インフィニット・ストラトス ~緑翠の人魚姫~ 作:夏梅ゆゆゆ
──入学式。それは、新たな生活への期待と不安がない交ぜになりながらも、粛々と行われる一種の儀式である。
無論、その会場にいる一夏もその例外にもれず、緊張の中にいた。
「(あ~……なんか落ち着かない)」
まあ、そんな思春期の少年の心境に構うわけでもなく式は進んでいくのだが、その中でも一つ、どうしても気になることがあった。
「(………やっぱ目立つよなぁ)」
──そう、当然ながら、エメラダのことである。
そもそも、日本人離れした見た目は勿論のこと、それに加えてかなりの美少女だ。目立つはずである。
一夏はさほど、実際可愛いとは思うし、たまに見惚れそうになることもあるが、そこまで見た目を気にしたりはしていない。
ただ、周りの人が皆、そういう考えな訳もなく、視線が彼女に集まっているのが、一夏の所からもはっきりわかるほどだった。
「(……っていうか、なんだかんだで美少女なんだよな)」
正直、出会いのインパクトやその後のいざこざがあってあまり気にならなかったが、こうして、客観的にみると自分が会った女の子の中でも頭一つ抜けたものを持っていることがわかる。
……彼女の経歴も、出身も、その他さまざまの事を千冬がそれとなく自分に隠していることは子供ながらにある程度は察していた。一夏も、それには触れないように気を使ったし、直接エメラダに聞くようなこともしていない。
しかし、こうして周りから一つ浮いたようなところを見せられると、いまだに謎の多い新しい家族のことを気にせずにはいられなかった。
「(……うん、でも、色々話したほうがいいかもしれないな)」
なんといっても、『家族』なのだ。姉たちの間で勝手に決められたものであっても、
「(よし、そうとなったら行動あるのみ、だな)」
その後、入学式中、どうやって仲を深めるかについての思考をめぐらす一夏だった。
▼
「あれは……一夏?」
入学式終了後、髪をツインテールにした小柄な少女───凰鈴音は、どこかへ急ぎ足で向かう少年…一夏の姿を捉えた。
「(あんなに急いで何処へ……)」
鈴──そう、かの少年から呼ばれている少女は彼が急ぐ理由が何か、気になり始める…………それもそうだろう、なんといっても織斑一夏という少年に、鈴は恋をしているのだ。
詳しいことは割愛するが、小学生時代の孤独を救ってくれた一夏は紛れもなく、彼女にとってのヒーローだったのだ。そもそも、この学校にしたのだって、一夏と同じ学校がよかった、という動機も多分に含まれていた。
結論、そこまで懸想する人が何をしているのか知りたがるのも恋する乙女にとってはしょうが無いことだろう。
「まっ、追いかけてみればいい話よね!」
そう言って、一気に一夏の後を追い始める。
「あっ、いたいた!おーい、いち─────」
「あ、そうそう!今日の夕飯のリクエストとかあるか?今日は千冬姉がいないからエメラダの好きなものでいいぞ?」
「ん……なら、この前食べた鮭のムニエルが良いかも。美味しかったしね」
「了解っと、んじゃ下ごしらえは任せ………あれっ、鈴?どうしたんだ?そんな所で」
──鈴は、固まるしかなかった。
一夏が、女の子、しかも美少女と親しげに話していたのだ………しかも、話の内容も鈴にとって聞き逃せるものではなかった。
「………い、一夏?今、夕飯がどうとかって……?」
「ん、ああ!鈴には話してなかったな。実はこの娘とこの前から一緒に暮らすことになってて───」
「───一夏の、馬鹿ぁぁぁぁ!!!!」
「おげふっ!!?」
──強烈なボディブロー。以前剣道を嗜んでいた一夏ではあったが、そのあまりの威力には体を折るしかなかった。
「……………???」
……そして、一人蚊帳の外にされたエメラダは不思議そうにそのやり取りを見つめていたという……
▼
「ふーん、千冬さんがねぇ……」
「いてて……これで状況はわかったろ?……ってか、俺はなんで殴られたんだ…?」
「ふ、ふん!自業自得よ!……あんな勘違いさせるようなことを言うから……」
「え、なんだって?」
「なっ、何でもないわよっ!」
そんなやり取りを続ける一夏と少女に、エメラダはいまだ、目を白黒させていた。
「……イチカ?」
「ん?……あっ、と忘れてたな。こいつは鈴……まあ、小学校からの友達で所謂、幼馴染ってやつだな」
「凰鈴音よ。あんたも大変ね…遠くから一人預けられるなんて」
「ん…別に。それより、名前で呼んでほしい」
「え?……いや、まあいいけど……よ、よろしく、エメラダ……」
「うん、よろしく、リン」
「──っと、お話し中悪いんだが、そろそろ席に着いたほうがいいぜ?そこの三人」
「おっと、もうそんな時間か。悪いな……教えてくれて」
「んにゃ、新入生同士だろ?そんな気にすることもないだろ」
「いや、でも助かったよ……っと、俺は織斑一夏だ」
「五反田弾……そっちの女の子たちもよろしくな~」
そう言って、忠告してくれた少年──弾は手をぷらぷら振りながら自分の席に戻っていった。
「……あいつも面白そうな奴だな」
「そう?なんかチャラチャラした感じに見えたけど……まあ、あんたが言うからには、いい奴であることに違いはないんじゃない?」
鈴も、そう、気のない返事をして自分の席に戻っていった。
「───イチカ」
「ん?どうした?」
「言ったとおりだね、楽しそうだよ…学校」
「……ああ、そうだな!」
───こうして、二人の中学校生活が幕を挙げたのであった。