インフィニット・ストラトス ~緑翠の人魚姫~ 作:夏梅ゆゆゆ
──ガチャ、ガチャ──
「ん……千冬姉?ついさっき出て行ったばかりなのに……忘れ物か?」
そう呟く少年───織斑一夏は、玄関のドアが開く音を聞いて、首を傾げた。
「(……とにかく、行ってみるか)」
そう考えた一夏は、玄関へと足を向ける。
「──千冬姉、一体どうした、の………」
そうして、玄関で待ち受けていたのは一夏の予想通りの人物───一夏が敬愛する姉であり、言動が不器用なところもあるが、それ以上に優しい女性である(と一夏は認識している)千冬であった。
ただ、しかし、玄関で待ち受けていたのは千冬だけではなかった。
「……えーっと、千冬姉、この娘は…?」
そう、千冬の傍らにもう一人……翠髪の少女がいたのだ。
いったい誰だろう、そう思って一夏は疑問を千冬に投げかける。
「…………一夏」
「…?」
千冬は、一夏の問いに多少躊躇いがちな顔をするが、すぐに真剣な顔を作ると、意を決したかのように───言った。
「─────今日から家族が増える」
「…………………………………………………は?」
──そして、その答えはあまりにも斜め上であった──
▼
「(……いったい、どういうことなの……)」
───一方、翠髪の少女───エメラダもまた、一夏と同様に困惑の最中にあった。
……思えば、今日一日の始まりからよくわからなかった。
数日前、どこかに連絡していた束が今日になって、
『ねえねえ、えーちゃん!お外見たくない?』
と急に言い始めたのだ。
正直、数日と言う短い期間であったが、裏表のない束の人柄に多少の心を許していたので、その提案を了承。
途中、出かける際、
『えーちゃんにはこの服かな~?あ、でもこっちもかわいいな~』
などと、着せ替え人形にされたが、生まれて初めての外出らしい外出である。情報として頭にインプットされていても、それは現実、つまり自分の目で見るものとは違う。故に、楽しみな気持ちが勝って、束のかわいがりに堪えることができたのだ。
……しかし、外出した先に待っていたのは、
『………お前が…なるほど、そうか、今日からよr………まあいい、来い』
と言う、武人のような鋭い眼差しの女性であり、そのまま訳のわからないまま、一軒の家屋に連れてこられたのである。
「(それに……このペンダント……)」
そう、そしてエメラダの胸には、先ほどまでなかったペンダントが掛けられていた。
このペンダントは、武人的女性の元へ着いた時に、
『あ、忘れてた!これこれ、餞別だよ~』
と、束に貰ったものである。
これは一体何なのか、と束に聞こうと思ったが、気付いた時には台風のような速度で、バッハッハ~イといった具合に走り去ってしまって聞くことができなかったのだ。
そんな、正体不明のペンダントを眺めて、女性に手を引かれて家に入ると、自分と同じくらいの少年が小走りでやってきた。
数合いの、女性とのやり取りを経て、少年は固まってしまっていたので、エメラダ自身も家族やらなにやら訳のわからない言葉があったが、埒が明かないのでこちらから話を切り出すことにした。
「……あたしはエメラダ、あなたは?」
「…うぇ!?あっ、ああ、名前か?俺の名前は一夏、織斑一夏だ」
「そう……よろしくね、イチカ」
「お、おう、エメラダ、よろしくな!」
その様子を見て、優しげな表情を浮かべる千冬………であったが、それを見て、思い出したかのように、一夏が魂の叫びを吐き出した───
「──ってか、いい加減にどういうことか説明しr「煩いぞ、一夏」……ハイ」
──訂正、吐き出すことはできなかったようである。
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──所変わって織斑家の居間。
取りあえず、情報交換を果たした一夏たちは状況の整理を行っていて、
「───要するに、束さんのかなり遠縁な親戚をうちで預かるってことでいいのか?」
「うん、まあ、そんなところだな」
「(嘘……下手……)」
という形に落ち着いていた。
「ふーん、まあいいや、改めて一夏だ、よろしくな」
「うん……よろしく」
──とまあ、こんな感じで、ぎこちないながらも、天災の策によって、新生織斑家の共同生活は始まっていくのであった。
ちなみに、束さんはモッピーに会えない反動で、ちっさくてかぁいいエメラダを見て発狂した模様。