インフィニット・ストラトス ~緑翠の人魚姫~   作:夏梅ゆゆゆ

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決着 揺れる心と好敵手

「───はい、これでもう大丈夫よ」

 

IS学園、保健室。

いくらISの防御機構があったとしてもミサイルに超至近から激突したのだ……エネルギーに余裕のあったセシリアはともかく、削られていた一夏には多少の傷がついていた。

故に、試合後保健室に直行したわけだが……

 

「サンキュ、ディアナ先生」

「織斑君もあんな無茶して……ほら、連れのお二人も心配してたわよ?」

「「…………」」

「はは、は……ごめんなさい」

 

保健室の椅子に腰掛ける一夏の傍ら、一人はむっつりと、もう一人は心配そうに彼を見つめる人物たち(エメラダと箒)がいた。

 

「…………」

「全く……だらしが無いぞ、あのような試合は」

 

「ははは……」

 

そんなやり取りをする三人を尻目に、保険教諭であるディアナは治療道具をしまい、向き直る。

 

「はいはい、たいしたこと無いって言っても怪我は怪我……早く部屋に戻って休みなさいね───」

 

 

 

 

 

そうして、保険室を追い出された三人は部屋に戻る。

途中でいまだむっつりとしていた箒と別れ、自室の扉の前にたどり着いたその時、一夏は先ほどから感じていた違和感を口に出した。

 

「……エメラダ、どうかしたのか?」

「…………何が?」

「何って……さっきから一言もしゃべってないからさ」

「…………」

 

室内に入り、改めて向き合う二人。

しばしの沈黙の後、口火を斬ったのはうつむいていたエメラダだった。

 

「……心配した」

「す、すまん……でも、あれは模擬戦だったし……」

「それでも、心配した……」

 

超至近からの大爆発……例えISがあるとはいえ、傍から見ていたエメラダの肝は冷えっぱなしだった。

 

「もし……もし、イチカが怪我したらって思うとすごく辛かった」

「…………ごめんな、エメラダ」

 

するりと伸びた手がエメラダの髪を撫でる。

 

「ん…………」

「無茶だったとは思うけど……やっぱり、もうしないって保証は出来ない」

「…………」

「でも……強くなるから」

「え……?」

「お前が心配しないくらい強くなってやる……そしたら、もうそんな辛い思いしなくて済むな?」

「……ふふっ」

 

エメラダは両手で撫でていた一夏の手を包むと、顔を上げて優しく微笑む。

 

「……じゃ、約束だね」

「ああ、約束だ」

 

笑いあう二人───そこに、ノックの音が響き渡る。

 

「おい、予備の薬と包帯だ……ディアナ先生から頼まれた」

「箒か? 待ってくれ、今あけ───」

 

───ここで、室内の二人がどんな状況か詳しく説明しよう。

まず、室内のフローリング……その上に二人は立っており、距離はかなり近い。

そして、一夏が入り口を背にする格好で向き合っている二人の手は割とがっしり握られている。

そんな状況で、一夏は声に反応してとっさに振り向く……すると、エメラダがそれに釣られて足を一歩踏み出す。

後は流れるような動きだった。その足に引っかかった一夏はとっさに顔面を守るように仰向けで倒れ、手を握っていた以上、もはや必然的に上にはエメラダが倒れてくる。無論、一夏はそれを庇うかのように手を解いてそのままエメラダを抱きしめる。

そうして───室外にも響くような物音が鳴った。

 

「───!? どうした、いち……」

 

「───っいってぇ……」

「んむ………」

 

「……かぁぁぁぁ!?!?」

 

物音に反応してとっさに扉を開けた箒。その視線の先には─────部屋の真ん中で抱き合う、一組の男女。

 

「な、ななな……!?」

「……ほ、箒?」

「っぷはぁ……イチカ、痛いよ……」

「あ、ああ……ごめんごめん」

「ん……暖かいね」

「そ、そうか……?」

 

「一夏の…………」

 

「……へ?」

 

「一夏の────不埒者ぉぉぉぉぉ!!!!!」

「ゴッハァぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

 

───閃く正拳。

起き上がった一夏の横っ面にそれは突き刺さり…………新たな怪我が一夏に追加されることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

朝の教室に日課の鍛錬を行っている一夏よりも一足早く着いたエメラダは、昨日のことを反芻する。

 

「(……今思えば、過保護?)」

 

そう、模擬戦……模擬戦なのだ。

かつてより行ってきた軍との演習(特に某黒兎との)とは低い方向に危険度のレベルが違う。

その演習では一夏が戦うことはあまり無かったし、その戦闘も手加減が出来るベテランに教わっていた。

……無論、その演習で同じことをしていたら武器の火力が違う為、怪我では済まなかっただろう。

 

「(それに…………)」

 

さらに言うと、昨日の自分は少しそのせいでおかしかったと思う。

一夏の怪我に対して過剰な辛さを感じていた一方、その後に撫でられただけでその痛みが一瞬で消えた。

もっとおかしかったのは、事故で抱きしめられた時だ。

 

「(……暖かかった)」

 

きつく抱きしめられた時も、それが優しくなった時も、その暖かさに心地よさを感じる……そして、心臓が通常よりも早く脈打っていたのだ。

 

「(…………原因不明)」

「…………む、どうしたのだエメラダ?」

「……? 何が?」

「いや……顔が赤いぞ? 熱でもあるのか?」

「熱……? 全然大丈夫だけど……」

「むう……まあ、あまり無理をするなよ」

「……ありがとう、ホウキ」

「べ、別に礼を言われる筋合いは無いっ」

 

いつの間にか教室に来ていた箒はそう声をかけると、すたすたと自分の席に行って本を取り出す……が、ちらちらと本に隠れながらこちらを窺っているということは、本当に心配してくれているのだろう。

 

「───はーい、みなさんおはようございまーす! SHRを始めますよー!」

 

その直後、そう言いながら山田先生が千冬を連れて教室に入ってくる。

 

「え、っと……早速ですが、昨日の模擬戦の結果、一年一組のクラス代表は織斑一夏くんに決定しました! あ、一繋がりで良い感じですね!」

 

「は……? ちょ……ちょっと待ってください! 昨日のって引き分けだったはずじゃ……?」

「───それは、わたくしが辞退したからですわ」

 

一夏の声に応じて、セシリアが立ち上がる。

 

「まず、一夏さん……とお呼びしても?」

「あ、ああ……構わないが」

「ありがとうございます。わたくしのことも名前で呼んでください」

 

そうして、セシリアは微笑むと一夏に話し始める。

 

「わたくしが奥の手まで出したのにも関わらず、一夏さんは……まあ、なんというか力押しだけでそれに対抗しましたわ。そのような策とも言えぬ策に奥の手が破られた以上、クラス代表の任をわたくしが受け取るわけにはいきません……そのことをわたくし自身が許しませんから」

「策とも言えぬ……まあ、その通りだけどさ」

「あら、褒めているんですわよ? このわたくしにそれで引き分けたのですから、ね」

「…………」

「ふふ、そんなに不機嫌にならないでください……いずれ、決着は着けましょう───わたくしの完全勝利という形で」

「……は、抜かせ。今度は一発も当たらずに勝ってやるよ」

 

「……ふふふ」

「……はは」

 

そう、静かに闘志を叩きつけあった後、セシリアはクラスの皆に向き直る。

 

「皆さんも、それで構いませんこと?」

 

「いやあ、セシリアわかってるね!」

「そうだよねー。せっかく世界で唯一の男子がいるんだから、同じクラスになった以上持ち上げないとねー」

「私たちは貴重な経験を詰める。他のクラスの子に情報が売れる。一粒で二度おいしいね、織斑くんは」

「流石です、セシリアさん!」

 

「あ、あなたたち……わたくしの話ちゃんと聞いていました!?」

 

わーわーぎゃーぎゃーと騒ぐセシリアたち一行を見て溜息を吐きつつ、千冬は一夏に視線をやる。

 

「……そういうことだ。納得したな?」

「因みに拒否権は……」

「───お前はこれ以上事態……というよりもこの騒ぎをややこしくさせたいのか?」

「……了解っす」

 

大きくなり続ける騒ぎ声、あたふたと止めようとする山田先生……千冬はもう一度大きな溜息を吐く。

 

「……チフユも大変だね」

「織斑先生だ馬鹿者……」

 

───結局、騒ぎが収まるのは一時間目の開始を告げるチャイムが鳴った後であった……

 

 

 




メモ書き

・ディアナ先生
恐らく、顔グラの無いゼノギアスキャラの中でも最も印象に残るであろう人物。
原作主人公の傷の治療を行う姿やその後のイベントなどでナイチンゲール感が爆上がりであった。
本作ではIS学園の保険教諭である。
師匠に眼鏡の東方医学に精通した胡散臭い人物が居るとか居ないとか……なお、師匠は肉弾戦もめっぽう強い模様。
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