咲と照のセリフと高校が逆だったら   作:緋色の

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最近、思うのです。咲、照、憩、怜、衣、ネリー、穏乃、透華、強い人たちってみんなスタイル抜群美少女とは遠いな、と。貧乳だったり、低身長だったり。

でも、これだけは言える。

ころたん、いえいー


雲散霧消

 他を圧倒し、寄せつけない。

 

 彼女はこの場を完全に支配し、蹂躙していた。

 

 彼女から放たれる、押し潰すような恐ろしいプレッシャー。牌を持つこと、ただそれだけのことが辛くなる。牌がとても重い。手に汗が浮かぶ。汗で牌を滑らせてしまいそうだ。

 

(何やねん、ほんま)

 

 自分が呼吸をしているのか、それさえもわからなくなる。今まで感じたことがないもののせいで、心臓はバクバクとはやく、大きく鼓動している。冗談抜きで、胸から心臓が飛び出るんじゃないのかと思うほどだ。そこまでいくと、鈍い痛みもある。

 

(宮永に借りを返すために頑張ってきた。きっとそれは周りもそうやと言うてくれる。あの日からずっと。なのに、ここまで、こんなにも、差があるんか?)

 

 自他共に認めるほど、洋榎は努力に努力を重ね、技術を磨いてきた。成長した自分はこんなやろと想像して、そうなるために練習してきた。

 

(うちが相手してきた誰よりも強い)

 

 練習相手にはもちろんプロもいた。みんながみんな特殊な打ち手というわけではない。それもそのはずだ。本来は特殊な打ち手の方が少ないのであって、間違ってもこのインターハイのようにうようよいるわけではない。

 

 だからといって、特殊な打ち手と戦ったことがないわけではない。九割普通、一割特殊といった割合か。本来ならこの程度の割合なのだ。

 

 それなのに今年のインターハイは、強いチームには必ずと言ってもいいほどに一人はいる。下手すると全員能力者だったりもする。こんなに酷いのは今年がはじめてだろう、多分。

 

 話が脱線しかけたが、とにかく洋榎は少ない特殊な打ち手と対局したことがある。勝敗はともかくとし、彼女の中には経験値が存在している。

 

 しかし、

 

(こんなあり得へんプレッシャーやら、展開はいくらなんでもはじめてや。ほんまに人の子かと疑うわ)

 

 宮永咲はそれらとは格が違う。全てをぶち壊さんばかりのプレッシャーは、それこそ麻雀に対する自信、想い、考え、つまりはその人が麻雀をしたいと思う理由の全てを木っ端微塵にしようとしていた。

 

 ――これはしゃない。諦めよ。

 

 自分らしくない、弱気な言葉が頭に浮かんだ。

 

(そうしたらすっごい楽やろな。だって痛い思いをせえへんで済むし。でも、うちは馬鹿やから)

 

 尋常でなく、人が発することができるとは思えないプレッシャーを放つ咲を洋榎は見つめた。

 

 寒い。肌が凍りつくような寒さだ。真冬のような、気温が低くて寒いとかそういうものとはまた別の寒さだ。ただひたすらに寒く、冷たいものが全身を覆っていた。腕を擦り、ちらりと一瞥してわかった。鳥肌が立っていた。

 

(こういう経験もはじめてや)

 

 抵抗する気力を根こそぎ奪うプレッシャー。きっとこれは団体戦決勝で感じたものと変わりはない。身動きがとれない洋榎の近くには目を輝かせる魔物がいた。それは照と衣の近くにもいて、じっと見下ろしていた。

 

(点差も大きい。しかもこの展開。まさに絶体絶命)

 

 実を言うと、洋榎はまだ最初の牌を捨てていない。ツモをしただけである。そのため一巡目は終わっていなかった。本人はそれほど時間は経っていないと思っているが、既に五分経過していた。

 

 この様子を映像として見ていた姫松メンバーは心配そうな顔をしていた。迷うことなく、いつも楽しく麻雀を打ってきた洋榎の手が完全に止まったのだから無理はない。

 

「お姉ちゃん……」

 

「主将が迷ってんのはじめて見ますよ」

 

「それ聞いたら主将、うちかて迷うことあるわ! って言うやろな。まあそんなのは置いといて、今あの卓は異常も異常。宮永咲以外聴牌すらできてへん」

 

「そうなったらお手上げなのよ。でも、洋榎ちゃんはそんなんで諦める子じゃないのよー」

 

「せやな。主将のことや。今考えてんやろ、宮永をぶっ飛ばす方法を」

 

 まさにその通りだった。洋榎はこの異常な展開を引き起こす能力について仮説を立てていた。

 

(おそらく聴牌する鍵はカンや。カンをした時に宮永は全部聴牌しとる。大星と同じように最後の角に移る前にカンをすればドラが乗る。それでも謎が残る。リーチや。別にツモならリーチなくても和了できる。不必要に見えるリーチをする理由は、リーチをしなくては和了できないんや。或いは跳満でないと和了ができない。ちゃうな。一度海底を掴んだ時もあった。リーチなしでも跳満。せやのにリーチした。無論、邪魔をされるのを考慮してのリーチもあるやろ。だけど、多分リーチをかけないと和了できないんや)

 

 咲をちらりと見て、洋榎は深呼吸をした。

 

(この能力は特定条件を満たさない者は和了させず、満たした者には跳満を与える。まずカンをすることで聴牌ができるようになる。次に最後の角に移る前にカンをすればドラが乗る。次にリーチをかけることで、和了が可能となる。その和了は自身の最後のツモ牌を掴んだ時にやって来る。だから海底固定ではない)

 

 リーチをするわけだから、必然的にカンは暗槓のみとなる。

 

(暗槓なんかそんなにできんわ)

 

 これが答えだ。条件は簡単なように見えて、とても難しい。そうなんだとしても、試合が終わるその瞬間まで諦めるつもりはない。

 

「待たせてすまんな」

 

 手牌を見ず、適当に捨てる。

 

(流れを乱したつもりか? その程度で咲の支配は揺るがないが……、しかしそれが次に繋げるものになるかもしれないな。何でも無駄だとするのは、一番してはならない)

 

 衣も洋榎のように適当に捨てる。それほど効果は見込めないだろうが、しかし何もせずに負けるというのは嫌だ。できることならこの支配を破りたい。

 

(だが、一人でやるのは不可能だ。……咲、これほど強力な支配を破られたら、どんなことが待っている?)

 

 前回はお披露目と実験的な感じでやったので、力で壊す真似はしなかった。流れに身を委ね、協力した。しかし、今回は違う。風に舞う木の葉のようになるつもりはない。

 

 照は気づいた。

 

(一見完璧に見えるこの能力にも弱点はある。それは咲にも克服できなかった。いや、しようがなかった)

 

 冷たい透華をも凌駕する、最強の支配。それを使う相手も数々の伝説を築いてきた。まさに最強の人物が使う最強の能力だ。これを単独で破れるのは少なくとも日本の女子高生にはいないだろう。何故ならインターハイチャンピオンでも、ここまでただやられている。

 

(この能力の最大の弱点、それは嶺上牌)

 

 皮肉なことに、咲の武器が咲を倒す最大の武器にもなった。

 

 カンをすることで、はじめて聴牌できる。裏を返せば、嶺上牌は支配の影響を受けていない、もしくは受けているが少なくとも聴牌に必要な牌を引ける、のどちらかだ。いや、もう一つあるか。カンをしたら有効牌が引ける。

 

 普通ならここから更に調べることになるが、照の場合は鏡によってはじめに見抜いているので、その必要がない。答えは一番目と三番目の二つだ。具体的に述べると、カンをした時に引いてきた牌は有効牌となるが、それはあくまでもカンをした人限定であり、場に捨てられた場合は“支配から解放される”のだ。

 

(手を縦に伸ばす)

 

 可能なら和了する。カンを前提に照は手を進めていく。

 

 一方で洋榎は別の考えをしていた。

 

(偶然、宮永と同じようにやれる時もそら来るやろ。せやけど、二度、三度とはいかへん。つまり、宮永の真似をしても勝てへん。せやからもっと別の、それこそ……この支配を壊す方法を見つけなあかん)

 

 ヒントはない。

 

 真っ暗闇の中で洋榎はただ立っていた。進む方向は定まらず、ましてや導いてくれる光さえない。諦めてはいない。だが、一歩でも踏み出せば、奈落の底へと落ちてしまうかもしれない状況だった。

 

(もう少しで)

 

 咲がカンをする地点に到達する。この局もとられてしまうのか。もしとられたら親の跳満をやられる。何としても避けたい。そして、親も流してしまいたい。されど、そんな簡単にはいかない。焦りと歯痒さが洋榎の胸に広がろうとした時であった。

 

 洋榎の捨てた牌を、

 

「カン」

 

 照は鳴いたのだ。

 

 四萬を引いてこれればタンヤオ聴牌となるが、来たのはよりにもよって一萬だ。役なし聴牌。確かにノーテンからは進んでいるので有効牌であるものの、その価値は雲泥の差だ。リーチをかけなければ和了できず。その支配が照のタンヤオを壊した。

 

 通常ならこのまま聴牌をとるが、照はそうしなかった。そっと一萬を場に捨てた。

 

 真っ暗闇の中にいた洋榎の目に光が飛び込んできた。決して大きくも強くもないが、しかし道標としては十分なものだ。しっかりと目で捉えることができて、心の中にあった暗いものを吹き飛ばしてくれる頼れる光。

 

「チー」

 

 鳴きはしたものの、手は進まなかった。

 

(なるほど。そういうことか)

 

 衣も察した。洋榎のチーは言ってみれば衣に気づかせるためだけのものだ。聴牌しようがしまいがどうだっていい。

 

(だが、わかったところで、やはり道は険しいか)

 

(それでもやっと見つけたんや。やるしかあらへん)

 

(例え、失敗しても。諦めることだけはしたくない)

 

「カン」

 

 見飽きた光景だ。カンをしたらドラがもろ乗り。見飽きるほどに見たので驚きなんかない。むしろ、こう思ってしまうほどだ。余裕そうにしてられるのも今の内だ、と。

 

(うん。三人の雰囲気が変わった)

 

 咲は感じとった。同時に危険な臭いも嗅ぎとった。今の自分にとてつもない一撃を与えかねない、何かを彼女は感づいた。それこそこの圧倒的有利な状況をぶち壊すほどの一撃だ。

 

(これ、解除にも時間かかるのに)

 

 発動するのに時間がかかった。それなのに解除にも時間がかかる。下手をすると対局が終わるまで解除できない。元々絶大な強さを誇るものなので、それほど心配することはなかった。また、そのデメリットに見合うだけの性能があるので、使用することを決めた。

 

「ツモ! 6000オール!」

 

 危険な臭いが強まった。

 

(衣ちゃんの点数は6900。跳満を決めたらほぼ私の勝ちだ。……大丈夫だ、勝てる)

 

 集中力を高め、次の局に臨む。

 

 より強まった咲の支配とプレッシャー。三人はそれを全身で感じとった。体全体を震わすような強烈なもので、これだけでも辛いのに口から何もかもが出そうになるほどの凄まじい圧力が襲いかかる。

 

 心が強くなければ、耐えられない。

 

 まるで最終決戦に挑むような雰囲気が漂ってきた。咲から放たれるものに耐えて、一歩、また一歩と歩んでいく。

 

 そんな三人の背中を押す、或いは支えるようにして風が吹いた。微風ぐらいであったが、今の三人には何よりもありがたいものだ。気のせいかもしれない、思いこみかもしれないが、その風はみんなの応援の声と思えた。

 

(三人とも聴牌していない。それなのに気配が強くなってきてる?)

 

 最初よりも気力が満ちているように見える。この絶望的な状況の中でも三人は諦めていない。流石は個人戦決勝と言うべきか。やはりここは他と一味違う。

 

 団体戦を個人で優勝した。今にして思うと、それはしてはいけなかったんじゃないだろうか。団体戦決勝では連携プレイ、思わぬ反撃を受けても他家を飛ばした。その時のことが咲の頭には少なからずあった。

 

 その結果、咲は油断していた、もしくは慢心していた。本人は気づいていないし、他の人も気づかないレベルのものであったが、少なくとも団体戦の時とは気持ちが違っていた。

 

 勝ちを意識しすぎていた。そこが普段の彼女との違いだ。少なくとも次で跳満を決めたらなどと考えず、この局での和了は捨てて、三人の出方を見たはずだ。

 

 やはり慢心しているのだろう。誰の目にも今の彼女は確実に勝利するために前へ出たように映る。本人さえそう思いこむほどに自然だった。

 

「カン。リーチ!」

 

(待ってたで、その時を)

 

 洋榎はほくそ笑む。咲がリーチをかけず、邪魔しに来たらどうしようと思っていたが、その心配は今のリーチによって綺麗さっぱりなくなった。

 

「カンや」

 

 暗槓をしかける。ドラは乗らなかったが、このままリーチをすれば和了できる可能性は十分にある。そうでなくても聴牌はとれる。普通なら聴牌をとる場面だが、咲の能力を破るために聴牌はとらず、場に捨てる。

 

「ポン」

 

 捨てられた二萬を照は鳴きとった。

 

(よし)

 

 鏡で得た情報に間違いはなかった。ポンをしたことでタンヤオを聴牌した。残る問題は、他の二人が咲よりもはやくカンをできるかだ。自分でカンをしても和了はできない。

 

 厳しさだけが積もっていく。咲の和了がどんどん近づいていく。そうであっても三人の顔に諦めの色はなかった。

 

(あと少しで和了……)

 

「カンだ」

 

「――――っ」

 

 この時になって、咲は気がついた。この局で無理に勝負を決めなくてもよかったと。確かにこの局で和了を決めたらほぼ勝利となる。しかし、三人の変化をはっきりと感じ、わかっていながら見過ごした。紛れもなく驕りだ。何があっても和了できると思い上がって、三人のやろうとしていることを阻止しようとしなかった。

 

(普段ならしないのに)

 

 三人に恐れをなしたのか、それとも隠れていた緊張がこの場面で出てきたのか、はたまた勝利という魔物に心を奪われたか。今となってはどうだっていいことかもしれない。何故なら判明したところで咲のミスはなくならないのだから。

 

(私は……)

 

「ロン。1000は1300」

 

 その宣告が衣に言い渡された時、全ての支配が雲散霧消した。

 

(やはりか)

 

(こ、こんな、こんなことって、こ、ここまでのものがあるの?)

 

(何や、宮永の奴)

 

(咲から何も感じられなくなった……)

 

 ここに来て咲は全ての能力を使えなくなった。

 

 宮永咲 59500

 宮永照 22200

 愛宕洋榎 12700

 天江衣 5600




今年最後の咲がどんな話か気になって仕方ないのです。







おまけ。

母「あれはどういうことかしら?」

 母と照が帰宅してから一週間。咲さんが予想以上にだらけていたことを知ったお母さんが激おこぷんぷん丸になったようです。

父「気づいたら、なってた。」

照「あれはまずいって」

父「わかってるけどさ、ほら、俺料理できないから」

母「この馬鹿夫は……。いいわ、私が何とかするから」

ない胸を叩いたお母さん。どうやら咲さんの生活を改善するみたいですよ。

夕食の時間。

そこで事件が起こりましたよ。

照「咲、醤油」

咲「はい。お姉ちゃん。……お姉ちゃん? ぶぇっ!? お姉ちゃん!? じゃあ、そっちはお母さん!?」

母「今まで気づいて」

照「なかったの? 一週間もいたのに? てか、私たちを誰だと思ってたの?」

咲「お父さんの再婚相手と連れ子」

照「そうなんだとしてもちゃんと紹介するでしょ」

母「まさか姉と母の顔を忘れてるとは思わなかったわ……」

咲「だって久しぶりじゃん。それに作者だって十年近く会ってなかった父親を見ても誰かわかんなかったらしいよ。母親の新しい恋人と勘違いしたぐらいだし」

照「それ以上はいけない」

咲「だから、久しぶりだと案外わかんないんだよ。お姉ちゃんだって成長してるし、お母さんだって年取ってるわけで。私の頭の中には若かった二人しかないよ」

照「今だって若いし、その理屈なら私とお母さんだって咲のことわかんないことになるでしょ。でも、私たちはわかったよ。つまり咲の理屈は通用しない」

咲「」

父「咲、お前の負けだ。それと今までのようなだらだら生活はできないぞ」

咲「そんな!? 今アプリでランキング一位になれたのに! あと二日もイベあるんだよ! だらだらしないと負けちゃう!」

母「諦めなさい」

その日、咲は言い負かされた腹いせに朝まで寝た。
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