インフィニット・ストラトス ~緑翠の人魚姫~ 作:夏梅ゆゆゆ
ハロウィン上げてこれをやらないのはどうかと思い急遽制作。
二月まで忙しい時が続きますので更新は鈍足ですがお付き合いいただけると幸いです。
後、書いてる途中、自分で砂糖吐きそうになりました。
「───メリィィィ、クリスマァァァァスッッ!!!」
「「「「「イェーイッ!!!」」」」」
「……おう、何なのだこのハイテンションは。まるでついていけんぞ」
「いえいえ、せっかくの聖夜ですもの。羽目を外すのも無理は無いかと……」
「外しすぎではないのか……」
今日は聖夜……クリスマス当日。
IS学園の生徒達にももちろんその影響は出るわけであり、学園は妙な熱気に包まれていた。
それにげんなりとした表情を見せる箒……正直、仏教徒ゆえにあまりこう言った行事とは縁が無い。それを知ってか知らずか、セシリアは箒の手を引いて生徒たちが群がるほうへと移動する。
「ほら、何か始まるみたいですわよ? 行ってみましょう!」
「ま、まて! 手を引っ張るな!」
その強引さに口では強く言うものの、嫌悪は全く感じていない……余り楽しめていないのを気遣われてしまったようであるからかもしれないが。
しかして、生徒の群がる場へと足を踏み入れるとマイクを持った女生徒がテンション高く喋り出す。
「さてさてさて! 新聞部のこの黛薫子が親友から直々に頼まれて主催するスペシャルゲェェェェムッ! それがッ『乙女にハッピープレゼント!? ドキドキ宝探しゲーム』だぁぁぁ!」
「「「「「イェーイッ!!!」」」」」
「ルールは簡単ッ! 学園内に隠されたプレゼントを探し、この会場まで持ってくること! 会場まで来ないと開封できないようになっているからそのつもりで! この箱の仕掛けは技術科の方々のご協力で出来ておりますイェーイッ!!」
「「「「「イェーイッ!!!」」」」」
「箱の中身は様々なものが用意されていて……最大の大当たりは、なんと、まさかの、あの────織斑一夏と聖夜を二人っきりで過ごす権利だぁぁぁ!!!」
「「「「「イイイヤッッッッホォォォォォウッッ!!!!!」」」」」
「ぶっほぉっ!!!?」
箒は乙女にあるまじき声で噴き出す。
セシリアは何だか「あらあらまあまあ」なんて感じで楽しそうな顔をしているが……尋常ではない事態だ。
「本人の許可も我が親友が(脅して)取得済み! 権利を得たら……」
「「「「「得たら……?」」」」」
「あんなことやこんなことが待っているかも!? とんだ性夜だなHAHAHAHAHA!」
「「「「「オオオオオォォォォォォ!!!!」」」」」
頭が痛い。すこぶる痛い。ていうか何故教師まで混じっている。
箒は思う……この邪知暴虐な飢える獣どもにこの権利は渡してはいけないと。
故に決意した。このイベントを勝ち抜くことを……別に自分がその権利を欲しているわけではない。断じてない。
「……セシリア」
「ふふ、わかってますわ。行ってらっしゃいませ」
「むう……」
何か見透かされたような笑みが気に食わないが、兎に角はプレゼントを探すことにしたのだった。
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「「……あ」」
プレゼントを探す最中、食券機の上に置いてあるプレゼントボックスを取ろうとして───別の手にぶつかる。
そう、その手は……鈴のものであった。
「「…………」」
黙したまま睨み合う両者。
この箱を欲した以上、目的は一つである……故に、奪い合うのが定めであった。
「……ちょっと、離しなさいよ。これはあたしが最初に見つけたんだから」
「ふん、何をふざけたことを言っている? 最初に見つけたのは私だ!」
「はぁ!? ふざけてんのはそっちでしょ! 第一、あんた普段あいつに対してつっけんどんなくせにこんなイベントに参加するとか何処のツンデレよ、それ!」
「ううう、うるさいっ! そっちだって『あたし達観してます』風を装っているくせにこんなイベントに参加するなんて全然未練たらたらではないか!」
「「むむむむむ…………!!」」
そんな醜い女の戦いは熾烈を極める。
このやり取りを行っている間、二人はひたすらに箱を引っ張り合っているのだ。
流石の固い強化プラスチックで作られた箱も、二人の馬鹿力の前にその原型を段々と歪めている。
「このっ……いい加減に離せっ……おっぱい魔神がッ……!!」
「おっぱ……!? そちらこそ離せ貧乳……!!」
「い、言ってはならぬことを言ったわね……!?」
「そっちが先に言って来たんだろうが……!!」
そして、このどす黒いキャットファイトは闖入者の存在で幕を閉じることとなる。
「───何をやっている、貴様ら」
「「ふぁいっ!?」」
人が近くに来たこともわからないほどに白熱していた二人はそんな闖入者……ラウラとシャルロットの存在に驚き、手を離す。
「まったく……先ほどから騒がしいと思ったら貴様ら迄もか。浮かれるのも程々にしろ」
「あ、あははは……一夏、人気だからしょうがないよ」
やれやれといった風に落ちた箱を拾い上げながら呟くラウラにシャルロットのフォローが入る。
「しかしな……毎度思うがあいつのどこにそんな惹かれる要素が有る? 顔は並以上だがな」
「うーん、それだけでも大分多くの子に需要が有りそうだけど……逆に、ラウラの好みってどうなの?」
「当然、私と共に戦場を駆け巡れる程の胆力と実力を兼ね備えた者だ。模擬戦を積極的に受けてくれる奴だと尚良い」
「うわぁ……」
そんな会話を交わす二人に鈴と箒は依然としてラウラの手の箱を見つめ続ける。
「そ、それをよこしなさいラウラ! 食堂でなんか奢るから!」
「わ、私だ! 私にくれ! そ、そうだ……キャンディ! 飴あげるぞ!」
「ふむ……」
ラウラは一瞬考えるような素振りを見せると、その手の箱をシャルロットの手に乗せる。
「え、ええ!? ラウラ何で!?」
「はぁ……別にこれが当たりだという確証は無いのだろう? みっともない諍いを見続けるくらいならこれが一番無難だろう」
「う……」
「くっ……反論できない」
人形めいた可憐さと軍人特有の鋭さを持つラウラからそうジト目で言われると何となく威圧感が発生する。
二人のキャットはその箱を渋々ながらも諦める。
「ふぅ……次こそは絶対に……」
「負けてなるものか……一夏は私が守る……!」
二人の獣がそう言い残して姿を消すと、シャルロットは大きくため息を吐く。
「……ちょっとラウラ。こっちに振らないでよ……あの二人すごく怖かったんだから」
「む……それはすまないことをした。しかしな……仮にも女があのように本性剥き出しで激突しているのを見るのは同じ女として些か以上に堪えるものが有る。許せ」
「いや、まあ、そうかもね…………ん?」
シャルロットが辛辣なラウラの意見を何とも言えない表情で受け流していると、視界にエメラダの姿が映る。
「エメラダ! こんばんわ、メリークリスマス」
「……ん、シャルロットにラウラ? うん、メリークリスマス」
エメラダはシャルロットの声に足を止めると、二人のほうへ歩み寄ってくる。
「どうしたの? こんなところで」
「いや、まあ、あはは……」
「うむ、それがな? 箒と鈴が……」
「わー! わー! ラウラストップ!」
「ど、どうした?」
「いや、あの光景を伝聞するのはどうかと思うんだけど……!」
「ああ、うん、いや、そうだな。考えが足りなかったようだ」
「……???」
疑問に首を傾げるエメラダ。そんな彼女を誤魔化すかのようにシャルロットは手に持った箱をエメラダに渡す。
「そ、そうだ! これあげるよ!」
「……何これ?」
「し、知らないのか? これを持っていくと何か景品がもらえるイベントをやってるみたいなんだ。も、持っていくと良いものがもらえるかもしれんぞ?」
「ふーん……」
怪訝そうに箱を見つめるエメラダ。
「……まあ、良い。イチカを探している途中だったから、ついでに行く」
「そうか……なら私もついて行くとしようか。箱の中身も気になる」
「あ、なら僕も」
「ん、一緒に行こう」
そうして三人はイベント会場へと向かう。
途中、血眼になってあちこちを探す獣の群れを発見したが特に特筆することもなく、ラウラとシャルロットが微妙な表情に、エメラダが不思議そうな表情になったくらいで無事に会場へたどり着く。
「おおっと! 次のプレゼントハンターは……エメラダ選手だぁぁぁ!!」
「は、はん……選手……何?」
「さあさあさあ、お手の箱を拝借!」
「え、あ、はい」
「注目の結果は……ドラムロール、カモォンッ!!」
何処からか鳴り響くドラムの軽快な音と共に、変な装置でスキャンされた箱がゆっくりと開いていく。
そして、完全に開放された箱の中身は一枚の紙。偶然会場にいた人々はみな、安堵の息を吐く……が、その箱を開けた張本人の反応は違う。
「な、な、な、なんと────エメラダ選手、一発目で見事に大当たりを引いたぁぁぁ!!!?」
「「「「「な、なんだって────!!」」」」」
会場内の声が盛大にハモる。
エメラダは困惑の表情を浮かべるしかない。
「おめでとう、おめでとう! やっぱり持つべき人が持つというか来るべき人のもとに来るというか……兎に角コングラッチュレーションッ!!」
「ちょ、ちょっと待っ……」
「さあさあ! 一名様個室にご案内よ~!」
引っ張られて消えていくエメラダを見つめ、後ろにいたラウラは乾いた笑いを上げる。
「はっはっはっは……どんな確率だこれは」
「うわぁうわぁうわぁ……あの二人すっごくご愁傷さまだね」
一周回って妙に爽やかなシャルロットの声が会場内に空しく、響いた。
▼
エメラダが引っ張られて連れられた先は薄暗く、無駄にムードあふれる個室だった。というか寮の一室なのだが物凄く魔改造されている。
そんな部屋に呆然としていると、部屋に放り込んだ張本人がドアの隙間から顔を出す。
「ではでは、後は若い二人に任せて……黛薫子はクールに去るわ~!」
「えぇ……?」
ガチャッ、といったロック音と共に鍵が掛かったことを示すドア。無論、内側から開かないように細工されている。
「はぁ……」
ため息を吐き、大人しく部屋の内部へと足を進める。
先生方が何もしてない以上、このイベントは公認なのだろう。待っていればいずれ部屋から出られる……そう考えての行動だった。
そうして、見渡す部屋の中には大きなダブルベッドが一つ。しかも、そこに誰かが眠っているようだった。
「誰……?」
近づいて行くエメラダ。そうしてベッドの横まで歩いたエメラダが見たのは、うなされているかのように苦しげな顔の一夏であった。
「イチカ……? なんでここに……」
「う……く……あ……え、めらだ……?」
一夏の顔を覗き込んだ瞬間、一夏が目覚める。
そして暫く、お互いの顔を至近距離で見つめあうこととなり……二人は一斉にその場から離れる。
「うあ、え!? 何で!? 俺、確か、え!?」
「…………」
薄暗くてよく見えないが、二人の顔は赤く染まっていた。
しかし、お互い気にする余裕は無いのかそのまま話し出す。
「……えっと、俺は確か部屋に戻る途中に扇子が急に目の前に出てきて……それから……って、どうしたエメラダ? 苦虫を噛み潰した様な顔をして」
「うん、うん……何でも無いから大丈夫……」
「そ、そうか? なら良いんだが……」
一人の性悪女の顔が思い浮かぶ。今ので今回の件を仕組んだのが誰かが分かり、どうにもやるせない気持ちになった。そのまま脱力し、ベッド───一夏は既に飛び退いている───に腰掛ける。
「にしても……ああ、丁度良いのかもしれないな」
「……?」
一夏は近くにあった自身のカバンを見つけると、何かを思いついたかのように中身を探る。そして、「……あった」と呟きつつ、一つの箱を外に出す。
「えっと……日頃からの感謝っていうか何ていうか……兎に角、今日ってクリスマスだろ? だから、その、クリスマスプレゼントってやつだ、うん」
「ぷ、プレゼント……?」
一夏が頬を掻きながら渡してきたそれを受け取る。
「あ……開けてみても、良い?」
「お、おう」
箱を開けた、その中には────蒼と翡翠色の小さな髪飾りが入っていた。
「これ……髪飾り?」
「いや、その……エメラダの髪って凄く綺麗だろ? それに映えるんじゃないかなって思って、さ」
「……」
とても綺麗な髪飾りだった。
この髪飾りを一夏が自分の為に選んでくれた……そう思うだけで心の底から嬉しさが沸き上がり、エメラダの顔が再び朱に染まる。
「イチカが……その、つ、着けて……?」
「あ、ああ、分かった」
「ありがと……」
ドギマギしながらも、慎重に、優しい手つきで受け取った髪飾りをエメラダに着ける一夏。
「ど、どう……かな……?」
「……うん、凄く似合ってる」
「ん……」
自分で選んだものながら、その髪飾りはエメラダの翠色の髪にとても似合っていた。
そう感じた一夏はそのまま自分の感じたことを口に出し……エメラダはその言葉にくすぐったそうにしながら柔らかな笑顔を浮かべる。
そして、和やかな時間が暫し流れ……窓の外から、大きな音と光が部屋の中へと飛び込む。
「花火……?」
「みたいだな。もっと近くに行ってみようぜ」
二人は窓へと歩み寄ると、学園のアリーナから花火が打ち上げられているのが見える。
どうやら、この部屋はこの花火が一番よく見えるスポットになっているらしく、冬空に輝く空のイルミネーションが薄暗い部屋の中を鮮明に照らし出す。
「冬の花火は、やっぱり綺麗だな」
「ん……そうだね」
二人並んで、花火を鑑賞する。
ふと、一夏は隣にいるエメラダを見やる……そして、彼女が花火を見つめ、その光に照らされる姿に、見とれる。
光の中のエメラダはどこか幻想的で……どうにも、目を奪われる。
「……イチカ? どうしたの?」
「ああ、いや……」
エメラダに見とれていた───何て言えるわけもなく、誤魔化すように花火へ向き直る。
「そ、そういえばまだ言ってなかったと思ってさ。その……メリークリスマス、エメラダ」
その言葉に少し目を丸くすると、クスリと笑ってエメラダも言葉を返す。
「ん……メリークリスマス、だね?」
そして、光を反射する髪飾りが、二人を包み込むような、澄んだ音を響かせた。