インフィニット・ストラトス ~緑翠の人魚姫~ 作:夏梅ゆゆゆ
あと、前回の一夏の剣技もゼノの某キャラの技です。あとがきに説明入れるの忘れてた……。
『本日の試合はここまでです。1回戦第6組以降の試合は明日の────』
響き渡る放送を皮切りに喧噪に包まれるアリーナの観客席。
そこで彼女───マルーは緊張した体を解すかのように大きくため息を吐いた。
「はぁ……皆凄かったなぁ。特に、織斑くん達の試合……」
1回戦で優勝候補と目されるペアがお互いにぶつかったのはその1試合だけだった。
だが、その1試合は他の試合とは機体の性能も本人たちの実力も隔絶しており、また伯仲していたのだ。
自身をあの場へと放り込まれたら一瞬で撃ち落とされてしまいそうだ。
「───おーい!」
「……うん?」
試合の余韻に浸っていると、自分を呼ぶ声が聞こえた。
「あんた何やってんのよ?」
その声の主は鈴───マルーの、今大会のパートナーだった。
「何って……」
鈴の質問の意図がつかめずあたりを見渡し……既に観客席に誰も居ないことに気が付く。
「あ、あはは……ちょっと試合の凄さに中てられてボーっとしてたみたい」
「もう、しっかりしてよね? 明日はあたしとあんたもあそこで戦うんだから」
「そ、そうだよね……」
鈴の言葉で少し気が重くなった。
マルーが戦うのは第6組の試合……つまり、明日の初戦を自分たちが飾ることとなるのだ。
さらに、加えると明日の相手はイギリスの代表候補な上に専用機まで持っているセシリア・オルコットと、かの篠ノ之束の実妹であり、1年生にして剣道部のエースたちを軒並み破っていったと噂の篠ノ之箒というビッグネームだ。いくら相方が中国の代表候補とはいえ、自分が相方も含めた他のメンツに見劣りしてしまうのは一目瞭然である。
「……? 何よ、歯切れ悪いわね……まあいいわ。そんなことより、この後時間ある?」
「えっと、時間? 特に予定は無いけど……」
「うん、なら決まりね! 明日の為に最終調整するわよ!」
「え、ちょっ」
「さあさあさあ! 時間が無いわよ!」
手を引かれ、返答する間もなく足を進める。
無論、調整することには異議は無いのだが……いかんせん彼女は強引だと思う。
ここ暫く彼女のパートナーとして多くの時間を共に過ごしたので分かるのだが、鈴は溌剌としつつも冷静な人───という、初対面の印象はだいぶ間違っていた。
彼女は存外、余裕があるように見えて子供っぽい。我が強いとも言える。
勿論、鈴は優しいし良い人だという思いはある……だが、それでもこのポジティブさと強引さは、
「……ん? どうかした?」
「え、いや、何でも無いよ!」
無意識に鈴を注視していたようで慌てて誤魔化す。
兎にも角にも、不安は募るが試合は嫌でもやってくるのだ。だったら、もうなるようにしかならないだろう。
そんな諦観にも似た気持ちを抱きながらも、マルーは鈴に手を引かれ続けるのであった。
▼
太平洋の上空。何も無く、鳥たちが穏やかな風に吹かれながら飛んでいるだけの中空───そこを、3機のISが通過する。
『ドミニア、調子はどう?』
『悪く無い。前の機体より格段に反応速度が向上している』
その内の1機、ドミニアと呼ばれた女性は自身の機体の調子を確かめるかのように空中機動を複雑に変化させる。
『ちょっと、ドミニア。以前よりステルス性が上がったとはいえ、調子に乗ってはダメよ。見つかるわ』
『分かっている。だが、今回の任務はこの機体の慣らしと、
ドミニアは後方を飛行する、巨大な紅の機体を一瞥する。
『屁理屈ばかり上達してもデータの足しにはならないわよ』
『お前の毒舌の上達が私は一番怖いよ』
『……もう』
後ろに続くワンドナイトを駆る女性───ケルビナと軽口を交わしながらも、ドミニアの心は熱く滾っていた。
なぜならば、前回のIS学園への任務とは異なり、今回は失敗できない理由がある。
そう、親愛なる閣下が自分たちを指揮しているのだ。
故に、彼女の心は沸騰しそうなくらいに滾っている。
『……いつぞやの緑色、奴とも出来れば再び戦いたいところではあるが』
『はいはい、その件はブリーフィングで却下されたはずよね?』
『……分かっている』
そして、そんな彼女の心境も長い付き合いであるケルビナにはお見通しなのであった。
『本当に分かっているのかしら……さあ、もうそろそろIS学園よ』
『ハッ、どうやらとうとう天災も奴謹製のステルスを突破できなかったらしいな。一体どうやってあの天災の裏を掻いたんだか』
『それは私たちが知ることでは無いわ。凡人が彼女たち……束博士にしてもドクターにしても、ああいった人種の思考を推し量ろうとすること自体が徒労よ』
『理解が及ばないからか?』
『理解する必要が無いのよ。彼女たちの思考は自己完結しているのだから、私たちが理解できた所で何の影響も及ぼせないし、得も無い』
事も無いように言うケルビナ。
『それが分かるだけ、お前は私から見れば十分に
『止めて頂戴。虫唾が走るわ』
『ああ、確かにあんな変態たちとは一緒にされたくないな。謝罪しよう』
『謝罪は受け取るけど、一つ訂正ね。変態、というのは余りにも語弊が過ぎるでしょう?』
『ならばどう表現する?』
『ああいうのは、思考が変態的、若しくは変態的頭脳……といった言葉で表すのが正しいわ』
『さして変わらないだろう』
『……それもそうね』
そうしているうちに肉眼でも学園を捉えることが可能な位置まで近づく。
2機と、それに一言も発しないまま追随する1機。
それは、学園の誰も知る由は無いが……間違いなく波乱を呼ぶ火種が間近まで迫っていることを意味していた。