インフィニット・ストラトス ~緑翠の人魚姫~ 作:夏梅ゆゆゆ
不快に感じた方は、申し訳ありません(焼き土下座)
「────こうして、ISは世界的に広まっていったわけですが────」
二時間目。
IS関連の授業を入れる都合上、どうしても授業数が足りなくなってしまうIS学園であるが故、入学式から授業があるこの日もここまでくると既に慣れすら感じてきてしまった一夏である。
最初こそ授業進度のずれに戸惑ったものの、よくよく考えてみれば進んでいるのは良いこと……復習感覚で授業に臨めるという利点なのだ。
「(……にしても、ホントに先生してるんだなぁ…………)」
そう、こうなってくると余力が生まれる。無論、授業を聞いていないわけではないが、ノートなどは一度すでにまとめて来た身……ノートをとっていても余裕があるのが現状だった。
そうして授業を聞きつつも先生の様子をうかがっていると、先生と途中で目が合う。
「……えーっと、ここまでで分からない人はいますかー?」
その後には沈黙……どうやら、IS学園には本当にエリートしか居ないらしい。
「え、えっと……お、織斑くんは分からないところとかありますか……?」
……どうやら先ほど視線が合ったのを気にしていたらしい。しかし、山田先生の好意は嬉しいものの、分からない場所は特に無い。
「大丈夫です」
「えっ? ホントにホントですか? 無理しなくても良いんですよ?」
「えっと……本当に大丈夫です」
「はわぁ……織斑くんは優秀なんですねぇ……」
「いやいや!? そんなことは別に……」
「い、いえいえ……それに皆さんもとっても優秀で……」
「────んんっ、山田先生」
「あっ、す、すみません……で、では続きを説明しますね……?」
……なんとなく、クラス全体の雰囲気が柔らかくなったような気がした。
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「ちょっと、よろしくて?」
「……ん?」
二時間目の休み時間、次の授業の準備をしようとしていた一夏は急に声をかけられ、振り向く……話しかけてきた相手は地毛の金髪が鮮やかな女子だった。白人特有の透き通ったブルーの瞳が静かに、しかしそれでいてどこか試すようにこちらを見ている。
「少しお時間いただけますか?」
「あ、ああ……何か俺に用か?」
一夏がそう言うと、その少女は少し眉を上げつつもあくまで静かな声音で一夏へ語り続ける。
「いえ……ただ、
「…………気になる言い方をするな? イギリスの代表候補生────セシリア・オルコット」
そう、最初は戸惑ったものの、一夏は彼女に見覚えがあった……イギリスという一国を代表するIS操縦者、その候補生である彼女はその中でも有名なうちの一人だったからだ。
「あら……意外ですわ、先ほどの授業も含めて」
「…………」
その言葉に流石の一夏も多少イラつく……が、彼女の瞳────そこにあるものが無為な挑発の為のものではないことに気づき、それはすぐに収まった。
「君は────俺に何を求めている?」
「……! やはり、意外ですわね……」
「いったい何を……」
「────この話はひとまずここまでにしましょう? 授業がそろそろ始まってしまいますわ」
これは決定事項……そんな調子で言い切ったセシリアは一夏の前から立ち去っていった。
「────わたくし以外で試験官に勝った実力は、いずれ見せていただきますから……」
そんな、呟きを残して…………
▼
三時間目……教壇に立つのは一、二時間目とは違い、千冬だった。
「それでは、三時間目を始める……と、言いたいところだが、先ほど再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めなければならなかったのを失念していた。なお、クラス代表者とはそのままの意味だ……生徒会の開く会議や委員会への出席等も業務に入る」
そこまで言って、千冬は生徒たちに視線を巡らせる。
「ちなみにクラス対抗戦は入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差は無いが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更は無いからそのつもりでいるように」
その言葉にクラスがざわつく……しかし、その喧騒を破るように一つの声が上がる。
「────はいっ! 織斑くんを推薦します!」
……一夏はその言葉を皮切りにクラス内の視線を一身に集めたことを感じた……よく分かっていないエメラダを除いて。
「あ、私もそれがいいと思います!」
「やっぱ、それしかないよねー」
「せっかく男子がいるんだし……」
「───では、候補者は織斑一夏……他には居ないか? 自薦他薦は問わない」
「ちふ……織斑先生、それって拒否権h「あるわけ無いだろう」…………ですよねー」
一夏は軽く泣きそうになった……こちらを励ますようなエメラダの視線が暖かい。
「───少々お待ちになっていただけますか?」
「……ほう、オルコットか。言いたいことがありそうだな……言ってみろ」
「それでは……」
そこまで言って、セシリアはクラス全員の視線が自分に向くのを待つと、落ち着いた声色で話し始めた。
「まず、皆さんはクラス代表の意味を分かっておいででしょうか? わたくしは先ほど織斑先生が仰っていたことに加えて、この代表にもう一つの意味を感じました……それは、一種のバロメーター」
セシリアはそこで一区切りし、一夏の方を少し見据えてから再び話し出す。
「この学園には複数のクラスがありますが……そこで対抗戦をさせる以上、クラス全体の力がおおよそ、分かることになります。当然ですわね?
この言葉に、恐らくは一夏を物珍しさだけで推薦しようとしていた女子数人が顔を背ける。
「以上のことから、わたくしもこの代表に立候補します。わたくしは、彼よりも……いえ、クラスの誰よりも自身を
クラスがしばし沈黙に閉ざされる。それはセシリアの言動に反感を抱いてでは無い……ただ、それを語る彼女に圧倒されていたのだ。
ただ、その威圧に動じない者もいる。
「────そういうことか、セシリア・オルコット」
「……そういうことですわ、織斑一夏さん」
一夏は、彼女の言葉で先ほどの態度の理由が分かった。いや、その深いところまでは分かっていないが、ただ彼女が
「だったら、ちふ……織斑先生! 俺もここまで言われて引き下がってはいられません。だから────」
「……はぁ、揃いも揃って…………まあいい、だったらIS学園らしくISで決めろ」
「────その言葉を」
「────待っていましたわ」
「…………はぁ」
今日一日でどれだけため息を吐いただろうか……そんな物思いに耽る千冬を尻目に一夏はセシリアと睨み合う───好戦的に色を変えたその瞳と。
「ハンデは必要ですか?」
「愚問だな……逆にそれで勝って嬉しいか?」
「はい、とても……あっさり終わってしまっては興ざめも良いところですし」
「上等……」
───『男は女より弱い』……それが今の世の中の常識であり、風潮だ。それなのに、この威圧を真っ向から受け止める男は何だ? 何故、あの
それが、クラスのほとんどの生徒たちの意見であった。その驚愕は候補生のハンデの申し出を一言で切り捨てたことでさらに加速する。
その一方でヒートアップする一夏とセシリアを見かねた千冬は、今日何度目になるかも分からないため息を吐くと制止を呼びかける。
「そこまでだ。勝負は一週間後の月曜で良いな? 放課後、第三アリーナで行う。織斑とオルコットはそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」
その言葉に頭を冷やすと、二人は最後に好戦的な笑みを浮かべ合い、席に戻る。
その様子に生徒たちも安心の息を漏らし、授業へ没頭していくのであった…………