インフィニット・ストラトス ~緑翠の人魚姫~ 作:夏梅ゆゆゆ
……主人公はもっとムズイ…
──夢を、見ていた。
それは、あたたかくて、安らかで。
何度も、何度も自分の名前を呼ばれていた…
──そう、
▼
───暖かい。
それが目が覚めて一番最初に感じた感覚だった。
「……あ…う…?」
目を覚ましたその人物……翠髪の少女は身を起こし、辺りをきょろきょろと見渡し始める。
「あ、たし…は…………?これは、ベッド…?」
少女は自分がベッド…それも、ファンシーな飾りつけを成されたそれに寝かされていたことに気付く。
…とにかく、現状の確認を最優先。そう、設定された兵器としての思考が現状、どうするべきかの答えを導きだした時………その部屋のドアが、バッッコォォォーン!!!、とコミカルな音を立てて吹き飛んだ。
「──やあやあやあやあっ!!起きたっ?ついについに起きたんだねっ!!」
「え…?……ちょっ……!?」
──部屋に転がるようにダイナミック入室してきたのは、一言で言うならば『一人アリス』ともいうべき珍妙な服装をした年上の女性──といってもまだ少女の域を出ない──であった。
どうやら興奮しているらしいその女性は、困惑する少女をしり目にまくし立てるように言葉を重ねる…が、数分もしない内に落ち着いたのか、ペースを落として再び話し始める。
「…いやぁ、ちょっと束さんともあろうものがほんの少し僅かばかりに平静を失ってしまっていたよ~」
「……そう」
ここまで来て、少女も困惑が薄れてきたのか話を聞く体制を見せる…と共に、目の前の人物への警戒心も気づかれないようにひっそりと抱く。
「(…この人は何者?……いや、そもそもあたしはなんで……)」
「ああっ!そう言えば自己紹介を忘れていたねっ!」
思考に沈む少女には気づいていないのか、そう明るく言うと、服をはためかせてポーズをとりつつ自己紹介をする。
「私は、篠ノ之束さんだよっ!よろしくねっ!えーちゃん!!」
──篠ノ之束。その名前は自分の頭の中にインプットされていた。
…宇宙空間での活動を想定した、マルチフォーム・スーツIS──正式名称インフィニット・ストラトスの開発者にして、『天災』の異名をとる、人智を逸した天才。
そう、
色々な情報が頭の中にあふれて来て、再び混乱しそうになるも、どうしても気になることが一つあったので、確認するために口を開く。
「…えーちゃん?」
「そうだよ?君のあだ名~!どう?かわいいでしょ?」
「…名前?」
「うん、そうだよ!君の名前──────エメラダっていうのをもじったんだよ!」
───お前の髪はまるで翠玉…エメラルドのようだな───
───そうだ、お前の名前…識別番号だけじゃあれだから…この髪の色からつけよう───
───今日から、
「……エメ、ラダ…あたしの……名前」
「──うんっ!だからこれからよろしくね?」
▼
──それからの事。
二人…といっても専ら束が一方的にだが、自分がエメラダを引き取ったことについてを、重要なところをぼやかしながら話し合い、とりあえず、エメラダの何故自分がここにいるのか、ここは研究所ではないのか、あなたが自分の製作者なのか…などの質問を封殺しつつ、エメラダに現状をしっくりこないまでも、納得させた。
──これから自分はどうなるのか。
兵器としての自覚があるエメラダは半ば覚悟しながらその質問を口に出す………が、束の答えは予想とは違うものであった。
「──ん~そうだねぇ…私のところじゃあの人の願いは叶いそうにないしぃ……そうだ!えーちゃんにはちーちゃんのところに行ってもらおう!そうだそうだそうしよーっ!」
「…ちーちゃん?」
──いったい誰だろうか。そう考える間もなく、束はどこからかニンジン型の携帯を取り出し、どこかに連絡を掛ける。
「あっ、もすもすひねもす?わたしわたしー」
『……切るぞ』
「あ~!!待って待ってっ!!今日はまじめな話があるんだってば!!!」
『なら初めから真面目にしろ……で?』
「うん、少し、頼みたいことがあるんだけど…」
『………珍しいな、お前が人を頼るなんて』
「…まあね、で?やってくれる?」
『まあ内容にもよるが……言ってみろ』
「うん、実はね───」
設定メモ書き
・エメラダ
原作では、超古代文明の技術によって作られたナノマシン集合体。
褐色の肌と翠色の髪を持ち、高い戦闘能力で頼もしい味方となってくれる。
本作では、原作よりも人間要素が強い遺伝子強化試験体として誕生。
あらかたの一般的な知識と戦闘的な技術、思考を学習装置によって、培養槽の中にいるときに身に着けている。
全体的な能力も高かったが、ISの登場により遺伝子強化試験体の制作に関する計画が頓挫した結果、キムが直々に手掛けたこのエメラダしかナノマシン適合型の試験体は制作されなかった、という裏話がある。
なお、本作のエメラダは原作まで自由なナノマシン操作は体の構造上無理だが、某ヤミちゃんのトランス並みにはいろいろできる。