インフィニット・ストラトス ~緑翠の人魚姫~   作:夏梅ゆゆゆ

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決意 守るという意志

───モンド・グロッソ会場。

 

全てのIS乗りの中から最強を決める、戦いの会場。

そんな中で、一夏とエメラダは前大会総合優勝者───千冬の控室の前にいた。

 

「しっかし………ものすごい人混みだったな………」

「仕方ないよ………チフユ、人気者らしいから………」

 

千冬の、ブリュンヒルデの控室ともなれば、大勢のファンが集まってくる………無論、警備の人間はいたが、それでも、そこを掻い潜ってここまで来るのは相応に大変だったようであった。

 

「ま、とにかく行くか───千冬姉ぇー!居るかー?」

 

「───全く、お前は常に喧しくないと気が済まないのか?」

 

「あ、久しぶり、チフユ」

「………軽くないか?」

 

控室の扉を開けた人物───千冬は、二人を招き入れる。

 

「そう?」

「いや、なにか、こう、もっとだな………二か月ぶりに会った姉に、ないのか?」

「そういえば、千冬姉、あれから一回も帰らないままだもんなぁ」

「そうだね、中学生二人に飛行機旅をさせる薄情な姉に掛ける言葉はない」

「うぐっ………そ、それはだな………」

 

「「───ぷっ」」

「………………何故笑う」

「ああ、もう、拗ねないでくれよ千冬姉」

「………ちょっとからかいすぎた?」

「…………………拗ねてなどいない」

 

子供っぽい仕草を見せる千冬に、二人は苦笑いを浮かべる。

 

「まあ、とにかくっ!俺たちが言いに来たのは────」

「────絶対に、優勝してってことだね」

 

「ふん────まあ、そこまで言うなら、考えてやらんこともない」

 

 

─────これより、第一回戦を開始します。対戦者は、ISハンガーにお集まりください─────

 

 

「む………そろそろだな。お前らは早く観客席に行け」

「分かった……頑張ってね」

「絶対、勝てよな!」

「フッ………私を誰だと思っている────」

 

そう言って、千冬は口元を釣り上げ、二人に踵を返す。

 

「────お前らの姉が、どれほどまでに強いか………その目に焼き付けていろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──天下無双……その言葉の意味を、今日、理解しなかったものは居なかった。

なにせ、世界最強が最初からボルテージMAXで突っ込んでくるのだ。

一試合に一分も掛けずに勝ち上がっていく様は、前大会の彼女を知っているものでも、驚愕に顎を落とさざるを得なかっただろう。

そんな会場の中、唯一、驚愕に身を染めなかったと言ってもよいとある二人は、呆れと諦観を足して二で割ったような表情をしていた。

 

「……………飛ばしてんなぁ………千冬姉……」

「うん、なんか物凄いテンション上がってるね……何で?」

「そいつは………何でだろうな?」

 

………この二人、この数か月で段々と『鈍感』という、似なくていいところが似通ってきたようである。

 

 

────準決勝、勝者は………織斑千冬!!────

 

 

「あ、勝ったね」

「今回は………うげっ、まだ45秒しか経ってないぞ……」

 

 

────決勝戦まで、一時間の休憩時間を設けます。対戦者は────

 

 

「ん、最後にもう一回応援に行く?」

「そうだな、よし、行くか!」

 

そして、二人は控室に続く通路に足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってか………この通路長すぎだって」

「無駄に広いね……ここ右だよ」

 

そう、この会場、なんといってもとても広いのだ。

数部門の大会を一気に開けるように作られた場所なので仕方ないと言えば仕方ないのだが……いかんせん、一夏には勿論、遺伝子強化試験体であるエメラダもうんざりとするような長さだった。

そんな、少しの気のゆるみ…………………………それがいけなかった。

 

「────ムグッ!?」

「おいっ!大人しくしてろよ!」

「────イチカ!?」

「おっと、お嬢ちゃん………ちょっとばかり、君にも大人しくしてほしいんだけど……」

 

通路の影……そこから二人の、男女が飛び出してきて、一人が一夏を羽交い絞めにしたのだ。

そして、一夏は、そのまま何かの布を嗅がせられると、糸が切れた様に気を失ってしまった。

 

「イチカっ!?………くっ……今、助ける───!?」

 

そう言って、動こうとした瞬間感じたのは───後頭部を、何かで殴られる感触。

 

「ナーイスフォロー、抑え込む手間が省けたよん」

「いいから、とっととこいつらを持ってくぞ……係員にばれたら不味い」

「あいあいさー」

「(もう……ひと、り……いた……な、ん…………)」

 

そして、会話する男たちを後目に、エメラダの意識は闇に落ちていった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───分かったら、織斑千冬に伝えろ……決勝戦を棄権しろ、とな」

「……っざける、な……!ち、ふゆねぇが……どんなに、頑張って───!」

「っち、うるせぇなッッっとぉ!!」

「───あっがッ……!」

 

「(イ、チカ…………?)」

 

エメラダの意識が、急速に戻る………そして、目に入ったのは、倉庫らしき場所であること、電話をする男、そして───甚振られる一夏と、甚振る男。

 

「イチ……カぁっ………!!」

「………ん?なんだ、もう一人も目ぇ覚ましやがった……なぁ」

「───交渉には応じない、以上だ…………なんだ?」

「こう、さぁ……二人居るんだから、こっちのうるせぇ方………ヤっちゃってよくね?」

 

「「………なっ!?」」

 

「ふむ………確かに、一人いれば十分か────いいぞ」

「っしゃ!んじゃ、俺の銃はどこにやったかなっと………」

 

「(イチカが、殺される………?)」

 

───エメラダは、頭が真っ白になった。

イチカが、家族が、居なくなる────?

 

 

そんなの────────

 

 

────────許せるわけが、ないっ!!

 

 

「おっ……あったあった!そんじゃ、これでサヨナラ………」

「────っ!?避けろッ!!」

「───あ?」

 

イチカを手に掛けようとしていた男が振り返ったとき───目の前には、鋭い、刃。

 

 

────スパンッ────

 

 

そう、小気味いい音を立てて、男の意識は二度と目覚めることはなかった(・・・・・・・・・・・・・・)……いや、なくなった(・・・・・)と言うべきだろう。

そして、その下手人は──────右腕を剣に変えた(・・・・・・・・)、エメラダだった。

 

「─────っ!?」

 

その、男の血を一身に浴びた一夏は、声を出すことすらできなかった。

話は聞いていた……その身が、兵器であることを。

ただ…………その意味を、自分はあまりにも軽く考えていたのではないか────?

 

「くそっ、この……!」

 

もう一人の男が銃を構える───前に、エメラダはその身を懐まで潜り込ませていた。

 

「───疾ッ!!」

 

「────っこの、バケ、モ……………ノ…………」

 

そして、エメラダがその腕を元に戻したときには…………もう一人も、既に息絶えていた。

 

「…………………っあ………」

「………………………」

 

エメラダと、視線が合う。

エメラダの顔に浮かんだのは……恐れ。そして、悲しみ。自分が、人間───ヒトじゃないという証明を見せてしまった、そのことについての、後悔。

そして、一夏の顔は………自分ではよく分からなかったが、恐らく、複雑な、複数の感情がない交ぜになったものなんだろうな、と、一夏は思った。

 

「─────イチカ、あたしは………」

 

「──────ん?むむむぅ?…………私が偵察に言ってる間に、なんか面白いことになってるなぁ」

「───!?」

 

──突風。それと同時に姿を現したのは、二人を襲った誘拐犯の一人……その女がIS身にまとった姿だった。

 

「そぉいうことされると困っちゃうんだよ………ねぇ!!」

「グッ………あ゛ぁぁぁぁぁっっ!!!」

「───エメラダ!?」

 

現れたISは、人知を超えたスピードでエメラダに迫り、その矮躯を捕まえ、握りつぶそうとする。

 

「ねぇ、そんなさぁ、計画、滅茶苦茶にされるとさぁ、困るんだよ、ほら、ほらぁ!!」

「あ、が…………」

 

ミシ、ミシと、体の節々が音を立てる…………

 

「ねぇもっと、もっと良い声で鳴いてよぉぉ!!」

「う、あ゛あ゛ぁぁぁっぁぁぁぁ!!!!!」

 

「あ、エメ、ラダっ…………!」

 

──一夏には、何も、できなかった。

体を縛られ、身動きも取れずに、その光景を見ていることしか、できなかったのだ─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………………」

「はぁ、はぁ……ん?──あれは……」

 

───あれから一時間。ひたすらに少女──エメラダを嬲った誘拐犯は、外に見える大型モニターパネルに目をふと向ける。

 

「ふーん、そういう結末になったか…………」

「うそ、だろ……………ちふゆ、ねぇ…………」

 

そう、そこには────決勝に出る、千冬の姿があった。

 

「………まあ、ご愁傷様、弟君。あ、でも、多分だけど、織斑千冬の意志ではないと思うよ?ほら、あの人、家族思いなので有名だし………多分、政府やらなにやらのお偉いさんが知らせるのを躊躇ったんじゃないかなー?」

「くっ………そ……!」

「………じゃ、こっちから取りあえず、処分するか」

「…………………っ!!」

 

そう言って、誘拐犯は、体中から血を流すエメラダの首をつかみ、持ち上げる。

 

「────待てっ!!」

「────ん?」

 

そして、その動作を止めたのは…………一夏の声だった。

 

「待って、待ってくれ………殺すなら、俺を、俺だけを殺せよっ!!だからっ、エメラダには………!!」

「────無理なんだなぁ」

「っ…………!!」

「分かってるんでしょ?私は、二人とも処分するつもりなんだよ?………まあ、頑張る男の子は嫌いじゃないから────君からイってみようか」

 

───一歩、また一歩とエメラダをつかんだまま、近づいてくる。

一夏の心の中に、絶望は無かった。あるのは、強い、後悔。

 

「(ああ…………あのとき、ちゃんと、お前はヒトだって言わなきゃいけなかったのに………迷って、こんな、女の子をぼろぼろにさせて………)」

「────じゃ、死になよ」

「(ごめん………………ごめんな、エメラダ………)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────っ………ぁ……………─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、に…………!?」

 

───変化は、突然だった。

エメラダの着けていたペンダント…………それが、急に光を放ち、エメラダの体に溶け込んでいった(・・・・・・・・)のだ。

そして、そのまま彼女自身も光を放ち始め…………光が、弾けた。

 

「エメ……ラ、ダ?」

「くっ………いったい何が────!?」

 

堪らず、エメラダをつかむ手を離す……そして、光が収まったとき、そこには……………白と、翠を携えた───────────天使が居た。

 

「こんなの、聞いてない…………!今回は、簡単な仕事のはずじゃなかったの─────?」

 

「────一次移行(ファーストシフト)完了。武装展開────」

「こんなところで、私が─────」

 

「────エーテル回路駆動………【リグ・ダーム】射出」

 

刹那、雷光が辺りを包み………それが開けたとき、誘拐犯のISは大破。その機能を停止させていた。

 

「お前、それは……………」

 

────IS。

間違いなく、形こそ変わってはいるが、この機械天使は、ISであった。

一夏が、それを疑問として口から出そうとしたとき………突如、そのISは解除され、エメラダがこちらに倒れこんできた。

 

「────っと……!」

「……………………………………」

 

───満身創痍。

近くでよく見てみると、一層それがはっきりと分かった。

本当は、ISなんか動かすのもやっとだったろう、意識を保つことすら難しかっただろう。

そこまでの傷を負いながらも、この、自分よりも小さな女の子は自分を、織斑一夏を守ってくれたのだ。

そこまで考えて、一夏は本当に、色々な葛藤やら疑問がどうでもよくなっていくのを感じた。

どんな存在であっても、どんなものを使ったとしても、どんなことをしたとしても………………自分を、一度は迷ってしまった自分を、家族(・・)と、大切な存在であるとその身を持って彼女は証明してくれた。その事実だけが、一夏にとっての、ただ一つの真実であったからだ。

 

「ほんっと…………………無茶ばっかしやがって………」

 

 

─────おいっ!いたぞ!織斑千冬殿のご家族だ!─────

─────何!?早く保護しろ!いますぐにだ!─────

 

 

「助けか……………」

 

一夏は、いつの間にか解けかけていたロープを振りほどき、エメラダを背負い上げると、出口へと、重い足取りで向かう。

 

「────なあ、エメラダ」

「俺、さ。強くなるよ」

「心も体も、誰にも負けないくらいに」

「だからさ、いつか、いつかそうなれたとしてさ」

「お前をもう二度とこんな目に合わせないように、もう、迷わないように強くなるから…………お前を─────」

 

─────守らせて、くれるか?─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏の、その言葉は、空に消えていった。

その言葉が誰かに届いたかは分からない…………ただ────

 

 

 

 

────後ろの少女の顔は、随分と安らいだ顔をしていた────

 

 

 




設定メモ書き

・リグ・ダーム
原作では、エーテルという不思議パワーによって作られる雷を相手にぶつける一種の技。
本作では、エメラダの乗機に搭載された回路によって、自分の体を顧みず、全てのエネルギーをそのエーテルに似たものに変質させ、似たような現象、それも、数倍の威力を持ったものとして発生させた。
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