インフィニット・ストラトス ~緑翠の人魚姫~   作:夏梅ゆゆゆ

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お久しぶりです。
久しぶりすぎて若干書き方を忘れているかもしれませんが、これから段々と更新ペースを上げていきたいです(上げられるとは言ってない)


初戦 四人の勇士

トーナメント当日。

これまである程度の期間が有ったが、エメラダとラウラは何度も戦ってきた仲であり、タッグへの準備も調整程度に留めていた。今更お互いの戦闘スタイルなどとっくにわかりきっているのである。

 

「さて、では勝ちに行くぞ」

「ん……」

 

二人は気を引き締めつつも、戦意を滾らせてアリーナへと赴く。

そんな二人の、一回戦の対戦相手は────一夏とシャルロットだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合の数日前、トーナメント表が発表されると同時に学園はざわついた。

 

「ボーデヴィッヒさんのペアと織斑君のペアが一回戦……!?」

「どちらも優勝候補だね~」

「ふむ、私たちは当分他の連中とは当たらないな」

「ですが、3回戦の相手は……」

「ふふん、あたしたちのペアと順当に行けば当たるってことね」

「あわわ……り、鈴! イギリスの代表候補相手になんでそんな余裕あるの……!?」

「ん……負けないよ」

「今度こそは勝ちを貰うさ」

「ふん、私も居ることを忘れるなよ?」

「それはこっちも同じかな、ラウラ!」

 

一瞬にして会話が飛び交い始めた教室に千冬の咳払いが響く。

 

「……騒ぐな。トーナメント表は各員の端末に配布した。後で確認し、試合日時、場所などを把握しておけ」

 

───それでは、授業を始める。

言外にそう告げて授業の準備を始めた千冬を見てクラスの面々は慌ただしく授業を受ける体勢になる。

 

「よろしい。では、今日はシールドエネルギーと絶対防御についての確認から入っていこうと思う」

 

千冬は真剣な表情を浮かべて言葉を続ける。

 

「今回のトーナメントはクラス代表戦とは異なり、多くの一般生徒……つまり、候補生や専用機を持った者ではない生徒が参加するものだ。当然、多くの生徒達にとって初めての本格的な試合となる」

 

その言葉にクラスの多くの生徒が息をのむ。

 

「さて、では……オルコット、シールドエネルギーと絶対防御についての概要を簡単に説明してみろ」

「はい、織斑先生」

 

セシリアが席を立ち、澄んだ声で説明を始める。

 

「シールドエネルギーはISが全体に纏っている文字通りシールドの役割を果たすエネルギーです。攻撃を受け止め、使用者の身を守ってくれますが、そのエネルギーは攻撃を受けるたびに目減りしていきます。競技用のISではこのシールドエネルギーが0になった時点で活動を停止……そして、対戦相手をその状態にすることで試合では勝利となりますわ」

 

一息に説明し、千冬から声が掛からないのを確認して次の説明に移行する。

 

「次に、絶対防御とはISに備わった、装着者をあらゆる危険から防護する機能のことを言います。 これはシールドエネルギーでは守り切れない威力の攻撃などに発動し、ダメージをほぼ0にまでしてしまいます。反面、大きくシールドエネルギーを使用する機能でもあります」

 

「ご苦労。オルコット席に着け」

 

千冬の言に従い、セシリアは自分の席に腰を下ろす。

 

「このようなことは諸君らにももう既知の知識であり、ISに乗るものとして当然の知識でもある」

 

しかし、と千冬は言葉をつなぐ。

 

「諸君らに今一度心がけて欲しいのは、これらの防護機構も完璧では無いということだ。確かに、二種の防護機能によって乗り手への被害は最小限に保たれるだろう。だが、当然のことだが絶対防御が発動してもその攻撃の衝撃までは完全に消すことはできない。無論、機能停止後の相手に攻撃などしては生命の危険まである」

 

千冬は厳かに、淡々とISに乗る上での危険を語る。

 

「そして、そういった衝撃で怪我を負ったり、試合中に大きな事故を起こすのは決まって……試合に慣れていない者だ」

 

そう、ISとは単なるスポーツ用具では無い。一線を越えれば兵器にもなる代物なのだ。

 

「トーナメントにやる気を出して臨むのは大いに結構……だが、ISの危険性というものをトーナメント前だからこそ肝に銘じておくことだ」

 

千冬は一瞬瞑目し、張り詰めた雰囲気を霧散させる。

 

「……思ったよりも時間をとったな。ではこの前の続きを進めることにしよう。教科書の56ページを開け─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏とは何度となく模擬戦を行って来た。

無論、勝率はエメラダのほうが圧倒的に高い……もう、あの時の───力不足を嘆いた、あの誘拐の時のようなことにならないように自身を鍛えたのだ。まだ、一夏に負けてやるわけにはいかない。

 

「(……イチカは、あたしが守る)」

 

どこか、強迫観念じみた思いに囚われながらも、準備が整った。

 

「ラウラ……」

「……なんだ?」

「今回、少し一人でイチカの相手をしたい」

 

エメラダの言葉に少し、ラウラは眉根を寄せる。

そして、その理由を問おうとし───止めた。エメラダの眼はその意志が固いことを示しており、ここで言い争うのも無駄な時間だという考えに至ったのだ。

 

「まあいい。行くぞ、エメラダ……私はシャルロットを抑える」

「ん……」

 

短い、ラウラとのやり取り。瞬間、二人同時にピットから発進する。

アリーナへと躍り出た二人を待ち構えていたのは……ヴェルトールとラファール・リヴァイヴ。

 

「手加減無しだよ、ラウラ……!」

「当然、全力で掛からせて貰う!」

「今日は勝つぜ、エメラダ」

「……負けない」

 

アリーナで対峙する4人……各々が相手に戦意を滾らせながら言葉をぶつけあう。

 

『両チーム、準備は良いな……では、試合開始───!』

 

放送で流れる千冬の声。直後、試合開始を告げるブザーが鳴り響く。

ブザーが聞こえるや否や、4人は拡散し……お互いの相手の元へと勢い良く向かっていく。

 

「───おおぉぉぉッ!!」

「……ッ!」

 

気合一閃。

一夏が飛び掛かる勢いのまま振るった刀を咄嗟にレイカウントを張り受け止める……しかし、一夏はそれを見越していたかのようにエメラダを斬りつけた勢いで吹き飛ばし、距離をとる。

 

「指弾ッ!!」

「……ぁ!?」

 

そして、追撃の手は緩めない。

エメラダがレイカウントを解除しない内からエネルギー波を浴びせたのだ。

 

「(視界が……!)」

 

当然、レイカウントは防御性の高いエネルギー状の外装だ……ダメージは軽微である。しかし、エメラダの視界は一瞬の間、光に包まれることになる。

 

「───斬、烈ッ!!」

 

光を切り裂いて視界に入るのは幾閃もの剣戟の雨。

まともに防御行動がとれない中に放たれた連撃は、レイカウントを破りつつもクレスケンス本体にその刃を届かせる。

 

「くっ……ああぁぁぁ!!!」

 

だが、やられてばかりいるわけにもいかない。エメラダはトルネードハンドのブースターを───全開まで引き上げる。

 

「なっ……!?」

「うぁ……!」

 

トルネードハンドは勢い良く駆動し、お互いの中間地点の大気が爆発したような風圧と衝撃を生み出す。

その衝撃はクレスケンスにも及ぶ……しかし、それ以上にヴェルトールを自身から離すという働きを見せる。

 

「……っ、はぁ……いきなり飛ばしすぎ……!」

「はっ、シャルロットにお前を絶対に抑えるって約束しちまったからな!」

「上等……!」

 

シールドエネルギーは既に4分の1程削られてしまった。

だが、エメラダはここで尻込みするほど臆病では無い。

ブースターを再度開放し、トルネードハンドの推進力でもって一気に肉薄する。

 

「まずっ……!」

「お返し───!!」

 

一夏はその攻撃から逃れようとし、一撃目を寸でのところで躱す。

 

「甘いよッ!」

 

トルネードハンドのブースターはその衝撃だけで相手を吹き飛ばすこともできるほどの大出力を持っている。

故に、その出力を利用することで───ISの反応速度の限界すら超えた猛追撃を行うことすら可能にする。

 

「─────ッ!!!!」

「ぐ、が、だぁ……!?」

 

ストレート、アッパー、回り込んでの叩き落し……からの飛び蹴り。

一息に行われた、さながら空中コンボとも呼べるようなラッシュはエメラダの体にも相応のGを代償として与えるが、その威力は絶大である。飛び蹴りを腹部へと受け、地面へと体を叩きつけられた一夏の体がその威力を物語っている。

 

「くそ、一瞬でこれかよ……!」

「まだまだ、ギアを上げていくよ」

「……ははっ、だったらとことんまで着いて行って見せるさ!」

 

ヴェルトールのブースターが地面に余波を与えながら飛び立つ。

そして、クレスケンスはさながら獲物を狙う鷹のように……空を翔ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏とエメラダが戦っている横で、ラウラとシャルロットはお互いがお互いのパートナーの元へと向かうことを防ぐように牽制をし合っていた。

 

「……少し以外だ。お前のことだから一夏と連携してくるかと思ったが、な!」

 

レールカノンを乱射しながらラウラはシャルロットに対して好戦的な笑みを向ける。

 

「一夏から頼まれちゃったからね……」

 

試合開始前、一夏はシャルロットに『暫くの間、一人でエメラダの相手をしたい』と頼んだ。それはタッグの強みが薄れてしまう頼みであったが、こうも容易に1対1の状況が作り出せるとは思わなかった。いや、もしかすると相手も同じ考えだったのかもしれない。

つくづく、あの二人は変な所で似ている……内心、苦笑しながらもレールカノンをシールドで防ぎつつ、アサルトライフルで応戦する。

 

「……まあ、でも───君を倒せばどうにでもなるさ!」

 

シールドを翳し、ラウラの方面へとグレネードを投擲する。

 

「そう簡単に行くとでも───!?」

 

無論、ラウラは瞬時にそれを撃ち落とす……が、レールカノンに貫かれたグレネードが生み出したのは爆発では無く───煙だ。

 

「チッ……! スモークグレネードか!」

「───ご名答」

「……ッ!?」

 

煙による視界の妨害、そして意表を突いたことで生まれた一瞬の隙……それに乗じてシャルロットは一瞬のうちに肉薄し、シールドに両手を翳す。

 

「全弾持ってけッ────!!」

 

そしてシールドの一部分の装甲が弾け飛ぶ……中の、凶悪な武装を撃ち込むために。

 

「パイル、バンカー……!!」

 

相手の狙いを掴んだラウラであったが、この状況を一瞬で覆す手段は彼女にはない────よって、被害を最小に抑えるための行動をとる。

ラウラはAICを起動する…………そう、自身の片足に。

 

「くっ、あ……!!」

 

片足を停止させたラウラは一発目のパイルを装甲部で受ける……結果、慣性によってラウラの体は片足を軸にして下方へと沈む。それにより、二発目以降から身を守ったのだ。

 

「避けられ……!?」

 

そして、パイルバンカーの超火力で勝負を決めにいったシャルロットは致命的な隙を晒すこととなる。

 

「がら空きだ……!!!」

 

全てのワイヤーブレードを動員し、隙を見せたシャルロットを斬りつけ……そして、拘束する。

猛攻を受けてしまったシャルロットになすすべはなく、その矮躯をワイヤーに吊るされて力無く弛緩させている。

 

「さて、言っていた状況とは逆になってしまったが……そろそろこちらの決着をつけると────」

 

そこまで言ったところで気付く。

斬りつけた時、拘束された時もシャルロットはそのシールドを手放していなかった。だが、パイルバンカーを内蔵しただけのシールドを後生大事に持っておく必要性が有るか……?

そして、シャルロットの口が三日月を描く。

 

「……僕は、約束は守る主義なんだ」

「ッ、グレ────!?」

 

シールドの裏から現れ出たのは、大量のグレネード。

そう、スモークを使ったのは単なる目くらましの意味だけでは無い……ラウラに、他のグレネードの存在を気づかせないためでもあったのだ。

 

「皆を騙していた僕が言える義理では無いけれど────」

 

────嘘をつくのは嫌いだから。

 

直後、爆炎が二人を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ボーデヴィッヒ、デュノア……共に戦闘不能!』

 

剣と拳を激しくぶつけ会う最中、二人の耳にお互いのパートナーが敗れたことを示す放送が届く。

 

「ラウラがやられた……!?」

「ってことはさっきの爆発は……」

 

一夏は自身の相棒が身をとして己の我が儘を通させてくれたことを悟る。

 

「だったら……」

「……!」

「─────負けてられないよなッ!」

 

瞬時加速。

二人が比較的近距離に居た中で放たれたそれはそのまま行けば激突してしまうものだ。

エメラダはそれに驚きの表情を見せるも、体勢を崩しつつそれを躱す……そう、躱してしまった。

 

「ブースター、駆動───!!」

 

瞬間、ヴェルトールから蒸気が噴出する。

極限にまでその機能を引き出された機体は、その加速のまま宙返り────そして、反転し、さらにもう一度の瞬時加速を行うことでエメラダへと追随する。

 

「なっ……!?」

 

レイカウントを────そう考える間もなく、一夏の剣がエメラダの機体へと突き刺さる。

それは技も、技量も無いただの刺突であったが…………クレスケンスに絶対防御を発動させるほどには強力な一刺しであった。

 

『クレスケンスのシールドエネルギー残量0……よって、勝者は織斑・デュノアペア!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピットへと戻ったエメラダは壁に寄りかかってこちらを待ち構えていたラウラに声をかける。

 

「ごめん……負けた」

「ふん、わざわざ謝るな。任せろといった手前、無様な姿を晒したのは私も同じだ」

 

その言葉はぶっきらぼうではあったものの、どこか温かみを覚える言葉。

 

「……私は先に部屋へ戻る。グレネードのせいで体が火薬臭くてたまらん。お前は少しゆっくりしてると良い」

「ん……ありがと」

「感謝も不要だ」

 

ラウラの遠ざかっていく背を見送りながら、エメラダは思考する。

今回の敗因……それは間違いなく自分が一人で一夏を相手にすると言ったことだろう。

どうしてそうしたいと思ったのかは、不明だ。ただ、一夏に負けたことは何度かあってもそれは本当に本気の戦いであったかは疑問が残る。

そして、今回は全力だったと言えるだろう。その上で負けたのだ……一夏の、土壇場での爆発力やら自身が意表を突かれたことなどをつらつらと他の敗因として頭に浮かべていくが、どうにもうまく考えがまとまらない。

 

「……負けちゃったな」

 

本当に、一夏は強くなった。あの時の───誘拐され、何の力も持っていなかった時に比べて。

それは喜ばしいことであるはずなのに…………エメラダは自分の心が少し、暗く澱んだような気がした。

 

 

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