インフィニット・ストラトス ~緑翠の人魚姫~ 作:夏梅ゆゆゆ
これからも減るかもしれないのでファース党の方には平に謝罪を……(土下寝)
「ふぅ……ちょっと、疲れたな」
授業が終わり、放課後。
思えばいろいろなことがあった今日である。故に、気が抜けた瞬間に疲れが思ったよりもたまっているのに気付いた一夏だった。
「…………お疲れ、イチカ。これあげる」
「おう……サンキュ、エメラダ」
そこに、缶コーヒー───恐らく近くの自販機で買って来たのだろう───を持ったエメラダが一夏の机にそれを置き、顔を覗き込むようにこちらを見てくる。
「それにしても……今日は本当にいろいろあったなぁ……」
「まあ、そのうち一個はイチカの自業自得だけど」
「うぐ…………」
セシリアの一件を言っているのだろう。エメラダは少し意地の悪い微笑みを浮かべながら一夏の様子を見ている。
「しょ、しょうがないだろ……あいつだって最初からその気で接して来たんだから…………」
「挑発に乗ったのはイチカからだった」
「ぐむむ…………」
そんな他愛もないやり取りを二人がしていると、教室へ入ってくる人物がいた…………山田先生である。
「ああっ、織斑くん! まだ教室に居たんですね、よかったです」
「先生? どうしたんですか?」
「い、いえ、織斑くんの寮の部屋割りが決まったのでそれを伝えに来たんです」
「ああ……わざわざ、ありがとうございます」
「い、いえいえ!? きょ、教師として当然のことですから……」
そう、この学園は全寮制なのである。とはいっても一夏は特別な立ち位置……女子の中に男子一人という状況だ。ぎりぎりまで部屋割りが決まらなくてもしょうがないことなのだろう。
そんな中にわざわざ伝えに来てくれた山田先生には純粋に感謝の意を抱いていた。
「それでも……ありがとうございます」
「~~~っ、こ、これ! 部屋の番号と鍵です……そ、それではっ!!」
山田先生は顔を真っ赤にして走り去っていった……一夏はそれに首をかしげながらも渡されたものを見る。
「1030号室か……っと、どうしたエメラダ?」
「……? 何が?」
「いや……何か言いたそうだったから……」
「そう……だった?」
「いや、何でもない。俺の気のせいだろう」
「そう…………それより、1030号室って本当?」
「おう、そうみたいだが……」
「あたしも同じ部屋。一緒に行こう」
「ん、そうなのか……じゃあ行く───」
そこまで言って、異様にクラス内───まだ多少のクラスメイトが残っている───の視線を集めていることに気づいた。
「なん……だと……?」
「同……棲……?」
「夜……二人きり…………」
「燃え上がる男女……」
「消える倫理……」
「そして二人は…………!?」
「「「「「…………ゴクリ」」」」」
「え、っと……」
「……? 早く行こう?」
「お、おう……」
一夏はエメラダに手を引かれて教室を出て行った……今日一番の質量を持った視線を受けながら…………
▼
「じゃあ、先にシャワー借りるね」
「おーう…………」
部屋に着いた二人。取りあえずさっきよりも一段と疲れた一夏はベッドに倒れこむと、エメラダの言葉に生返事を返す。
「まあ、見られてた意味は分かるけど……」
男女が一室に寝泊まりする───この事実は高校生成り立ての乙女たちにとってかなりの衝撃を与えるものである。
流石の一夏でもこのことくらいは分かっている……しかし、同室はエメラダ以外ではいけなかったのだ。
まず、原則として二人同室のIS学園寮……男の一夏が女子と同室になるのは必然だ。それも、開いていた部屋を一人で使えば良い話だったのだが、不幸にも空き部屋が破損しており、それも出来ない。
千冬との同室は教員と生徒の関係上、余り生徒に公には出来ない書類等を部屋で扱う可能性もあり、千冬から辞退。結果、その後の千冬からの後押しもあり、以前から一つ屋根の下で暮らしていたエメラダが一夏の同室に収まったわけなのだ。
「(それに、エメラダと暮らすのは慣れてるし別に何の問題は…………)」
「───イチカ、シャンプーが切れてる」
「ん? 今取っ────」
一夏は、停止した。
エメラダがシャンプーを取りに来た……これは良い。だが、その取りに来た彼女の姿が────タオル一枚だったのだ。
バスタオルならまだ良い。しかし、エメラダが身に着けているのは、とてもじゃないがその体を隠すのに頼りの無い大きさのタオル……
「ん、あった……じゃあ、もうちょっと待ってて」
「…………」
…………確かに、以前から一つ屋根の下に暮らしていた。しかし、それは別の部屋で寝て、お互いに節度のある服装を着て家の中で過ごすものであった。
既に浴室に帰っていったエメラダの姿……大事な所こそ隠しているものの、その褐色の肌を惜しみなく晒したその姿は、あくまでも男子高校生な一夏には強すぎる刺激だったのである。
「…………寝ようっ!」
そう、煩悩を消すように一心に眠り込む一夏…………シャワーから上がったエメラダに夕食の為叩き起こされたのはこの一時間後であった。
▼
「イチカ……眠そう?」
「ああ……なんでも……そう、なんでもないんだ」
翌日。
結局、昨晩全然眠れなくなってしまった一夏は重い瞼を擦りながらも、朝食を食べる為に食堂へ訪れていた。
不思議そうな顔のエメラダと一緒に朝食(今日は和食)のトレイを受け取って、空いているテーブルに座る二人……そこに、緊張したような声が一夏に向かってかけられる。
「お、織斑くん、隣良いかなっ?」
「……ん?」
見ると、クラスメイト───確か、谷本さんと言ったか───が声をかけてきた人物らしく、それ以外にもその後ろに二人の女子がこちらを窺っている。
「ああ、別に良いけど……」
その言葉に安堵の溜息を吐く谷本さん……後ろの生徒もガッツポーズをしている。片方はぼーっとしているようにしか見えないが。
「うわっ、織斑くんって朝すっごい食べるんだね」
「いっぱいいっぱい~」
「まあ、夜少なく取るタイプだからな……朝にはたくさん取らないと体が持たない」
「……チフユの真似だけど」
「うるせっ、良いだろ別に……」
そんなやり取りをしていると、女子三人組が興味津々といった感じで一夏たちを見ているのに気付く。
「お、織斑くんってバルタザールさんと仲良いよね……?」
「それに同室って……」
「え? ああ、まあ……かなり前から一緒に暮らしてるからなぁ……」
「い、一緒に!?」
「ん、イチカとは家族」
「仲良しさんなのだ~」
そこまで言って、一夏は後方に視線を感じてそちらを振り向く……その視線の主は、昨日再会した幼馴染、箒だった。
何か用があるのかと声をかけようとするが、そこで手を叩く音が食堂に響いた。
「いつまで食べている! 食事は迅速に取れ! 遅刻したらグラウンドを十周させるぞ!」
その声───千冬の声に急かされ、朝食を急いで再び取り始める生徒たち。一夏もその例に漏れず食事に戻っていった為、その視線のことはすっかり忘れてしまっていた。
ただ、視線を投げかけた本人はそんな一夏の様子と、傍らの少女……エメラダとの楽し気なやり取りを聞いて、複雑そうな……それでいて、寂しそうな表情をしていた。
箒「パルパルパルパルパルパル…………」
書いているとモッピーがどんどん乙女化していく不思議