インフィニット・ストラトス ~緑翠の人魚姫~   作:夏梅ゆゆゆ

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今回ちょっぴり暗いです。


モノトーン 差し込んだ光達

絶望。

その言葉しか、あたしの胸中には無かった。

 

『─────!!』

『…………』

 

ひたすらにヒステリックな母さんと何も言わない父さん。

あたしが誰よりもよく知っているはずの二人が、まるで知らない他人になったようで怖かった。

怖くて、怖くて……世界から切り離されていく感覚を覚えた。

だけど、声を上げたくは無かった。

それは小さなプライドで……今にも崩れ落ちそうなものだった。

 

 

それからしばらくは、今まで通りだった。

夫婦でお店やって、あたしは学校へ行く毎日……だけど、その全てが色褪せて見えた。

二人を見るたびに、あの日を思い出す。

二人を見るたびに、あの声を思い出す

二人を見るたびに…………全部が嘘に見えた。

だけど、あたしのボロボロのプライドはしぶとかったみたいだった。

クラスの皆、先生、友達……いつものあたしを見て、いつも通りに笑う。

『いつも元気がいいな』と、誰かに言われた気がする。

そんな言葉を聞くたびに、自分の仮面が剥がれていないことを再確認できた。

暗い感情を……その時は忘れることができた。

───大丈夫、あたしはまだ大丈夫なんだ。

 

 

一夏と、エメラダがドイツから帰国した。

久しぶりに会った二人はいつもと変わらなかった……いつものように、明るくあたしの名前を呼んでくれた。

それだけで、涙が出そうだった。行く前よりも二人の距離感が縮んでいたのは癪だったけど。

幸せ、楽しいといった感情を久しぶりに感じた気がする。このまま何とかなるだろう、とかいう未来への夢想も浮かんだ。

……残酷な未来が待っていることも知らずに。

 

 

離婚、リコン、りこん。

頭の中で、両親から告げられた言葉が乱反射する。

そこから先は、曖昧としか覚えていない。

親権はどうする、慰謝料はどうする……知らない男の人───多分弁護士的な人───を伴って話し合い、お互いを見ていた二人の目は、もはや他人を見るかのようだった。

しばらくして、母さんが立ち上がるとあたしを抱きしめた。

それはしばらく感じていなかった温もりであり、あたしの心からどす黒い何かが少し抜けていった気がして───

 

『ごめんね、鈴音……中国に、帰ろう?』

 

───それ以上の黒が、あたしの心を塗りつぶした。

 

 

淡々と、中国へ行く準備が進んでいく。

あたしはその現実を見たくなかった。だから、家にいる時間が少なくなった。

ずっと友達と遊んで、ずっと街をぶらつく……母さんは、苦笑いだったけど許してくれた。

今思えば、この時にはもう、あたしの仮面(小さなプライド)は剥がれかけていたんだと思う。

誰もが不思議そうにあたしを見て、誰もが心配の声を掛ける……その度に別れを思い出して、泣くのを堪えた。

幸い、誰もあたしの状態を深いところまで気が付いた人はいなかったようで、『いつもらしくないな』『大丈夫? 無理しないでね』……そこまでの言葉しか掛けられてはいなかった。

 

 

───でも、気づく奴らが現れた。

中国行きの前々日のことだった。

ドイツから帰ったあの二人。いつもの(・・・・)あたしを最後に見たっきり、その後のあたしを見ていなかったあいつらにだからこそ……気づかれた。

あたしの心は限界で、最初はぽつぽつと……途中からは、今までのすべてを涙と共に洗い流すかのように……話した。

二人は何も言わずにただあたしの方を見つめて……気づくと、誰かに抱き着かれていた。

回らない頭でそう認識した瞬間、あたしに何らかの限界が訪れたのか───視界が暗転した。

 

 

前日。

気づいた時には、自宅のベッドの中に居た。

全部夢だったのか……そんな思いを抱きつつも、最後の……学校への登校の準備をした。

いつもの日々だった。何も変わらなかった。

 

 

当日。

空港へ行くために、電車へと乗り込む。

ここまでくると世界が本当にモノトーンに見えていたと思う。何も考えたくなかったし、何も見たくなかった。

 

───その時、声が聞こえた。

 

 

 

窓を見る。

 

 

 

そこには───クラスの皆が居た。

 

あたしは、本当に間抜けな顔をその時にしていたと思う。

授業は? 学校は? なんで? なんで……

そんな疑問に頭を支配される中、集団の中から一夏とエメラダ、弾に数馬が出てくる。

とっさに窓を開けて身を乗り出す。

 

『───鈴っ!! 負けんなぁぁぁぁぁ!!!!』

『リン、リンっ……!』

『俺たちのこと絶対忘れんなぁぁぁ!!! 忘れたらぶっ飛ばしてやるからなぁぁぁぁ!!!!!』

『だから、不安なんかに……そんな恐怖なんかに負けるな……!!!』

 

言葉と共に、でっかい横断幕が駅のホームに掲げられた。

絶対帰って来い、元気でね、体に気をつけろ、来ないとこっちから行ってやる、中国でもいつもの鈴で頑張って……そんな寄せ書きが書いてあり、同様の言葉が皆から口々に叫ばれる。

あたしの、ちっぽけなプライドは完璧に砕け散った。

 

『───────っっ!!!!』

 

その時自分が何て言ったのかは覚えていない。でも、心の黒が全部薙ぎ払われる感覚と、自分の顔がぐっしゃぐしゃになってたであろうこと……それともう一つのことだけは、しっかりとあたしの記憶に焼き付いている。

 

『『絶対に───また会おうっ!!!!』』

 

一夏とエメラダ、二人の言葉。

それを最後に、駅のホームが遠ざかって行く。

 

不安? そんなものはもうない。

恐怖? 以下同文。

忘れる? 逆にあたしが絶対に忘れさせないくらいになってやろうじゃん!

負けるな? このあたしが……凰鈴音が、これしきで負けるはず無いでしょうがっ!!!

 

服の裾で顔をごしごしと拭う。

気づけば、世界には色が戻っていた。そして、暗く淀んでいた自分の未来への道に、光が煌いた。

───強くなる。

心も体も、強くなって……あいつらに、あの馬鹿軍団(最高の友達たち)に見せつけてやろう。もう絶対に泣いたりしないし、あんなにボロボロにはならない……いつもの、元気な凰鈴音を。

 

そして、言うんだ…………

 

 

 

 

 

…………「ありがとう」って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───チュン、チュン。

そんな鳥の声で、鈴は目覚めた。彼女の起き上がった音に気づいた同室の少女……ティナ・ハミルトンが声を掛ける。

 

「おはよう、鈴ー!」

「んー……おはよう、ティナ……」

「いやいやー、目覚めの調子はどう?」

「……? なんで?」

「いや、だって……さっきすっごい嬉しそうな顔して寝てたから、ね?」

 

その声を聴きつつも、鈴は顔を洗う為に洗面所へと足を向ける。

 

「夢……そう、夢を見たからじゃないの? それ」

「ねねね、どんな夢? どんな夢?」

「そうね……懐かしい夢よ。とっても懐かしくって───」

 

───今の『凰鈴音』を作り出した、始まりの時の夢。

 

「……っと、そろそろ朝食が始まるわね。食堂に行くわよ、ティナ!」

「ちょっ、ま……下まだ履いて無いんだから待ってよー!!」

 

そういって、部屋から飛び出し、食堂へ走り出す。

 

今日は、今日こそがクラス対抗戦の日だ。

あの時から強くなった。

あっちでも、立ち直ってから友達もたくさんできた。

……『凰鈴音』は、あっちでも『いつも通り』にやれた。

今日示せる『強さ』は上辺だけのものかもしれない……でも、それでも。

 

「あたしを……この、あたしを! 忘れられないくらい、鮮烈に、とことん、嫌って言うほど見せてやろうじゃない……!」

 

───凰鈴音、ここにあり。

そう自信を持って言える自分に成れた……そのきっかけを作った、二人に───最大の恩人たちであり、最高の親友たちでもある彼らへと手始めに強くなった自分を見せつけ、そうして言ってやるのだ。

 

 

 

 

 

 

───ありがとう、って!!!

 

 

 




当時中学生にこの事実は割かし辛いと思います。
一人で立ち直った原作鈴はとんだダイヤモンドメンタルの持ち主だなぁと読んでる時に思ったので、本作ではちょっと柔らかくなってます(十分に強靭なメンタルとか言ってはいけない)

そして本作の結果、一夏への強烈な恋心も若干柔らかくなっています。恐らく、本作一年生専用機組で最も大人(精神的)なのは鈴になります。

因みに、あの送別の主犯は一夏とエメラダ。それに弾や数馬が乗っかって、あのサプライズ演出になりました。
そして、主犯には鈴も気付いています。

あの後めちゃくちゃ怒られた(駅員、先生、各親)
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