インフィニット・ストラトス ~緑翠の人魚姫~   作:夏梅ゆゆゆ

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乙女 今想うのは誰がために

 

「……うん、うん。まだまだ長引きそうなんだね」

 

夜も更けた頃。

消灯時間間近といったところの人気の無い寮内の踊り場。そこで一つの声が響き渡る……そして、その手には携帯が握られており、何処かと通話しているのがわかる。

 

「え、こっちのこと? ……うーん、ちょっと大変、かも。あ、でもでも友達が出来たんだよ!」

 

通話越しに笑い声が響く。

 

「も、もうっ! ボクにだって友達の一人や二人……しかまだ出来てないけどっ! ふんだ、もう知らないんだから!!」

 

そう言って、勢い良く通話を切る……そして、暫くしてその場にへたり込んだ。

 

「……あー、なにしてるんだろ。久しぶりに声聞けたのに」

 

ふらふらと壁際まで歩き、壁に寄り掛かる。

 

「……やっぱり、会いたいな────」

 

そう、呟いた言葉は夜の帳へと溶け込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝の教室。

登校してきたエメラダの目に飛び込んできたのは新聞を手に渋い顔をしている箒だった。

 

「おはよう、箒……何読んでるの?」

「ああ、おはよう。いや、今日は朝に読んでいる時間が無くてな……仕方がなく今読んでいる」

 

毎日取り寄せているんだ、とは箒の談である。そして、そこへ話を聞きつけた面々が会話に交じってくる。

 

「ニュースペーパーなんて久しぶりに目にしましたわ……」

「何? お前は読んでいないのか?」

「いやいやいや、セシリアの気持ちもわかるよ。だって今じゃ紙媒体なんて時代錯誤だしね」

「うむ、シャルルの言うとおりだな。機密文書の保管なら紙媒体の出番も有るやもしれんが」

「うぐ……」

 

多対一の状況になり、呻き声をあげる箒。

 

「くっ、仕方ないだろう! そもそも、機械で得た情報など信用ならん!」

「あー……なんていうか、昔から変わんないな箒は」

「な、なんだその生暖かい視線は……ええい、やめんか! 鬱陶しい!」

 

一夏の視線への照れ隠しに捲し立てる箒。

そんな騒がしい喧騒が起きる中、ふとエメラダは箒が置いた新聞の見出しを見た。

 

「『アヴェ王国内戦、いまだ続く』……?」

「もしかしてエメラダさん内戦の事知りませんの? ……まあ、中東の国なのでこちらまで報道されるのも稀ですからしょうがないのかもしれませんわね」

 

アヴェ王国とは中東に位置し、膨大な国土と広がる砂漠が有名な大国である。

セシリア曰く、最近になって国王が病没したため後継者として第一王子のバルトロメイ殿下が選出されたが、それに宰相のシャーカーン氏が異議を唱え続けた結果、宰相がクーデターを起こして今に至るらしい。なんでも、基本的には王子派が押しているが、謎の踏み止まりを見せていることから何らかの勢力からの支援が宰相派にあるとかないとかの噂となっているそうである。

 

「ん……最近はニュース見てなかったから知らなかった」

「こういった国際情勢には気を付けなければ駄目ですわよ? 直接的な関係こそありませんけど、全くの無関係というわけでは無いのですから。例えばですが、ほかのクラスにアヴェの隣国からの留学生が────」

 

「……はーい、皆さん! おはようございます。HRを始めますよー!」

 

「───おっと、もうそんな時間ですか」

 

言葉の途中で山田先生が教室に入ってきたのを見ると、そそくさと自分の席に戻っていくセシリア。

話の続きが気になったものの、エメラダもほかの面子に従って自身の席へ戻る。

 

「えっと、では教科書の32ページを────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───申し訳ありません。中々機会を掴めず……」

 

夕焼けが差し込む廊下。

生徒たちは各々部活動や自主訓練を終え、量に変える時間帯。エメラダは教室へ今日の課題を置き忘れていたことに気付き、それを取りに戻る最中だった。

そして、教室の扉の目の前まで来たとき、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「(この声……シャルル?)」

 

「はい……はい。次の定期通信には必ず……はい」

 

そんな言葉を最後に、シャルルは通話を終えたかと思うと教室の扉を開ける。

当然、そこに居たエメラダとは鉢合わせするわけで、シャルルの全身が石のように硬直する。

 

「えええええ、エメラダっ!? い、いいいつからそこに」

「『───申し訳ありません』辺りから」

「あ、え、ちょっ、まっ、え?」

「はぁ……取りあえず落ち着いて、シャルル」

 

エメラダは暫くその金髪の少年を宥めすかす。

 

「……えっと、落ち着いた?」

「……うん」

「それで……その電話ってあたしが聞いても良い内容?」

「うっ、それはその……」

 

聞くまでもなくあからさまに狼狽えるシャルル。

 

「ん、もういい」

「……え?」

「取りあえず、目下の疑問を解消する」

「目下のぎ───うわぁぁぁぁっ!?!?」

 

───疑問って何? そう聞こうとしたシャルルの言葉も聞かず、エメラダはシャルルのシャツに手を突っ込む。

 

「……ん、おっけー」

「な……な、なぁ!?」

「───やっぱり、女」

「……っ!?」

 

突飛な行動によって真っ赤になった顔が、その言葉で一気に青白くなる。

 

「ど、どうして……」

「貴女……シャルルがエージェントである可能性は最初から疑っていた」

 

妙なタイミングでの転校。これだけで疑う要素は大いにあった。

 

「鈴やラウラはあたしたちの昔なじみ。わざわざそんな行為をして利のある組織には二人とも属していないし、何より二人の気質からしてそんな真似ができるとも思えない」

 

しかし、踏み切れない要素があった。

 

「そう、貴女はあまりにも素人だった。男性だという先入観さえなければすぐにバレる男装やこういった潜入に慣れていない行動の数々……逆に、本当の本当に男である線も疑った」

 

だが、その仮説は思いもよらず崩れた。

 

「機を見計らって探りを入れようかとも思ったけど……迂闊だったというか何というか」

「うう……」

「結局、貴女は何者?」

 

暫しの間視線を彷徨わせていたシャルルだが、エメラダの表情に気圧されたのか最後には諦観したような笑みを浮かべ、肩を落とした。

 

「ははは……まさかこんなに早くバレるなんて思っていなかったけどね」

「それは貴女が迂闊すぎるせい」

「うぐっ……仕方ないじゃないか、こんなスパイみたいなことなんて初めてやるんだから」

「……ということはやっぱり」

「うん、僕は……僕の名前はシャルロット。世界初の男性操縦者……織斑一夏の情報を盗むために送り出された、愚かな女だよ」

 

自嘲の笑みを浮かべると、教室に入り直し、近くの椅子に座る。

 

「……これで、この学園とはおさらばかな」

「一つ、気がかりがある。何故、シャルル……シャルロットを起用した?」

 

そう、それがエメラダの心にしこりを残している。

スパイにしてはあまりにお粗末な技量、良すぎるくらいの諦めの良さ……いずれをとっても送り込むには不相応な人物だと思われる。

 

「……ちょっとした昔話になるんだけど、ね」

 

曰く、自分は社長の愛人から生まれた子ども……いわゆる妾の子である。

曰く、母親が死に、唯一の肉親となった父親が娘であるところの自分に向けたのは子に対する地合いの瞳ではなく、利用価値のある道具かどうかを見極めるための値踏みの瞳であった。

曰く、一夏の登場はセンセーショナルな話題となっており、その情報を盗み出すことができれば、落ち目であるデュノア社の業績は回復するだろうという何の根拠もない自信に裏打ちされた、無謀な試みの結果として自分はここにいる。

 

「……と、まあこんなところかな。どう、笑えるでしょ?」

「それで」

「……え?」

「それで、貴女はどうしたい?」

「どう、って……」

 

シャルルはエメラダの質問の意図が掴めなかった。順当にいけば、自分は本国に送還されるはずだ。

 

「あたしがシャルロットを素人と言ったのは、感情を隠す技術がまるで下手だから」

「…………」

「シャルロットは……シャルルは、この学園でとても楽しそうだった」

「……っ」

「そして、さっきの境遇でその理由にも思い当たった」

 

おそらく、このような環境は久しぶりだったはずだ。それまで、大人の汚い思惑が渦巻く世界に監禁されていたのだから。

 

「だから、あたしは問う。貴女がどうなるか、じゃない。シャルロットがどうしたいか、を」

「ぼく、が……」

 

正直なところ、これが真っ当なスパイであったならば上の許可を得て処断していただろう。それほどまでに一夏を狙う連中は多いのだ……そんなスパイを闇に切り捨ててきたのも一度や二度ではない。

ただ、どこまでも素人でどこまでも利用され続けたこの少女には一定の情があった。多分それは、少女の屈託のない笑みを見ていなければ湧くことの無かった思いだろう。

 

「僕は……この学園に残り、たいんだと思う。皆が居て、皆で笑いあえるようなこの学園に……」

「ん、わかった」

「わ、わかったって……どうする気なの?」

 

あまりにも軽く返すエメラダにシャルロットは目を見開いて問いかける。

 

「きっと、事は簡単。後はシャルロットに───」

「ぼ、僕に?」

 

 

 

「────父親を切り捨てる覚悟が有るかどうか、だけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、簡単な話なのだ。

シャルロットが性別を偽っていたのは『デュノア社以外全て』であり、その中には当然フランス政府も含まれる。

前途ある代表候補生と落ち目の元大企業……この天秤にお涙頂戴のストーリー(ほぼ実話)を加え、そこに少しの天下のブリュンヒルデ率いる学園の圧力をかけてやればすぐさま天秤は傾く、というだけの話なのである。

無論、当初は血縁を切り捨ててしまうことに戸惑いを感じてしまうだろう。しかし、思ったよりも彼女は強かで、案外根に持つタイプらしい。

 

『……あ、でも若干いやらしい眼付きで僕のことを見てた気が』

『ギルティ』

 

そんな女同士の軽快な会話にも飢えていたシャルロットは案外すっぱりと割り切ってしまえたのだ。

 

そんなわけで、数日が経ったある日の教室。

 

『……え、えーっと、シャルル「くん」は「くん」ではなくシャルロット「さん」であったということです……はぁ』

 

『『『『『うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?!?』』』』』

 

『は? え? あ? ……は?』

『男じゃ……ない?』

『なるほど、何処か違和感が有ったのはそういうことでしたか』

『まあ、同室なら普通に気付くな。敢えて突っ込まなかったが』

『まままま、待て……い、一夏! まさか、パートナーが知らないはずがなかろうな!?』

『はっ! まさか……』

『あんなことや……そんなこと……』

『禁断の花園……』

『あはは~いっちーやらし~』

 

『……え? ちょ、俺も今初めて知っ───』

 

『こぉんの……不埒者ぉぉぉぉっっ!!!!』

『理不尽だぁぁぁ!!!!?』

 

そんなやり取りが有ったのは蛇足だろう。

 

 

 





今回は割と駆け足。シャルの事情とか本筋にほとんど絡まないからね、仕方ないね。
後、原作通りシャルはラウラと同室でした。ぶっちゃけ千冬姉は気づいてただろうし、信頼も有ってこの部屋割り。結果、部屋で通信することもできずに教室でやったらアボン。女子高生がそこまで高等な隠れ場所思いつかないだろうし(偏見)
シャルの割り切りが早いのは、まあ生まれてから碌に顔を見てない汚っさんに性的な視線向けられつつ「パパだから言うこと聞け」って言われたところでお察しということで。本作のシャルはドライに、イマドキの女の子らしく生きてもらいます(無情)


メモ書き

・アヴェ
王国。中東とかは適当に捏造。
原作でも砂漠に覆われた国。

・バルトロメイ殿下
アヴェ王国の正当なる後継。シャーカーン宰相と小競り合い中。
原作のPLキャラの一人。CV関。
意外な人物とつながりが……!?(バレバレ)
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