インフィニット・ストラトス ~緑翠の人魚姫~   作:夏梅ゆゆゆ

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遅くなりました(平伏)


開戦 二つの戦い 中編

ステルス機能が解かれた四機のIS……その内の二機、剣持ちの機体と重装の機体が突っ込んでくる。

 

『敵機識別……コード・ソードナイト、カップナイト』

『caution! カップナイト、当機をロックオン』

 

『さて、どうするね……えーちゃん?』

「無論、正面からぶち抜く……!」

 

トルネードハンドのブースターを開放、直後に瞬時加速(イグニッション・ブースト)を彷彿とさせるような急速な加速。

 

「疾ッ!!」

『────』

 

当然、その加速を予期できていなかった二機は反応が遅れ……軽装であるソードナイトへとその拳を叩きこむ。

 

「まだまだぁ!!!」

『────!!?』

 

───当然一撃で終わるはずもない。

ソードナイトを殴り飛ばした後、トルネードハンドによる加速で追い縋り、相手が体勢を立て直す暇すら与えずに乱打を叩きこむ。

 

「これで…………っ!?」

 

……とどめを刺そうとエーテル機関にエネルギーを充填させた刹那、後方から悪寒を感じ、飛びのく。

瞬間、先ほどまで自身が居た位置に巨大なビームが通過する……どうやら、後続の二機が追いついてきたようだ。

その援護は一発だけでは終わらず、クレスケンスへと断続的に放たれる。

そうして回避に専念するしかなくなったエメラダの隙を突き、ソードナイトは体勢を立て直して他の三機と共に陣形らしきものを組み立て始める。

 

「くっ……エラ・ジスト!」

 

四機に向かって放たれたエネルギー、それらは巨大な火焔の奔流となって全てを焼き尽くさんが如く、荒れ狂う。

 

「これなら……!」

『……!? いや、まだだよ!』

 

火焔の中から再び現れる四機……しかし、その四機の最前列に居たのは巨大な盾を両肩に有する機体、後続のうちの一機……識別名称シールドナイト。

そう、その大盾によってエメラダの放つ火焔から味方を守り抜いていたのだ。

 

『これはちょっと……まずいかも?』

「っ……!」

 

急接近し、その手に持ったチェーンソードをこちらへ振るうソードナイト。

咄嗟に避けようと身を捩る……が、その先に待ち構えていたのは───杭だった。

 

「あ、ぐぅぅ……!?」

『えーちゃん!?』

 

そう、カップナイトが回避先に回り込み、腕のパイルバンカーを叩き込んだのだ。さらに、苦しんでいる間にも後方の巨大なビーム砲を携えた機体───識別名称ワンドナイトとシールドナイト、その二機が射撃で休む暇を与えなくしている。

 

『チームワークも、機体のバランスも良い……これは、想像以上に手強いね』

「はぁ、はぁ……でも、負けられないんだ……!」

 

加速、加速、加速。

エメラダが今取れる唯一の手段……それは圧倒的なスピードで相手の攻撃を全てただ避け続けることだけだった。

見栄を張ったものの、現状はかなりまずい状況にあるのだ。

下手に攻撃をしては他の三機に総攻撃される……かといって、こうして避け続けるのもブースターの燃料の関係上、無理がある。

先ほどの一撃はある種、運がよかったのだろう……統率された動きで弾幕を張りつつ、こちらを追い詰めようとしてくるあの敵たちは、そう生ぬるい相手でもなさそうだった。

 

『どうすれば…………』

 

モニターに映るエメラダを心配そうな、なおかつ焦燥の混じった顔で見つめる束。

まず、あの援護射撃をしてくる砲撃手、ワンドナイトを潰さないことには攻め手に出た瞬間、ビーム砲によって撃ち抜かれてしまうだろう。

クレスケンスは軽装甲な機体である……当たってしまえばひとたまりもない。かといって、ワンドナイトを落とすにしても、前衛の二機……そして、ワンドナイトと前衛の間に位置するシールドナイトによって攻撃のほとんどは届かない。

 

『…………何か、何か方法は────』

 

必死にその頭脳を回転させる……そうして、彼女の瞳にあるモノが移った。

 

『───! えーちゃん、聞こえる!?』

「くぅっ……な、に……?」

『君の機体、クレスケンスに積まれた武装……その中にある、これを使って!』

「…………!!」

 

そう言われたエメラダの目に移ったのはある武装……武装テストの日、最後に二コラから説明されたあの武装だった。

 

「…………わかったっ!!」

 

そう言葉を発するとともにその武装……手でつかめるサイズの黒い球状の何かを呼び出すと同時に翼のエアッドを分離、そのままカップナイトの方へと向かわせる。

カップナイトは重装甲の近接用機体らしく、大質量のエアッドの直撃を受けてもそこまで堪えた様子がない。一撃を貰った後には、両腕にある盾でエアッドを防ぎつつも、それらの撃墜へと狙いを変える。

それに呼応するかのように、今まであまり頻繁に攻撃せずに味方の補助へと回っていたシールドナイトがカップナイトの穴を埋めるべく、攻勢に出始める。

───そして、これがエメラダの狙いだった。

 

「っ……はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

───瞬時加速(イグニッション・ブースト)

ブースターによって噴出したエネルギーを再吸収、その後一度にすべてを炸裂させることで大きな推進力を得るこの技術とクレスケンス自身の超加速とが合わさり、一瞬にしてトップスピードまで達する。

むろん、掛かるGは通常の比ではない……飛んでしまいそうになる意識を必死に繋ぎ留め、しかしただひたすらに前方の敵……ソードナイトへと肉薄する。

 

『───!!?』

 

咄嗟に振るわれるチェーンソード。エメラダはその身を切り裂かれつつも、ほぼゼロ距離への位置へとたどり着く。

 

「───リグ・オメガっ!!!」

 

広範囲への雷撃……そんなものを超至近で放つとどうなるか、答えは明白だった。

その身から放たれた雷撃は半ば自身を巻き込みながらもソードナイトへと殺到し───その機能を、停止させた。

 

『───ぐ、が………』

 

ISに備わっている、搭乗者をどんな危機からも守るシステム……絶対防御というものは、こと軍事目的のISについてはオミット、もしくはその機能を制限されていることが多い。

当然だろう……絶対防御とは、ISのありとあらゆるエネルギーの大半を使って発動されるものだ。それが発動されてしまえばISはほとんどの場合、機能停止を余儀なくされる。

競技用ならばまだしも、軍事利用を前提としている機体にはその機能は致命的なのだ。

無論、このソードナイトも絶対防御をオミットされた機体である。

先ほどの雷撃、あんなものをゼロ距離で浴びてしまえば、例えシールドエネルギーが残っていたとしても搭乗者への影響は計り知れない。

 

『───っ』

 

エメラダの捨て身の行動に固まっていた他の機体も、再び攻撃を始めようとする。

しかし、その中で違和感を拭えないものが居た……ワンドナイトの搭乗者だ。

彼女は先ほどのエメラダの行動に困惑を覚えている。既にかなりのダメージを負っていた一機を落とすためにここまで消耗してしまっては他の三機になぶり殺しにされるだけ……それが分かっていたからこそ先ほどは攻めあぐねていたのではないのか、それともただ何も考えていなかったのか…………何か、勝機となるものがあったか。

 

 

……そういえば、先ほど呼び出していた武装はどこに行った───?

 

『っ!? 皆、にげ───』

 

仲間を落とされたことにより、崩された陣形。

仲間を落とされたことにより、生まれる怒り。

それらが全て、計算の上だったとしたら。

 

仲間に危険を知らせる言葉が届く直前、カップナイトを襲っていたエアッドはいつの間にか三機の中央……そのさらに上空に移動しており、そこから黒い球体(・・・・)が零れ落ちて────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────その一帯は、()に呑まれた。

 

『……が、ぅぐっ……』

『がぁぁぁぁぁぁ!!?』

『なに、これぇ……!?』

 

闇に飲み込まれた三機に全方向からPICも効き目がないほどの強力な圧力が襲い掛かる……まるで、自分を押し潰そうとするかの如く。

 

『これはまた……』

「絶対にこれ、手榴弾とは言わない……」

 

───携行用疑似(・・)ブラックホール生成重力装置試作型、ダークビースト。

それはシェバトの研究員が作り出した、本来の0,1%(・・・)にまで出力を抑えてやっと競技用として使用できる兵装である。

エーテル装置というものはエネルギーを増幅・変換し、演算を通すことによって非科学的なまでの現象を引き起こすことのできる装置……そう結論付けたシェバトのある研究者は、ブラックホールというあまりにも荒唐無稽な現象までも、エーテル機関のちょっとした応用で再現することが可能であると実証した……その副産物がこれだ。

無論、ただ火を起こすのだってかなりの演算能力……それこそ、現状ではナノマシンによる高度な演算補助を受けたエメラダぐらいにしか不可能だ───一夏は実際に、ISの助けがあっても単純な増幅と放出しかできない───。さらに複雑な演算が必要となるブラックホールなんてものはその装置内に演算補助のための機構が詰められているにも関わらず、その難度は火や電撃の比ではない。

にもかかわらず、それを使えるのは全身のナノマシンがいかに高度なものであるかの証明であろう。

 

しばらくして、闇が晴れたそこには余りに酷い有様の三機が居た。

各部に罅が入り、全身にショートしたような紫電が断続的に迸っている……シールドエネルギーが削られていたためにそこまでの出力を出せなかったにも関わらず、IS三機を同時に戦闘不能に追い込むその威力は高い。

エメラダに対して、ちょっとした手榴弾みたいなものかな? などと言って渡してきたある研究者(二コラ)の気が知れない。

 

そんなことを考えていると、海面に大きな水しぶきが上がった……先ほど落としたソードナイトが上がって来たのだ。

 

「…………くっ」

 

咄嗟に構えをとるエメラダ……しかし相手はエメラダを一瞥した後、仲間を捕まえて自身たちが元来た方向へと引き換えし始めた。

 

「っ……逃がさない!」

『────待って、えーちゃん』

「……っ!」

 

逃げる敵を追いかけようとした時、束からの制止の声が聞こえた。

 

『今のえーちゃんが深追いするのは危険だよ……伏兵や増援が居たら、終わりだ』

「…………わかっ、た」

『……大丈夫大丈夫! この束さんがしっかり追跡してるんだからー! 心配なんてナンナンナッシングだよ!!』

「……ふふ、ありがと……タバネ」

『うふふ、どういたしまして~!!』

 

そうして、エメラダは学園へと帰投するのだった……この戦いが、まだ始まりだということも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうは、こっちのセリフなんだけどなぁ……」

 

某国某所、秘密の研究所。

そんなどこにあるのかもわからない、各地に点在する研究所(隠れ家)の一つで、束は一人呟く。

ステルスをもっと早く見抜けていれば、もっと他に……あの子を巻き込まずに済んだ方法だっていくらでもあった。

千冬に連絡するという手段もあったはずだ。そうすれば、あの千冬のことだから、量産機でも余裕であの四機を落とすことができただろう。

 

だが、束はエメラダに頼った。

彼女単独であの四機を退けたともなれば、あちら側は慎重にもなるだろう……IS学園には、これほどの戦力が多くいるのだと思わせることができる。

さらに言えば、千冬が動いてしまえば襲撃の情報を事前に彼女へと伝えられる人物……つまりは束の存在が相手側にはっきりと敵として認識されてしまう。その点、エメラダは公的には謎が多い存在である……シェバトの情報漏洩保護のセキュリティを考えると、調べられる可能性も少なくなる。

無論、ステルスを見破ることのできる人物として束の名前は相手側でも疑われるかもしれないが、まだ『疑惑』の段階で済むのだ。

そう、今相手側にこちらの動きを悟られるわけにはいかない……相手の情報がほとんどないという、情報戦でぶっちぎりに負けている現状では。

 

「ここが……敵さんの秘密基地ってところかな?」

 

モニターに映る四つの光点……それらがある一か所に留まったまま一向に動こうとしていない。

追跡に気づかれた様子もない以上、ここが敵の本拠……または拠点の一つなのだろう。

 

「……何が目的なのか全然分からないけど、これだけは言えるよ」

 

モニター上の一点を見つめるその顔は、ひたすらに無表情で…………

 

「────お前たちは、(天災)を敵に回した」

 

……瞳は、冷酷な輝きを宿していた。

 

 

 




※一夏VS鈴戦は次回




メモ書き

・エラ・ジスト
エラ・ゴルドの全体技版。

・ワンド、ソード、シールド、カップナイト
原作で度々襲い掛かってくる量産機っぽい機体。
ただ、本作では4vs1尚且つ中の人の技量が高かったので大苦戦しました。
ちなみに有人機。会話の『』は全部プライベート・チャネルだったから。

・ダークビースト
エメラダの原作最強技の名称。
黒い球状の光を相手に投げつけ、そこから出てきた牙的な何かに食いつぶされる技だった。
本作ではブラックホール製造機として登場。
黒い球の形であり、エネルギーを事前に溜めてから投げるなりエアッドで運ぶなりどっかにトラップとして仕掛けるなりして自分から離れた後に、演算をトリガーとして発動し、ブラックホール(仮)を生み出す。
中身はブラックホール(仮)を生み出すためのエーテルの指向性を重力へと導く装置や演算補助の機器しか詰まっていないが、一度起動すると大変なことになる。
あくまで制御装置&起点の役割でしかないため、エネルギーが許す限り繰り返し使える。
ちなみに、エーテル機関が起こすことのできる現象は原始的なもののみである(火・水・雷・土・光・闇)。これは闇(重力)扱いなので再現化。
なお、製作費はお手頃らしい。
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