インフィニット・ストラトス ~緑翠の人魚姫~   作:夏梅ゆゆゆ

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激突 共闘の水無月 後編

「ん…………っ」

 

チュンチュンと囀る声が聞こえ、エメラダの目が覚める。

 

「ふぁ、んぅ……」

 

昨日は結局、ラウラと登録を済ませた後にアリーナでひたすら模擬戦やタッグの練習を行っていた為、疲労が溜まっていたのだろう。寝覚めが悪いほうではないエメラダはふらふらとした足取り……いまだに夢見心地のままで室内を移動する。

 

「……んむぅ!」

 

そんな千鳥足で歩いたからであろうか、自身の足が絡まってつんのめり……一夏のベッドへとそのままダイブする。

丁度、一夏は日課の鍛錬で部屋には居らず、きれいに畳まれた毛布だけがベッドにある状態だった。その結果、エメラダはその毛布へと顔を埋めることとなった。

 

「ふぁ……いち、か……」

 

当然、一夏が先ほどまで使っていたベッドは彼の残り香に包まれており、優秀なエメラダの嗅覚はそれをダイレクトに感じる。汗っぽいにおい、それに混じる少しのラベンダーの香り……これは毛布を洗濯したときのものだろう。

そして、感じるのは得も言われぬ安心感。一夏に抱きしめられた時のような感覚に襲われてしまうのだ……自然と彼女の瞼は重くなる。

 

「いちか……いち……かぁ……」

 

そう呟きながら顔を毛布にぐりぐりと押し付け、それを最後にエメラダの動きが停止する。そうした後に聞こえてくる寝息……どうやらそのまま二度寝してしまったのだろう。

 

「…………いや、うん……寝るのかよ」

 

彼女の寝息を確認してすぐ、室内へと声が響く。

 

「えっ、と……まずは顔、洗うか……」

 

その声の主である一夏はそう言い残して洗面所へと歩みを進める……赤くなった顔を冷やすために。

帰ってきた直後にこんな光景を見せられてしまっては致し方ないだろう……そんな誰に向けたかもわからないような言い訳を心の中で呟きながら一夏は蛇口をひねる。

 

「…………はぁ」

 

兎に角、今日はしっかりとエメラダの顔を見れるか心配になる一夏であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……一夏、一夏ってば!!」

「……っ!? な、なんだ?」

「なんだ? じゃないでしょ……今日は朝からずっと上の空だけどどうしたの?」

「…………いや、うん、何でもないぞ? シャルル」

「……その間が凄く気になるところだけど、まあいいや。もう一回いうから今度はしっかり聞いててね?」

 

放課後のアリーナ。

ぽつぽつと訓練機での練習者が居る中、シャルルと一夏はトーナメントに向けて作戦を練っているところだった。

 

「僕の機体、『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』は通常のラファールをかなり弄って専用機にしたものだよ」

「確か、基本装備をいくつか外しているんだったか?」

「うん、近接用のいくつかは使う機会がほとんど無かったからね。その代わり、拡張領域は倍近くまで増やしてるから武器を全部合わせると20くらいにはなるかな」

「それは……凄いな。軽い火薬庫みたいなもんじゃないか」

 

さらに言えば、シャルルの高速切替とこの武器数は恐ろしいほどに噛み合っている。普通なら20もの武器を一度の戦闘で使い分けることなど不可能に近いが、シャルル自身の冷静な戦術眼と高速切替がそれを可能とする……正しく火薬庫と言えるだろう。

 

「まあ、こういった装備だから基本的には後~中衛、緊急時は前衛……みたいな感じで臨機応変に動けるよ。一夏の方は?」

「俺は……」

 

一夏は自身の専用機の姿を思い浮かべると、苦笑する。それを見たシャルルも同じ考えに至ったようで、困ったように頬を掻く。

 

「前衛以外は、無理かもな……」

「えっと、一応遠距離武装もあるんだよね?」

「いや、『気弾』は結構エネルギーを食うし、ノーコンだから当てられる気がしないんだが」

「あ、あはは……」

 

乾いた笑い声が響く。

 

「それにしても、やっぱりシャルルは凄いな。臨機応変、なんて簡単に出来る様なことじゃないだろ?」

「そ、そんなことないって! 一夏の剣技だって凄いし、僕なんてちょっとだけ器用なだけだから……」

「謙遜しなくても良いと思うが……やっぱり、本国ではかなり努力したんだろ?」

 

そう言葉にした瞬間、シャルルの顔が一瞬暗くなる。しかし、それを一夏に悟らせないよう、大げさに身振りをする。

 

「もうっ! 僕を褒め殺すつもりなの? 二ホンでは謙虚が美徳って聞いてたのに話と違うよ!」

「おわっ!? わかった、わかったから暴れるなって!」

 

大声を出し、騒ぐこと暫く……そして、どちらからとも知れず、笑い出す。

しかし、笑い合う二人の片方……シャルルの笑顔は、どこかぎこちなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リン、タッグの相手決まった?」

「んー……中々決まらないのよねぇ、それが」

 

学校の中庭のそばに有る購買部、そこで買った飲み物を手に、購買前のベンチに座ったエメラダと鈴は話込んでいた。

 

「リンなら、すぐに見つかりそうだと思ってたけど……」

「まあ、実際同じクラスの子から誘われたりもしたんだけど……こう、いまいちピーンとこないのよね」

「ピーンと……?」

「そう、ピーンと」

 

鈴は飲み終わったペットボトルをゴミ箱に放り投げ、伸びをする。

 

「セシリアも良い感じかと思ったんだけど、もう箒と組んじゃってたし……うああ、誰かいないかしら! こう、ビビッと来る感じの人!」

「ビビッと……?」

「そう、ビビッと!」

 

うがーっと言った感じで頭を抱える鈴を尻目に、エメラダはふと中庭へと目を向ける。

 

「……ん?」

「どうかしたの、エメラダ?」

「ん、あそこ……」

 

エメラダが指を指したところ……中庭の丁度、陰になっていて見えづらいところで一人座り込む生徒が居るのが見える。

 

「あの子がどうかした?」

「いや……なにか、気になって」

「ふーん……ちょっと行ってみましょ!」

「……うぇ!? 急に手を引っ張らないで……!」

 

エメラダの手を引き、ずんずんとその生徒の後ろ姿に近づいていく鈴。そして、すぐ後ろまでたどり着くと、声をかける。

 

「そこのあんた、こんなところで何を───」

「───ひゃあぁぁぁ!?!?」

 

そのオレンジ色の帽子をかぶった、茶髪の生徒は鈴の声に肩をビクゥ! といった感じに跳ね上げ、素っ頓狂な悲鳴を上げる。

 

「あ、えと、その、ゴメンナサイっ! でも、可哀想でつい……で、でもどうか、どうか追い出したりするのは勘弁してあげて下さいっ!!」

「……ええと」

 

苦笑を浮かべ、困惑する鈴。エメラダはひとまず彼女を落ち着かせるのが優先だと思い、行動を起こす。

 

「……えっと、とりあえず落ち着いて? いったい何が───」

 

しゃがんでそう口にした時、エメラダの目の前に───ピンク色の物体が飛び込んできた。

 

「チュッ、チュッ!」

 

そのピンク色の物体はエメラダとその生徒の間まで来ると、エメラダの手に顔を擦り付けて媚びるような仕草をする。

その物体の姿は、丁度ハムスターを大きくしてブサイクにしたような……そんな姿であった。

 

「あー! 駄目でしょチュチュ!」

「いや……ん、別に構わないけど……この生き物は?」

「そ、それは……」

 

オレンジ帽の少女は虚空を見上げ暫く唸り、そして観念したかのようにため息を吐いた。

 

「……なんだか、本国からの仕送りが来た時に間違って入り込んじゃったみたいなんだ、この子」

「チュ、チュ?」

「ふふっ、くすぐったいよ……それで、次の仕送りが来るときに送り返そうと思ってたんだけど……」

「……愛着が湧いちゃった、と?」

「……はい」

 

鈴はこれ見よがしに大きくため息を吐く。

 

「あのね……IS学園はあくまで学校なわけだし、中庭も、寮も当然の如くペット禁止よ?」

「いやぁ……それは分かってるんだけど……」

「ん、でも可愛い……この子の名前は?」

「チュ、チュ!」

「あはは、可愛いでしょ? 鳴き声からチュチュって呼んでるんだ。えっと……バルタザールさん?」

「ん、名前知ってる?」

「まあ、専用機持ちの人たちは何かと目立つからね……そっちは中国の凰さんでしょ? ボクは四組のマルー・ハーコート、だよ」

 

彼女……マルーはエメラダたちに笑顔を向けながら自己紹介をする。

 

「ん、よろしくマルー、チュチュ」

「チュ、チュ!!」

「あはは……チュチュもよろしく、って言ってるみたいだね」

 

和やかな空気が流れる……が、それは一つのため息によって打ち破られる。

 

「はぁ……それで、結局どうするつもり? あたし達が黙ってたところで先生達に見つかるのも時間の問題よ?」

「うぐっ……それは……」

「まあ、確かに可愛い……じゃなくて、大人しそうではあるけど飼っていい理由にはならないだろうし」

「ああ、その通りだな」

「そうそう……って、えっ?」

 

鈴が首を錆び付いた機械のような挙動で後ろに向けると、そこには黒いスーツ姿の鬼……もとい、千冬が立っていた。

 

「悪いが話は聞かせて貰った……さて、ハーコート」

「ひゃ、ひゃいっ!?」

「貴様が学校の規則を破っている……その自覚は有るな?」

「……はい」

 

千冬の射殺すような鋭い眼光を受けながらも、マルーは弱弱しくもはっきりとした声を返す。

 

「よろしい、ならば……ルールを破った者に罰則があるのも理解しているだろう」

「…………っ」

「ちょ、ちょっと待ってください千冬さ……織斑先生!」

 

千冬の重苦しい言葉にマルーが体を震わす……それを遮るかのように、鈴が口を挟む。

 

「……なんだ、凰。何か文句でもあるのか?」

「も、文句なんてそんな恐れ多い……じゃなくって! あの、絶対に次の仕送りの時、この子に元居た場所へ帰させますから……だから、あんまり重い罰則は勘弁してあげられませんか……?」

「……凰さん」

「ん、それには同意見……チフユ、お願い」

「バルタザールさんも……」

 

千冬は鋭い目のまま、二人の目線を真っ向から受け止め……参った、といった風に首を振った。

 

「……仕方ないな、これでは私が悪者のようだ……ハーコート!」

「は、はい!」

「こいつらに感謝しておけよ……罰則は、そうだな……校内の掃除くらいに留めておいてやる」

「あ、ありが……」

「───ただし!」

 

マルーの感謝の言葉を遮って千冬は言葉をつづける。

 

「その……なんだ、ハムスター? は元の場所に帰すこと……それまでは中庭ではなく、ちゃんと部屋に入れてやれ、いいな?」

「……はい!」

「よろしい、同室の者に許可を取った上で、部屋を傷つけさせないようにしろよ」

「大丈夫です! この子はいい子なので!」

「チュ、チュ!」

 

明るい笑顔を見せるマルー。それを見て千冬は微笑を浮かべる。

 

「ふっ……お前らも暗くなる前には寮へ戻れよ」

 

片手をひらひらと上げ、千冬はその場を後にする。そして、その姿が完全に見えなくなったところで、マルーはへなへなとその場にへたり込む。

 

「……ぷっはぁー! 怖かったぁー!」

「な、何とかなったわね……」

「チフユは話せば分かってくれるから、大丈夫」

「それでも怖いものは怖いってぇ……」

「チュ、チュ」

 

一気に弛緩する空気……そこで、エメラダはふと思い出したかのように声を上げる。

 

「……そういえば、そろそろトーナメントの受付が終わる時間」

「あー、うん、まあ受付終了まで後数日有るわけだし、今日のところはもういいかなーなんて……どっと疲れたし」

「うん? 二人とも何の話?」

「ん、実は……」

 

二人はマルーにこれまでのいきさつを話す。

 

「……という訳で、パートナーが見つかんなくてね」

「そっか……ね、ねえ凰さん」

「ん?」

「ぼ、ボクでよかったら……その……どうかな?」

「え……?」

 

マルーは帽子で目線を恥ずかしそうに隠す。

 

「その……さっき庇ってくれたし、少しでも恩返しがしたいなって……じ、実力は自信無いけど……その……駄目、かな?」

「…………」

 

鈴は少し呆けた顔をした後、にかっと笑ってマルーの帽子を取り上げる。

 

「うん、良い心掛けじゃない! いいわ、貴女があたしのパートナーで決定! あ、それと凰さん、なんて堅苦しい呼び方は却下……鈴で良いからね!」

「ん、あたしも名前で良い」

「うぇ!? あの、その……鈴、エメラダ……ありがとう。それはそうと……ボクの帽子返してぇ~!」

 

……夕暮れの中庭に騒がしい声が無くなるのは、これからしばらく経った後だったようである。

 

 

 

 




メモ書き

・マルー
ゼノギアスのボクっ娘枠。シャルルは僕、マルーはボクで差別化する予定。
詳細はしばらく後まで秘匿。

・チュチュ
ゼノギアスのPTキャラ……PTキャラである、不思議な生き物。
学術名ドテスカチュチュポリン(知能レベル、天文学的に低い)。
原作では喋ったりでっかくなったり戦ったりするが、本作ではただのペットである。
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