インフィニット・ストラトス ~緑翠の人魚姫~ 作:夏梅ゆゆゆ
「───ここが……IS学園」
高々とそびえるIS学園……その校門の前に、小さな人影が揺れた。
IS学園の制服を改造し、肩口まで露出させた活動的な装いの彼女は、自慢のツインテールをなびかせ、校門をくぐり、彼女がこれから過ごすことになる校舎を見上げる。
「……帰って来たわよ。だから───」
眩しそうに手を空にかざし、その先の言葉を飲み込んだ。
「───よしっ、行きますか!」
そうして彼女は再び歩き始める…………先ほど飲み込んだ言葉を、胸で反芻しながら───
───あの時言えなかったことを、伝えなくちゃ───
▼
「と、いうわけでっ!織斑くんクラス代表おめでとう!」
「おめでた~」
「いや本音、それなんか違う」
ぱん、ぱーんっと軽快なクラッカーの音と共に吐き出された紙テープが一夏の頭に降り注いだ。
「……俺的にはあんまりめでたく無いんだけどな」
「往生際が悪いぞ、一夏」
「そうですわ、わたくしにあそこまで言わせたのですから、責任は取って貰いませんと」
「……逃げ場なんて無かった」
開始早々嫌がる一夏とそれを窘める(?)セシリアと箒を見つけたエメラダはその集まりに近づいていく……所で、袖口を引っ張られる感覚を覚えた。
「…………?」
「───えへへ~」
「…………??」
「えっへへ~」
「…………???」
「わは~「本音、話が進まないから退きなさい」……は~い」
そのほわーっとした笑顔を浮かべている生徒を退かすと、後ろから何人かの生徒が出てきた。
「こほん、えーっと、実はね? もっとバルタザールさんと話してみたいなーって思って声を掛けてみました!」
「そうだよ~! もっとエメリンと仲良くなりたいんだよ~?」
「……え、エメリン?」
「……ああ、うん、この子ちょっと変なあだ名付けるのが好きなだけだから気にしないで」
「何はともあれ、改めて自己紹介しておくね? ほら、結局ごたごたしてたから忘れちゃったでしょ?」
「それもそうね……ああ、私は鷹月静寐……静寐でいいわ」
「谷本癒子だよっ、よろしくね!」
「私の名前は布仏本音~」
突然のことにしばらくフリーズしていたエメラダだったが、そこまで聞くと落ち着いたようで一度目を伏せた後、その自己紹介に返答する。
「……うん、あたしはエメラダ。よろしくね───シズネ、ユコ、ホンネ」
その言葉を聞いた三人は、花開いたかのように顔を明るくすると、さっきまでよりもエメラダに近づいて……というよりも詰め寄ってくる。
「───ねえねえねえ! それでさ、ずっと気になってたんだけど、織斑くんとはどういう関係なの!?」
「……? 家族だけど……」
「それに、貴女のISも気になるわね……専用機を持っているって話だけど、いずれお目に掛かってみたいものね」
「……このペンダントが待機状態。実技の授業がちゃんと始まったら、見せられるようになると思う」
「エメリンはお菓子何が好き~? 私はマシュマロ~」
「お、お菓子? ……イチカの作るコーヒーゼリー、かな?」
「なになに? 織斑くんがどうしたって!?」
「私もその話気になるぞー!」
「ええい、混ぜろ混ぜろーい!!」
「私、気になりますっ!」
「こっちにお菓子とジュースがあるぞー!」
「連行だ、連行しろー! この機会にとことん色々聞いちゃえー!!」
「「「「「おおー!!!!」」」」」
「うぇ!? ちょ、まっ……」
「問答無用だよっ! さあさあさあ!!」
「……まあ、諦めも肝心よ?」
「お菓子お菓子~♪」
そうして、しばらく質問ラッシュが彼女を襲い…………段々としゃべりすぎて喉が痛くなってきた頃、一夏たちともう一人、上級生らしき生徒がこちらへやって来た。
「……なんか凄いことになってるな」
「あ……イチカ……」
「あー、おいおい……喉が若干擦れてる。ほら、俺ので良いからお茶飲め」
「ん…………っ」
「どうだ? 多少楽になったか……ってどうしたんだ、皆?」
「(あ、あれって…………)」
「(伝説の……!)」
「(か、かかかかかか……)」
「「「「「(間接キッス……!?)」」」」」
「(はははは、破廉恥な……!?)」
「(ああ……もしかしなくても、篠ノ之さんって一夏さんのこと……)」
「(なななな、何を急に!?)」
「(いえ、先ほど話していて何度か違和感がありましたので……良いではありませんか、恋。ヤマトナデシコな篠ノ之さんと一夏さんならなかなかいい感じに……あら、でも今は巨大な敵が目の前に)」
「(貴様、良い性格をしているな!?)」
「(あらあら、拗ねないでくださいまし、篠ノ之さん……あ、箒さんとお呼びしても? 無論、わたくしのことは呼び捨てで構いませんわ)」
「(ふんっ! ……好きにしろ)」
「(ふふ、では好きにします)」
「……ほんとに愉快なクラスねーここ」
「…………?」
「あ、私は二年の黛薫子。よろしくね。新聞部副部長やってまーす。はいこれ名刺」
そういって、差し出された名刺を受け取る……随分と画数の多い名前だ。
「さっきは織斑くんとセシリアちゃんに一言貰ったから、エメラダちゃん、だっけ? 専用機持ちな貴女にも織斑くんがクラス代表になったことについて一言!」
ズビシっと手に持ったボールペンをマイク代わりに差し出されるエメラダ。
「……よくわからないけど、イチカなら大丈夫だよ」
「ほうほう……して、その心は?」
「イチカは、いつもはドジだったりどこか抜けてたりするけど……どんなことが有っても、なんだかんだでどうにかしちゃう男の子だから」
「いやドジは言いすぎだろ!?」
「今日、朝の鍛錬に寝坊したのは誰だっk「ごめんなさい私はドジで抜けていますっ!」……よろしい」
二人のとっさに繰り広げられたやり取り……その様子を見て、薫子はきょとんとした顔を見せた後、耐えきれないといった風に噴き出した。
「クスッ、あなたたちホントに面白いわねー? お姉さん気に入ったわ!」
「は、はあ……」
「まっ、また今度にでも詳しい話は聞くとして……んじゃ、専用機持ち三人で写真撮影いってみよっか」
言うや否や、突っ立っていた一夏とセシリア、座っていたエメラダの三人をちゃっちゃと開けた場所に立たせた後、愛用のカメラを構える。
「それじゃあ撮るよー。35×51÷24は~?」
「え? えっと……」
「……74,375」
「お、せいかーい!」
「なんだそりゃ……」
パシャッとカメラのライトが切られ……る一瞬、クラスの全員がカメラの範囲に無理やり入ってきていた。
「おいおい、なんで皆まで入ってきてるんだ?」
「……重い」
「ちょ、ちょっと箒さん!? わたくしの足踏んでます、踏んでますって!?」
「まーまーまー、良いではないか織斑くん!」
「クラスの思い出思い出~」
「…………ふんっ」
「ま、まあ……そんなもんなのかなぁ?」
「…………重い、ホンネ」
「えへへ~」
「復讐!? さっきからかった復讐ですのこれ!? あ、痛い痛い痛い! 力籠めないでください謝ります謝りますからぁ!!」
「んー、思ってた写真とはちょっと違うけど……ま、これはこれで良いかな?」
にししっと一人笑って、薫子は再び喧騒に包まれ始めた一組連中の中をこっそり抜け出す。
「(……取材料ってことで、後で送ってあげるか)」
───これから楽しくなる。そんな予感を胸に、記事の構想を練りながら歩くその足取りは…………新聞部として活動して以来、最も軽いものだった。
▼
「エメラダ、おはよ! ねえ、二組の転校生の噂聞いた?」
翌朝、登校して早々癒子がそんな問いをエメラダに投げかけて来た。
「転校生?」
今は四月……入学ならまだしも、転入といった形をとるのは随分と珍しいものである。
「そそそ、なんでも中国の代表候補生なんだって」
「へぇ、代表候補生が増えるのか」
「あ、織斑くん」
そんな話を聞きつけたのか、すでにクラスに居た何人かがエメラダの机に集まってくる。
「ふふ、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入でしょうか?」
「……自信過剰だな」
「ちょ、ちょっと箒さん!? 冗談、冗談ですからそのドン引いた目を止めてください!!」
なんだかんだでいつの間にか仲良くなっていた二人が騒ぐのを尻目に、話は続いていく。
「そういえば、クラス対抗戦の方はどんな感じ?」
「どんなって……まあ、やるだけやってみるさ」
クラス対抗戦───その名の通りクラス代表同士による一対一でのリーグ戦である。
その目的には、入学時での実力指標の設定やクラスの団結、クラス間の交流を図るといったものがあるのだが……
「だめだよー! 織斑くんには何としても勝ってもらわないと!」
「そうそう!」
「デザートデザート~♪」
……クラスの大半、というよりも一年生の大半は優勝商品である『学食デザートの半年フリーパス、全員分』が主目的であるようだ。
「ぜえ、はあ……わ、わたくしと引き分けたのですから、無様な真似は許しませんわ!」
「男子たるもの、そんな弱気でどうする……まあ、自信過剰はどうかと思うが」
「箒さぁん!!?」
「……まあ、ファイトだよイチカ」
「お、おう」
「頑張ってね、織斑くん!」
「私たちのフリーパスのためにも!」
「専用機持ちのクラス代表って一組と四組にしかいないらしいし、余裕だよ!」
「───その情報、古いよ」
とっさに、クラス全員の目が声の聞こえてきた方向……教室の入り口に向けられた。
そこには、小柄な体躯、活発そうな顔つき……なにより、特徴的なツインテールをした少女───鈴が立っていた。
「二組のクラス代表は、専用機持ちの生徒に変わったの。そう簡単には優勝できないから」
「……り、リン?」
「ほ、本当に鈴なのか!? 偽物とかじゃないよな!?」
「馬鹿、そんなわけないでしょ……久しぶりね、二人とも」
呆れたように笑うその姿は、一夏やエメラダの知る鈴そのものであった。
「ど、どうして日本に───」
「───ストップ、SHRが始まるわ。その話は後で、ね」
「……り、リン!!」
「……ん?」
振り返り、自身の教室に戻ろうとする鈴。しかし、エメラダはその後姿を呼び止める。
「───お帰りなさい、リン」
一瞬、虚を突かれたように呆けた顔をした後、穏やかな笑みを浮かべる。
「……ふふっ、ただいま───エメラダ」
そうして、鈴が完全に見えなくなって数分後、出席簿を持った千冬と山田先生が教室にやってきたのだが……
「席に着け、出席を……どうした、お前ら?」
「ふぇ!? 私たち何かしましたか~!?」
……教室内に残った何とも言えない不思議な空気に困惑を隠しきれない、二人であった。