インフィニット・ストラトス ~緑翠の人魚姫~ 作:夏梅ゆゆゆ
某国、沖合のとある無人島の奥地。
そこにはよくよく見ないと分からないような洞窟への入り口がぽつんと有る。
ここまで見ただけでは普通の洞窟。ただ、そこがただの洞窟と違うところは一点、そこの洞窟の壁の一部が、バーチャル映像によって作り出された嘘の壁であり…………………その奥に、かの篠ノ之束の秘密研究所があることだろう。
そして、そこには今その束本人がおり、束は研究所内のモニターを凝視しているところだった。
「……………………なに、これ」
そう、束が今見ているのは、エメラダがISを起動する瞬間………あの、機械天使の誕生の瞬間である。
「知らない………こんなの、私は………じゃあ、一体これは───?」
───そして、束は狼狽していた。
なぜなら、この事態は
確かに、彼女……エメラダには餞別として、余った材料で作った、ISの中枢部分たる
それに『ただ、ちょうどよさそうな丈夫な材料が無かったから』以外の他意は無かったし、そのペンダントには勿論、ISコアとしての能力も、ISコア間での情報をやり取りするコアネットワークへの接続能力も無かったのだ。そう、それで起動する訳も、造ってすらいない外装も出現する訳もないのである。
無論、束本人にもコアの制作や理論はともかくとして、本質としてどういったものか、ということに関してはまだ理解に達してない部分も多い。そこは、ISというもののブラックボックスであり、制作者にとっても、それは同義である部分がコアにはあるからだ。
しかし、
束は、狼狽しながらもしっかりとその誘拐の情報を
一体、あの現象は?機体は何処から?そもそもコアは何で起動した?同じ素材だから?そんな理由で?
……どれも、常人には理解することは困難な問題だろう。
「───待って………えーちゃんは確か………ということは────!?」
───しかし、束は『天災』である。
天災が天才でなく、天災であるがゆえに、束はその事態の裏側へとその理解を及ばそうとし………はっきりとはいかないまでも、核心の一部までにはたどり着いた。
「…………………………あの科学者……キムとか言ったっけ」
───調べる必要がある……そう、束は感じた。
正直、ここまでの人物だとはあの短い会話からは読み取れなかった。
ただしかし、本当に束の考えが合っているとしたら─────
「─────本当に、惜っしいことしたかもなぁ……」
束の顔に浮かぶのは、落胆、悲しみ………そして、歓喜。
世界はこんなにも広い─────束…………天災であっても理解が及ばなかった部分が、ポロポロ出てくる。
そういった意味では、あのいけ好かない………………
「これだから─────この世界は面白い」
そう言うと、束はモニターへ齧りつき、恐ろしい速度でキーボードを叩き始めた……………
……………そして、束が誘拐のことをすっかり忘れていたことに気付くのは、この後──約5時間後のことなのであった。
▼
「─────一夏っ!エメラダっ!!無事かっ!!?」
───一夏たちが誘拐犯から解放された少し後。
決勝で勝利を収めた千冬は、弟妹達の姿がないことに気付き、不審に思って大会スタッフを
無論、大会側のスタッフには強い憤りを感じた。政治的な理由があったにせよ、人の、それも千冬の大事な二人の命が懸かっていたのだ………これで怒りを感じないほうがおかしいだろう。
ただ、一夏たちは既に、独自に誘拐を察知していたドイツ軍───とあるスジからの情報があったそうだが、十中八九あの馬鹿兎経由だろう───によって救出されていた。
そんな状況である……その怒りをぶつけるよりも先に、姉として、人としてやらなければいけないことがあるだろう───そう考えた千冬は、大会会場近くの病院内の二人が療養しているらしい病室に入ったのだが…………
「イチカ……もう、一人で食べれる」
「ダーメ、またそうやって無理して傷が開いたら大変だろ?大人しく口を開けなさい………ほら、あーん」
「むぅ、あーん…………イチカ、なんか過保護」
「過保護で結構…………あっ、千冬姉!来てくれたのか!」
「ん?………あ、チフユだ。そういえば、優勝したんだってね……おめでとう」
「おお、それ、言うの忘れてたな。おめでとう、千冬姉!」
「……………………お前たち」
────なんでそんなに元気なんだ。
この時ほど心配して損をする、という言葉の意味を理解した場面は無かった、後の千冬はそう言ったそうだ。
「はぁ…………そういえば、お前らはいつもこんなんだったな、うん」
「……どういうことだ?」
「さぁ……?もしかして、褒められてる?」
「もしかしなくても褒めてないぞ馬鹿弟妹」
そんな会話が続いていたとき、突如、病室にノックの音が響く。
「ん?見舞客か?………でも、こんな海外にわざわざ見舞いに来る人なんていたか?」
「───ああ、なるほど……大丈夫だ一夏。どうやら、私の知り合いらしい」
「───ふふ、千冬には何でもお見通しですね」
そう言って、扉を引いて現れたのは───一夏たちと同じくらいの、少女だった。
「えっと…………君は………?」
「馬鹿者。目上の者にタメ口で話す阿呆が何処にいる」
「え?……め、目上?」
「───ふふっ、いいんですよ?そういった勘違いはもう慣れています」
その、栗毛の少女は一夏たちのいるベッド付近の近くまで近づいてくる。
「先ずは、自己紹介ですね───私はゼファー……一応、千冬さんよりも年長者であり────こういったこともやっています」
少女は、名刺を一夏に手渡す。
「何々……シェバト社代表取締役社長〈ゼファー・シェバト〉………って、社長ぉ!!?」
「あたしたちより、チフユよりも年上で、その上社長?…………衝撃の事実」
「因みに、彼女は御とs「千冬」」
「────女性に、余り年齢の話は、いけませんよ…………?」
「は、はい!もも、申し訳ありませんでした!!」
「「(こ、怖っ!?)」」
…………一瞬、誘拐犯などとは比べ物にならない殺気を感じるが、そのことを考えると不味い気がするので、ひたすらに黙る二人であった。
「んん、まあ、この話はどこかに投げ捨てておいて……………とにかく、お二人がご無事で何よりです」
「…………ご心配いただき、ありがとうございます。社長」
「ふふ、昔みたいに『ゼファー姉さん』って呼んでもいいのに……律儀ですね、千冬」
「いえ、その………流石にそれは………」
「ふふふふっ」
「───えっと、あの、千冬姉?こっちの社長さんとは一体どういう関係なんだ………?」
「ん?ああ、彼女には、というか、彼女の会社には学生時代からいろいろと便宜を図ってもらっていてな………といっても、主に束の付き添いだったが」
「タバネの………?」
「ええ、なんて言っても、束と千冬がISの原案を最初に持ってきたのはわが社のところでしたから、ね」
「ISの……原案……!?」
「───社長、この話は…………」
「おっと、すみません。つい、おしゃべりが過ぎたようですね」
「全く………ところで、今日は一体何をしにこんなところまで?まさか、見舞いに来ただけ、なんてことはありませんよね?」
「おや?どうしてそう思うのですか?」
「………どうせ、ドイツ軍に誘拐犯の情報をリークしたのはあなたでしょう?………あんな早く誘拐の情報を手に入れられる人物にも、その人物が真っ先に情報を流す相手にも、一人ずつしか心当たりがありませんから」
「────やはり、千冬にはお見通しなんですね」
ゼファーは、よくできました、と言わんばかりの笑みを浮かべ、千冬に一枚の書状を手渡す。
「これは………?」
「これは、契約書です………ドイツ軍で一年間教官を引き受ける、と言う契約の……」
「ドイツ軍………?」
確かに、二人を助けてもらった恩はある。ドイツ軍で教官をするくらいなら、千冬はYESと口に出していただろう。
しかし何故、このシェバト社の代表がわざわざ海を渡ってまで持ってきたのか………それが分からなかった。
「それですが………少し耳を」
「……?」
そう言って、ゼファーは千冬の耳に口を寄せる。
「(───彼女、エメラダについて………き………たと、……ねが………)」
「(─────!?)」
「(このことが明るみになると、色々と厄介なことになります。そうならない内に、わが社の………として、彼女を)」
「───分かりました、そうすれば、うまくいくんですね?」
「はい。きっと……いや、絶対にあなた方の不利益にはならないことを保証しましょう………そのために、あなたたちにはドイツに居てもらわなければならないので、こういった、千冬が恩も返せるような形をとらせていただきました」
「………お心遣い、感謝します」
「「……………???」」
「ん、千冬?お二人が話についてこれていないようですね」
「っと、すまない………つまり、こういうことだ」
そういうと、千冬は二人のほうへ体を向き直し……………
「──────私たちは、ドイツに引っ越す」
「……………」
「……………」
「はぁぁぁぁぁ!?!?」
「えぇぇぇぇぇ!?!?」
……………引っ越し宣言をした。
設定メモ書き
・ペンダント
原作では、人魚のなみだというアイテムを持っていると、とある場所で作ってもらえる専用装備。
本作では、束さんが一時間で片手間に作ったもの。
原材料がISコアと同じ物体なこと以外、デザインなどは原作と同じ、人魚を象った形をしていた。
・ゼファー・シェバト
原作では、シェバト王国のエターナルロリータたる女王。
本作では、そのまま、シェバト社の社長に就任。
千冬、束の学生時代から親交がある模様。因みに、苗字は原作だとないので、勝手に捏造。
これまで書いてて、最も原作とキャラが違う感じになった人。むしろ元の面影がない。