだろうが、今は間違いなく照の方が強い。いつまでも過去の成績に囚われ、まだ自分が上だと勘違いしている咲を照に倒してほしかった。
(いけませんね。先輩がいいと言ってるんですから。どうせ個人戦では先輩が優勝しますし、いつまでも不満を持ってても仕方ありません)
思ったよりも長く、強い不満を持っている自分に和は嫌気が差し、安らぎを求めるようにエトペンをぎゅっと抱き締めた。
宮永咲は立ち上がると、対戦者に挨拶をした。
「お疲れ様でした」
「お疲れ」
「ありがとうございました……」
「お疲れ、さまでした」
最後の一人は卓に突っ伏したまま顔を上げようとはしなかった。
宮永咲は腰まで伸ばした長い髪を首の辺りで結って一本にしている。
対局室から出る姿は何処にでもいる少女だ。しかし、対戦した選手から見て、彼女は怪物であった。対局をしている時としていない時ではあまりにも違い過ぎるため、二重人格かと疑ってしまった。
当の本人は目標である150000点を無事に突破できたことに安心していた。
「サキー!」
「淡ちゃん。来てくれたんだ」
「サキは迷子癖があるからね。私がいないとね」
「ありがとう。助かるよ」
咲と同じく、一年生でありながら大将を担う大星淡に連れられて控え室へと向かう。
「今回もあれやんなかったねー」
「ああ。別にそこまでしなくても大丈夫だったから。それに弘世先輩と監督からもするなと言われてるし」
「あの二人かー。まあ優勝目指してるから当然だけど。でも決勝戦、インターハイのではやるでしょ?」
「うん。それまで窮屈だけど」
「あはっ。見ててそう思うよ。私もだけどね」
「淡ちゃんは特にだね。縛りみたいなの私以上に嫌いなタイプだし」
「高校百年生の力を見せてやりたいよ」
「バカっぽいから言わない方がいいよ」
「あらま。ところでさー、話変わるけど」
「うん」
「宮永照ってほんとのとこ何なの? サキの姉?」
隣で知りたそうにする純粋な瞳に咲は淡ならいいかと思い、返事をした。
「姉だよ」
「へえー」
それ以上は聞いてこない彼女に感謝した。