壊れた世界で艦娘と   作:@秋風

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第一話 転移

 

「ねえ、お兄さん。こんなところで何やってんの? 暇ならうちらと遊ぼうよ」

 

 目を覚ましたら山姥に絡まれていた。

 比喩ではない。目の前のこれらは見紛う事なき山姥だ。妙にゴツイ体格に、絵の具をベタ塗りしたかのような厚化粧。髪もパッサパサでところどころ縮れて跳ねている。

 

 一言で言えば、一昔前のガングロギャルとチンパンジーを足して二で割ったところに砂かけババア成分をふりかけたような。

 そんな輩が現在二名、俺の目の前に立ち塞がるように立っている。

 

 どうやら俺は無事、新しい世界へと渡ることができたようだ。

 何故分かるかって? そりゃ目の前の妖怪の存在が俺の確信を後押ししてくれる何よりの証明だよ。こんなの俺の世界には居なかった。そしてもう帰りたい。助けて女神様。

 

「真昼間から公園のベンチに男一人とかうけるんだけど」

 

 此処はどこかの運動公園か何かなのか。等間隔で並べられたベンチの上に現在俺は腰を下ろしていた

 

「ああ、悪いんだが最近こっちに来たばっかでな、この辺りにあまり詳しくないんだ」

 

 適当に理由をでっちあげて、さりげなく周囲を見渡してみる。

 目の前の二人以外にもそれなりに人はいるが、やはりというかすべて女性だ。知識として分かっていても実際問題目にしてみると、違和感が尋常ではない。

 

「え、マジ? 男ってだけでも珍しいのにわざわざこっちに出てくるなんて、激ヤバモリモリマウンテンじゃん」

 

 山姥Bが頭スカスカの会話をぶち込んでくる。

 

「あーね。男ってだいたい、地方に引き籠ってるって話だし。っていうかうちらと普通に会話するとか、お兄さん、激アツテンアゲぽよんまるー」

 

 まさに妖怪。まさに怪異。

 異世界と言えばエルフやドワーフといったファンタジックな存在との出会いが定番ではあるが、初回山姥とは恐れ入った。

 

「普段男とはあまり会話しないのか?」

「テンサゲ―、ちょっと近づいただけですぐ逃げぴっぴ」

「ちょっちお尻まさぐっただけで通報されぴっぴ」

 

 駄目だこいつらお話にならない。

 というかこれ以上こいつらと会話していて意味なんかあるのだろうか。

 

 情報は欲しい。現状俺は多少この世界の知識があるだけで、行く当ても目的もない放浪者だ。女神が何か言っていた気もするが、アレは当てにならない。

 かといって日本語もどきを操る妖怪相手と、これ以上の対話は可能な限り避けたい。

 

「ね、ね! いいじゃん! この辺うちらの庭みたいなもんだし案内してあげるって」

「ねっとりじっとりうちらが隅から隅まで面倒見てあげる」

 

 そんな疑問を他所に、山姥ABが面妖な笑みとともににじり寄ってくる。

 よく分からんが危機的状況だ。本能的に察した俺は、逃走するために両足に力を入れ――

 

「お話し中申し訳ないのだけれど、少しいいかしら」

 

 ――突如として現れた新たなる訪問者に出鼻を挫かれるのだった。

 

 

 

 

「災難だったわね」

 

 女性は自らの名を藤原由香里と名乗った。

 白を基調とした軍服に身を包み、年相応に白が混じった短めの頭髪。年の頃は六十前後か。しわの寄った口元に柔和な笑みを浮かべている。

 こちらは実に普通の見た目だ。助かる。

 職業は提督らしい。

 ちなみに山姥たちはこの人が現れたら、苦々し気な表情をしながら散っていった。

 

 なにやら藤原提督は俺のことを知っており、今から鎮守府なる場所へ案内してくれるらしく送迎の車へと向かっているところだが、ひとまずお礼を言っておいた方がいいだろう。

 

「いや、助かりました。あいつらしつこくって」

「まあ、白昼堂々若い男性が一人ベンチで寝てたら襲われても文句は言えないわね」

 

 マジか、この世界での男の存在ってどうなってんだ? 女神から授かった知識は断片的すぎて欲しい情報が見事に抜け落ちているのが困りものだ。

 

「いやまあこれにはいろいろと事情がありまして」

「あなたが転移者とか?」

「エッ!?」

 

 あまりの驚きに喉がきゅっと閉まる。

 藤原提督の方を見ると、口元を右手で上品に押さえながらフフフと笑っていた。怖い、この人いったい何者なんだ。

 

「驚かせてごめんなさいね。でも私には身元を隠さなくても大丈夫よ。あなたの事は女神様から一通り聞いているから」

「女神様を知っているんですか?」

「何を隠そう、私も元転移者よ」

 

 さらっと告げられた真実に俺の低スペック頭脳がついていけない。え、なに? 転移者ってもしかしてそこらへんにタケノコみたいにポコポコ湧いてんの?

 

「もっとも私がこの世界に呼ばれたのは三十年以上前の話だけれど」

「転移者ってそんなに沢山いるんですか?」

「私が知ってる限りではあと一人ね。彼女は数年前にこっちに来て、今は私と同じ提督をしているわ」

 

 つまり俺を含めて三人か。他にもこちらが把握していない転移者がいるかもしれないが、それはひとまず置いておこう。

 なにより俺の出で立ちを知っている協力者がいることは素直に喜ばしい。

 

「転移者って事はほかの人には」

「言っては駄目という事はないけれど、信じてもらえるかは疑問ね。私は同じ境遇の人以外には伝えてないわ」

 

 そりゃそうだ。脈絡もなく転移者なんて言われても、漫画やアニメの見過ぎだと鼻で笑われてしまうだろう。無駄なトラブルの種にもなりかねないし、身元の事は黙っていた方がよさそうだ。

 

「それで、俺はこれから何をしたらいいんですかね」

「表向きは私の鎮守府の配属になるのだけれど、最低限の規律を守ってもらったら後は自由にしてもらって構わないわ」

「俺、軍の知識とか全く無いんですけど」

「そこは心配いらないわ。あなたにはもっと別のところで活躍してもらうから」

 

 となると掃除や雑用とかそのあたりか。

 衣食住は提供されるのだから、それくらいはやらないと罰が当たるってものだ。喜んで雑用させてもらおう。

 

「詳しくは着いてから話すわ。さ、あの車よ」

 

 舗装された運動公園の出口の先で、一台の黒塗りの車が止まっていた。軍の機密保護のためか窓にはスモークがかかっていて中が見えない。

 

「どうぞ」

 

 運転手であろう執事のような恰好をした中年の女性に促され、中に入る。

 軍用車とのことで、もっと無骨なものを予想していたが、中は案外快適そうだった。高級車なのか向かい合った座席の間には小さなテーブルがあり、ボトルか何かを置ける器具のようなものが備え付けられている。

 

 その座席の奥側、俺の座った位置の丁度対面にあたる場所に一人の少女がちょこんと座っていた。

 

「……ッ!」

 

 少女は俺を見るなり、最初は驚いたように、しかしすぐに顔を隠すように俯いてしまった。

 

「紹介するわね。こちら時雨、私の鎮守府で秘書艦を務めてもらっているわ。詳しくは知らないだろうけれど、艦娘の子よ」

「……時雨だよ、よろしくね」

 

 多少控えめに、しかし透き通るような声で伏し目がちに挨拶してくれる時雨。

 艦娘らしいが、それよりも何よりも目に留まるこの圧倒的美少女感。流れるような黒髪に整った鼻梁。小さな口にすらりと伸びた手足。どこをとっても文句なし。

 ああ、汚れた視界が浄化されていく。

 先ほど妖怪を見たばかりだからな、五割り増しで美少女に見えるのも致し方無し。

 

 よかった、この世界にも正統派美少女は存在したのだ。

 

「こちらは阿形誠二さん。本日付けで配属になる方よ。憲兵でも監査官でもなく、フリーの役職で入ってもらうわ」

「阿形誠二だ。これからよろしくな」

 

 自己紹介と共に右手を伸ばしてみたが、それが握られることはなかった。見れば時雨は奇妙な表情で俺の右手を見たまま固まっていた。どういう表情だそれは。

 隣では藤原提督が困ったように苦笑している。

 

 少し馴れ馴れしすぎたかと、すぐに引いた右手で首の後ろをぽりぽりと掻く。やはり慣れないことはするべきではないな、と自戒と共に反省。

 なおも時雨からの視線が気になったが、目が合うとまた顔を伏せられてしまった。うーむ、年頃の女の子の気心というのはかくも難しいものか。

 

「提督、自己紹介も終わったし、予定通り僕は哨戒に行ってくるよ」

「ええ、頼むわね。今回は深海棲艦の発生報告も来てないし、正面海域だけでいいわ。ただ、少しでも異変を感じたらすぐに連絡をちょうだい」

「了解」

 

 哨戒とは警戒や見張りなどの意味だったか。

 思考にばかり頭を使っていたせいで気が付かなかったが、この場所は海が近い。反対側の窓から見えるは広大な青一色の景色。

 

 時雨たち艦娘がどのように海を航行するのか興味があるが、流石にここで付いて行くのは不躾すぎるので自重する。

 

「それじゃ、行ってくるね」

「いってらっしゃい」

「気をつけてな!」

 

 扉を開けて、駆けていこうとする時雨に藤原提督が声を掛けたので便乗したら時雨が盛大にこけた。振り返らなかったので表情は分からないが、耳が真っ赤になっていたあたり恥ずかしかったに違いない。

 時雨はそのまま海に向かって走っていってしまった。

 

「声を掛けたのは余計でしたかね」

「そんなことはないわ。ただ少しあの子も緊張してたみたい。悪く思わないで頂戴ね」

「それはもちろん」

 

 時雨が開けた扉が自動で閉まり、藤原提督の合図で車が走り出す。

 一時して、街を抜けたのか車内は静かな走行音だけとなった。

 

 

 

 

 

 そこから暫くはお互いの過去の話となった。

 藤原提督は元の世界で病によって死亡したところを俺と同じように女神に拾われたと語った。それから三十年以上、軍の関係者として生きてきたとも。

 俺がコンビニ帰りに少女を助けようとして死亡した話をしたらクスッと笑って『あなたの人となりが分かるエピソードね』と言われた。

 

 バカだと思われたかもしれない。まあ事実だから良いけど。

 ちなみに運転席とこちらは防音ガラスを切り替えられるらしく、運転手の執事に話を聞かれる心配はない。

 

「それで、どうかしら。あなたの目から見て時雨は。艦娘を見るのは初めてでしょう」

「いやもうとんでもない美少女だな、と。いるもんですね、世の中には」

 

 一瞬どう答えたものかと悩んだが、嘘を言っても仕方がないので正直に感じたことを伝える事にした。我ながら頭の悪い答えだと思ったものだが、藤原提督は何故かとても嬉しそうで。

 

「ふふ、良かったわ。阿形さんが私と近い美的感覚の持ち主で」

「はあ……」

 

 言っている意味がよく分からない。

 そんな俺の考えが顔に出てたのか、藤原提督は、

 

「あなたが今美少女だと言った時雨の事だけれど、この世界での一般的美的感覚によれば、とても醜い容姿に分類されるそうなの」

「そんな馬鹿なっ!?」

 

 信じられない事を言ってのけた。

 あの容姿で醜いって、世界のどこをどうひっくり返したらそんな感性が芽生えるというのか。

 

「本当に私も、今でもそう思うわ。でもこの世界ではそれが常識なのよ。ひとつひとつのパーツのバランスより多少歪でもインパクトが大きい方が好まれる傾向にあるのよね。その点、時雨たちは人形の能面みたいで気味が悪く見えているそうなの。女神様に伝えられなかった?」

 

 ああ、そうだ、世界ひっくり返ってたわそういえば。

 

「思い返せばそんな話があったような気も……女神様の生臭ぶりに気を取られて忘れてた」

「あなたも大概図太いわね」

 

 あの時は頭が痛すぎてそれどころではなかった。

 藤原提督は何処か思いつめた何かを吐き出すように、ふうと一息ついてからゆっくりと語り始めた。

 

「今この世界において、時雨たち艦娘を取り巻く環境はとても厳しいものだと言えるの」

「厳しい?」

「そう、もはや理不尽だと言ってしまってもいいほどに」

 

 藤原提督は続ける。

 

 曰く、この世界は美醜感覚のズレに加えて、男女比問題も深刻化している。いつからか男が圧倒的に少なくなり、それに比例して男性絡みの様々な問題が各地で噴出した。

 国はそれを抑えるために男性保護のための様々な施策を繰り返し打ち出したが、結果は逆効果。火に油を注ぐ結果となり女性側の不満が爆発した。一部の暴徒化した女性陣が男性を襲う事件が立て続けに起こり、国は施策の緩和を余儀なくされた。

 だがそうなると次に出てくるのが少数派である男性側の訴えである。国は男の権利を軽視していると訴える団体が出てきたのだ。

 

 そんな事が繰り返された結果、現状この世界の女性陣は男性に対する欲求不満を拗らせ、また男性陣の、女性に対する意識は嫌悪に大きく傾いているという。

 

「あのやま……女たちが言っていた、男が地方に引き籠っている理由って」

「都会に出てくると嫌でも女性と関わる比率が上がるからでしょうね。もちろん皆が皆という訳ではないけれど、事実、この世界の男性の半数以上は女性に懐疑心と嫌悪を抱いているわ」

 

 なんて嫌な世界なんだ。あの糞女神め、なんて所に俺を送ってくれてんだ。

 

「ちなみに先ほどあなたに絡んでいた女性二人はモデルのお仕事をされているらしいわよ」

「地獄かここは」

 

 他人の美意識や感性、従事している仕事に文句をつける気などさらさらないが、俺の日常に影響を及ぼすというのなら話は別だ。俺は聖人でもなんでもないので断固否定させてもらう。俺はあの二人の写真集など絶対に見たくはない。

 

「でもその話と時雨たちの立場とどう関係が?」

「現状、海の化け物――深海棲艦に対する唯一の対抗策が彼女たち艦娘の存在。海に関する国防の全ては彼女たちに守られてるといっても過言ではないわ」

「なるほど。でも、だとすれば感謝されているんじゃ」

「普通はそうよね。でもそれが、例えば自分が生まれる前からずっと続いている環境だとしたら?」

 

 言われて、少し考える。

 

「……守られる事が当たり前になっている、という事ですか」

 

 俺の答えに藤原提督は眉尻を下げて、苦笑しつつ、

 

「当たり前で済んでくれてたらまだよかったのだけれどね」

 

 恐ろしい言葉を口にした。

 同時にふと思い至る。国を守る、それは良い。素晴らしきことで感謝すべきことだ。俺のいた国でも自衛隊の人が震災時には身体を張って復興している姿に胸を打たれたものだ。

 

 たとえそれが当たり前の環境だとしても。

 

 だが、もし。

 もしも、だ。

 

 当たり前だと思っていたものが守られなかった時、守られる事に慣れ切った民衆がどういった思考に陥るか――

 

 藤原提督が無言で、備え付けのテレビの電源を入れる。

 映し出されたのは俺の世界でも見慣れた記者会見のような場、その中心で一人の見知らぬ少女が必死に何度も何度も頭を下げていた。

 

 服はボロボロで、ところどころ出血しているようにも見える少女。そんな彼女に複数人の記者のような人物が取り囲むように高圧的な態度で詰問を浴びせている。

 

 ――なぜ現場に急行できなかったのか、お前たちはなんのために存在しているのか、と。

 

 そこまで見せて、止まった画面を藤原提督が静かに消した。どうやら録画だったらしい。

 心の奥で困惑と怒りが綯交ぜになったかのような気持ち悪い感覚がせり上がってくる。

 

 別に俺は自分の事を善人や立派な人間だとは欠片も思っていない。容姿の良い悪いで態度を変える事なんて今まで何度もやってきている。そういう意味では根っこの部分はこっちの人間と何ら変わりはない。事実として俺に限らず、おそらく大多数の人間がそうだろう。人間なんてそんなもんだ。

 

 だが、限度ってものがあるだろう?

 

「俺は一般人で部外者なんで偉そうな事は言えないですけど、これが普通なんですか」

「国を守るって事は当たり前だけど、言葉ほど簡単な事ではないわ。艦娘は皆、文字通り命を懸けて国を守ってくれている。でも皮肉なことに彼女たちが頑張れば頑張るほど、命を懸ければ懸けるほど、人々は守られる事に慣れていく」

 

 背筋がゾッとした。

 話では先ほどの件も、死人は出ていない。だというのに周囲の人間の表情は悪意に満ち満ちていた。この様子だと日頃の艦娘の努力や頑張りは報道すらされていないに違いない。

 

「容姿が醜く見えるっていうのは思った以上に根深い問題なのよ。同性からでも相当なのに、一部の男性からの艦娘への態度は嫌悪のそれを超えるわ。軍も一枚岩ではないし、正直歯がゆさで一杯よ」

 

 確かに俺のいた世界でも容姿を巡っての諍いは頻繁に起きていた。だが、今の映像だけで判断するならばあの反応は常軌を逸している。

 できればこの世界でも奇特な一部の人間の異常性の発露である事を願いたい。

 

「艦娘側が反乱を起こしてもおかしくないんじゃ……」

「反乱のその先に何も無いことを、敏い彼女たちはよく理解している。とはいってもこのまま何も変わらなければ、その可能性も無きにしも非ずね」

 

 藤原提督は自嘲するように言った。

 

 この世界は壊れている。

 

 俺は思わず座席の背もたれに体重を預けて脱力した。

 想像の億倍、ややこしい世界だった。俺は本当にこんな世界で生きていけるのだろうか。

 

「ごめんなさいね。いきなりこんな重たい話。誤解しないでほしいのだけれど、全員が全員こうってわけじゃないの。もちろん優しい人だってたくさんいるわ」

 

 謝罪しながら藤原提督が、備え付けの冷蔵庫から緑茶を入れてくれる。

 それに礼を言って、一気に飲み干した。

 

「藤原提督が理不尽だと言った意味が分かった気がします」

「鎮守府……正しくは警備府では本当に自由にしてくれて構わないから。必要なものがあったら遠慮なく言って頂戴」

「……藤原提督はなんで会ったばかりの俺にこんなよくしてくれるんですか」

 

 いくら女神様の言伝とはいえ、ここまで気にかけてくれる理由はなんだろうか。

 ふと思った疑問に藤原提督は少し困ったように笑った。

 

「何故、かしらね。いや、きっと私は嬉しいんだと思うの。今日あなたに会えて、三十年前の事を少し思い出したわ」

 

 要領の掴めない言葉に、だが理解できた。

 同時に、これは俺の配慮の欠けた質問だったと自戒する。

 

 そりゃそうだ、三十年間――もう一人の転移者は分からないが――価値観の合わない世界で生きてきて、今日やっと自分と同じような世界で生きてきた人間と出会ったんだ。気持ちが高ぶらない訳がない。

 俺だったらきっと泣いて抱きしめている、まあ冗談だけど。

 

 手に持ったカップを置いて、藤原提督が姿勢を改めてこちらに向かい直した。

 

「遅くなってしまったけれど、これからよろしくお願いするわね。阿形さん」

「了解です。こちらこそお世話になります」

 

 これからどうなるかは分からない。

 だが、もし何か意味があって俺がこの世界に来たのなら、その理由を追いかけてみたいと思ったのは悪い事ではないだろう。

 

 

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